アルス訓練場3
噛ませ犬こと、ハンマー君が再度登場します。
彼の実力はいかに!?
にしても毎日のようにフィリカの家に素材を置いていくなんて貢いでいるみたいですね!
翌日、またもフィリカの庭を借りる。
ついでに昨日手に入れていたハイオークとオークアーチャーを置いておいた。
ハイオークに関しては弓などの必須装備を作ってもらう材料に。
アーチャーについては「後はよしなに」というやつだ。
理熾の発注装備の材料にするも、単に使い潰すのも構わない。
譲るという話で持ってきたのだから。
だが解体分の全部を出していくわけにもいかないので2体分くらいに抑えておいた。
今後必要に応じて渡していく予定である。
ちなみにあけみやにはハイオークとアーチャーの肉を納品済みである。
今後の食生活が楽しみで仕方ない。
それに当然だがまだ投剣と吸収装備は出来ていなかった。
フィリカのせいで一日あれば出来ると勘違いしてしまっていた。
新機構だったり、新構造だったりなので手間が掛かるのは当然だ。
一週間ほど経って出来てなかったら一度聞いてみようと理熾は思う。
ともかく。
借りた庭で昨日の動きを投影していく。
見ただけで覚えられる訳も無い。
少しずつ、少しずつ調整していく。
ミリ単位で身体の動きを調整できる【体術】のお陰で覚えが早い。
すぐに《拳打》と《蹴撃》を習得、ついで弓技、斧技を身に着ける。
ここまででとりあえず終了。
しばらくは訓練場との往復の日々だなぁ、と思いながら訓練場へと向う。
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方やその騎士団訓練場では訓練兵達がうずうずしていた。
理由は簡単。
理熾の突然の訓練参加の宣言である。
団長・副団長がそれぞれ公認し、伝えたのだから間違いない。
訓練兵達はこれに歓喜した。
何せ栄えある騎士団に入るも重い鎧を着せられひたすら走る毎日。
それが達成できたと思えば走り込み後の型の訓練。
ようやく戦闘訓練かと思ったが相手が同期ばかりで、顔見知り。
実力もトントンとなればどれだけ強くなったのかも分からない。
そんな中に討伐者の見学があるという。
一応昨日も来ていたらしいが、昨日は団長と副団長への顔見せだけだったらしく、ほとんどが知らなかった。
ちなみにその討伐者は先日行われた緊急依頼で半分を殲滅したという。
その上、戦闘訓練にまで参加してくれる。
自分の実力、ひいては訓練兵全体の実力を確認できる機会をくれたのだから、喜ばないはずが無い。
自分の実力がどれくらいなのか。
何処まで通用するのか。
少なくとも参加する討伐者はEランク。
話によるとDランク相当だという。
討伐者の中でも中級ランクに属する者と対等に戦えれば前線に出してもらえるかもしれない。
騎士の命は重いが、戦いに出ないという選択肢は無い。
『領民を守る』という使命を背負うことが、騎士である最低条件なのだ。
だから団長達の話を聞いて全員うずうずしていたのだった。
まさか子供だとは誰も思っていなかったが。
「さて。
昨日本人から申し出があり、今朝全員に通達した内容だ。
改めて、討伐者リオ君の戦闘訓練参加をここで通達する。
必ず私か、兄の了承を経て、立会いの下で訓練を行うように」
そうエリルが理熾を紹介する。
「どんな人が来たのだ」や「挑戦してやろう」という気持ちの下、全員がこの場にいる。
そんな訓練兵の面子は目に見えてがっかりしたようだったので、理熾は逆に楽しくなった。
ふふふ…これはもう侮ってるね、侮ってるよ!
てことは、『このレベルでEランク!?』と思わせれば楽しいよね!
フィリカさんですら認めた僕の攻撃力はそこら辺のEじゃ収まらないのに!
お外は怖いぜ!
訓練場の塀から出れなくしてやんよ!!
と変な方向に無駄にやる気になる理熾だった。
ひねくれ方がめんどくさい感じになっている。
きっとフィリカの影響だろう。
「紹介に預かりました、理熾です。
皆さんの実力は全く分かりませんが、1対1で負けるつもりはありません。
よろしく~」
しかも「ふふん」という風に挑発も忘れない。
これでお互いに『子供だから手加減する・される』という言い訳が立たない。
もし言い出したら本当に残念である。
そんな態度に全員が殺気立つが、理熾は気にしない。
気にする必要も無い。
理由は簡単。
今の訓練兵は全員『子供だから』と侮ったからだ。
これは『子供は弱い』という思い込みが侮りに繋がったのだ。
この時点で理熾の勝率が100%になった。
そもそも人間なんてのは思い込みの塊である。
そして理熾は不意打ちに特化しているため、思い込みが強ければ強いほど理熾に勝てない。
フィリカなどのように余程の戦力差があれば別だが、たかが訓練兵如きで理熾を止められるはずがない。
何より理熾がスキル・能力を全開で殴り合ったら負ける要素が無い。
その光景を作り出した子供を団長のエリルと副団長のルルガが溜息と共に見る。
たった自己紹介だけの口上で仕立て上げる手腕には驚きだが、無謀にも程がある。
自身の実力を信じるのは構わないが、それだけで生き残れるほど現実は甘くない。
それを良く知る二人が理熾を横目に囁き合う。
「兄さん、あの子大丈夫なのか?」
「いや、それが…実力は知らないんだよ。
話だけなら、恐ろしく頭が回って強いらしいんだが」
「私も子供だからと侮るつもりは無いが、所詮Eランクだろう?
