平穏の生産者4
前話、修正前が上がっていたため訂正しています。
内容的にはほぼ同じなのですが、説明や表現の加筆修正がされていますので、更新直後にご覧になった方は、気が向けば一読してみてください。
継戦能力には自信があった理熾に様々な疲労が顔を出し始めた時、柵の入口付近で凄まじい音が鳴り響いた。
その音は緩みかけていた意識を引き締め直すに値する衝撃で、盲目的に襲い掛かってきていた魔物達ですらも一瞬気を逸らすほどだった。
理熾はその一瞬を見逃さずに前進した分だけ後退した。
開いた距離はたった2m。
それでも気の抜けなかった先ほどとは違い、頭を切り替えるために一息だけ入れられた。
疲労に埋まる頭を無視して【瞬発】を稼動させて考え、察する。
あの音は恐らく魔物が立てたものではない、と。
あれだけの音が出るような『何か』があるならこの程度では済まない。
たとえあの音が『攻撃ではない』としても、身体の芯に響くような轟音をそう簡単には立てられるはずが無いのだから。
では、あの位置に何があるか…。
時間を掛けての感知などは出来ないが、すぐに理熾は『ネーブルか!』と閃くに至った。
だが、ここで【連携】で声を掛けるのは躊躇われる。
居る場所も分からないので繋ぐのにも時間が掛かるのも難点だ。
何より、先ほどまでの自分を思えば、気の抜けない戦場で集中力を乱される要素は出来る限り排除したい。
一番の問題は向こう側では『何が行われているか分からない』というところなのだから。
そこまで考えたところで開けたはずの距離を埋めるように猪型の小型の魔物、ザージが突っ込んで来るのが見えた。
【瞬発】が稼動するゆっくりとした認識速度の中、反射的に右足を踏み出して前蹴りを放つ。
かなりの衝撃があるはずの突進を正面から足で受け止め、押し込むような《剛脚》でお帰り願った。
だがこれが悪手としか言いようが無かった。
ザージ以外は轟音で呆けていたのを、ピンボールのように飛んだ小さな猪が他の魔物にぶつかり、正気(?)に戻してしまったのだ。
相変わらず反射的な行動が攻撃的だ、と理熾は反省する。
そしてやはり十分以上に追い詰められているらしいとも。
【瞬発】で引き上げた知覚を維持するのを諦めてすぐに遮断。
一気に疲労が襲い掛かってくるが気にせず身構え、下がった分の距離を詰められるより早く前へと踏み出す。
死地へと改めて。
とりあえず真正面に居るオークを目指して一気に詰めた。
意識を切り替えた一発目は【魔女の一撃】による《殴打》の上位武技《剛打》。
小さな身体の理熾からは考えられないほどの威力を秘めた一撃は、隣に居た魔物数体を巻き添えにオークの巨体を真横へと吹き飛ばした。
振り抜いたはずのスコップは既に《亜空間》へと収納されていた。
その様子と先ほどのザージの事を思い出し、理熾は『考えすぎていた』ことを理解した。
いや、余りにも『綺麗に戦おうとしていた』と変に納得してしまった。
理熾の能力値があればDランクを含む、それ以下の魔物に対して『技量』を必要としないのだ。
事実、Fランクのザージはただの反射で対応出来たし、オークにしてもスコップを振り回しただけでこの様だ。
オーガとすら殴り合える理熾としては今更な話ではあった。
しかし最終防衛ラインの前に立つ以上、勝手に倒れられない。
また、そのために怪我も負えない状況に加え、退けない戦いという条件まで揃えば守りに入るのは仕方ない。
それが【深化の竜牙】を使った過剰なまでの防御力への気遣いや、無理をした未来予測モドキだった。
だがよくよく考えれば危険を感じて【竜鱗】や《結界》の運用を始めると、処理能力が圧迫されて逆に被弾が増えている。
確かに負傷は完全に無いが、その分殲滅力も落ちてしまい、多くの攻撃に晒される可能性が増す。
足りない手数や威力を上げようと躍起になっても、無理がたたって反対に危険度を呼び込むだけで意味が無い。
