栄養不足の冒険者達
誤解が解け、
俺はさっそく冒険者ギルドの食堂に取り掛かる。
前の店主は、3年間続いたが、
冒険者ギルドのガラの悪さと、つけの多さに嫌気がさして、撤退したらしい。
つけが多いのは困る。
俺はなぜつけが多いのか聞いてみる事にした。
手始めにモヒカンに聞いてみよう。
「なぁ聞いても良いか」
「あっどうぞ」
「前の食堂の店主はつけの多さに嫌気がさし、撤退したと聞くが……、冒険者はつけが多いのか?」
「そうですね。つけが多いですね」
「なぜかはわかるか?」
「冒険者ってのは、日銭仕事ですし、ケガをしたら仕事ができませんし、宿屋代とかもいるから、つけの効く食堂にシワ寄せがいくんでしょう」
そうか……、
ケガが問題なのか。
「どんなケガだ? 大けがか?」
「いや、大ケガっていうより、些細なケガをほっておいて、問題になるほうが多いような気がします」
なるほどな。
そういう事か……。
つまり、この食堂を繁盛させるには、頭を使わないといけないって事か。
俺は過去の知識を総動員し始めた。
ボディビルダーは脳筋と言われ、
単純でバカだと思われがちだ。
しかし、それは誤解だ。
筋肉を効果的につけるには、
知識が必要だし、計算が必要になる。
カロリー計算や、摂取のタイミング、リカバリーについての栄養学、体の構造。
などなど、生理学的な知識も不可欠なのだ。
まず栄養面で、体の回復を早めるには、ホエイだ。
牛乳を安価で購入し、そこからチーズとバターを多量に作り、副産物のホエイとチーズをタンパク源として利用する。
エールを提供する店が多いが、うちではホエイを安価で提供しよう。
こうすれば、酒に酔って暴れる客もいなくなる。
それに酔客ほど、つけになりやすい。
俺はとりあえず、前の店のメニューを少しアレンジして、同じタイプの店にした。
違うのはエールの代わりに、ホエイを提供することだった。
ホエイに関しては、始めは抵抗があるだろうと思ったので、
始めの一週間だけ、1杯を無料で提供した。
そして提供するたびに、俺の筋肉はこのホエイのお陰だ。
そう言った。
前はチーズの水と言っていたが、店ではホエイと名付けた。
理由は単に、俺になじみがあるからだった。
一週間、ホエイは人気だった。
しかし一週間を過ぎると、急にはけが悪くなる。
やはり無料だから、飛びついたのかと思いきや、
二週間後に売上が急に伸びた。
不思議に思って聞いてみると、
「飲むのをやめて、身体の回復具合が落ちたからだ」
と言っていた。
俺はたしかな手ごたえを感じた。
俺は次に肉料理にテコ入れしようと考えた。
冒険者が獣の肉を依頼で手に入れる事があると聞き、
詳しく聞かせてもらった。
話によると、
獣の肉を依頼する肉屋は獣の赤みの部分だけを取り、それを干し肉にして、
残りは土に埋めて、捨てると言う。
俺は肉屋に行き、残りを土に埋める仕事を一度だけ、ただで引き受けることにした。
肉屋は喜んで、俺に肉の残りを手渡してくれた。
俺はその肉を解体し、
内臓を煮込み料理に、ハラミなどを焼肉に、そして骨でスープを取った。
そして、それらを冒険者たちに非常に安く振る舞った。
「店主……、これはなんだ?」
モヒカン男は言った。
「これは獣の内臓だ。これを常食すると、血が増えて、戦闘でバテにくくなる」
俺は答えた。
「このスープ美味しいわね。これはなに?」
受付嬢は言った。
「それは獣の骨で取ったスープだ。そして肉は獣のシッポ。飲み続けると肌がキレイになるし、体中が潤う」
俺がそう言うと、受付嬢や女性の冒険者は何度もお替わりをした。
獣の肉などは、多量にあったが、全て食いつくされた。
売上は普段の日の1.5倍あった。
非常に安価で提供したとしても、タダ同然の食材で、数を提供できれば、売上は上がることが、ハッキリと見えた。
俺は冒険者たちの体形、筋肉のつき、肌のつやを毎日確認した。
来た当時に比べて、明らかに変化していた。
栄養状態が改善したからだ。
このまま、改善し続けていけば、冒険者たちも良い感じの身体になっていくだろう。
ただ問題は食事だ。
このまま毎日肉が提供できるわけじゃない。
俺は肉屋に聞いた。
いつ肉が入るのかと……。
すると、冒険者が肉を持ってきた時に、全部仕込むのだと。
そう言っていた。
そこで俺は狩りのクエストをこなした者は、店主に言うように冒険者に伝えた。
冒険者たちは、また安く肉が食えると、喜んで協力すると言ってくれた。
それでも週に1度あるかないかだった。
俺は新たな食材を探しに、近くの農村にでかけた。
そこで、燕麦を見つけた。
燕麦とは、オートミールの原料だ。
あまりなじみのない人も多いが、筋肉にはよい食材で、ボディビルダーで常食している人も多い。
燕麦は家畜の飼料として使われており、値段も安く買えた。
あとは、レンズ豆・ひよこ豆もあった。
燕麦も豆もタンパク源として優秀で安かったので、多量に購入した。
それから、食堂では普段は豆と燕麦とホエイ。
週に1回くらいの不定期で、肉祭りを行うことになった。
みるみる間に、冒険者の体格は良くなっていった。
受付嬢が、
「店主が来てから、ケガで冒険者をリタイアするものも減った」
そう言っていた。
俺は過去を思い出す。
俺のボディビルダー人生は、ケガとの戦いだった。
ボディビルダーは筋肉量が多く、健康そうに見られがちだ。
しかし現実は少し違う。
ケガが多く、風邪もよくひく。
なぜか?
ハードに鍛えすぎているし、
体脂肪率の低さを競う部分があるため、極端に低い体脂肪率を求める。
昔は60㎏の体重で満足できた。
しかしジムに行くと、もっと身体の大きい奴らがいる。
そいつらが圧をかけてくる。
どうだ、
俺はでかいだろ。
そう言わんばかりに、
委縮してしまう自分が情けなくて、
さらに65㎏、70㎏、80㎏と増量を重ねていく。
始めは細マッチョがカッコいいと思っても、
ジムには魔物が住む。
その魔物はデカい筋肉がすごいと無言の洗脳をしかけてくる。
それにあらがう事は誰にもできない。




