対抗案
本来求められる必要の無い証明をさせられるという状況下。
しかも条件は『闘技大会への出場』しか無い。
ならば
「Eランクのオークと一騎打ちとかが一番簡単かな」
「いえ、闘技大会への出場が条件ですよ?」
「なら出るだけ出て棄権しても良いの?」
と理熾の言うように棄権しても良いなら本当に参加だけすれば良い。
だが『実力を示せ』と言われている以上、そんな対応で納得するわけが無い。
ならば『何をもってその証明とするのか』をこちらで勝手に決めてしまおうという話だ。
特に今回する抗議は、理熾を庇うためのものではなく『正当な決定に対する横槍を戒めるもの』なので、こちらから条件を迫るのは簡単だろう。
「ふむ…どちらにせよ条件を明確化する必要があるな。
ガゼルから見て、Dランク相当の実力はどれくらいだ?」
「…そうですね。
個人戦なら予選の突破でも十分でしょうが、安全圏を思えばベスト8にも残れば文句は言えないでしょう」
「え、予選突破でも良いとか、それってすごく難しい大会じゃない?」
「まぁ…人数が人数ですからね。
数百人規模から32人の選出という時点で十分…」
「毎度の事ながら凄い倍率だな…」
「ちなみに集団戦だと50~100組を16組にまで減らします」
予選突破の難易度に少し驚きはしたが、力試しの意味合いの強い大会だ。
それくらいの人数が集まるのも仕方ないし、むしろ集めないと『大会』にならないのだろう。
そんなことを考えながら理熾は質問する。
「あ、パーティ戦もあるんだね。
それぞれの条件ってどんなのかな?」
「個人戦は数が多すぎるので、予選は闘技場内での生き残り戦です。
出場者を10で割って戦わせ、勝利者を3人選出します。
残りの2人は推薦枠で、貴族やギルドから選出された者が予選通過扱いで大会に参加します。
対するパーティ戦の予選は『かけっこ』です」
「あぁ、毎年派手にやるあれか…」
「かけっこ?」
「はい。
個人ならともかく、パーティ単位で100組にもなる数をぶつけるのは大変です。
なので、指定された場所から闘技場までの順位を競います。
走るだけでは魔法士が圧倒的に不利となるため、妨害は当然アリ。
ただし大会中に発生した人や建物への被害は、そのパーティが責任を負うという形になります」
「そんなのを街中でやらかすってこと?」
「いえ、学園内のみです。
それでも広大ですし、監視者によって被害の判定がされます。
そんな風に人的被害には即座に対処出来るようにも配慮されています」
「なるほど…学園内なら住民に被害が無いってことかな」
「その通りです。
が、そのタイミングは学園施設の一部が一般公開されてますので完全にゼロとは言えません。
闘技場もその一つですし、過去に死亡事故も起きていますので、一概に安全とも言い切れませんね」
と安全対策は施してはいるものの、なかなかにバイオレンスな大会のようだ。
理熾の配下なのだから、パーティ戦には誰を引き連れていても良いはず。
となると、考えを巡らせる中にはパーティ戦を行う場合の面子の選別や戦術まで含まれる。
「分かりました。
ギルド側には大会に出場すると返答してください。
ただ出場先の選択はもう少し考えたいので保留と言うことで」
「承知しました。
参加締切は開催日の一週間前ですので、厳守お願いいたします」
とりあえずギルド関連はこれで何とかなるだろう。
後は知恵袋のネーブルや情報通のハッサクを巻き込んで指針を出せば良い。
ただ今までの話で大体の作戦は決めてしまっているが。
「それでギルバートさん。
国が僕を呼んでるって言ってたよね?」
「そうなんですか?
国からの招待とは随分と人気者になられましたね」
「すごく迷惑な話なんだけどね…」
と、やりあいながらガゼルにカセレスとヴェローナ、ガーランドの三ヶ国の話をする。
どうやらガゼルは初耳だったようで、説明を重ねるごとに表情が硬くなっていく。
何せ国の要請をギルバートは一ヶ月以上もあれこれ理由をつけては断り続けていたのだ。
『引き伸ばし』ではなく『お断り』なのがガゼルを驚かせる理由だ。
ただの辺境の一都市が、その都度名目が変わる国の要請を蹴り続けるなど、改めて聞けば無茶な話である。
何より完全に断れているからこそ、今まで知らずに過ごしていたのだろう。
ガーランドさえ出てこなければ恐らくこのままのらりくらりと回避し続けていた可能性は高い。
「はぁ…よくやりますねギルバート様」
「ガゼル嬢、余りギルを褒めるんじゃない。
調子に乗るだろう?
