その99・デリバリーの配達先
既に時間は八時過ぎ。
俺はバイクを乗り、配達先へ走らせている。
このデリバリー業者にて配送員をやっているのは、決してお金に苦労しているわけではない。
単なる暇つぶしだ。
普段は銀行にて融資課長をしているのだが、お金ばかり見ているのに嫌気がさしてきた。
だからこそ、人と接することはないがバイクで走らせて、目的地に向かう。
それだけでも、少しだけだが稼げる。
俺にとってはいいドライブだ。
今日は牛丼チェーン店の配達であり、家からすぐ近い場所にあるため、二分ほどで向かい、今は五キロ先まで走らせている。
バイクにとって五キロはすぐ近くの距離である。
俺はバイクを走らせてから、一つのマンションの前に着いた。
八階建てでレンガコンクリート造りのマンション。
俺はトランクから商品を取り出して、正面玄関を開けた。
オートロック式であり、電話回線に番号を入れる。
コール音がしばらく流れると、応答に変わった。
「すいません、デリバリーランドです」
無言のまま、自動ドアが開いた。
そんな客も多い。
大体はカメラでこちら側を見れるため、誰が来たのかも分かる。
特に気にしないまま、配達部屋である八階まで向かう。
エレベーターが一階に止まっている。
ラッキーだと思いながらも、ボタンを押して乗り込んだ。
八階のボタンを押してエレベーターはゆっくりと動き出す。
前を見ながらも、八階の到着を待つ。
「ピンポン」との音と共にエレベーターの扉が開いた。
丁度、隣が部屋であるため、俺はインターホンを鳴らした。
すると、一人の女性が出てくる。
「ありがとうござ・・・」
目の前にいるのは、俺の実の娘だ。
俺には元々妻がいた。
二人の娘を授かり、幸せな日々を過ごしていた。
しかし、二十年前に突然妻の方から離婚を言い渡されて、俺は一人身になった。
未だに離婚の理由は分からない。
今目の前にいるのは次女の方だ。
俺は思わず
「まどか」
「お父さん」
「なんで」
後ろからもう一人女性が近づいてきた。
その女性は、まさかの長女である。
「お父さん」
「みどり」
「てか、なんで。銀行は」
「別に、これはクビになったわけではない。単なる暇つぶしだ」
「そうなんだ」
「はい。注文の品」
「ありがとう」
「頑張れよ」
久しぶりに会えたが、少し気まずさと動揺を覚えたため、その場を離れようとすると
「ちょっと待って」
俺は振り返り、ドアから顔を出す二人を見つめた。
「なんだ」
「良かったら、食べて行かない?」
「は?」
「だって、あの人もいるから」
「・・・いいのか?」
「多分?」
「そうか。まぁ二人が良ければ」
そう言って俺は部屋に入っていく。
中には恐らく元妻がいるのだろう。
元妻には色々と聞きたいことがあるため、明るい話をしながらも今日は久しぶりに家族団らんを過ごすとしよう。
きちんと配達完了した状態で。
~終~




