【幕間:神域】神様の大会観戦2
あいつは馬鹿なのか?
あぁ、そうだな、馬鹿だったんだ。
こんな結論に至る理由は簡単だ。
大ポルン討伐の報酬、変装セット…もとい【幻影の首札】をそんな風に使うと誰が思う?
まさか『身を隠すため』の装備特性を、積極的に『誤解させるため』に使うとは考えていなかった。
目的に応じて論点をずらす詐欺師まがいの能力は元気に発揮しているわけだ。
「キャー理熾様カッコイイ!」
加えてコレだ。
歓声まで上げて完全に大会の観客になっているクーリアが非常に鬱陶しい。
視界を隠すように立ちはだかるクーリアの頭を押しのけながら見下ろすと、丁度フードを外した理熾の苦笑が見て取れる。
闘技場に押し寄せた観客の声も似たようなものだし、私も同じ気分だよ理熾。
「煩いぞクーリア、ちょっと退いていろ」
「え、ちょっと主様、今良いところなんですよ!?」
そんなことを叫ぶ守護天使に溜息を禁じえない。
個人戦予選の全試合を見た感想は、大会的には大波乱だったようだが思っていたよりもシレっと終わったなというもの。
理熾が絡む時点でそんなことがあるのか、と疑問に感じるほどあっさりだった。
理熾の戦いは静かな立ち上がりから卒なくこなして盛り上がらず、公爵家末っ子に至っては握り締めた紙を振り回しながら相手を蹴倒す始末。
二人して目晦ましに持っていたはずの魔術紙片がまるで役に立っていない。
その点、転送員は不慣れなはずの魔術紙片を小器用に使っての勝利。
立ち回りに不自然さは隠しきれないものの、人一倍精度の高い照準と無詠唱の魔法は、わざわざ未来の予想など必要とせず押し切った。
準魔法士の立ち位置で言えば転送員が一番『戦っていた』と言えるだろうか。
道化に徹したいのか撹乱が目的なのか甚だ疑問だが、観客席からすると誤差程度の身長差と格好に、それよりも遙かに目立つ道具の魔術紙片を持てば区別付けるのは確かに困難だ。
比較するにも『何回戦の魔術紙片使い』としか表現ができず、一周回って確認せずにあの三人を一括りにする始末。
大会運営まで巻き込んだ話題づくりとは手の込んだことを…ここまで全て狙い通りなのだろうな。
いや、私としてもまさか予選落ちを前提に、他の実力者を蹴落とすとは思って居なかったが。
指揮官は周囲を唆したり、手持ちの剣を振り回したりして雑魚を適度に集め、そこに実力者を放り込んで疲弊させ、相打ちを演じて本人も退場していった。
暗殺者は最初から実力者の背後を取っており、会場端に寄ったところで短剣を投げ込み接近し、取っ組み合いを強いてそのまま一緒に脱落。
殲滅者は早々に実力者を排除してしまって途方にくれ、下手な芝居を打って何とか闘技場から転げ落ちていた。
それぞれに訝しげな視線を送る者も居たが、本戦出場で得られる富と名声を『捨てる理由』は一般的な出場者や観客にはないし、ルールに則っていることで誰も口を挟めない。
まったく、芸が細かいと感心するべきか、才能の無駄遣いだと罵るべきか困るところだ。
本来不参加だったはずの配下たちを一瞬引っ張り出すだけでこの効果。
何とも考えたものだが、上位を狙える配下たちを平気で捨て駒にするのは命が掛からない温い戦場だからか?
とはいえやりすぎ感が否めず、参加させられた腹いせに大会自体を崩壊させる気なのかと頭を過ぎる。
そうした考えを広げている内にも個人戦に参加する主要メンバー、公爵家末っ子、転送員、理熾の三人は会場を後にした。
横でクーリアが跳ねながら理熾の姿を追っているのを除けば平和なものだが…理熾が関わっている時点で何かしらイレギュラーを呼び込みそうなニオイがする。
たとえば大会中に他国が攻めてくるとか、近場に未確認の迷宮が出現して大氾濫を起すとか……先に調べておくか。
「クーリア、ガーランド周辺の勢力図を始めとした解析情報を出せ」
「え、もうお仕事ですか?!」
「観客かお前は。
守護天使の仕事を疎かにするなら解体するぞ」
「承知しました!」
とぼけているのか抜けているのか。
繋がった理熾の感情に引きずられるのはわかるが、性格まで寄っているわけではないな。
理熾の模倣にしては余り似ていない…まさか周囲の情勢を拾えと指示したことで独自に獲得している?
だとしても余りにも期間が短すぎr…
「お待たせしました主様。
ガーランド周辺は快晴で目立った問題も存在しませず、良い大会日和だといえるでしょう!」
「…試験期間を終えた学園迷宮の状況は?」
「ガーランド所属の騎士団が掃討にもぐっています。
現在の階層は十六。
特に問題は見当たらず、順当な速度で任務遂行中です」
「会場に他国の諜報・工作員はいるか?」
「カセレス、ヴェローナは重鎮の二人だけ。
サラクを除く同盟六カ国はそれぞれ十数名潜伏している模様です」
ふむ?
