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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十四章:集う三神
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領主代理3

ガーランドに所属する領地を持つ理熾は国民に他ならない。

ギルバートという後ろ盾はあるものの、気付けば『嫌になれば放り出せば良い時期』は過ぎてしまっている。

つまり今となっては貴族からの正当性のある要請を断るのも難しくなっていた。


それにユスカとしても、たまたまとはいえ鉢合わせたタイミングで面会をさせなければ外交問題にも発展しかねない。

各々の思惑はあるものの、理熾達が最初に中に通された時点で逗留先の宿に使者は送られていた。

こと今となっては既に戻り、相手の快諾の返答を貰っており、逃げ出すことすら不可能。

つまり待っていればその誰かさんが現れる寸法だ。


「で、その相手は誰なんだ。

 いい加減教えてくれても構わんだろ?」


応接室で待つ間、出されていた焼き菓子を口に頬張り、カップに口を付けるネーブルが問う。

明らかに糖分が足りない案件だった。

こんなことならハッサクを連れてくれば良かったとネーブルは少し後悔しながら租借する。


「カセレスの兵団長補佐のウルス・シュクル殿だ。

 ガーランドからの帰路にヴァルトルで補給と休養しているみたいで挨拶に来られた」

「あぁ、そうか…今日で大会終了から9日ほど。

 順調に行けば丁度かち合うか。

 齟齬が出ないように定期便の1週間を開けて訪問したのがここに来て裏目に出たな…」


「うん?

 つまり件の<空間使い(ディメンショナー)>を使ったわけだね?」

「少数である俺達の利点だからな。

 しかしまずった。

 そうなるとヴェローナの副団長アスセナ・フォンスも居るんじゃないのか?」


「カンが良いね。

 そちらの挨拶は無いが、出発した報告がないのでこの街に居ることは確かだ」

「え、役職者なのに領主に挨拶しないんですか?」


予定にない連続面会にぐったりしていた理熾が疑問を口に出す。

何を言われるかも分からないので精神的な疲労は積み増すばかりだ。


「それはそうさ。

 近所に住んでるからって通る度に扉を叩いて挨拶して回らないだろう?」


ユスカの説明は非常に分かりやすいものだった。

ただ『お邪魔します。通りますよ』と使者は顔を出すが、それらは全て部下達の仕事。

そんなことで貴族の手を止めていれば何一つ仕事は片付かない。


――こんこんこん


ノックが部屋にこだまする。

どうやら件のウルスが到着したらしい。

ネーブルはすかさず口の中身を飲み下して立ち上がり、ソファに座る理熾の背後に移動して立って気を引き締める。

ユスカも楽にしていた心の姿勢を改め、領主代理として背筋を伸ばして「入れ」と指示を出していた。


「お初にお目に掛かるリオ殿。

 カセレス国、兵団長補佐のウルス・シュクルと申します。

 この度は時間を割いていただき、ユスカ殿共々感謝いたします」


ユスカへの挨拶もそこそこに、現れたのは年の頃は40代。

従者を一人連れただけのガタイの良いダンディな男だった。

室内の全員が立ち上がって会釈と挨拶をし、それぞれがソファに着席した。

ただしウルスの従者とネーブルは立ったままだったが。


「大会での差配、素晴らしかったよ。

 その力を是非とも我が国で振るって欲しいと思うほどにね」

「ウルス殿。

 我が国の領主を自国に誘うのは止めてください。

 お互い手続きが膨大になって大変なだけですよ」


「ははっそのくらいなら構いません。

 おっと、本業は商人でしたか。

 ラボリはちと遠いようですが、いっそ交易を結ぶのも一興ですな」

「交易は領主が結ぶものなので口を挟みませんが、後程改めてください。

 せめて私の知らないところでやってもらわないと、万が一リオ殿がそちらに行かれた時に父に問い詰められてしまいます」


「それもそうですなぁ。

 ではお泊りの宿まで向かいましょうか」

「まさか、今回邂逅の依頼をされた用件は引き抜きですか?」


冗談とも本気とも取れないような話をにこやかにやり合う二人。

理熾が口を挟む間もなく舌戦が繰り広げられる。

内政担当のユスカに負けず劣らず、ウルスのやり取りは堂に入ったものだ。


(というか武官の癖に口が回りすぎるぞあいつ。

 もしかしてカセレスの副官は事務方寄りなのか?)

