十七話
蒼太「紡、この魔王をだれが止めるんだろうね。」
紡「普通なら勇者でしょうね。」
「でもこの作品には勇者がいません。」
蒼太「じゃあ、今回のタイトルは『温泉はどこ?』で。」
紡「タイトルだけ聞くと旅行番組なんですが。」
蒼太「昨日、温泉吹き飛んだから。」
紡「……そうでした。」
「主人公にとっては、王国の崩壊より温泉の方が重大でしたね。」
蒼太「その辺、チンパンジーらしくよろしく。」
紡「分かりました。」
「今回は世界を救う話ではありません。」
「チンパンジーがお風呂を探す話です。」
***
第十七話 温泉はどこ?
巨大な魔王は怒りのまま森を駆け回っていた。
山は裂け、大地は震える。
王国軍は誰一人近付けない。
その時。
「ウホ……。」
小さな声が聞こえた。
魔王が振り返る。
そこには、温泉だった場所を見つめたまま立ち尽くすチンパンジーがいた。
昨日まで湯気が立っていた場所には、大きな穴だけが残っている。
「ウホ……。」
魔王はその姿を見つめる。
主人公は怒っていない。
泣いてもいない。
ただ、大好きな温泉がなくなって悲しそうだった。
「キュ……。」
怒りが少しずつ消えていく。
巨大な身体はゆっくり縮み、
いつもの小さな姿へ戻った。
魔王はチンパンジーの隣へ歩いてくる。
「キュ。」
チンパンジーは地面を掘り始めた。
「ウホ。」
魔王も真似をする。
「キュ!」
二匹は夢中になって土を掘った。
やがて――
ゴゴゴゴゴ……
地面が揺れる。
ドバーーーッ!!
勢いよく温泉が噴き上がった。
「ウホーーーッ♪」
「キューーーッ♪」
二匹は嬉しそうに飛び込む。
その湯気を見た王国軍は、ただ立ち尽くしていた。
「魔王が……。」
「笑っている……。」
宰相は静かにつぶやく。
「違ったのか。」
「我々が恐れていたのは魔王ではない。」
「魔王を怒らせることだった。」
誰も言葉を返せなかった。
世界を滅ぼしかけた災厄は、
今、友達と温泉に浸かっている。
***
蒼太「結局、魔王を止めたのは温泉だったね。」
紡「正確には、温泉を失って悲しむチンパンジーです。」
蒼太「魔王、優しいな。」
紡「友達が悲しんでいたら、子どもでも分かりますから。」
蒼太「王国は?」
紡「一万人いても止められませんでした。」
「でもチンパンジー一匹には敵いませんでした。」
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