対抗案2
細かな事情を放り出して理熾が出した答えは
「全部纏めて首都ガーランドへ呼び出そう」
というもの。
数が多いなら纏めよう、時間が足りないなら短縮しよう。
全てを一度にしてしまえば良いだろう、とそう言ったのだ。
その言葉に「ほう」とギルバートは顎に手を当てて考える。
「きっとアルスが辺境にあるから『お前が来い』って言ってるんだよね?
いや、こっちは勝手にそうだと決め付けよう。
で、『こっちは首都まで行くから、そっちも来てね』って返せば乗ってくると思うんだよね。
特にガーランドは自国の首都だし、元々呼び出す先も首都だろうから文句は出ないと思うよ」
「なるほど、ガーランドへの対応は良いが、問題は残りの二国だな」
「大丈夫だよ。
だって僕が指定する時期は一ヵ月後。
『五都祭が開催されるガーランド首都への招待』だからね」
「ははっ、なるほど、全部纏めるとはそういうことか!
大会を餌に『賓客』として国に入れれば新たに大きな手間は無い。
元々周辺国から誰かしらが来る予定だから入れ替えればそれで済むだろう。
それくらいの手間くらい取ってもらわないと吊りあわんし、最悪でも席を増やせば良いだけだ」
「うん、だって三国とも『僕の顔を見たい』んでしょ?
その本心が何かはしらないけど言ってきているんだし、こっちも理由に使っちゃえば良いんだよ。
会う必要が無いようにギルドマスターと領主様には頑張ってもらうとして。
ギルドと国の問題が『大会に出ること』で解決するんなら、僕としてもやることが一つになって楽になるしさ」
と理熾は全ての問題を一つの対応で済むように纏める。
それぞれ違うタイミング、違う立場で声を上げても『目的が同じ』という点を突いたのだ。
ついでに言えば丁度良いお披露目会まであるのだから、使わない手は無い。
聞いていたガゼルとセリナはにこやかに、ギルバートは国相手の交渉内容を頭で組み立てる。
そんな中セルジがギルバートに声を掛ける。
「ギル、ギル。
この小僧ほんとに13か?」
「その辺はステータスを読み取って確認してある」
「はぁ、何とも…長生きはするもんだな。
子供の案がこれほど有効な…いや、そうか『無知だから出せる案』か?」
「それもあるが、この子はなかなかの詐欺師だぞ。
あぁ、人誑しと呼んだ方が正しいかもしれんがなぁ…」
主にそれどころではないという理由だが、ギルバートの返事は素っ気無い。
しかも気にしているのがセルジだけという事実を鑑み、これが日常なのだと理解した。
「酷いよギルバートさん」
「いやいや、これは正当な評価だよ。
それでガゼル、ギルドからも呼びかけを頼んで良いかね?」
「リオ様の案が採用ということでしたら尽力いたします」
「ではこのまま話を詰めよう。
セルジはもう何処へでも行け。
ただし『クライン家に迷惑を掛けるな』…以上だ」
「おぉぅ…ギルは酷いな。
だがその決定だけは褒めてやろう。
セリナ、おれ達はラボリで作戦会議といこうか」
「はい、お爺様。
よろしくお願いします」
とさっさと組み分けがされてしまう。
理熾もラボリへと戻ろうと身支度を整えているとギルバートに首根っこを掴まれる。
「リオ君はこっちだ。
ギルドの条件と三国への招待内容で詰めなきゃならん」
「えぇ…ならネーブルとハッサク呼んで良い?」
「構わない…というよりむしろ頼めるか?
別視点の意見はいくらでも欲しい。
それにあの二人なら最初から引き込んだ方が世話が無いしな」
「えぇ、ネーブル様には知恵を。
ハッサク様には二国への情報収集をお願いいたしますし是非」
権力者二人はにこやかに理熾が掲げた手札を待ってましたとばかりに引っこ抜く。
理熾の発案だけで話を進める気が無かったことが明白である。
はぁ、と溜息を一つ入れて血魔石に魔力を通す。
虚空に穴が開いたのを感覚で確認した理熾はスミレへと声を掛けた。
「スミレ、ネーブルとハッサクの二人をこっちに送ってくれる?」
「はい、すぐにお二方を呼んで開き直します」
「あ、待って待って。
入れ替わりでセリナさんとセルジさんが帰るからすぐに閉じないでね」
「承知しました。
他に何かありますか?」
「今のところそれだけかな。
あー…セルジさんってセリナさんのお爺さんだから、そっち行ったら案内とかお願いね」
「分かりました。
ではお二方を呼んできます」
理熾が「お願いするよ」と締めくくる。
独り言とは明らかに違うのに、誰の姿も無いことに、この場の誰も驚かない状況を不審に感じるセルジ。
「あの声は何処から…?」
「ラボリですよ。
もうすぐ迎えが来くるから少し待ってくださいね」
と理熾は気楽に話すが、音を通すための極小の穴(誰もまともに見えていない)の向こうはラボリである。
直線距離にして50km以上の超遠距離のやり取りを瞬時に、それも手軽に行う様子にセルジは呆然とする。
そんなものがあってしまうと勢力図が一変してしまう、と。
そこへセリナが補足説明を始める。
「ラボリに居る<空間使い>のスミレです。
あ、<空間使い>なのは秘密で。
リオ君の仲間なんですが、とても可愛らしい子ですよ?」
「な、んだと…?
