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異世界の飯はクソマズいが、ボディビルダーには関係ありません

身体の確認ができたので、

この世界を確認する。

まず部屋は……。

木造でボロい。

窓はあるが、木の扉で窓ガラスがなく、

隙間から風が入り込んでくる。


部屋を出ると暖炉があった。

トイレは、あぁそうか。

この世界ではトイレは共同で外にあったんだ。


家の中には誰もいなかった。

そうか。

ここは一人暮らしだったのか。


テーブルを見ると、パンと水があった。

俺はパンをかじる。

アホほど堅いし、パサパサして黒い。


タンパク質はないのか?

周りを見ると、チーズがあった。

俺はチーズを食べる。

臭くて味が濃い。


水には葉っぱが浮かんでいる。

これはハーブか?

あぁそうか。

この時代は水が不衛生だから、煮沸してからハーブを入れていたんだ。


ちょっと腹が膨れたので、家の外に出てみる。

外は真っ暗。

テーブルのランプに火を灯し、外の共同トイレに足を運ぶ。

不思議とニオイは少ない。

用を足し、家に戻る。


そして、俺は眠りについた。


……

翌朝。鳥の声で目が覚めた。

身体のあちこちが痛い。

慣れない筋トレで、身体が悲鳴をあげたのだろう。


カロリーとタンパク質を摂取して超回復させなくては。


俺は財布を確認する。

銀貨が一枚と銅貨が三十枚。

もといた世界の貨幣価値に換算すると一万三千円くらいか。


食堂の厨房の仕事で日当銅貨五十枚。

親から受け継いだ家だから家賃はいらない。

しかし貯金はなさそうだ。


俺は食堂に向かう。

たしか食堂でまかないがついていたはずだ。


三十分ほど歩き、食堂に着いた。

店主が仕込みを始めている。

ボサボサの髪を後ろで束ね、

無精ひげをはやしたオッサンだ。

身体は今の俺のように細い。


「おぉアルフレッド。大丈夫だったか?」

店主は俺を横目で見ながら、作業をしている。

何の作業をしているのだ。


「はい。ご心配おかけしました。あの、何をされてるんですか?」


「おいおい。頭を打ったというのは、本当だったようだな。日課のチーズ作りだよ」

店主は言った。


チーズ。

という事はホエーが出るのか?


「あの。チーズを作る時に出る水ありますよね。あれどうしてます?」


「水?あぁそんなもん捨てちまうよ」

店主は笑った。


「その水。俺にくれませんか?」


「はっ?なに言ってんだ。美味くないぞ」


「あの……。その水は筋肉が付きやすくなるんです」

俺は言った。


「なに言ってるんだ。いままで捨ててきてたし、お前も何も言わなかったじゃねぇか」

怪訝そうな顔をしている。


どう説明する。

まさか、前世はボディビルダーでとか説明できないし。

考えろ。

俺……。

しかし、思いつかない。


「実は……、夢の中に、筋肉がすごい男が現れてこう言いました。

“お前はチーズの水を飲め。さすれば俺のような筋肉になるだろう”と」


「うははははっははは。なんだそれ。

アルフレッド。お前そんなに面白いやつだったか。

まぁ良い。全部お前にやるから好きなだけ飲め。

効果があるようだったら、俺も飲むから。お前は実験台だ」

店主は笑った。


俺は思わず唾をのみこむ。

なに……。

プロテイン代がただの世界だと。

なんだこれ。

チートじゃねぇか。

俺はそう思った。


俺はそれから、店主にチーズ作りを教わり、チーズ作りの手伝いをするようになった。

そして毎日ホエイを飲み続け、一か月がたった。


「おい。アルフレッド。お前身体が一回り大きくなってねぇか?」


「はい。チーズの水を毎日飲んでいるおかげです。身体も鍛えてますし」


「身体を鍛える……、なんだ走ったりしているのか?」


「筋トレです」


「筋トレってなんだ」

店主は不思議そうな顔をする。


そうか……。

この世界は筋トレが普及していないのか。


「説明するのは難しいので、やってみます」


俺は店主の前で筋トレを始める。


まずはプッシュアップだ。


「これがプッシュアップです」


俺は実践してみる。

店主も見よう見まねでやってみる。


「おお。これきついな。これお前何回できるんだ」


「始めは十回でしたが、今は三十回できるようになりました」


「すごいな。俺は七回が限界だ。これは何に良いんだ」


「これはモノを押す力が強くなります。たとえば轍にはまった荷車を押しだす時に必要です」


「胸の辺りと、腕にくるな」


「そうです。この胸の筋肉と、腕の後ろ側、力こぶの反対側の筋肉がつきます。ちょっと俺の胸と腕を触ってみてください」


店主は胸を触る。


「おお。固いな」


「そのまま触っていてください。筋肉を動かします」

俺は大胸筋を動かす。


「おぉ。ピクピクしている」

店主は驚いた。


「ある程度鍛えると、この胸が動くようになります」


俺の筋肉講座に満足した店主は、俺の指導の元、

筋トレを始めた。

チーズの水は分け合うことになったが、そもそも俺一人では飲み切れない分があったから、何の問題もなかった。


それから三年。

俺と店主の筋肉は明らかに大きく育った。


そして体力がついた店主と俺は仕事もてきぱきとこなし、

店は二号店を構える事となった。


その場所は、

冒険者ギルド内。

冒険者ギルド併設のレストランのシェフ兼店主が俺の立場だった。


条件は悪くない。

支度金として、お金を投資してもらい、

そこから家賃や人件費、材料代などを支払う。

そして、上納金として、売上の一割を店主に支払う。

残りは俺の懐に入る。

その金で事業を拡げてもいいし、

全額自分のモノにしてもいい。

そういう条件だった。


この世界のメシはクソマズい。

それをなんとかしたいと思った。


ボディビルダーには味覚がないように言われるが、

それはウソだ。

ボディビルダーも美味いものが好きだ。

ただ筋肉という崇高な目的のために、

味の薄い鶏胸肉やゆで卵を大量に食べるだけ。


美味いものがあるなかで、あえてストイックに味付けを制限するなら許せるが、

初期設定がマズいという状態は看過できない。


そう思う。

筋肉を崇拝するが、

もう大会にも出ない。

そういう条件なら、

俺は美味い飯屋をしたい。

そう思った。


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