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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十四章:集う三神
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領主代理4

「そのつもりです。

 ユスカ殿も分かっていて聞くとは人が悪い」


ソファに深く腰掛け、にこやかに語るのはカセレス国兵団長補佐のウルス・シュクル。

余裕が見受けられるのは最初からこのつもりで理熾との会談を要請したからだろう。


「その発言は協定に反するものだ。

 三国の秘密を部外者に流すとはどういう了見だね?」


対するは怒りを顕わにしたヴァルトル領主代理ユスカ・メルカノ。

ガーランドにも関わる国の機密を、誰の承諾も無く勝手に出されれば怒りも沸くだろう。

ウルスの背後に佇む従者が少し腰を落として迎撃体制を取るほどに、ユスカは激情に駆られていた。

それほどまでに重い内容らしい。


ウルスは自分の従者に向けて手を軽く振って警戒を解かせて話を続ける。


「伏せて勧誘するつもりでしたが?」

「ふざけるな。

 呼称が違うだけで内容はそのままではないか」


「ふふ…確かに」


ウルスは一つ笑い、空気を弛緩させようとしたが、ユスカの眼光は変わらない。

失敗した空気に頬を軽く引きつらせながら「ではここからは本音で語らいましょう」と話を戻した。


「カセレスの戦力はガーランドに比すれば微々たるものです。

 この魔境遠征時の戦力不足を補おうと声を掛けて回るのは必定でしょう」


魔境は大きな災害だ。

押し寄せる魔物の群れを退けるだけで相当な戦力を必要とする。

いや、日常的に災害と呼ばれる大氾濫(スタンピード)が起こりえる。

奥へ進めば進むだけ孤立無援になり、魔物に囲まれ襲われる頻度が跳ね上がっていく。

ただの『魔物の討伐』ではなく、そうした大氾濫すらも掻き分けて魔物を減らし、奥に居るであろう迷宮(ダンジョン)を狩らねばならない。

戦力を投入するだけではどうにもならないのが大氾濫を内包した魔境という災害だ。


「その点大会優勝者でありながら貴族ではない(・・・・)リオ殿の起用に反対意見は出ません」

「反対意見なら先ほどから私が出しているでしょう。

 遠まわしに言わず、明確に『止めろ』と言った方がよろしいか?」


「リオ殿が立場に縛られない以上、ユスカ殿に妨害する権利はありますまい?

 それとももう既に彼等に話を通しているとでも?」


ユスカは引き合わせただけの第三者。

直接交渉の場では参考意見しか出せず、たとえどういう結論になって関係が冷え込もうと、決定権は理熾にしか存在しない。

また、理熾とユスカの間で話が進んでいるなら、ウルスへの『機密を漏らした』といった批判は盛大に自身に突き刺さる。

ウルスは息を詰めるユスカに敵意を見せぬまま「それとですな」と続ける。


「我々は『この場で声を掛ける』ことで、三国の機密を守ろうとしているのです」

「…誰が何処で語るかも、知りえるかもしれず、このように吹聴して回ればいずれ噂は流れるもの。

 その時に我が国のリオ殿が疑われる可能性を一筋でも作ったのが、その言い訳とはふざけた話だとしか言えない」


「それこそまさか、ですよ。

 貴方までが居る『この場』で話した以上、リオ殿に疑いは掛けられませんよ。

 ですが、だからこそこの場で返答をいただきたい…外では話せぬ内容ですからな」


ギリッと歯を食い縛るユスカと、予定通りだろう余裕を持って告げたウルス。

まさか国の機密を持ち出すほどに踏み込んでくるとは考えていなかった。

少なくともウルスにとっては『ただの帰り道』なのだから、この交渉が行える可能性は非常に低かったのだ。

それはガーランドに属する全員の意見だった。


(結局どういうこと?)

(要はカセレスとガーランドを含む三国…まぁ、最後はヴェローナだろう。

 そいつらが仲良く手を組んで近々魔境の攻略を始めるらしい。

 その時にカセレス側で手が足りないから、大会優勝者の主人(マスター)を取り込もうって話だ)


(でもそれおかしいよね?)

(うん?

 大会の優勝者(マスター)を引き込むことがか?)


