第6話 親友と公式ペアになりました
「優太! 先に走るなって!」
十二月の放課後。
校庭の端で、松田優太は振り返った。
「航、遅いって!」
「誰が競走するって言ったんだよ!」
横山航が、呆れた顔で歩いてくる。
二人は一年生の学ラン組。
入学以来、ずっと一緒にいる親友だった。
優太は、思いついたことをすぐ行動に移すタイプ。
航は、何でも順序立てて考え、準備してから動くタイプ。
性格は正反対だが、不思議と気が合った。
「ほら、早く!」
優太が手を振ると、航はため息をついた。
「……だから、何を急いでるんだよ」
「寮に戻ってゲーム! 昨日の続き!」
「先に数学の課題だろ」
「あとでいいじゃん!」
「昨日もそう言って寝ただろ」
「……覚えてた?」
「当然」
航が笑う。
優太も笑った。
同じ学ラン寮に住み、部屋も近い。
一緒に勉強して、遊んで、学校行事にも参加する。
優太は、航といる時間が好きだった。
航は、少し口うるさい。
でも、優太が宿題を忘れそうになれば教えてくれるし、何かを始めるときには必ず手伝ってくれる。
自分が走り出したあと、振り返れば航がいる。
それが、いつもの二人だった。
ただ、最近ひとつだけ気になるものがあった。
学校の公式ペア制度だ。
セーラー組と学ラン組の二人が登録できる、学校公認のペア。
登録した二人は、体育祭などの行事でペア競技に参加できる。
友達同士で組む者もいれば、恋人同士で組む者もいる。
優太は、六月の体育祭で見た光景を思い出した。
先輩の公式ペアたちが、二人三脚で走っていた。
肩を組み、足をそろえ、転びそうになりながらゴールを目指す。
途中で転んだペアもいた。
でも、二人で笑いながら立ち上がり、また走り出していた。
あれを見たとき、優太は思った。
(……航と走ったら、絶対楽しいよな)
航なら、最初から走る順番を決めるだろう。
足の出し方を確認して、練習もちゃんとするはずだ。
それを想像しただけで、何だか笑えてきた。
ただ、今の二人は学ラン組。
公式ペアには登録できない。
優太は、校舎の窓に映った自分の姿を見た。
黒い学ラン。
航も、同じ学ラン。
そして、思いついた。
「……あ!」
航が、足を止めた。
「今度は何だよ」
優太は、満面の笑みになった。
「俺、来年セーラーにする!」
航が、ぴたりと動きを止めた。
「……は?」
「セーラー組!」
優太は、楽しそうに笑った。
「そうすれば、お前と公式ペアになれるじゃん!」
航は、しばらく黙っていた。
それから、深く息を吐いた。
「……いや、順番な」
「何が?」
「まず、俺にペアを組みたいか聞けよ」
優太は、目を丸くした。
「あ、そっか!」
そして、航の前へ回り込んだ。
「航! 来年、俺と公式ペア組もうぜ!」
航は、思わず笑った。
「……お前な」
「嫌?」
優太が尋ねると、航は少しだけ目をそらした。
「……嫌じゃない」
「マジ!?」
「うん」
航は、もう一度優太を見た。
「俺も、お前と組みたい」
優太は、嬉しくなって航の肩を抱いた。
「よっしゃ! 決まり!」
航は、少しよろけながら笑った。
「だから、まだ希望調査だって!」
「細かいなあ!」
「大事なところだろ」
二人は、顔を見合わせて笑った。
それから、航が少し真面目な顔になった。
「……でも、いいのか?」
「何が?」
「セーラー組になったら、寮も別になるだろ」
優太は、少しだけ考えた。
今は学ラン寮で、いつでも航の部屋へ遊びに行ける。
宿題がわからなければ、すぐに聞きに行ける。
夜遅くまでゲームをして、航に「もう寝ろ」と追い出されることだってある。
でも、セーラー組へ移れば、寮の生活区域も変わる。
同じ廊下を歩くことはできなくなる。
「……まあ、そこは残念だけど」
優太は、航を見た。
「でも、学校では公式ペアになれるんだぜ?」
航は、黙って聞いている。
優太は、にっと笑った。
「俺、お前と二人三脚やりたい!」
航は、少し驚いた顔をした。
優太は、勢いよく続けた。
「体育祭、一緒に出ようぜ! 絶対楽しいって!」
航は、しばらく優太を見つめていた。
それから、小さく笑った。
「……そうか」
「おう!」
優太は、にっと笑った。
「それに、寮が別でも会えるだろ?」
航が、顔を上げた。
「朝、待ち合わせすればいいし。放課後だって一緒に帰れるじゃん!」
航は、少しだけ考えた。
そして、ゆっくりうなずいた。
「……そうだな」
優太は、航の肩を抱き直した。
「じゃあ、決まり!」
航も、少し笑った。
「希望が通ったらな」
「そこは当てる!」
「抽選になったら運だろ」
「でも、当てたいじゃん!」
航は、とうとう声を出して笑った。
その笑顔を見て、優太も嬉しくなった。
来年の体育祭。
