その93・編み物とコーヒー
私の名前は「のん」。
糸でひよこを毎日編んでいる若い女の子だ。
かなり前にこの趣味を始めたのだが、まさか毎日未だに続くとは思わなかったが、私にとっては命と同じように大切にしていることだ。
ほとんどの時間は家で、静かな雰囲気の中、糸を微笑みながらも編んでいるのだが、今日は違う雰囲気を過ごしたいため、喫茶店で編むことにした。
家の近くに一つのカフェがあり、若い男性マスターが経営するとてもオシャレな店だ。
一部木造で作られており、木製の椅子やテーブルがとてもオシャレさを増している。
私はカフェの前を通るだけで、中に入ったことが無かったのだが、今日は中に足を踏み入れることにした。
だが、男性マスターの優しい接客などで、一瞬でこのカフェの虜になった。
カフェオレを注文し、テーブルの隅に置いてから、椅子に腰を掛けて編み物に集中した。
周りが見えなくなるほど、私は集中力に長けている。
これが良いのか悪いのか分からないが、私にとっては〈ひよこ〉を生み出す大切な時間だ。
すると肩を誰かが叩いてきた。
私は驚きながらも目線を上にやると、そこには男性マスターの姿があった。
「なんですか?」
「えっと、それひよこですか?」
「は、はい」
「僕、ひよこ好きなんですよ。編み物で表現できるの凄いなぁ」
「そうですか?」
「もちろんですよ」
マスターは笑顔で言った。
まさか、私の編み物に興味を持ってくれるとは。
正直嬉しさで一杯だったため
「もしよかったら、マスターさんのために編みましょうか?」
「いいんですか!?」
「好きな色はありますか?」
「赤と黄色ですね」
「それじゃ、明日作って渡しますね」
「ありがとうございます。仕事頑張れます」
そう言って笑顔でカウンターに戻っていった。
なんだろう。
この胸がときめくような感情だ。
すると床に何か写真が落ちているのが分かった。
そこには一人の女性が笑顔で写っており、こちらに向かってピースサインをしている。
私はすぐに拾ってから、マスターの方を向きながら写真を向けると、マスターが気づいてこちらに近づいてきた。
「すいません」
「ご家族ですか?」
「妻です。去年亡くなったんですけど」
「えっ・・・」
「でも、大丈夫です。やっと立ち直れましたが」
「・・・それだったら、これを」
そう言って私は一枚のポストカードを渡した。
以前、自分が作ったひよこを写したカードを作ったのだ。
誰かにすぐに渡せるように財布に持ち歩いているのだ。
するとマスターが涙を流しながら
「ありがとうございます」
「大丈夫ですか?」
「実はここに写っているひよこの色。妻の大好きな色なんです。大切にします」
そう言ってカウンターに戻っていった。
あのカードに写っているひよこの色は〈黄色〉。
そう言えば、私も黄色が大好きだ。
なんだか不思議な感情になったが、あのマスターがとても優しい心を持っていることは分かった。
また明後日来た時には、黄色のみのひよこも作ってプレゼントしよう。
そう思い、編み物を続けたのだった。
「あっマスター。コーヒーもう一杯ください」
~終~