そしておれにきつく当たってくるんだぞ?」
「そんなことはせん。
それより知った以上はガゼルも何か案を出してくれ」
とギルドの事情に巻き込まれたギルバートは、ガゼルを貴族の問題へと引き摺り込む。
知らない間に『理熾』というグループをアルスから引き離されては困るのはお互い様。
協力し合った方が良い結果を引き寄せられる可能性が高いからだ。
「そう仰られましても…。
自国の要請は、辺境伯として力のあるギルバート様でもほぼ断れません。
リオ様にしても罪人としての呼び出しではないのが救いですが、名目が何であれ難しい話です。
『国の要請』を断れるほど個人・組織として強くないというか、一にも二にもなく顔を出す案件ですし…。
だからとガーランドの要請を受けてしまえば、他の二国も黙っていない…という話になりますよね?」
頭を巡らせてのガゼルの答え。
明確に断り続けられるだけの理由があれば別だが、一時しのぎにしかならないなら顔を出す方が確実だ。
他国なら、時間や手間を思えばまだ断り易いのだが、国内に居る理熾がいけない理由とは流石に出来ない。
そもそも国に目を付けられた時点で全てを突っ撥ねることは難しい。
どれだけの善行で呼ばれていようが、断れば角が立つからだ。
それに相手の熱意が本気なら要請され続けるし、何よりもっと悪いタイミングで呼ばれるより好意的な段階で処理した方が後々が楽だ。
「そう、まさにそこが問題なのだ。
何処か一国くらいなら調整や口止めが出来ても、三国となると数が多すぎる」
「金でも握らせるか脅すか?」
「それで解決すれば良いんだが無理だろう」
「国が相手ですしね…。
って、まさかセルジ様は『国関連の資産』を持ってるんですか?」
「あるぞ?
ガーランドにならアルスを押し付けられた時にたんまりと仕込んでおいたからな。
今となっては他国と絡んだ施策もあるだろうし、探せば出てくるんじゃないか?」
しれっと語るセルジの言葉を聞いたガゼルは「凄いですね…」と絶句する。
アルスの復興期を思えば混乱に乗じてというのは恐らく可能だろう。
だが手が足りない忙しさの中で先を見越して何かを仕込むのは尋常ではない。
「とはいえ、余りリオ君に肩入れしてもなぁ。
それで変に勘繰られて余計に突かれても面倒だ」
「だが既にアルス領、ラボリの地主だろう?
今更手遅れな気がするが、どう手を打つ気なんだ?」
「それは表向き、だ。
ラボリは英雄への報酬として与えた。
しかし『伯爵家の傀儡』と権力者からは見られている。
これだけでわしとは『繋がりがある』と判断する十分な材料だろう。
だが、外から見て『切り捨てるラインを越える』のはお互いにリスクが高い」
「かはは、ますます良い」
とその言葉を聞いてセルジは笑った。
対するギルバートは苦い顔をするしかない。
「まさかセルジ様はラボリ開拓に参加されるのですか?」
「あぁ、ガゼル嬢にはまだ告げてなかったか。
セリナの補佐として入ることになっての。
役割は決まってないが、恐らく財布役だ。
ギルドも支部を作っているそうだからよろしく頼む」
「ぅ…こちらこそ」
「そう嫌そうな顔をするでない」
「セルジ様のチェックは厳しいので…」
「資産管理を緩くしてどうする。
金があれば何でも出来るとは言わないが、無ければ何も出来ないのだぞ」
と格言のようなことを言う。
どうやらギルバートとガゼルは突かなくても良い藪を突いたらしい。
「…本気で『六大都市』を狙ってるのか?」
「当然じゃろう。
最後の仕事にしてはちと大きいが、その価値と面白味がある。
しかもリオ君への支援は、外から見れば『クライン家の注力』に見えるわけだ。
つまりおれがラボリに手を貸し、資産を突っ込んでも問題は無いという魅力溢れる職場だぞ?」
「どれだけ暇してたんだ…」
「いやぁ、余生と言う意味では充実してたんだがね」
と笑うが、六大都市が実現したとして、その二つを管理する伯爵家とはどうなのだろうか。
その頃には公爵どころか王族と血縁が出来ていそうである。
むしろ王族側から頼むような気がして仕方が無い。
そこへ状況を噛み砕いていた理熾が声を上げる。
「ギルバートさん。
交渉って数が多いから出来ないんだよね?」
「む…まぁ、それだけじゃないが、それぞれと交渉する時間や機会が取れんな」
その答えを聞き「ならさ…」と始めた理熾の提案は非常にシンプルなものだった。
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