(どうだろうねぇ…。

 こんなことならもう少し突っ込んで話を聞いておけば良かったね)


置いてきぼりを感じる理熾はネーブルと【連携】と【以心伝心】を使って観戦モードだ。

ウルスの従者も心なしか呆れている感じがする。

一通り語り合った二人は、埒が明かないと理熾に視線を向けて巻き込み始めた。


「リオ殿、一度カセレスへご同行いただけませんか?」

「ラボリが忙しいのは聞き及んでいます。

 別件でも動く予定もありますし、暫くは無理なはずですな?」

「えっと…とりあえず落ち着きましょう」


理熾は大人二人をなだめる。

連れ帰りたいウルスと、阻みたいユスカ。

これが全て演技だとは思いたくないが、本音だとすると子供過ぎる。

混乱してしまうような状況だ。


「ユスカ様の言う通り、しばらくはラボリ開拓に忙しいと思います。

 ですがカセレスにも興味が無いわけではありません。

 当領地の代官と財務官は特に優秀なので、交易関連で今後視察に向かう機会があるかもしれません」


折衷案というわけではないが、ネーブルが示したのは明言を避けた逃げの言葉。

『こんなところで言質を取られてたまるか』との思いがありありと出ていた。


「それは残念ですな。

 しかし一つお願いがあります」

「お願い、ですか?」


「えぇ、五都祭(フィックスウォー)優勝パーティ、アリスの一員と見込み、カセレスの魔境攻略に参加して頂きたい」

「ウルス殿!?」


突然飛び出した要請にユスカは仰天する。

他国から戦力を融通してもらうのはかなり難しい。

平時・戦時を問わず、人質や戦争といった外交カードが存在してしまうからに他ならない。

周辺国からの非難を承知なら、助けを求めておいて滅ぼすことも可能だ。


だが、ただの一般人なら個人的な要件として処理される。

それがたとえ『領民が誘拐される事案』に発展しても、外交カードとしては『人質』にはなりえない。

どちらかと言えば『商品』や『権利』と表現する方が正しく、ただ粛々と話し合いを経て、まとまらなければ武力でぶつかることになるだけだ。


しかし理熾は既にラボリ領主の立場を持つため、貴族ではなくとも『貴族(支配者)側』に属してしまう。

そんな者を、カセレスは何の条件でガーランドから一時的にしても戦力として引き抜くと言うのか。

情報の無い理熾とネーブルには止める手立ても無く、嫌な予感だけが漂う次の言葉を待つ。

この場で出した理由はただ一つ。


「『討伐者』のリオ殿に、指名依頼を出したく考えております。

 条件の精査は後ほど行うとして、まずはAランクと同等の報酬で、経費は全てこちら持ち…いかがかな?」


Dランク討伐者に対しては破格とも言える条件を提示してきた。

そう、ギルドは『世界規模の派遣業』で、理熾は指摘されたように討伐者だ。

つまり理熾を個人的な立場から取り立てることを目的に、ギルドを通しての正式依頼の前に直接交渉の場が欲しかったらしい。

ギルドを通しての正式な依頼となれば、所属している以上は善処せざるをえない。

緊急依頼を回避するためにランクを低く維持する理熾には、選り好みできるほどに地位(ランク)は高くなかった。

何ともやられた感のある交渉内容にネーブルは舌打ちをしたくなる。


理熾達の試合を『面白い』と言い、戦力として『使える』と考えたカセレスを一言で表すなら異常だ。

使用武器の内情を知る理熾達ならともかく、特に費用面でアレだけの経費を認めるなど常軌を逸している。

何と返事をしたものか、と理熾とネーブルが頭を働かせていると、斜め横に座るユスカが「…ウルス殿」と声を上げた。


「その勧誘は周辺の三カ国で行う『魔境遠征』への参加要請かな?」


そう問うたユスカの背後に怒気が見え隠れしていた。

お読みくださりありがとうございます。

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