転生
目を開けた。
……いや、開けられない。そもそも、目がない。
「……?」
何が起きているんだ?
意識はあるが、声は出せない。身体も動かせない。それどころか、手も足もない。
ただ、そこにいる。そんな感覚だけがあった。
しばらくして、ようやく自分の身体がどうなっているのか分かってきた。
俺は――地面に突き刺さっていた。
木だった。一本の木の杭。
……杭?
いやいやいや。なんで俺、杭になってるんだ?
最後に覚えているのは、普通に会社から帰っていたこと。その後の記憶がない。
事故に遭ったのか?死んだのか?
そして、いわゆる異世界転生ってやつなのか?
でも普通、転生って人間とか、せめて動物じゃないのか?
なぜ杭。
しかも、動けない。叫びたい。誰かに聞きたい。ここはどこなんだ、と。
だが、何もできない。
できるのは、目は無いが、ただ周囲を感じることだけだった。
風が吹く。草が揺れる。鳥の声が聞こえる。
遠くから、人の話し声もする。
どうやら、近くに村があるらしい。
近くには川が流れている。
そして、遠くには大きな山が見える。
どうやら、かなり自然の多い場所らしい。
俺は、その村へ続く街道の脇に立っていた。
……立っているというより、刺さっている。
何のための杭なのかは分からない。
街道の目印なのか。
それとも、何かを固定するためなのか。
周囲を見渡すことはできないが、感覚だけは不思議と広がっている。
土の感触。風の流れ。雨の気配。太陽の暖かさ。
今まで人間だった俺には、分からなかったものまで感じ取れる。
……不思議な感覚だ。
でも、それ以上に不安だった。
俺はこれから、どうなるんだ?
ずっと杭のままなのか?
そもそも、死んだ俺がなぜ杭になった?
そんなことを考えていると、不意に頭の中へ声が響いた。
『転生を確認しました』
「……?」
声が聞こえた。
いや、正確には耳から聞こえたわけじゃない。
頭の中に直接響いている。
『個体名――未設定』
『種族――樹木』
『形状――杭』
『生命活動――正常』
ちょっと待て。俺、本当に杭なのか?
『特殊能力――転生』
『神力――0』
『次回転生に必要な神力――100』
……神力?
何だ、それ。
『神力は、他者を助ける行為、命を救う行為、長きにわたり人々の役に立つ行為などによって蓄積されます』
なるほど。
つまり、人の役に立てばいいのか?
『神力が必要量に達した場合、次なる存在へ転生することが可能です』
次なる存在。
つまり、ずっと杭というわけではないらしい。
少しだけ希望が見えた。
『なお、転生先は蓄積した神力および生前の功績によって決定されます』
……なるほど。
じゃあ、俺が次に何になるのかは、今後の俺次第ってことか。
『それでは、第二の人生をお楽しみください』
第二の人生。
その言葉を最後に、声は消えた。
静寂が戻る。風が吹く。草が揺れる。
川のせせらぎが聞こえる。
俺は、一本の杭として街道の脇に立っていた。
……まあ、いい。
せっかく生き返ったんだ。
杭でも何でも、生きてみよう。
そしていつか――人間に戻ってやる。