航と肩を組んで走る自分。
想像するだけで、今から楽しみだった。
****
一月。
優太は、正式な制服変更希望をセーラー組で提出した。
航は、学ラン組の継続を希望した。
二月になると、翌年度のセーラー組の希望者が定員を超え、抽選が実施されることになった。
「……うわ、マジか」
優太は、掲示板を見上げた。
隣で、航が案内を確認している。
「抽選だな」
「当てる!」
「気合いでどうにかなるものじゃないだろ」
「でも、当てたいじゃん!」
航は、少し笑った。
「……まあ、そうだな」
優太は、航の肩を軽く叩いた。
「大丈夫! 絶対一緒に走ろうぜ!」
航は、少しだけ目を細めた。
「……うん」
それから、静かに言った。
「俺も、楽しみにしてる」
優太は、ぱっと笑った。
「だろ!」
三月。
結果通知が届いた。
優太は封筒を開き、紙を取り出した。
『セーラー組・希望承認』
「……よっしゃあ!」
思わず声を上げた。
すぐに航へ電話をかける。
「航!」
『何だよ、急に』
「当たった!」
電話の向こうが、少し静かになった。
『……セーラー?』
「おう!」
優太は、嬉しくて部屋の中を歩き回った。
「これで公式ペアになれるな!」
航は、少し笑った。
『……そうだな』
「四月になったら、すぐ登録行こうぜ!」
『わかった。受付の日程、確認しとく』
「頼む!」
航は、いつもどおりだった。
優太が勢いで進めたことを、ちゃんと形にしてくれる。
優太は、電話を切る前に言った。
「……なあ、航」
『ん?』
「俺、めっちゃ楽しみ!」
少し間があった。
それから、航が静かに答えた。
『……俺も』
その声が、いつもより少し嬉しそうだった。
優太は、思わず笑った。
****
四月。
二年生の始業式。
優太は、セーラー寮の自室で鏡を見ていた。
「……おお!」
思わず声が出た。
濃紺のセーラー服。
白い襟。
淡い青のリボン。
そして、きれいにひだの入ったスカート。
想像していたより、ずっと似合っていた。
優太は、鏡の前で少し身体をひねった。
スカートが軽く揺れる。
「……いいじゃん!」
学ランも気に入っていたが、セーラー装には違う楽しさがある。
特に、リボン。
今日は初日なので、きれいに結んで登校したかった。
ところが。
「……あれ?」
結び目が大きくなりすぎた。
ほどいて、もう一度結ぶ。
今度は左右の長さが違う。
「……何でだよ!」
三回目。
さらにひどくなった。
優太は、とうとう笑ってしまった。
「これ、むずっ!」
そのとき、スマホが鳴った。
航からだった。
『寮の入口に着いた』
優太は、慌てて返信した。
『今行く!』
何とかリボンの形を整え、鞄を持って部屋を出た。
寮の入口へ向かうと、航が待っていた。
黒い学ラン。
きちんと整った襟。
いつもの落ち着いた顔。
優太は、大きく手を振った。
「航!」
航が振り向く。
そして、動きを止めた。
「…………」
優太は、にっと笑った。
「どうよ!」
航は、しばらく優太を見つめていた。
その視線が、白い襟からリボンへ、そしてスカートへ移る。
「……似合ってる」
優太は、ぱっと笑った。
「マジ!?」
「ああ」
航は、少しだけ頬を赤くした。
「……可愛いな」
優太は、得意げに笑った。
「だろ!」
航が、少し驚いた顔をする。
「……自分で言うのか」
「似合ってると思うし!」
優太は、胸を張った。
航は、その様子を見て笑った。
それから、ふと眉を寄せた。
「……ちょっと待て」
「ん?」
「リボン、左右が違う」
優太が、胸元を見下ろす。
「あ、やっぱ?」
「やっぱって……」
航は、呆れたように笑った。
「自分で結んだんだろ?」
「五回くらい!」
「……よく頑張ったな」
「そこ褒めるところ!?」
航は、優太の前へ立った。
「……一回、ほどいてみろ」
「え?」
「教えるから」
優太は、目を丸くした。
「お前、結べんの?」
「うん」
「何で!?」
航は、少しだけ目をそらした。
「……練習したから」
優太は、固まった。
「……は?」
航は、ポケットからスマホを取り出した。
画面には、リボンの結び方を説明するページが表示されていた。
「最初は、左右の長さをそろえる」
「……おう」
「次に、こっちを重ねて」
航は、手順を見せた。
優太も、言われたとおりに動かす。
「……こう?」
「そう。そこで引っ張りすぎるな」
「お、おう!」
何度かやり直すと、ようやくきれいな結び目になった。
優太は、スマホの画面に自分を映した。
「……おお!」
左右の長さがそろっている。
しかも、形がいい。
「すげえ! できた!」
航は、満足そうに笑った。
「……うん」
優太は、もう一度リボンを見た。
そして、航を見上げた。
