ドキ!問題だらけの冒険者達
俺は早速冒険者ギルドに出向く。
冒険者ギルドは石造りの建物だった。
中は広く、左手に食堂、右手に冒険者ギルドの受付があった。
床は木の板で、ささくれ立っており、ところどころにどす黒いシミがあった。
隅のほうに、ねずみが数匹いるのが見えた。
冒険者ギルドに入ると、一気に視線が集中した。
この視線は……。
俺はボディビル大会の事を思い出す。
あぁ、見られている。
胸を大きく見られているかな。
考えるだけで気分が高揚する。
俺は気持ち広背筋と大胸筋に膨らみを持たせ、
堂々とした風体で、
冒険者ギルドの受付に向かう。
「冒険者の登録の方ですね。
こちらに記入をお願いします」
受付嬢は何のためらいもなく、用紙を手渡す。
「いや、違うんだ」
キレイな女の人なので、言葉が出てこない。
「仕事の依頼でもなさそうですし、もしかして……、
殴りこみですか?」
受付嬢は警戒する。
殴りこみ……。
その一言で、
一気に警戒の熱が高まった。
冒険者は一斉に武器を構える。
「いくらそんなデカい身体でも、この大人数相手では分が悪いな」
モヒカン頭の男は言った。
「おめえは別の街の冒険者ギルドの者か?」
金髪のイケメンが叫ぶ。
俺は手を上げる。
俺は筋肉はあるが、平和主義者なんだ。
「俺は……」
緊張が走る。
「料理人だ」
俺は言った。
これで伝わるだろ。
「私たちを料理するですって」
受付嬢が怯えている。
「おいおい。俺らを舐めてもらっちゃ困るぜ。いくらお前さんが強くてもな。この人数で勝てると思うなよ」
モヒカン頭の男は、ナイフを突き出す。
俺はそのナイフを見る。
明らかにボロい。刃こぼれを起こしている。
あれは研いでやらなくては……。
「おい。そこの変わった頭の男。お前のナイフ、俺が研いでやろうか?」
俺は指をさす。
モヒカン男は顔をゆがめている。
「ナイフを研ぐ。どういう意味だ」
「そんなナイフじゃ、上手に調理ができない。だからだ」
俺は率直な意見を述べた。
モヒカン男の、
顔がどんどん青ざめていく。
そして、冒険者たちはじわじわと後ずさりをしている。
俺……。
だいぶヤバイ奴と思われていないか。
そうだ。
敵意がない事を示す為に、
上半身裸になろう。
裸の付き合いというしな。
俺は荷物を降ろし、
上の服を脱ぎだす。
筋肉の調子はいいみたいだ。
俺は少し腕のストレッチも加える。
いい具合にパンプアップしている。
ざわざわと声がする。
モヒカン頭はナイフを落として、
手を上げた。
「すまねぇ。あんたには敵わないヨ。命だけは助けてくれ」
その言葉を皮切りに、
その場にいた冒険者達全てが、武器を手放した。
なんかよくわからんが、戦闘は避けられたみたいだ。
俺は無性にポージングがとりたくなった。
両腕を曲げて上腕二頭筋を全面から見せる
フロントダブルバイセップスから始まり、
フロントラットスプレッド
サイドチェスト
バックラットスプレッド
バックダブルバイセップス
サイドトライセップス
アブドミナルアンドサイ
まで終えた。
うん。
気持ちが良い。
「それで、あなたは何が望みなの?」
受付嬢は言った。
「さっきも言ったように、俺は調理をしに来ただけだ」
俺は答えた。
「私達、降伏しているのに、なぜなの?」
受付嬢は怯えている。
「いや、だから、ここの食堂で料理をするんだ。
お前たちに美味い飯を食わせるために」
俺は調理道具を見せる。
一同、
呆然とした顔をしている。
「じゃあ、あんたは冒険者を痛めつけようとか、狩ろうとしている奴じゃないのか?」
モヒカンの男は尋ねる。
「当たり前だ。俺は平和主義者だ」
皆、顔を見合している。
「しかし、あんた。どう見ても、歴戦の強者にしか見えない。
少なくともここにいる連中の誰よりも強そうだ」
モヒカンの男は言った。
俺はあらためて、冒険者たちを見る。
皆目つきは悪いが、全体に細く、腰に力が入っていないのがわかる。
俺はゆっくりとモヒカン男に近づき、
「ちょっと失礼」
と男の尻を触る。
そして太ももを触った。
そしてしゃがみ込み、男のズボンの裾を上げ、ふくらはぎを確認する。
「お前、足が遅いだろ。それにすぐに疲れる」
俺は言った。
「なんでわかる」
モヒカンの男は尋ねる。
「そんなもの、筋肉と会話すれば、スグにわかる」
俺は言った。
「筋肉と会話だと……、あの男。特殊能力者なのか」
場がざわついた。
なんか誤解されている気がする。
まぁいいか。
ボディビルダーは誤解されやすい。
もう慣れっこだ。
俺は昔のことを思い出す。
俺は昔、身体が小さくイジメられていた。
ある時、ボディビルダー出身の俳優が活躍する映画をテレビで見た。
身体を鍛えて、大きくしたらイジメられないし、正義の味方になれる。
そう思い、体を鍛え始めた。
しかし、身体がなかなか大きくならなかった。
ある時、電車で身体の大きなボディビルダーのような雰囲気の人に出会った。
俺は怖かったが、勇気をふりしぼって聞いた。
「あの。俺もあなたのような身体になりたくって、鍛えていますが、どうしてもなれません。どうしたらいいですか?」
そう言うと、
彼は満面の笑顔で、
「僕もね。君くらいの頃は、同じような体形だった。それでね。ボディビルダーの先輩から、とりあえず太るくらい食えと言われて、食いまくった」
そう教えてくれた。
「でも、すごく引き締まってて、太ってはいませんよ」
俺は言った。
「これはな。秘密があるんだ。ボディビルダーっていうのは、増量期と減量期があるんだ」
「増量期と減量期?」
「そう。増量期に筋肉と体重を増やす。そして試合前の減量期にダイエットをして、脂肪を落とす。するとこんな感じの体形になる」
「えっ、じゃあ。いつもそんな体形な訳じゃないのですか?」
「そうだね。数か月だね」
彼はそういって笑った。
つまり俺に足りてなかったのは、十分なカロリーだった。
俺自身がボディビルダーに対して、大きな誤解をしていた事を知ったのだ。




