第十六話
蒼太「紡、かわいい鳴き声の災厄の魔王が暴れるところが見てみたい。」
紡「嫌な予感しかしません。」
「昨日まで温泉でバナナを分け合っていたんですが。」
蒼太「タイトル『王国の崩壊』にしたら活躍できるでしょ。」
紡「タイトルで暴れさせるんですか。」
蒼太「無茶ぶりだから。」
紡「……否定できません。」
「分かりました。」
「でも暴れるのは主人公の命令ではありません。」
「友達を傷つけられたと思った時だけ、本当の魔王になります。」
***
第十六話 王国の崩壊
王国軍一万。
騎士団、宮廷魔導士、聖騎士。
王国が誇る戦力は、北方領を包囲していた。
宰相は最後の確認を行う。
「目標は災厄の魔王。」
「チンパンジーは巻き込むな。」
誰も異論はなかった。
その頃。
「ウホ。」
「キュ♪」
チンパンジーと魔王は温泉で石を積んで遊んでいた。
一つ。
二つ。
三つ。
「キュ!」
魔王が嬉しそうに笑う。
その瞬間。
「放て!」
魔導士たちの魔法が一斉に森へ降り注いだ。
轟音。
土煙。
温泉が吹き飛ぶ。
「ウホ!?」
突然の衝撃にチンパンジーは転んだ。
腕を岩で擦りむく。
赤い血が一滴だけ落ちた。
魔王は、その血を見た。
「…………。」
小さな瞳から、笑顔が消える。
「キュ。」
静かな声だった。
空が暗くなる。
大地が揺れる。
山が鳴いた。
王国軍は誰一人動けない。
小さな魔物の姿は消え、
そこには山よりも巨大な黒い影が立っていた。
「グオオオオオオオオッ!!!!」
咆哮一つで城壁が砕ける。
翼が一度羽ばたく。
王国軍は吹き飛び、
王都の塔が崩れ落ちた。
誰も戦えない。
誰も近付けない。
世界は初めて知る。
災厄とは、
怒らせてはいけない存在だったことを。
その頃。
巨大な魔王の足元では、
チンパンジーが転んだまま首をかしげていた。
「……ウホ?」
何が起きたのか、
本人だけが理解していなかった。
***
蒼太「かわいい鳴き声だった魔王が、一話でラスボスになったね。」
紡「怒らせましたから。」
蒼太「主人公、何もしてないけど。」
紡「はい。」
「主人公は転んだだけです。」
「でも魔王にとっては、それだけで十分な理由でした。」
蒼太「つまり王国は……。」
紡「チンパンジーに負けたんじゃありません。
チンパンジーの友達を怒らせたんです。」
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