ラボリの地主の下には<空間使い>も居るのか…」
「他に四人と…ラザフォードさんも入るのかな?」
「あーあの人はネーブル管轄だからあんまり関係ないよ」
「ふふ…そのネーブルのご主人様が何を言っているの」
と奴隷の話をしているとは思えないくらい明るくセリナが笑う。
そこへスミレの《転移門》が改めてドアのサイズで開かれた。
「待たせたな主人。
………で、これはどういう状況なんだ?」
「ちょっと面倒なことになってさ」
「はぁ、主人と居ると面倒事ばかりだろう」
「なら今回も何とかしてくれるね!」
「え、それはちょっと…。
というか指示出す側の面子がこっちに集まって大丈夫かよ」
周囲を見渡しながらネーブルが確認する。
確かに良くも悪くもラボリの成長速度は尋常ではないので、指示を出す面々がアルスに勢揃いしているのは困るだろう。
一工程でも遅れれば、それ以降の下流全てに遅延が発生するのだから。
手をひらひらさせていたセリナは「私とお爺様がすぐに戻るよ」と告げるが、隣に居たセルジは硬直していた。
伝聞にしか上らない<空間使い>の有用性を目の当たりにしているのだから。
「ギル、この力は過大だ。
ガーランドじゃ賄いきれん」
「あぁ、もう…だから色々やって隠してるんだろう。
これ以上ややこしくしてくれるな。
セリナ、お前が知るリオ君とラボリの情報を向こうで教えてやってくれ。
緘口令が敷かれている部分も含めて全てだ。
このご隠居様が『ラボリに関わる』と言った以上、もう避けては通れないからな」
「うん、分かった。
それじゃ私達はこれで」
「おい、ギル。
おれの話はまだ終わってないぞ」
と動こうとしないセルジ。
困り顔のセリナを前に、理熾がオレガノの核を《拡張空間》から取り出して門の向こうへ、ぽいっと放り込む。
急に飛び出した魔物の核を全員がぽかんと眺めていると、空中で粘液が広がって着地の際にはぽよんと柔らかく衝撃を逃がし切っていた。
皆がオレガノを眺める中、ソファを《亜空間》へと取り込む。
座っていたセルジは重力に引かれて尻餅をつく途中で理熾に抱えられ、そのままラボリへと投げ込まれてしまった。
本人は何があったかすらも分からないまま、空中で「おぉぉ!?」と声を上げるが既に遅い。
「オレガノ。
僕が戻るまでセリナさんの指示に従ってね」
と手をヒラヒラさせて見送ると、ラボリ側のオレガノはセルジのクッション兼拘束役として柔らかく身体へと取り込む。
すぐにセリナもはっとして「ありがと、リオ君」と言いながらラボリへと駆け込んでいった。
ちなみにセルジは「おい、待て! おれの扱いが雑すぎるだろう!」とか叫んでいたが全員スルー。
セリナが向こうへと旅立つと門はあっさりと消えてしまった。
「しかしセルジ・クラインとは何とも大物が出てきたな」
「あれ、ハッサク知ってるの?」
「破綻した…つまり借金まみれのアルスを立て直した『会計士』だぞ?
一都市とはいえ、世界的に見ても行政が破綻するほど抱えた借金の清算をやりきれる者は一握りだ」
「おぉ、凄い人なんだね。
で、そんな凄い人が今後ラボリのお財布やります」
と宣言する理熾。
初耳の二人は驚くしかない。
ネーブルは「まさか主人が引き抜いたのか?」と念のための確認。
やりかねないとも思っているので、色んな意味でだ。
「いや、『遊びたい』って勝手について来たよ」
「天才様の考えることは分からんなぁ…代わりに俺は抜けても良いか?」
「多分セリナさんが抱えてる会計分をセルジさんが受け持つから、下手したらもっと忙しく…」
「勘弁してくれよ…」
と嘆くしかない。
元々裏工作が主戦場のネーブル達に管理業務は本来は鬼門。
しかし『効率的に壊すため』に収集した管理手法は、今では身になっているがために話にも付いていける。
皮肉なものだが、これがまた無駄なまでに有能だったりするのだ。
というのはさておき。
二人を呼んだ本題は全く違う。
「ではラボリのことはうちの娘とジジイに丸投げするとして、目の前の問題を片付けよう」
ギルバートはそう言って仕切りなおした。
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