(いや、だってさ。

 カセレスとヴェローナからの打診があったのって大会の一ヶ月以上前(・・・・・・)だよ)

(ふむ…なら何かしら裏がある、か…。

 そういえばラボリの大氾濫(スタンピード)を治めたって理由もあったか?)


(打診の時はそれだけのはずだよね。

 だからその時のランクと戦力を考えると『国から』っておかしいよね?)

(ハッサクが調べてもすぐには出なかったしな…いや、それより返事か。

 まさに『この場』でしか無理な方法とは…即答を迫るウルスの手は極悪だ)


理熾が黙り込んだまま応答がないのでウルスが「リオ殿?」と声を掛けた。

黙考している場合では無いが、返答にも困る状況だ。


「あ、えーっと。

 まずは機密なのは何故でしょう?」

「三国の戦力が魔境に集中し、防衛が手薄になった隙を他国(・・)に狙われないためだ。

 いくら魔境が人にとって害悪でも、それを制圧するほどの戦力が近くにあっては不安も生まれる。

 だからこの話は三国内でも極限られた者しか知らない」


もう隠しても仕方がないとばかりにユスカが答えた。

そう、ギルバートやオウルも正確には知らされてない。

国内で戦力の移動をする時にようやく耳に入る程に秘された話だった。


「では何処まで攻略する予定ですか?」

「ふふ…『いつ』と聞かないのは流石ですな。

 今のところ表層部を削り取る予定になっています。

 そして中層部に次の攻勢時に利用できる拠点を築ければ、と」


「削った表層部がそのままその国のものになるってことですか?」

「その通り。

 国内でどのような顛末を迎えるかはその時になってみないと分かりませんが」


「え?」

「手に入れた新たな領地の処理はそれぞれの国で決めることだからだ」


ウルスの言葉を引き継いだのはユスカ。

ヴァルトル主導で戦線を押し上げているので、ガーランドにおいては優先権はメルカノ家が持つ。

しかし魔境との境界線を受け持ち、開拓までする負担を思えば別の領地にしてもらった方が良いだろう。

この辺りは各国の中で決めることなので、これ以上突っ込むべきではないとネーブルに指摘され、理熾は話を変える。


「なるほど。

 なら僕が個人的に(・・・・)『魔境遠征』に参加すれば領地が手に入る可能性があるって訳ですね」

「「は?」」


「機密にしますから大丈夫ですよ。

 今の内にいろいろと準備しておきますが」


難しい顔をしていた国の代表二人が呆気に取られている中、良い笑顔で返答する理熾。

その答えにネーブルは背中に嫌な汗が流れる。

平静なこの裏では『マジで飛び地を公的に(・・・)手に入れる気かよ』と。

ついでに『貴族組セリナ・セルジ・リンクスが過労で死ぬ』とも。


「いや、ちょっと待ってください。

 となるとこちらへの返答はまさか…?」

「あ、はい。お断りします。

 遠征には参加するので『戦力』という意味では差し引きゼロですよね」


あっさりとした物言いにウルスは絶句する。

追い討ちに「良い魔境遠征を!」とかよく分からないことを言いながら理熾は話を打ち切った。

先ほどまでギリギリと歯を食い縛っていたユスカは毒気を抜かれた顔で状況を見守るだけ。

いや、状況を把握したのか実に楽しそうに笑い出す。


「あははっ!

 いや、すまない、ウルス殿。

 馬鹿にしているわけではなく、これは私も予想外だった。

 まさか利を得るために何処かの勢力に取り入るのではなく、競合として並び立つとは!」

「いえいえ。

 かなり踏み込んだ内容でしたので、ご容赦いただきたいのはむしろこちらです。

 しかし…なるほど、これは確かに引き入れに際してもっと慎重を期するべきでしたな」


付け加えるように「やはり戦わずして勝った御仁だけある」とウルスは笑った。

ユスカも大会の事情を聞いているので「この目で見てみたかったものですね」と賛同する。

先程の殺伐としたやり取りを忘れたかのような光景に理熾は戸惑う。

ネーブルが秘かに(気にするだけ無駄だぞ)と【以心伝心】を通して囁くという不思議な空間が広がっていた。

お読みくださりありがとうございます。

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