「……なあ、お前、いつ練習したの?」
航は、少し考えた。
「……三月」
「俺の結果が出てから?」
「うん」
優太は、目を丸くした。
航は、少し照れくさそうに笑った。
「お前、絶対苦戦すると思ったから」
優太は、しばらく航を見つめた。
自分がセーラーになると決まってから、航はリボンの結び方を練習していた。
何も言わずに。
今日、自分が困ったときに教えられるように。
優太は、胸が温かくなった。
「……航」
「何だよ」
優太は、満面の笑みになった。
「ありがとな!」
航は、少しだけ笑った。
「……どういたしまして」
優太は、もう一度自分のリボンを見た。
今日は航に教わって結んだリボンだ。
明日は、もっと上手に結べるかもしれない。
「……なあ、航」
「ん?」
「俺、すぐ覚えるから!」
航が、少し眉を上げた。
「……本当か?」
「信用しろって!」
航は、声を出して笑った。
優太も笑う。
それから、航が少しだけ真面目な顔になった。
「……優太」
「何?」
「今日は、本当に似合ってる」
優太は、顔を上げた。
航は、まっすぐこちらを見ていた。
「……可愛いよ」
優太は、得意げに笑った。
「……おう!」
でも、さっきより少しだけ胸がどきどきした。
航が、そんなふうに褒めてくれるとは思わなかった。
優太は、その嬉しさをごまかすように大きく手を振った。
「ほら、行こうぜ!」
航は、少し笑った。
「……だから、先に走るなよ」
「わかってるって!」
二人は、並んで校舎へ向かった。
****
新年度の公式ペア登録。
優太と航は、並んで受付へ向かった。
セーラー組、松田優太。
学ラン組、横山航。
申請書に二人の名前を書く。
優太は、それを見て満足そうに笑った。
「……やった!」
航が、少し笑う。
「まだ受付しただけだぞ」
「でも、これで公式ペアだろ!」
航は、記入欄をもう一度確認した。
「……うん。間違いない」
優太は、航の肩を抱いた。
「よろしくな、相棒!」
航は、思わず笑った。
「……おう」
登録が終わると、二人は校内の行事案内に目を通した。
六月の体育祭。
公式ペア競技。
『二人三脚』
優太は、ぱっと顔を上げた。
「航! これ!」
航も、案内を見た。
「……ああ」
優太は、にっと笑った。
「絶対出ようぜ!」
航は、少し考えた。
それから、うなずいた。
「……いいよ」
優太は、満面の笑みになった。
「よっしゃ!」
航は、案内を確認しながら言った。
「……ただし」
「ん?」
「ちゃんと練習するからな」
優太は、胸を張った。
「任せろ!」
航は、少し笑った。
「……そこが一番心配なんだよ」
「何でだよ!」
二人は、声を出して笑った。
****
五月。
体育祭へ向けた二人三脚の練習が始まった。
優太は運動が得意だった。
短距離走なら、クラスでもかなり速い。
一方の航も、運動が苦手なわけではない。
ただし、優太のように勢いで走ることはしなかった。
何事も確認してから動く。
走るときも、無駄な動きが少ない。
「じゃあ、まず歩くところからな」
航が言った。
優太は、目を丸くした。
「え、走らないの?」
「いきなり走ったら転ぶだろ」
「いけるっしょ!」
「いや、順番な」
航は、二人の内側の足を結ぶバンドを確認した。
優太も、隣に立つ。
肩を組み、足元をそろえた。
航の腕が、優太の肩へ回る。
優太も、航の肩を抱いた。
「……何か変な感じ!」
優太が笑うと、航も少し笑った。
「そりゃ、足がつながってるからな」
優太は、足元を見た。
二人の足が、一本のバンドで結ばれている。
歩こうとすると、航の身体も動く。
少しだけ肩へ体重を預けると、航も支えてくれる。
普段、肩を組むことはよくあった。
でも、こうして身体の動きをそろえるのは初めてだった。
「……よし、行くぞ!」
優太が、勢いよく踏み出す。
「うわっ!」
航が、思わずよろけた。
優太も足を取られる。
二人は、危うく転びそうになった。
「……優太!」
「わ、悪い!」
航は、深く息を吐いた。
「だから、先に歩くって言っただろ!」
優太は、照れくさそうに笑った。
「……へへ」
「へへ、じゃない」
航は、足元を確認した。
「まず、内側の足をそろえて出す。次に外側。いいな?」
「おう!」
「俺が声を出すから、それに合わせろ」
「了解!」
もう一度。
「せーの」
二人で足を出す。
「いち、に。いち、に」
最初は、ぎこちなかった。
優太が速く出すと、航の足が引っ張られる。
航が慎重になりすぎると、今度は優太がつまずきそうになる。
何度も止まった。
そのたびに、航は足の位置を確認した。
「……もう一回」
「おう!」
少しずつ、歩けるようになった。
「……おお!」
優太が笑う。
「いけるじゃん!」
