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94/101

その94・故人の友人

葬式会場。


俺の座る席の目の前には、敬愛していた祖父の遺影が映る。


まさかこの日を迎えてしまうとは。


二年前に大学を卒業して、王手保険会社の正社員として務めることが出来た。


その時も祖父は、わざわざ地元から出て東京まで来てくれてから、最後まで元気な姿を見せてくれた。


だが、まさかそれが最期になるとは・・・


正直、悲しくて辛くて、心が複雑なまま涙も出なかった。


もっと話したかった。


東京でまだ案内できなかった場所が多くある。


色々なところにもっと連れて行きたかった。


無念が残りながらも、俯いたまま座っていると、隣に座っている姉が


「たまには顔上げたら?」


「・・・」


上げられるわけがない。


今は祖父の顔を見るだけで涙腺が崩壊しています。


あれだけ元気だった祖父に、涙を流した姿なんて見せられない。


姉は冷静に


「でも、次は顔上げてね。ご友人の方が来るから」


「誰が来るの?」


「高校時代の親友みたいよ。亡くなる前まで親交があったみたいだから」


「そうなんだ」


そこは堪えながらも上げるしかない。


それが家族側としての礼儀だ。


マイクの前に、一人の白髪頭で高身長の男性が立っている。


喪服姿で手にはハンカチを持っている。


後姿しか見えないため、表情は分からないが俺は顔を上げてじっと祖父の親友を見ている。


男性は小さく頷いてから、祖父の遺影をじっと見つめて


「冗談はよせ。本当は死んでなんかいないよな? お前と出会って五十年か。たまにしか会わなかったけど、お前が最後に会った時、約束したの覚えているか? 俺はそれを今から実行する」


そう言って、目線を逸らすと、近くにいた年配の女性が近づいてきて、ビールが入ったグラスを男性に渡した。


会場がざわつく中。


男性は「乾杯」と言ってビールを飲み干した。


「美味いな。お前のビール。まさか家族にまで内緒にしていたなんてな。お前らしいけど、せめて家族には伝えておけ」


そう言って笑い始めた。


一体どういうことだと、親族は戸惑っている。


「1978年。お前は家族に内緒でビール会社を作った。ばれないためにお前は会長でも社長でもなく、最高顧問として役員名簿にも載せなかった。だが、お前はまるで社長のように実務を行い。ビールを作った。名前は〈ハットリビール〉。今では国内生産ナンバーワンの会社に成長した。それもお前の功績の一つだ」


〈ハットリビール〉を聞いた瞬間、俺は鳥肌が立った。


まさかだと思った。


俺も正直毎日お世話になっているビールだ。


いや、お世話になっているサラリーマンは多くいるだろう。


男性は続けて


「あまり、長話をするのもあれだから。俺はここまでするよ。やっぱりお前が企画したビール。最高だな。それと、今までありがとうな」


そう言って頭を下げてから、後ろを振り返り


「皆様。今日は彼を偲んで、乾杯しましょう。立ち上がってください」


すると、一人一人にビールが渡されてから、全員が立ち上がる。


俺もいつもお世話になっているビールグラスを持った瞬間、何故だか溢れてくる感情が来た。


すると男性が祖父の遺影を見ながら


「友人代表、株式会社ハットリビール・代表取締役会長・松野明広。お前の意思は継いだ。乾杯」


全員が「乾杯」と言って飲み干した。


俺も戸惑う気持ちを抑えたまま、ビールを飲み干した。


相変わらずの美味さ。


そしてこのビールは祖父が作ったものだと感じて、目から雫が落ちてきたのだった。


~終~

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