いくら高くとも能力には上限がある。
その限界内でしか物事を成せないのだから、分配すればするほど役立たずへと成り下がる。
それは身に沁みて理解していたはずなのに、今がまさにその状況だ。
そして器用貧乏な理熾が特化しているのは『殲滅力』だったはずなのだ。
双頭犬のように様々なことを気にする必要は無い。
いや、むしろコボルトキングの時のように、ひたすら好戦的に、攻撃的になれば良い。
最早、防御などという無駄な思考は必要ない。
敵の攻撃を攻撃でもって全て迎撃し、更なる追撃を加えれば良い。
そう理解してしまえば後は早い。
ジリ貧の環境を続けられるだけの精神力など今の理熾にはもう無い。
ただひたすらに攻撃・威力へと思考を特化させる。
まずは保険の【深化の竜牙】の【竜鱗】と《結界》は即座に解除した。
浮いた処理分で防御を重ねるのではなく、単純に身体の強化…【魔闘技】や【闘気】へと回す。
攻撃を受けたところで負傷しなければ良いのだから、実は迷宮を走った時のように『何を強化しても良い』のだ。
周囲を【索敵】と【空間魔法】で把握し、ブロック崩しのように『倒す順番』を緻密に計算していた処理も放棄。
得られる粗い情報でも十分可能な【限界突破】と【直感】を使った反射的な迎撃へと変更。
加えて能動的な追撃へと思考を切り替え、目減りする体力やそれでも負う傷は薬を使って即座に癒す。
戦いの最中で、刻一刻と防御への思考を切り捨てる。
能力・スキル・補正を『効果的な殲滅力』へと処理を組み替え続ける。
器用貧乏な理熾の得意分野は戦況に合わせた『対応能力』であり『戦況への特化』だ。
そして今は防御を排した、近接能力だけがモノを言う、まさしく暴虐の化身の如き特化を目指す。
そして最適化された殲滅力を使い、迫り来る魔物の攻撃を、片っ端から迎撃する。
殴り掛かって来たオーガは【黒鎖鋼の槍】で腕を串刺しにして固定し、巨体を持ち上げ他の魔物へと投げ捨てる。
鋭い爪で引き裂こうと振り被る熊の魔物グラングリズリーは、即座に《両断》の斧で真っ二つにして《亜空間》行き。
枝を伸ばしてきたドリアードは、フィリカの服・理熾の頑丈な身体で傷付けるだけの力は無いと【直感】が判断。
逆に巻き付けてきた枝を握り締めてフレイルのように振り回した。
ある意味で中距離武器が手に入ったと喜んだ理熾だったが、枝の耐久力が理熾の振り回しに耐えられず、すぐに千切れ飛んでしまった。
だがそれでもそれぞれが戦場を左右するDランクの魔物を使っての攻撃、威嚇には魔物がじりっと後退した。
今までの勢いからは考えられない状態だが、防衛戦よりも殲滅戦の方が得意な理熾としては流れが変わることに拒否感はない。
むしろ更に踏み込み、魔物を潰しに掛かる。
理熾の快進撃に本能が警鐘を鳴らし始めた矢先、狂乱に冷や水を浴びせかけるような轟音が柵の入口付近で鳴り響いた。
既にネーブル達が何かしらやっていることは理解している。
であれば、先程と同じような音くらいするし変化もある。
理熾は好きに動けば良いと言われているのだから、何一つ気にする必要など無い。
轟音をただの『効果音』として解釈した理熾は、身を竦める魔物に対し、優先的に《破葬》を投げ込んだ。
速度と威力の乗った攻撃は甚大な被害を撒き散らしながら理熾が進む道を開く。
動ける魔物達はやはり理熾へと殺到するが、攻撃を掠めることすら出来ずに迎撃・討伐される。
腕を斬り飛ばされ、足を潰され、関節を砕かれ、首を落とされて身体に穴を開けられる。
逃げに徹せば背中から、攻撃に回れば正面から、これらの暴虐に晒される。
最早どちらが襲撃者か分からなくなるほどだ。
魔物達は右往左往している間に数が減り、減った分だけ距離を詰めて新たな惨状を生み出す、言葉通りの討伐者。
(ました、ゆっくり!)
