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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十二章:未開拓迷宮ラボリ
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平穏の生産者5

理熾自身がおもむろに《亜空間》から血を取り出して頭から被って気配を操作した。

ネーブルの策を実行する下準備に【威圧】と【隠密】の併用で起こした蠱毒を再現する。

そう、オークの血を使った『弱ったフリ』のことだ。


先ほどまで凄まじい勢いで魔物を狩っていたとは思えない豹変振りに、魔物達の困惑に拍車が掛かる。

魔物達が気配に右往左往している間に、魔物達の身体を踏み台に、理熾は全ての魔物の標的を集めるために戦場を駆け抜けた。

だが、目の前を飛び跳ねる獲物は確かに弱っている(・・・・・)ようにしか感じられない。

弱っているとしか思えない情報を発している…と、本能と狩猟能力が囁くのを理性が押し留める。

しかしそれも長くは続かず、あっさりと理熾の気配を追い掛け始めた。


作戦を教えられたと同時に、何処かへ解き放ったオレガノを呼び戻していた。

実はオレガノは恐ろしいほどいい仕事をしていたのだ。

足元の地面から血と魔力を吸い上げ、触れた魔物は静かに取り込んで消化した。

蠱毒化していないのは確実にオレガノのお陰である。


そして『倒した数=食べた数』なので討伐数はそれ程無いが、戦場の掃除という意味では十分な成果を上げていた。

回収はオレガノの体液を掠めれば勝手に【収縮】で寄ってくるのでとても簡単だ。

理熾は突っ切りながら拾い上げて服へと収容する。

ただ後でオレガノに汚れを食べてもらおうと考えながら。


周囲の魔物の意識を引っ張りながら三層の柵へと走る。

視界の端、魔物の向こう側に敵を斬り飛ばすレモンと、それを補助するネーブルを発見し………そのまま突っ切った。

二人が抱えていた魔物の意識をも気配操作で掠め取り、壊されている三層の柵を抜けてしまう。

その隙に二人は理熾の邪魔にならぬように気配を殺して側面の柵を越えて避難する。

これから起きることを思えば逃げの一手だ。


迷宮(ダンジョン)攻略から始まり、地面を耕したり戦場を駆けずり回ったりした理熾だが、走るだけならば底なしとも言える体力を持つ。

途中で柵の幅を使って蛇行するように走り、全体の速度を調節する周到さまで見せ始める。

これは木の上からラボリを観測しているハッサクが、理熾の逃走経路を指示しているからこそ実現している。

気配を読みながらなら理熾一人でもやれないこともないが、能力を分割してリスクを高めることを思えば明らかに安全な方法だった。


そうして二層・一層を越え、足元が不確かな沼のような入口付近へと到達する。

そこへと踏み込む魔物達は明らかに苦戦するが、理熾は《障壁》により何処を走ろうとも足元に不利は無い。

距離にすれば大したことは無いのだが、それでも魔物を引き連れてというのは精神を削る。

魔物達の速度が落ちたことに少し安心しながら、敵の速度を調節し続ける。


時間にして約3分。

泥沼地帯の向こう側に待ち受けていたスミレが姿を晒した。

危険な障害物競走は終わりを告げようとしている。


(スミレ、門を)


三層を横から抜け、側面の破損場所から柵の内側へと戻ったネーブルが、頃合いを見計らって指示を出す。

ちなみにレモンは疲労困憊で限界のため、ラボリ側の後衛でお世話になるために柵の外を迂回して四層へと向かった。


逃走経路上に開かれたスミレの《転移門》を、理熾は躊躇う事無く突っ切る。

門を抜ける際には【威圧】と【隠密】を暴走させて気配を乱し、撹乱までも演出する。

その門を抜けた先は壊された一層の柵付近。


(さぁ、最後の布石だライム)


ネーブルが悪い顔でライムへと指示を出す。

ただそれだけでほぼ3m幅の直線に並んだ100体もの魔物が、足場の悪い中【重力魔法】に押し潰された。

そうして身動きなどまず取れない環境を作り出し、続けて合図を送る。


主人(マスター)、スミレ…終わらせろ)


合図と共に《亜空間》から投剣が放たれ、【重力魔法】が解除された。

投剣は、正反対の位置から同じサイズの《結界》を纏って魔物達へと強襲する。

元々高速で飛来する投剣を回避するなど不可能に近いことなのだが、今回は劣悪な足場に加えて魔法で圧力まで掛けられている。

しかも被弾の直前に魔法を解かれ、圧力に力んだ身体は意思とは無関係に身を硬直させる。


出来ることなど何も無く、高さ2m、幅5mに展開された《結界》によって声を上げることすら叶わない。

巨大なトラックに轢かれたかのように、まさに一瞬で根こそぎ吹き飛ばされる。

全てが薙ぎ倒される中、理熾とスミレの中央で反対側から放たれた投剣がぶつかり合った。

投剣が保有していた威力は、けたたましい破砕音を上げて全てを相殺された。


射程を確定させられない投剣同士をぶつけることで射程を作る(・・・・・)

それがネーブルの出した答えだった。

後に残るのは高硬度の《結界》が砕けた魔力の残滓と、100体近くの魔物を押し潰し、側面の柵に叩き付けれた血と肉塊だけ。


(良くやった二人共)


そう、ラボリ防衛戦の総指揮官が〆た。

今回の投剣はポルン戦とは違って《障壁》の筒は作成しなかった。

ポルンのように流体ではないので『威力が流れる』ということは考えにくかったからだ。

加えて単純に超高速の壁の打撃力に耐えられず、全てを薙ぎ倒すためにも『威力が拡散すること』は必要だった。

だから…


「うわぁ!」

「きゃっ!」


終わったと気を抜いていた理熾とスミレはボトボトと落ちてくる血肉に塗れ悲鳴を上げた。

左右に飛んだ血肉は問題なかったが、空へと昇ったそれらが時間差で降り注いだのだ。

いつも通り、何処かでちょっとしたミスが発生するものである。

今回は最後の最後だったのがいただけなかったが。


(ははっ!