航も、少しだけ笑った。
「だから、順番にやればいいんだって」
優太は、航の顔を見た。
何でも慎重な航。
普段は少し面倒だと思うこともある。
でも、一緒に練習していると、航のやり方が正しいとわかる。
「……なあ、航」
「何?」
「お前、こういうのうまいな」
航は、少し驚いた。
「……そうか?」
「おう! 俺、一人なら絶対転んでた!」
航が、思わず笑った。
「実際、転びかけたしな」
「そこは言わなくていいって!」
二人は、顔を見合わせて笑った。
練習の終わり。
航は、バンドを外しながら言った。
「……次は、少しずつ速くしてみよう」
優太は、目を丸くした。
「お、走る?」
「うん。ただ、最初から全力は無理だな」
航は、まっすぐ優太を見た。
「優太の速さに、俺も追いつけるようにする」
優太は、少し驚いた。
「……航?」
航は、少しだけ笑った。
「せっかく公式ペアになったんだから。俺だって速く走りたいよ」
優太は、ぱっと笑った。
「……だよな!」
そして、航の肩を叩いた。
「よし! 二人で速くなろうぜ!」
航も、嬉しそうに笑った。
「……ああ」
****
六月。
体育祭が近づくにつれ、練習も本格的になった。
二人は、かなり速く走れるようになっていた。
歩くところから始めた練習は、今では校庭の半分を走り切れるほどになっている。
ただ、優太には一つ悩みがあった。
最後の加速で、どうしても航より先に足が出てしまうのだ。
「……優太!」
航が、また声を上げた。
「悪い!」
二人は足を止めた。
航は、息を整えながら言った。
「最後だけ速くなるんだよ」
「……だって、あとちょっとでゴールじゃん」
「そこで転んだら意味ないだろ」
優太は、少しむっとした。
「でも、勝ちたいんだよ!」
航が、黙った。
優太は続けた。
「せっかく公式ペアになったんだし、絶対優勝したい!」
航は、少しだけ視線を落とした。
その表情を見て、優太は言葉を止めた。
「……航?」
航は、ゆっくり息を吐いた。
「……俺だって勝ちたいよ」
優太は、顔を上げた。
航は、足元のバンドを見た。
「お前、俺とペアになるために制服変えたんだろ」
「……おう」
「寮まで別になってさ。そこまでしてくれたのに、俺が足引っ張って負けたら嫌なんだよ」
優太は、しばらく航を見つめた。
航は、いつも段取りを考えてくれる。
失敗しそうなところを、先に見つけてくれる。
その航が、こんなふうに悔しそうな顔をするとは思わなかった。
「……何だよ、それ」
優太が言うと、航は顔を上げた。
「……何が?」
優太は、にっと笑った。
「俺、勝つためにセーラーになったわけじゃねえぞ!」
航は、目を丸くした。
優太は、航の肩を軽く叩いた。
「お前とペアになりたかったからだって!」
航は、しばらく黙っていた。
優太は、少し照れながら続けた。
「もちろん勝てたら最高だけどさ。でも、航と一緒に走れるだけで、俺はもう結構嬉しいんだよ」
航の表情が、少し変わった。
「……優太」
「ん?」
航は、ゆっくり息を吸った。
「……俺も、お前と走りたい」
優太は、顔を上げた。
航は続けた。
「それに、やっぱり勝ちたい」
優太は、にっと笑った。
「……おう!」
航は、少し考えた。
それから、優太を見た。
「……でもさ」
「何?」
「お前、俺に合わせようとしすぎなくていいから」
優太は、目を丸くした。
「……え?」
航は、バンドを指さした。
「俺も、お前に合わせる。二人で速く走るんだろ」
優太は、しばらく航を見ていた。
そして、思わず笑った。
「……お前、いいこと言うじゃん!」
航も、少し笑った。
「最初からそう言ってるつもりだけど」
「マジ?」
「マジ」
二人は、声を出して笑った。
優太は、もう一度バンドを巻いた。
「……じゃあ、もう一回!」
航も、うなずいた。
「……ああ」
二人は、肩を組んだ。
航が、声を出す。
「いち、に。いち、に」
最初はゆっくり。
足音をそろえる。
優太は、航の呼吸を感じながら走った。
航も、優太の動きに合わせている。
少しずつ速度が上がる。
「……航!」
「ん?」
優太は、前を見た。
「……もうちょい、いける?」
航は、少し笑った。
「……いける!」
優太の胸が、高鳴った。
いつもなら、慎重に確認する航。
でも、今は同じように速く走りたいと思っている。
「……よっしゃ!」
二人は、さらに速度を上げた。
足は乱れなかった。
練習用のゴールラインが近づく。
優太は、航の肩をしっかり抱いた。
「……あと少し!」
航も、声を上げた。
「いち、に! いち、に!」
そのまま、二人は同時にゴールラインを越えた。
転ばなかった。
しかも、今までで一番速かった。
優太は、思わず航に抱きついた。