相性もあるはずだし、あの細腕で何をするんだか…。
兄さん死なれても困るし、回復職の手配をお願いするよ」
「あぁ、分かった。
いつでも止めに入れるようにしておくか」
と言う風に理熾を心配するのは当然だ。
普通の子供にしか見えない上に、華奢なのだ。
下手すると女の子と思えるほどに細い。
何せセリナの服が入るのだから、心配するのも無理は無い。
いくら本人が「死ぬことすらいとわない」と言っても、死なれては困るのだ。
なのでさっと打ち合わせを終える。
そこに理熾も混じる。
「エリルさん、ルルガさん。
ところで戦闘訓練ってどうするの?」
と、そもそもの話から聞き出す。
ルールも知らずに『お前らよりも強いぜ』と宣言していた訳だ。
無茶苦茶である。
「いくらなんでもそれは無いだろう」と二人は嘆くが仕方ない。
知らないものは知らないのだ。
ルルガも「確かに昨日そこまで話してなかった」と認める。
色々と思うところのあるエリルではあるが、理熾が言い放った言葉は戻らない。
というより知らないままでよくそんな無茶な話をしたもんだと逆に感心してしまう。
大怪我をしないようにだけ注意することに決めてルール説明である。
「………基本的に刃引きしてある武器を持つ。
防具は普段通りの物を身につける。
後は戦闘開始だ。
審判と言うわけではないが、必ず立会いを求めてくれ。
でなければ止める者が居なくて最悪殺し合いにまで発展しかねないからな」
「なるほど。
それって弓はどうするの?」
一応理熾は弓兵という紹介になっている。
魔法の話は一切伝えていない。
ギルバートに口止めした訳ではないが、特に伝える理由も無いから知らないのだ。
それを考えればその部分を省くわけにはいかない。
別に弓が使えなくても問題は無いのだが。
「弓の場合は鏃の無い矢を用意する。
弓自体は自分の持ち物を使ってもらって構わない」
「んー質問」
「何だろうか?」
「元々鈍器なメイス、ハンマー、棒はそのままでしょ?
それって不公平じゃない?
弓はともかく、その他って『用意された武器』であって『自分の』じゃないよね」
と理熾が指摘する。
実戦となれば自分の武器で戦うはずである。
それを思うと訓練時にわざわざ『用意された武器』を使うのはどうなのだ、という話だ。
理熾はともかく、それ以外だと単なる不利にしかならない。
「その辺りはある程度仕方ない。
真剣で斬り合いを演じる訳には行かないからな。
同様に使い勝手の悪い武器をわざわざ装備させるのも意味が無いからな」
「んーということは。
『鈍器系の有利を認める』ということで良いかな?」
エリルの喉が干上がる。
まさかその為の質問だったのか、と。
ルールをルールのみで理解せずに、きっちりと情報を持っていく。
「頭が回ると評されるわけだ」と密かに納得する。
「あぁ、その認識で構わない」
「なるほどなるほど。
なら、鈍器使いが『一番言い訳が出来ない』んだね。
せっかくだし昨日のハンマー君と戦いたいんだけど良いかな?」
その言葉を聞いてエリルもルルガも唖然とする。
『鈍器が有利』と認めさせた上で昨日の続きをはじめようというのだ。
完全に叩き潰す為に。
理熾自体は特に怒ってはいないし、正直どうでも良い。
歯牙にも掛けないというのはこのことなのだろうと自分で思う程度にハンマーがどうなろうと、本気でどうでも良い。
が、「せっかくなんだから『一人目の犠牲者』として名指ししてあげよう」という訳である。
ここまでお膳立てされてしまうとどうしようもない。
ルルガが回復職をつれて来るついでに呼び出した。
名前はイルというそうだ。
大槌使いの重戦士らしく、重そうながちがちの全身鎧で目の前まで来て高圧的に睨む。
が、理熾は全く気にせずにエリルにお願いする。
「あ、そうだ。
僕って弓兵なんだよ。
何でも良いから何か弓貸してくれないかな?」
「今メンテ中で」と言って借りる。
これで『弓の有利』が消えたことになる。
最早イルに退路は無い。
全ての逃げ道を断たれた訳だ。
だがそれは逆にそれだけ見下しているということにもなる。
それを知ったイルの感情は怒りのみである。
