その95・カラオケ嫌いの選曲
俺は久しぶりに、カラオケの〈デンモク〉の画面を見つめている。
近くでは男の友人がマイクを持って、今流行りの曲を歌っている。
このルームに来るのは、何年振りだろうか。
俺はあまりカラオケという文化が好きではない。
歌手でもないのに、人前で歌声をさらけ出すのは、あまり好きではなく、以前誘われたカラオケ大会でも、一曲歌ったぐらいで、後は友人に回し続けていた。
それほど、俺はカラオケに好意を持っていない。
だが、今日は二人きりの最悪な日だ。
友達に回すことが出来ないため、とても気分が落ちている。
カラオケ嫌いを別に公表したことはないが、何故この友人は俺をカラオケに連れてきたのだろうか。
謎が深まるばかりだ。
だが、ここは一曲だけでも歌って帰りたい。
友達は熱唱している近くで、俺はデンモクと睨み合っている。
一体どんな曲を選べばいいのだろうか。
俺は音楽を聴くのは好きだ。
バンド・アイドル・ヒップホップなど、多ジャンルの音楽を聴いているため、特に推しのアーティストはいない。
だが、歌うとなると別だ。
一体何を歌えばいいのだろうか。
この友人は、まるでライブのアンコールかのように熱唱している。
少し引いてしまったが、とりあえず選曲選びに集中しよう。
だが、かなり迷ってしまう。
カラオケが好まない俺にとっては、選曲は運命の分かれ道に近い。
友人が知っているような曲を歌うのがベストだ。
だが、歌える曲がない。
洋楽より、邦楽の方がいいのだろうか。
いや、まず人前で歌ったことがないため、自分が音痴なのかも分からない。
音痴なのかも、どちらかと言えば人が判断することだ。
「お前音痴だな」
恐らくこの言葉が来たら、怒りの感情が出るだろう。
一体どれを選んだらいいか迷っていると
「お前も曲選べよ」
友人が言ってくる。
既に友人は歌い終えており、こちらを向いてじっと座っている。
そんなに焦らせないでくれと思いながらも、一つだけを選ぶ。
選曲予約が画面に移り、ストーリー映像と共に音楽が流れる。
俺が選んだのは、国民的ヒットソングだ。
友人は一言
「なるほど」
そう言った。
何がなるほどなのか分からないが、俺はマイクを持ち始めて歌い始める。
緊張なのか、手元は震えながら脇には汗が一粒垂れたのが分かった。
イントロが終わり、歌い始めに来た。
心臓の鼓動はマックスだ。
一息呼吸を整えながら、声を出す。
一応自然体で、マイペースに歌ってみた。
その間の記憶は俺は消した。
残していても仕方ないからだ。
歌い終えてマイクをテーブルの上に置くと、友人が
「いいじゃん、上手いじゃん」
「そんなことないよ」
俺は真顔で言った。
でも内心、嬉しく感じた。
歌で褒められたことはないからだ。
人前で歌ったことがない人間にとっては当り前なことか。
でも一つ感じたことがある。
俺はカラオケには不向きだということを。
もう来ることは当分はないだろう。
~終~