「やったじゃん!」
航も、笑って抱きしめ返した。
「……おう!」
その瞬間、優太は少し不思議な気持ちになった。
航に抱きつくことは、今までも何度かあった。
嬉しいとき、勢いで肩を組むこともある。
でも、今日は離れるのが少し惜しかった。
航が、少し顔を上げる。
「……優太?」
「……ん?」
目が合った。
航が、少しだけ笑った。
優太は、その顔を見て、急に胸がどきどきした。
いつも一緒にいる親友。
自分が走り出すと、呆れながらついてきてくれる男子。
でも、さっきの航は違った。
自分からもっと速く走ろうとしていた。
同じゴールを見て、同じように勝ちたいと思ってくれていた。
(……何だよ)
優太は、航を抱きしめた腕を見た。
このまま、もう少しだけ一緒にいたい。
そう思ってしまった。
航が、少しだけ首をかしげる。
「……優太?」
優太は、慌てて腕を離した。
「……よし! 本番もこれで行こうぜ!」
航は、少し不思議そうにしていた。
でも、すぐに笑った。
「……ああ」
優太は、胸のどきどきが収まらないまま、校庭を見つめた。
体育祭が、楽しみだった。
それ以上に、航と一緒に走るのが楽しみだった。
****
体育祭当日。
朝から校内は賑わっていた。
優太は、セーラー服で校庭へ向かっていた。
今日は、いつもより少しだけリボンの形を変えている。
航に教えてもらった結び方を、自分で練習したのだ。
鏡の前で何度かやり直したが、最後にはきれいに結べた。
セーラー組の友人が、声をかけてきた。
「松田、今日のリボンいいじゃん!」
優太は、得意げに笑った。
「だろ!」
「何か気合い入ってるな!」
「体育祭だし!」
そう言いながら、優太は校庭を見回した。
航の姿を探す。
黒い学ラン姿の男子たちが、何人も歩いている。
その中に、見慣れた顔があった。
「航!」
優太が手を振ると、航が振り向いた。
「おはよう」
「おう!」
優太は、航の前に立った。
「……どうよ!」
航は、少しだけ首をかしげた。
それから、リボンを見た。
「……自分で結んだ?」
優太は、満面の笑みになった。
「おう!」
航は、少し笑った。
「……きれいにできてる」
優太は、嬉しくなった。
「マジ!?」
「ああ」
航は、まっすぐ優太を見た。
「……似合ってる」
優太は、少しだけ顔が熱くなった。
ほかの友人から褒められたときは、普通に笑えた。
でも、航に言われると、何だか違う。
今日も、朝から何度もリボンを結び直した。
航に教わった結び方を、ちゃんと覚えたところを見せたかった。
それに。
(……航に、褒めてほしかったんだな)
そのことに気づいた瞬間、優太は急に落ち着かなくなった。
航が、少し笑った。
「……どうした?」
優太は、慌てて首を振った。
「……何でもねえ!」
それから、航の肩を抱いた。
「ほら、行こうぜ!」
航は、少し驚いたあと、笑った。
「……まだ競技の時間には早いだろ」
「いいじゃん! 先に見に行こう!」
航は、呆れたように笑った。
「……まったく」
それでも、優太と並んで歩き出してくれた。
****
二人三脚の競技が始まった。
優太と航は、体操服に着替え、スタート地点へ向かった。
二人の内側の足をバンドで結ぶ。
肩を組み、足元を確認する。
周囲には、ほかの公式ペアたちが並んでいた。
みんな、少し緊張している。
優太は、深く息を吸った。
「……航」
「何?」
「絶対、勝とうな!」
航は、少し笑った。
「……うん」
それから、優太を見た。
「でも、先に走るなよ」
優太は、にっと笑った。
「わかってる!」
航も笑う。
「……ほんとかな」
「信用しろって!」
二人は、顔を見合わせて笑った。
スタートの合図が鳴った。
「位置について!」
優太は、航の肩をしっかり抱いた。
航も、優太の身体を支える。
「よーい……」
笛が鳴った。
二人は、同時に足を踏み出した。
「いち、に! いち、に!」
航の声に合わせて走る。
最初は、ほかのペアとほぼ同じ速さだった。
でも、少しずつ前へ出る。
優太は、航の足音を聞いた。
一緒に練習したリズム。
何度も転びかけた。
何度もやり直した。
そのたびに、航が声をかけてくれた。
「順番な」
そう言って、何度でも最初から付き合ってくれた。
そして今は、二人で同じ速さを目指して走っている。
半分を過ぎたところで、隣のペアが少し前へ出た。
「……航!」
優太が叫ぶ。
航も、すぐに答えた。
「わかってる!」
優太は、足を速めたくなった。
隣のペアが、さらに前へ出る。
焦る。
でも、ここで一人だけ先へ出れば、また転ぶ。
優太は、航の肩を抱く腕に少し力を込めた。
そして、航の足音を聞いた。
「……いけるか!?」
航が、にっと笑った。
