【幕間:神域】神様の大会観戦
気付けばブクマが1.5万を超えておりました。
掛かった月日は三年強…随分と長い気もしますが、それもこれも読者の方々がのお蔭ですね。
今後ともよろしくお願いします。
生物の成長過程は、種族によるものが最も大きく、その中でも個体によっても優劣が存在する。
管理者側としては個体にまでわざわざ注意を向けないし、むしろ向けていれば全体を観測することなど不可能だ。
木を見て森を見ず、では話にならないからな。
故に、一定数の個体をランダムにサンプルとして抜粋して検査するのが通例…統計学の考え方だな。
しかし私が見下ろすスフィアでは、他のサンプル検体を抽出したとしても、あの集団を外すことはできない。
そう、ラボリを塒とする、理熾が率いる者達だ。
「どうしてこうなった?」
「えっと…どの件についてでしょうか…?」
未開拓迷宮ラボリの周囲を開拓し始めたのが二ヶ月と少し前だ。
広々と均された土地は今でも変わらないが、辺境にできたばかりの開拓地とは思えないほどの物流量と、そこを闊歩する人の数が随分と増えていた。
いくらアルス領主肝いりの地区とはいえ、この短期間にこれほどの劇的な変化があるとは思えない。
どうしてこんなことになってる?
そんな問いが虚しく響くのは、疑似的とは言え『使徒』である理熾に注視しすぎたための弊害だ。
いや、理熾の関係者をマークしていたはずだが…ラザフォードのこともあり、迷宮内部を主に見ていたのも悪かったらしい。
気が付くとアルスの切札とされる財務官を擁し、近隣領主の護衛官を引き入れていた。
現在ラボリを闊歩している者達は暫定的な住人…いや、一時的な出稼ぎ組とのことだが、皆一様に表情は明るく、そこかしこで建設中の進入禁止区域が存在する。
雑多に見える中にも『都市計画』が透けて見え、一定の法則の下で街道が走り、区画は整理されて建築物が存在していた。
住人の数は知れているようだが、聞き耳を立てれば近々数倍にも上る数百人規模の村に育つ算段まで付けている…と。
「いや、どうして一ヶ月・二ヶ月程度で開拓地が『こう』なる?」
私の疑問は真っ当なものだろう。
スフィアでの流通の基本は徒歩か馬車で、運輸を除いた連絡手段のみ限っても、魔鳥や翼亜竜を使ったものが最速で、それにしたって確度と使える頻度は低い。
日本のように気軽にネット通信を始めとした情報通信網は存在せず、当然のように一世代前の電話やメールは元より、海で隔たれた海外に数時間で行き来するようなことはありえない。
いくら転送員を持っていても、これほど大規模に情勢を動かせるなど…。
「一・二週間ほど前に呼び入れた財務官が周辺の村を買収したんです」
「村ごと買収、だと?
……つまりたった二週間でこの光景なのか?」
呆れるばかりの発展振りだ。
ラボリ開拓で暫く落ち着くかと思えばこの状況…理熾が関わるとどうしてこう物事が加速していくのだ?
相変わらずの過剰労働気味かと思えば、ラボリの大氾濫を最後に『激戦』を控えているらしく、理熾の魂量はそこそこ増えていた。
ふむ…スキルやクラスの統合で少しは落ち着いたみたいだが…安心して良いのか?
クーリアもこうした健康確認は欠かしていないらしいが、理熾にとっては休めているのならとりあえず構わないか…?
よく分からない状況に頭を悩ませる。
「それよりも今は五都祭ですね!」
「それよりも、だと?
こんな非常識を脇に置いて何を…いや、待て何故わざわざガーランド主催の武闘大会に出ることになってる?」
「あれ、主様は最近の動向をご存知ないのですか?」
「問題が起きてないからか、お前からの報告がほぼなかったからだろうな?」
大会参加は確かに問題ではないし、勝手にすれば良いが報告案件ではないのか?
クーリアの判断基準がいまいちわからん…理熾の不利益を抜粋でもしてるのか?
神の出した『魔境攻略』よりも優先しているのなら大会参加も十分…。
「理熾様の無双っぷりが見れるというものです!」
「それが目的か…」
そんな呟きを残しながら、守護天使がまとめていたここ最近の記録を拾い上げる。
ふむ…随分前に対決した公爵家次男が、勝利者と代理領主の計略に巻き込まれたのが発端か。
公爵家末っ子が渦中に居るとはいえ、権力者からの介入が日常的になってきたな。
いくら木っ端とはいえ、領主に据えられればちょっかいも出されるか…?