 二人はまず水浴びからだな。

 ハッサクは周囲2kmの警戒と残党狩り。

 ライムとアシュレイはそれぞれの護衛をしながらレモンを拾え。


 主人とスミレはテント張る場所見付けて休憩しとけ。

 他もそこに集合な。

 その間に俺はそこらに居るデリックを拾ってシュミットに報告してくる。


 もしかすると主人は呼び出されるかもしれないから、そこは覚悟しておけよ?)


ネーブルは楽しそうに笑い、パーティ全員を促した。

そうしてようやく理熾達の戦闘が終わりを告げた。



前に出て戦わなくて良い分、戦場での指揮だけでなく、こういった事後処理までが指揮官の務めだ。

まぁ、今回は人が足りずに俺も出てる訳だけどな。

そんな俺の指示で主人やアシュレイを含めたパーティの面々は、それぞれ動き出していた。

ハッサクには苦労させるが最後の戦闘で使わなかった分頑張ってもらいたい。


俺は痩せ我慢していたレモンを周りに任せ、柵の傍で疲労困憊の警備兵がぐったりとしているだろう四層へと歩を進める。

そうして柵に背を預けるように心身共に疲弊して放心しているデリックを見付け声を掛ける。


「お疲れさん、デリック騎士長」

相談役(ネーブル)…。

 はは、面目ない。

 良いところを全部持っていかれてしまった」


「そんなことは無いだろ。

 戦線を維持出来たのは紛れも無くデリック騎士長のお陰だ」

「だと良いんだが…」


自嘲気味に笑うのは無力感を噛み締めているからかもしれない。

俺達側は特に見えていないだろうが、あの子供(マスター)の背中を見て戦うハメになるとは可哀想に。

人を掻き集めて柵や策を張り巡らせての防衛・殲滅戦の最後に子供一人に守られちゃな…。

それに最後の100体を瞬殺したことに関しては言い逃れなど出来ないだろうしな。

ま、障害物が多く距離があったことに加え、一瞬過ぎて何が起きたかも分からんだろうが。


「それで立てるか?」

「あぁ、ふらつくが何とか。

 少し…いや、すぐに行こう。

 『指揮官役』がいつまでもへたり込んでいるのは格好悪い」


「たしかに、見栄っ張りにしか勤まらん立場だよなぁ」

「全くだ」


と二人して苦笑しながら、俺は回復薬を取り出してデリックに渡した。

まだ何処かには在庫があるかもしれないが、手元には無いから座り込むハメになってるだろうからな。


「それで…貴方のご主人様は何者だ?」

「本人曰く『ただの子供』らしいぞ?

 俺達もまだ下に着いて日が浅いから良く知らないんだ」


「ただの子供がDランクを瞬殺して魔物の群に突撃するのか…?」

「世も末だよなぁ」


俺はそんな相槌を打ちながら堪えるように笑うしかない。

回復薬を浴びながら立ち上がったデリックは俺を見て、本当に何とも言えない顔をしていた。


俺達は二人して後衛を抜けて小屋へと向かう。

ラボリ側の状況を十全に知らない俺からすると恐ろしい人物が出迎えてくれた。

そう『カリム』がここに居ると言うことは突破されたことに他ならない。


「…小屋(ここ)護衛(・・)?」

「三層と四層の側面の一部が壊れてね。

 苦肉の策で文官(扱い)の武官(カリム)一人を伝令に使って『小屋で待機するように』言ったんだ」


「そりゃまた…」


何ともしんどい状況だ。

あぁ…そういやその辺確かに壊れたな…。

俺が柵の中に戻った時は敵は主人を追ってたから気にしてなかったが…。


「って、待て。

 ならここにもまだ居るかもしれないだろ!」

「いや、それはない。

 リオ君が来てからは何も出てない。

 抜け出た数は知れてるし、危険な大型が抜けられるほど大きな破損でもなかったから十分に対処出来る」


「推測か?」

「いや、事実だ。

 念のために後衛に参加していた者を確認に走らせたからな」


「なるほど」


きちんと確認まで終えているなら言うことは無い。

後始末を含めて指揮官の仕事だとは思うが、初陣にしては卒なくこなしてるな。

まぁ、魔物に襲われていれば気配や音がするし、何よりカリムが『出迎える』という状況がまずおかしい。

あいつが居る以上、魔物が来たら戦ってるはずだからな。


「終わりましたか」

「あぁ、なんとかな。

 シュミットは居るか?」


「執務室にいらっしゃいます」

「そうか。

 なら今回の件の事後処理といこうか」


そう告げるとカリムは先行してシュミットを呼びに先に小屋へと入っていった。

俺達は「頑丈だなあいつ」と肩を竦めながら苦笑いし、疲労を押して会議室へと移動した。

お読みくださりありがとうございます。


ようやくラボリを戦場とした騒動は終わりを告げそうです。

長かったなぁ…。

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