「……いける!」
優太は、目を丸くした。
航がそんなふうに答えるのは、珍しかった。
いつもなら、慎重に速度を確認するはずだ。
でも、今は違う。
航も、勝ちたいと思っている。
二人で、最後まで走り切りたいと思っている。
「……よっしゃ!」
優太は、思わず笑った。
航が声を上げる。
「いち、に! いち、に!」
二人は、少しずつ速度を上げた。
足音が、ぴったり重なる。
隣のペアへ追いつく。
残り十メートル。
優太は、もう航の足音を意識しなくても走れていた。
身体が、自然に合っている。
そのとき、航が叫んだ。
「……優太!」
「……おう!」
「最後、上げるぞ!」
優太は、思わず笑った。
慎重な航が、自分から加速を求めている。
いつもは優太が先に走り、航が追いかけてくる。
でも、今は航も前へ出ようとしている。
同じゴールを目指して。
「……いけるっしょ!」
航が、声を出して笑った。
「……ああ!」
二人は、最後の力を振り絞った。
ゴールラインが近づく。
一歩。
もう一歩。
そして。
二人は、同時にゴールラインを越えた。
審判の旗が上がる。
「一位、松田・横山ペア!」
歓声が響いた。
優太は、思わず叫んだ。
「……やったあああ!」
航が、隣で笑っている。
「……勝った!」
優太は、航に抱きついた。
「航! やったじゃん!」
航も、思いきり抱きしめ返した。
「……おう!」
二人は、足を結んだまま笑い合った。
周囲から、拍手と歓声が聞こえる。
「松田、速かった!」
「横山、最後の加速すげえ!」
「二人とも息ぴったりだった!」
優太は、得意げに笑った。
「だろ!」
航も笑っている。
いつもは落ち着いた顔をしているのに、今日は本当に嬉しそうだった。
優太は、その顔から目を離せなかった。
(……何だよ)
航が、こんなに笑うなんて。
ずっと一緒にいたのに、知らなかった。
いや、知っていたはずだ。
でも、今日は特別に見えた。
優太は、航を抱きしめたまま、少しだけ笑った。
「……なあ、航」
「ん?」
「俺、お前とペアになれてよかった!」
航は、少し目を丸くした。
それから、ゆっくり笑った。
「……俺も」
その返事が、どうしようもなく嬉しかった。
航も、優太の肩を抱く腕に力を込めていた。
優太は、胸がどきどきするのを感じた。
競技は、もう終わった。
なのに、まだ離れたくなかった。
****
体育祭の片づけが終わった夕方。
優太と航は、校舎の裏手にあるベンチに座っていた。
二人とも制服に着替え、首から一位の記念メダルを下げている。
優太は、何度もメダルを見ていた。
「……なあ、航」
「何?」
「これ、マジですげえよな!」
航は、少し笑った。
「……何回言うんだよ」
「何回でも言う!」
優太は、得意げに笑った。
航も笑った。
しばらくして、優太はふと黙った。
隣には、航がいる。
黒い学ラン。
整った襟元。
いつもの落ち着いた顔。
でも、今日は何だか少し違って見えた。
二人三脚で走っているとき。
航が「いける!」と答えてくれたとき。
最後に、自分から「上げるぞ!」と叫んでくれたとき。
ゴールしたあと、思いきり抱きしめ返してくれたとき。
その全部が、頭の中に残っていた。
優太は、少しだけ息を吸った。
「……なあ、航」
「何?」
「俺さ」
言いかけて、少し迷った。
航といるのは、ずっと楽しかった。
親友として、誰よりも一緒にいたかった。
それは、今も変わらない。
でも、今日はそれだけでは足りなかった。
走っているときも、ゴールしたあとも。
航が隣にいることが、どうしようもなく嬉しかった。
これからも、ずっと隣にいてほしい。
しかも、親友としてだけではなく。
優太は、まっすぐ航を見た。
「……やっぱ、お前のこと好きだわ!」
航が、ぴたりと動きを止めた。
「……え?」
優太は、少しだけ照れながら笑った。
「親友としても好きだけどさ」
航は、黙って聞いている。
優太は、言葉を探しながら続けた。
「……今日、一緒に走ってて思ったんだよ」
「……うん」
「俺、お前とペアになりたくて制服変えたじゃん」
航が、うなずいた。
「……うん」
「でも、今はそれだけじゃ足りねえ」
航の目が、大きくなった。
優太は、ゆっくり続けた。
「……お前と、恋人になりたい」
言ってしまった。
でも、不思議と後悔はなかった。
航は、しばらく動かなかった。
優太は、少しだけ緊張した。
いつもなら、すぐに何か言ってくれる。
「順番な」とか、「先に確認しろ」とか。
でも、今は黙っている。
「……航?」
呼びかけると、航が顔を上げた。
その頬が、少し赤くなっていた。
「……お前」
航は、ゆっくり息を吐いた。
「……ほんと、急なんだよ」
優太は、少しだけ笑った。