理熾が何かしらに首を突っ込む頻度の高さを思い、先行きの不透明さに思いを馳せる。
「えぇ…せっかく理熾様の素晴らしさを大々的に知らしめる機会ですからね!」
一々面倒な守護天使だな。
さて、五都祭に参加する面々は…Aランクの『暴君』マリネ・ガーゼに『鉄壁』ボシル・ルーア。
Bランク討伐者、ヴィジットの片割れ『片刃』のキグナスに、対なる『破魔』のクーとは…勝利者が介入しただけあってヴァルトルの精鋭が揃っている。
各人の能力は十分強者で通用するし、Aランクの二人は連携も悪くない。
他にもそれぞれ名のある者達が参加予定にしてあるようだが…。
人の枠を逸脱する能力値に加えて知恵を携え、一般的な魔物が手にしない装備をふんだんに買い揃えるのだ。
理熾が際限なくすべての手札を使う気なら、一定のルールの下で行われる競い合いで負ける方が難しいだろう。
大会に出てくる『最強』は、誰も彼もが出場に制限の掛からない者達ばかり。
本来の『最強の駒』は秘匿され、ここぞという時に使用される。
比較されないように、そして対策されないために、大事に隠されて評判だけが周知される。
理熾の幼馴染、神の二つ名を持つ穂波と詩織のように。
とはいえ、喫緊の問題は五都祭か…って、ちょっと待て。
「おい、アレは一体何をしているんだ?」
「アレ…ってもしかして【爆撃槍】の話ですか?」
クーリアは声を弾ませ『良いところに気が付かれましたね』と言いたげな対応する。
少しイラっとしながら頷き、次の言葉を待てば…。
「以前『法陣機雷の収穫』をご覧になりましたよね?
あの罠で手に入れた機雷を二個取り付けた、原始的な槍型手榴弾でしょうか」
「…………見ればわかる。
問題はその数…十、二十ではないことだ。
どう見ても数百はあるが…アレは一体どうやった…いや、どうする気だ?」
「鋳型は神功が、鋳造・作成を弟子がそれぞれ担当していました。
極短期間の量産となりましたので、武器自体の性能はさほど高くありませんが、目的は『爆撃』なので問題ないでしょう」
「気にしているのは製作行程や性能ではない。
まさかアレを大会でばら撒く気ではないだろうな…?」
「理熾様は『奥の手その三』って喜んで話してましたよ?」
その三って…一体いくつ用意する気なんだあの子供は。
いくら《亜空間》が無尽蔵に入る安全なポケットだといっても、そんなに詰め込む必要など…。
「転送員も参加するので、過剰防衛気味な理由はそこかもしれません」
「集団戦に引っ張り込むのか?
それにしては『武器』を量産しているようだが…」
「ふふっ、それは大会で是非見ていただきたい!」
何だこいつ。
感情値は正常だが…もしかしてまた不具合でも起こしてるのか?
まぁ、過去を紐解いて事実を掘り起こすには時間が勿体無いし、それなら実戦で見た方が楽しみにもなるか。
しかしわざわざ【空間魔法】を露見させるような真似は理熾らしくないんだがなぁ。
「魔境の遠征についてはどうなっている?」
「先ほどの武器は、そちらの【神託】でも利用するようですね。
むしろそちらが本命かと思われます。
準備は着々と進んでいると考えて問題ありませんが、その前に勝利者からの茶々が入ったのが実情ですね」
「あいつは辺境とはいえ、大きな武闘大会を試作武器の実験場扱いするのか…」
「ちなみに個人と集団、両方に出るらしいですよ?」
引っ張り出されたはずなのにノリノリではないか。
はてさて、それでは来週の理熾は大会個人戦、集団戦でお送りするわけか。
何だか地球のテレビ番組みたいな見出しだな、と思わず私が嘆息してしまうのは仕方なかろう。
「これが大会の概要です」
「ふむ…それぞれ予選が存在するのか。
個人戦が生存競争で、集団戦が先着闘争か。
理熾は一体何を求めてこの大会に出てるんだ?」
「富と名声!」
「ではないのは分かりきっているわけだが」
「ですね…。
今回は勝利者の鼻をへし折るのが目的みたいですよ。
観戦されるのであれば、そちらの結論まで含めて楽しみにされるのも一興では?」
「随分と隠したがるなクーリア。
何か面白い趣向でもあったのか?」
忙しなく動く理熾の姿を見下ろしながら問い掛ける。
過去を紐解いてもこうしてゆっくりと『状況を窺う』など珍しい。
不完全な拠点を抱えることで、ある意味余裕が生まれたとも言えるかもしれないな。
「理熾様が他者と比べるのは非常に珍しいですからね。
特に『戦闘』に特化しているのに、力比べをしない理熾様が大会に参加するのなら楽しみで仕方ありません」
朗らかに笑みを浮かべるクーリア。
人らしくなったものだ、との感想を持ちながら聞く。
そういえば理熾の全力戦闘はラボリの大氾濫以来か。
あそこからさらに育ったのなら、今ではどれだけ戦えるかわからんな。
「理熾様なら魔境も歩けてしまいそうですよね」
「…浅層程度なら否定できないな。
ただ魔境では迷宮がいつ大氾濫を起こして魔力汚染するかわからない。
そういう意味では《転移門》で中心地に行けても帰れない可能性が高く、大部隊でジリジリ侵攻して帰路に付くのは間違っていない」
「では、間違って転送員を使えば全滅も…?」
「向かった先が中層よりも深ければありえるだろうな」
元工作員を含むラボリでパーティを組んだ場合、中層までなら不測の事態があっても問題なかろう。
ただそれ以上となると行軍距離が長すぎて厳しくなっていく。
いくら《亜空間》持ちが持久力に優れていようとも、常に全力でことに当たれるわけではないからな。
理熾が暴れるであろう五都祭まで暫し時間がある。
ラボリの開拓具合を気にしつつ楽しみにしていようか。
お読みくださりありがとうございます。
誤字・脱字に加え、感想等もいただけると非常に喜びます。
現在多忙につき、今回の『もやしのなろう遍歴』は過去に掲載したものを引っ張り出してきました。
ご覧になっていない方は是非とも一読してみてください。