ちなみにエリルが貸してくれた弓は、支給品の弓より遥かに良い。
照準はしやすいし、何より弦が強い。
それでいて引きやすくて軽くすら感じる。
意気揚々と弓の具合を確かめながら、矢を受け取る。
矢はとりあえず50本受け取り、横からこっそり100本くすねておいた。
「うん、良いよ」
にこやかに準備完了を告げる。
当然格好はフィリカ製の戦闘衣で、手甲・靴も完備である。
手足の先が弓兵には物々しい格好ではあるものの、異常と言う訳ではない。
身を固めるのは当然であるし、手は武器を持つため。
足は移動するためにとても重要なのだ。
頑丈であることに越したことは無いし、弓を持つにも苦労しないのだから。
そうして誰にも突っ込みを受けずにエリルが立ち会う。
開始距離は5mと、明らかに『弓に不利な間合い』を取る。
エリルも「リオ君、その位置で良いのか?」と老婆心からか聞いてくる。
しかし理熾はあっさりと「うん、言い訳をあげるほど優しく無いから」と返答する。
言葉や行動を重ねるごとに自分を含めて逃げ道を塞ぐ。
この状態でハンマーが負けたら騎士団に居られないレベルだ。
当然それらの煽りを全て見聞きしているハンマーはプルプル震えている。
怒りで。
色んな意味で鬼である。
エリルは呆れてこれ以上の引き伸ばしは事態を悪化させると判断。
時間が延びれば延びるほど理熾がイルを怒らせる。
最悪イルが理熾の頭を潰れたトマトにしかねない。
そんな危険を予見してとっとと始めることにする。
「では二人とも良いか?」
との確認に
「団長、早くして下さい」
「いつでも良いよ」
と二人はそれぞれ答える。
片方は怒りと共に全てを気負った状態で。
もう片方は嘲りと共に気楽な状態で。
「はじめ!」
「おぉぉ!!」と気合を入れて突っ込んでくるハンマーに、理熾が一気に前に駆け出す。
本気で駆ければ5mなんて距離は存在しないのと同じである。
お互いがたった2歩で到達する距離なのだから。
だが、『弓兵がわざわざ接近する』なんてのはありえない。
その事実にイルが瞬時に踏み留まって思い切り後ろに退き下がる。
「この弓兵は何かある」と判断したのだ。
ほぼ同時に理熾も同様に後に下がる。
最初の5mしかなかった距離は一気に20m程まで開き、退くと同時に理熾は矢を番えて放ち始める。
余りにも鮮やかに距離を操作した理熾に全員が釘付けにされる。
イルは驚愕の表情を浮かべて身を固める。
理熾が距離を取りつつ矢を放つので、この場から20m以上も詰め寄らねばならない。
だが弓兵に対するこの距離は危険すぎる。
手持ちはハンマーのみ。
盾の類は持っていないため、避けるか耐えるかの2択。
鎧を着ていて身体が重いので躱せないため、この場は耐えるしかない。
対する理熾は50本しか矢を持たないが、狙いは正確だ。
それも当然で、イル以上に動くウッドウルフにも(亜空間投射ではあるが)それなりに当てていたのだから。
しかも今は空間魔法の恩恵である座標認識を手にしている。
たった20mの距離しか離れておらず、たかが人程度の動き(しかも重武装)しか出来ない的に当らないはずが無い。
鏃の無い矢でも、結構な速度で飛んでくるのでかなり痛い。
ハンマー使いとして頑丈な鎧や手甲、具足なども身に着けているが、綺麗に鎧の隙間を狙い打つ。
理熾は防御の薄い間接部分を的確に射抜くのだ。
これが通常の矢であれば負傷と重い装備のためにすぐに身動きが取れなくなって前衛に囲まれる。
それを見越してエリルが「やめ」と止める。
開始数分であっさりと勝敗が決まった。
理熾の圧勝だった。
「ふ、口ほどにも無い」
息すら乱さずそう言ってニヒルに笑う理熾。
何より武技すら使っていない。
確実にフィリカの影響を受けている。
しかも全くもってその通りだったので、誰も口を挟めない。
イルも全ての反論を封じられた状況下で、これ程までに一方的な展開だったため膝を付いて呆然としている。
やはりハンマーは所詮噛ませ犬だったことが証明された瞬間である。
お読み下さりありがとうございます。
イルこと、ハンマー君はモブキャラの癖にエリルやルルガより目立ってます。
所詮は噛ませ犬なのですが。




