その98・彼氏は死神
今日、私は彼に殺される。
黒いスーツ姿でいる私の彼は、隣で座って前を見ている。
彼はほとんどしゃべらない。
それどころか、彼の名前はない。
一か月前に突然現れて、私に向かって「迎えに来た」と言われたのだ。
最初は意味が分からなかったが、徐々に彼の正体に気づきだす。
あと何分かしたら彼に殺される。
だが、私は何の未練もない。
二十三年生きてきたこの人生。
両親は事故で他界し、引き取られた叔父と叔母からは酷い暴力も受けていた。
若いながら波乱万丈と言える人生を送ってきたため、もうこの世に生きるのも既に諦めはついているのだ。
私は彼の方を向いてから
「私は覚悟できているよ。いつでも連れて行っていいからね」
「・・・」
「たまには何か喋りなさいよ」
「・・・」
「たく。不愛想な人なんだから」
だが、そんな彼も好きだ。
顔はモデルみたいにカッコいい。
私は人生で一度だけ、顔がカッコいい人と付き合いたかった。
人生最後にその夢が叶うとは。
それも相手は死神。
とてもドラマティックで最高なシチュエーションだ。
デートもするのだが、周りに彼は見えない。
私だけしか見えないみたいだ。
だが、それも特別感があってかなり嬉しい。
彼は私だけのものなのだ。
私は微笑みながらも、彼を見つめて
「ねぇ、たまには何か話して?」
「・・・」
「好きでもいいの。何か言ってほしいなぁ」
「・・・」
「てかさ、昨日の遊園地デート楽しかった?」
「・・・」
「私、夢だったんだよね。好きな人と観覧車に乗ること」
「・・・」
「どんなことがあっても、私はあなたのことが好きよ」
「・・・」
一切答えることをしない彼。
私はため息をしてから
「つまんないなぁ」
すると突然彼が立ち上がり、私の前に立つ。
「何?」
「時間だ」
「あら、やっと喋ってくれたと思ったら時間?」
「・・・」
だが、彼に殺されるのであれば本望だ。
私は微笑みながらも
「いいわ。連れて行って」
すると、突然彼は私を抱きしめてくれた。
「どうしたの?」
「好きだ」
「え? 今なんて言ったの?」
「・・・」
「ちょっともう一回言ってよ」
「お迎えだ」
そう言って、彼は私を抱きしめたまま、心臓の鼓動を止めてくれた。
苦しまず、痛みもなく、私はあの世に行くことが出来た。
しかし、あの世で彼と出会えることはなかった。
恐らく他の仕事が忙しいのだろう。
でも、私にとっては他の女性の元に行くことは、正直感情としては複雑だが、もう既に自分は死んでいるため、そんなことは関係ないか。
私は長い道を歩きながら、事故で他界した両親を探すことにした。
~終~