台所事情が芳しくない二国はともかく、サラクの動向が不可解だ。
穂波と詩織を送り込んだときもサラクの情勢を探っていたはずだが…確か毎度引き抜くために参加していなかったか?
疑問符を浮かべる私にクーリアが追加で情報を出した。
「サラクは通例であれば引き抜き工作に現れますが、二国の情勢を優先して今回は見送ったようです。
代わりに去年も参加したBランク傭兵を派遣しています。
参加表明を始めとした手続き関連や交通費を含む各諸経費の肩代わりに加え、大会報酬を総取りさせて派遣料も上乗せする高待遇…余程人手が足りないのでしょうか?」
「あぁ、最後に理熾とぶつかったあの傭兵か。
なるほど、やはりサラクは馬鹿ではないな。
戦力を測るにも丁度いいランクだろうし、二国がひた隠しにする財務状況をおぼろげながら把握して警戒しているわけか」
「見るだけなら名ばかりの重鎮を送れば済みますからね」
「実際にこうした大会に参加する賓客の目的は政治絡みばかりで、戦力確認は二の次だからな」
しかし小国の大会に各国の諜報員がこれだけ入り込むのは警備が杜撰なのか、それとも注目を浴びていると取るべきか理解に苦しむな。
まぁ、同盟国内に限れば、大規模な大会を開くのはガーランドだけで、在野の者の見聞するための場だと思えば十分に価値のあるか。
それもこれも莫大な魔力を必要とする《非殺結界》を用意してまで戦力強化を考えているからで、それ故に競い合いの場として提供できるからな。
「シミルの諜報員は?」
「………数名紛れ込んでいます。
辺境の小国に人員を割くのは警戒の現れでしょうか」
「秘匿人員の転送員と工作部隊を潰されて無関心な方が危ういがな」
しかし見物しているとなると厄介だな。
これまでは理熾との接触はなかったが、問題となっているアルス近郊で頭角を表したのには違いない。
何か要素が増えると一気に真実に辿り着く可能性も…ないか。
情報は念入りに潰しているし、工作員たちが大会で露出したのも、【偽装】やら【隠蔽】をそこらに付けていたからな。
最初から『工作員の裏切り』を前提に考えなくては近付くことすら不可能か…とはいえ物理的に距離が近いのには注意が必要かもしれんな。
「クーリア、シミルの接触に注意を怠るなよ」
「承知しました主様。
ちなみに明日の集団戦予選はご覧になりますか?」
「そうだな、この分ならまた何か変な方法を考えているのだろうしな」
「ふふ…驚かれると思いますよ!」
人の競い合いで一喜一憂するほど若くないが、それでも『何かあるのか』と思わされるのは楽しみに違いない。
ラボリ開拓開始からこれまで大きな問題がないのも良い。
何かに没頭させれば、それだけこちらに猶予ができるのも理解した。
理熾の扱い方にようやく道筋が立ったとも言えるか。
「逆にガーランド側で何か対策を講じているのか?」
「静観、ですね。
大会で引き抜かれる情報に頓着していません。
むしろ『裾野の広さ』を見せるのに丁度良い見世物と捉えているようです」
「馬鹿め…だからアルスに竜種を放たれるのだ…」
「しかしその情報はアルス領主が握り潰したので、王族その他の貴族は知りませんよ」
「やはり理熾の価値観のせいでガーランドを含めた国々は真実に到達するのは難しいか…」
「さすが理熾様ですね!」
本日何度目になるのかもわからない言葉を聞き流しながら思考をめぐらせる。
他に見落としはないか…?
理熾周りで言うならどれだけ気を張っていても足りることなどない。
あぁ、そういえば今回理熾を振り回した勝利者の様子は…?
「クーリア、理熾を引っ張り出した勝利者はどうしている?」
「えーっと…VIP席から見下ろしながら苦い顔してますね。
個人・集団ともに参加してもらったというのに…読心しますか?」
「…いや、構わん。
どうせ大した情報が手に入らず不貞腐れてるだけだろう。
それなら二国とサラク、魔境の状況でも検分していた方が有益だ。
ただ今は理熾の周辺…主にラボリとアルス、現在地のガーランドに絞っておけ」
「承知しました。
明日の集団戦の開始時刻は10時ですので遅れないでください」
「あぁ、わかった」
ん…?
何故神の方が理熾の予定に合わせねばならんのだ…?
ふとした疑問が浮かび上がったが気にしないことに努めた。
お読みいただきありがとうございます。
現在進行形で修羅場ってます…あっちもこっちも炎上中…。
あぁ、もう少し平穏に過ごしたい。