理熾の動きを補助するリコから悲鳴が上がる。
足場となる《障壁》の運用と、手放した使える武器の回収・換装、魔物の死体の収容に《亜空間》が追いつかなくなってきたのだ。
特に足場となる《障壁》は理熾の起点となるために絶対にしくじれず、大きな負担となっている。
だが理熾に手を緩める気はさらさらなかった。
(死体は後回しで、【重力魔法】も要らない。
代わりに【精神力吸収】は切らさずに)
とリコの動作を組み替え、必要な処理に重心を置き換え対応させる。
その分踏み込むために《障壁》の強度を上げ、意表を突くために形や場所を細かく指定する。
《亜空間》への取り込みが遅れ始めた結果、魔物の死体が散乱し出す。
それを道具として蹴り飛ばし、投げ飛ばして別の魔物を討伐する。
オークなどの巨体に潰されれば小さなゴブリンなどは一撃なのだから。
またも轟音が鳴り響く。
これで計4発…内容は分からずとも援護と同じ効果だ。
理熾は音を気にせず更に踏み込み蹴り上げた魔物に、何かの液が付着していたのを見て一度下がる。
少し先に落とし『条件付きで奥へ進め』と指示したはずのオレガノに追いついてしまったらしいことに気付いたのだ
背後を見れば10mもの距離を前進してしまっていた。
今度は攻撃に考えが偏り、前に出すぎたことを反省する。
すぐにオレガノを置き去りに、後ろへと退きつつ状況の確認のために高く跳んで【遠視】と【瞬発】を空中で使う。
5m程の跳躍で把握したのは、森の中…しかし木の上に陣取るハッサク・ライム・スミレ・アシュレイ。
柵の入口…いや、もう三層付近を荒らしているネーブル・レモンの2組だ。
この布陣で戦場に立つ前衛二人にいきなり声を掛けるのはありえない。
だから後衛の中でも一番関係なさそうなアシュレイに【連携】で繋いだ。
(そっちに話しかけて大丈夫そう?)
という風に。
少しだけ手札を見せるのに躊躇いはあったがそうも言っていられない。
元々【以心伝心】で繋いでいるだろう面子に確認さえ取れればそこから話が出来るのだから。
すぐに(え、大丈夫だよ?)という返事と共に、声が聞こえるのを不思議そうにキョロキョロと周囲を見渡していた。
その様子に少し苦笑し(そか、なら皆に)と前置きを入れて全員に【連携】を繋いだ。
(よう、主人。
なかなか派手にやってるようじゃないか?)
(そっちには負けるよ)
ネーブルの皮肉に、少し余裕が出てきた理熾も返す。
着地してからも魔物は理熾を狙うが、随分と数を減らしたためにまばらな戦場になってきた。
上から見た感じでは残りは100も居ないくらいだろうか。
これだけ減れば後は時間だけの話になる。
(といってもこっちはそんなに余裕は無い。
主人はどうかは知らんが、そろそろ終わらせる算段をつけようか)
(うん、僕もちょっとしんどいかな。
で、すぐに終わらせる案ってもうあるの?)
(大した話じゃないさ。
一度やったことがある方法だからな)
気軽に答えるネーブルに理熾は首を傾げつつ策を聞き始めた。
お読みくださりありがとうございます。
短編で書いた『片翼の竜』の連載版を、軽めのノリで不定期更新中で始めました。
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