「……悪い」
航は、首を振った。
それから、まっすぐ優太を見た。
「……俺も好きだよ」
優太の胸が、大きく跳ねた。
「……マジ!?」
航は、少し笑った。
「……うん」
そして、静かに続けた。
「俺も、お前と恋人になりたい」
優太は、満面の笑みになった。
「……やった!」
思わず航に抱きつく。
航も、しっかり抱きしめ返してくれた。
しばらくして、航が少しだけ身体を離した。
「……優太」
「ん?」
航は、まっすぐ優太を見ていた。
その表情が、いつもより少し真剣だった。
「……俺さ」
「うん」
「お前がセーラーにするって言ったとき、嬉しかった」
優太は、少し驚いた。
航は、続けた。
「でも、寮が別になるのは寂しかった。お前と毎晩遊べなくなるし」
優太は、うなずいた。
「……うん」
「それでも、お前が俺とペアになりたいって言ってくれたの、すごく嬉しかった」
航は、少し笑った。
「……だから」
少し間があった。
「リボンの結び方、練習したんだ」
優太は、目を丸くした。
「……あれ?」
四月の始業式。
航が、リボンの結び方を教えてくれたことを思い出す。
「……俺が苦戦すると思ったからじゃないの?」
航は、少しだけ笑った。
「それもあるけど」
優太は、じっと航を見た。
航は、少し照れながら続けた。
「……可愛くしてやりたかった」
優太は、言葉を失った。
航は、少し目をそらした。
「お前、セーラー似合うと思ってたし。ちゃんと可愛いって言ってやりたかった」
優太は、胸がぎゅっとした。
いつも、航は自分のことを考えてくれる。
宿題を忘れそうになれば注意してくれる。
何かを始めるときは、先に準備してくれる。
二人三脚でも、何度も自分の歩幅に合わせてくれた。
でも、今日は少し違った。
航も、勝ちたいと言った。
自分から速く走ろうとしてくれた。
そして今、自分の気持ちを、ちゃんと言葉にしてくれている。
優太は、思わず笑った。
「……何だよ、それ!」
航が、少し目を丸くした。
優太は、嬉しくなって続けた。
「お前、めっちゃ俺のこと好きじゃん!」
航は、顔を赤くした。
「……うるさい」
優太は、にっと笑った。
「俺も好き!」
航が、少しだけ笑った。
それから、優太の手を取った。
「……優太」
「ん?」
航は、まっすぐ優太を見た。
そして、少しだけ真面目な顔になった。
「……キスしてもいい?」
優太は、目を丸くした。
「……え?」
いつもなら、航は慎重に考える。
何かを始める前には、順番を確認する。
でも、今は。
航が、自分からキスをしたいと言っている。
優太は、嬉しくなって笑った。
「……もちろん!」
航は、少しだけ顔を近づけた。
優太も、自然に目を閉じる。
唇が、そっと触れた。
ほんの一瞬。
触れるだけのキスだった。
離れると、航は少し照れたように笑った。
「……っ」
優太は、しばらく何も言えなかった。
それから、思わず声を上げた。
「……航!」
航が顔を上げる。
「……何?」
優太は、にっと笑った。
「お前、意外と大胆じゃん!」
航は、顔を赤くした。
「……お前が先に好きって言ったんだろ」
「そうだけど!」
二人は、顔を見合わせて笑った。
優太は、つないだ手を握り直した。
「……なあ、航」
「何?」
「……もう一回」
航が、目を丸くした。
優太は、少し照れながら笑った。
「今度は、俺から」
航は、しばらく優太を見つめた。
それから、ゆっくり笑った。
「……うん」
優太は、航の肩を抱き寄せた。
航も、自然に腕を回してくれる。
顔を近づける。
今度は、優太が先に動いた。
航も、同じように身を寄せた。
二人は、もう一度キスをした。
さっきよりも、少し長い。
優太は、航の手をしっかり握っていた。
航も、同じくらい強く握り返してくれる。
そのことが嬉しかった。
やがて、ゆっくり離れる。
航が、少しだけ笑った。
「……どうした?」
優太は、満面の笑みになった。
「……最高!」
航は、思わず笑った。
「……お前らしいな」
優太も笑った。
それから、航の肩へ頭を寄せた。
「……なあ、航」
「何?」
「俺、来年もセーラーでいいかな」
航は、少しだけ首をかしげた。
「……何で?」
優太は、自分の制服を見下ろした。
白い襟。
淡い青のリボン。
軽く揺れるスカート。
最初は、航と公式ペアになるために選んだ制服だった。
でも、今は結構気に入っている。
「……だって、楽しいじゃん」
優太は、にっと笑った。
「リボンも、自分で結べるようになったし!」
航が、少し笑った。
「……まだ練習中だろ」
「そこはいいんだよ!」
優太は、声を出して笑った。
それから、少しだけ照れながら続けた。
「……それに、お前に似合ってるって言われるの、好きだし」
航は、少しだけ頬を赤くした。
それから、静かに笑った。
「……俺も、好きだよ」
優太が顔を上げる。
航は、まっすぐこちらを見ていた。
「お前のセーラー姿」
優太は、嬉しくなった。
「……マジ!?」
航が、うなずく。
「……うん」
優太は、思わず航に抱きついた。
「……じゃあ、来年も一緒な!」
航も、笑って抱きしめ返した。
「……希望が通ればな」
「そこは当てる!」
「だから抽選だって!」
二人は、顔を見合わせて笑った。
しばらくして、航が言った。
「……でも、来年の制服は、ちゃんと一緒に考えような」
優太は、少しだけ驚いた。
「……航?」
航は、静かに笑った。
「俺も、お前と一緒にいたいから」
優太は、胸がいっぱいになった。
そして、満面の笑みになった。
「……おう!」
二人は、もう一度抱きしめ合った。
****
翌朝。
優太は、いつもより少し早く起きた。
セーラー服を着て、鏡の前に立つ。
昨日の体育祭の余韻が、まだ残っていた。
航と二人三脚で優勝した。
そして、航と恋人になった。
そのことを思い出すだけで、笑ってしまう。
優太は、リボンを手に取った。
四月の始業式。
航が、結び方を教えてくれた。
あれから何度も練習した。
今では、一人でもきれいに結べるようになっている。
優太は、鏡を見ながらリボンを整えた。
「……よし!」
左右の長さがそろっている。
結び目も、きれいだった。
優太は、満足そうに笑った。
寮の入口へ向かうと、航が待っていた。
「航!」
優太が手を振ると、航が振り向いた。
「おはよう」
「おう!」
優太は、航の前に立った。
「……どうよ!」
航は、優太の胸元を見た。
それから、少しだけ笑った。
「……今日も、自分で結んだ?」
優太は、得意げに笑った。
「おう!」
航は、ゆっくりうなずいた。
「……上手くなったな」
優太は、嬉しくなった。
「だろ!」
航は、少しだけ近づいた。
そして、優太のリボンを見た。
「……うん。今日は直すところないな」
優太は、目を丸くした。
「マジ!?」
航は、笑った。
「……ああ」
優太は、思わず拳を握った。
「……よっしゃ!」
航が、少し笑った。
「そんなに嬉しいのか?」
優太は、にっと笑った。
「嬉しいに決まってるじゃん!」
それから、少し照れながら続けた。
「……航に見せたかったし」
航の表情が、ふっと柔らかくなった。
「……そっか」
優太は、顔が熱くなった。
でも、今度は慌てなかった。
航は、自分の恋人だ。
嬉しいことは、ちゃんと言っていい。
「……なあ、航」
「何?」
「昨日の俺ら、めっちゃ速かったよな!」
航は、思わず笑った。
「……またその話?」
「何回でも言う!」
優太は、満面の笑みになった。
「だって、優勝したんだぜ!」
航も笑った。
「……そうだな」
それから、少しだけ真面目な顔になった。
「……でも、最後はお前がちゃんと待ってくれたから走れたんだよ」
優太は、目を丸くした。
「……俺?」
航は、ゆっくりうなずいた。
「お前、一人で先に行こうとしなかっただろ」
優太は、少し考えた。
確かに、そうだった。
ゴールが近づいても、航の足音を聞いていた。
航が「上げるぞ」と言ったとき、一緒に速度を上げた。
優太は、にっと笑った。
「……だって、二人で走ってたからな!」
航は、嬉しそうに笑った。
「……うん」
優太は、そっと手を伸ばした。
航の手を握る。
航が、少し驚いた顔をした。
「……優太?」
優太は、にっと笑った。
「恋人なんだし、いいだろ!」
航は、少しだけ笑った。
「……うん」
そして、しっかり握り返してくれた。
優太は、嬉しくなって歩き出そうとした。
でも、ふと足を止めた。
航は、まだ隣に立っている。
優太は、自分の足元を見た。
昨日は、二人の足がバンドでつながっていた。
今日は、何も結ばれていない。
それでも。
優太は、航の顔を見た。
「……なあ」
「何?」
「……一緒に行こうぜ」
航が、少し驚いた顔をした。
それから、ゆっくり笑った。
「……ああ」
優太は、航の隣に並んだ。
二人は、同時に歩き出した。
セーラー服と学ラン。
違う制服になった二人。
でも、今は公式ペアで、恋人同士でもある。
優太は、航の手をぎゅっと握った。
「……なあ、航」
「何?」
「これからも、ずっと一緒に走ろうな!」
航は、少しだけ笑った。
「……ああ」
そして、まっすぐ優太を見た。
「ちゃんと歩幅、合わせろよ」
優太は、満面の笑みになった。
「……いけるっしょ!」
航が、声を出して笑った。
優太も笑った。
二人は、手をつないで校舎へ向かった。
昨日の二人三脚と同じように。
今度は、互いの歩幅を自然に合わせながら。




