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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十二章:未開拓迷宮ラボリ
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もう一つの戦場3

「あっちが良い。

 ハピリア(この子)もそっちはダメだって言ってるし」


そう言われ、向かう先は道なき道。

元々人の手が入っていない原生林だが、獣道すら外すって…。

あぁ、そうか『道』ってのは何かが使ってるから出来るもんだしな。

鉢合わせする可能性を思えば道なき道を歩く方が安全か?

…体力は使うけどな。


藪を軽く踏み締め、シダを切り払って進む。

こんな開拓に刀使うの嫌なんだけどな…手持ちで一番使えるのがこれだから仕方ないか。

整地までしないのは新たに道を作ってしまえば襲われるからだ。


って、そうか。

いっその事周りの木ごと切り倒せば後ろの邪魔になるか?

…それはそれで時間が掛かるか。


そんな風に諦めながらも適度に刈り取る。


「ねぇねぇ、レモン」

「何だ?」


「焼いちゃう?」


その言葉を聞いて「ふぅぅぅぅ」と大きく息を吐き出して脱力する。

怒りで力まないためにな。

なるほど、こいつは賢いが馬鹿だ。

森の中で火を使う危険性を知らないらしい…。

いや、周りに燃えるものがいくらでもあるんだから普通に考えてその発想は無いだろう。


「え、何その反応…」

「馬鹿か。

 単に火事になるだけだろうが…焼け死にたいのか?」


「馬鹿って何さ!

 火力を調節すればその辺はっ!」

「…あそこにある木が何か分かるか?」


刈り取りながら進む間に刀で指して確認する。

俺でも知ってる、森の常識を。

「アレ?」と小首を傾げる辺り、知らないらしい。

何とも困ったものだ。


「長寿の木が変化する魔樹(まじゅ)って言ってな。

 木の中に魔力を通す器官が増えて、溜め込むことも出来るようになる。

 まぁ、あの木はただの『木材』として利用されるだけだろうが、中には油が取れる木もある訳だ」

「え、うん」


あ、分かりませんか。

そうですか…って少しは期待したんだがなぁ。

主人(マスター)と違って出した前提をまとめ、先を読む能力は余り無いらしい。

認めたくは無いが俺と同じタイプって訳だな。


ともかく。

生物は成長によって大なり小なり魔力を宿す。

それが魔法への抵抗力でもあるが、だからと言って耐久力を超えれば突破される。

突破された後はどうなるか。


「無色の魔力だぞ?

 火属性を浴びせれば属性が付与されると思わないか?」

「あっ!」


そう、要は『引火する』ってことだ。

火属性だけの特権という訳では無いが、『燃える』ってのは自然に起きる現象だ。

ただ他の属性でも魔力の侵食もありえるが、木に水を掛ければ喜ぶし、土を撒いても意味は無い。

風を当てても葉を揺らすだけだしな。


そのいずれもが木を破壊するに至りはするが、木の中に存在する魔力を染め上げるようなことには余りならない。

一応サバイバルの知恵として、魔樹化した枝を折って水属性を通し、飲み水を確保するってのはあるけどな。

『他者の魔力を侵食する』って意味では炎上し続ける火属性が一番という訳だ。

攻撃に適してるってのはそういう意味もある。

何にでも言えるわけじゃないが…まぁ、威力を出し易いのも間違いないけどな。


だから


「この森全部を鎮火させるだけの用意があるなら聞いてやる」


と言って話を打ち切る。

いくらなんでも片手落ちだ。

そもそも一本燃やすくらいならともかく、複数を燃やすには時間も魔力も掛かる。

ある程度の火力があれば自然と広がるが、逆に燃えてしまえば手が付けられないんだからそんな発想は捨てる方が良い。

単に『敵国とかに迷惑を掛けるため』なら良い手段なんだけどな。


「むぅ…」

「それで、このまままっすぐで良いのか?」


「あ、少し左。

 多分最初よりずれてる」

「りょーかい」


とはいえ。

危険察知は頭に乗るハピリアが担当した上に、この方向感覚は斥候でも無いくせに手放しで褒められる。

Cランクの魔物を単独撃破するらしいし、戦力という意味でも十分だろう。

そう考えると主人に次ぐ万能ぶりだな。

そんな能力への評価とは別に、世間知らずっぷりは主人よりも極まっているのが怖い。

手綱を握るやつさえ居れば…暴発さえしなければ有能なんだろうがなぁ。


秘かに溜息を零しながら前に進むと、少し先に何かしらの気配がした。


「アシュレイ、気付いているか?」

「え、何が?」


「…そうか、なるほど。

 お前もハピリアも感覚が『麻痺』してたらしいな」

「麻痺って?」


「密度の高い気配を避けてたろう?

 安全だと思われる方角へ進んでるはずが、単に『強力な個体が居て群れていない』だけだったらしい」


周囲に…森全体に色濃く満ちる気配を基準にした場合の空白地帯。

いや、ぽっかりと密度が薄い場所なんだろう。

飛び石のような安全圏を伝って移動するのは斥候の腕の一つだが、今回はそれが裏目に出た。


「あぁ、くそ。

 何でこう、今日は不幸続きなんだか」


俺は正面を見据えてぼやく。

そう、この先に居る魔物は最低でも災害指定(Bランク)

それも面倒なことに気配が分かりにくいタイプ。

不死者(アンデッド)ならない(・・・・)精神生命(アストラル)体の魔物。


視線は外さず、敵の動きを感じ取る。

骨を支配下に置く、Cランクの『ボーンズ』の上位互換。

全ての死体を利用する万能型。

名を



亡者の繰手(マリオネット)



あぁ、やっぱりか。

まったくもってツイてない。

敵の戦力は死者の数に準ずる(・・・・・・・・)という掛け値なしの化け物だ。

こんな魔物の多い場所ではどれだけ猛威を振るうか分からない。


だというのにこのまま放置するのはありえない。

そうなればラボリ周辺に落ちている全ての死体を引き連れたヤツと後日対面する可能性が高い。

つまりこの状況下で討伐する必要があるってことだ。


この場には俺とアシュレイだけ。

変に使えない味方を引き連れてるより勝算は高い。

だからある意味で最適なタイミングだったかもしれんな。


俺は鍛え抜かれた刀を握り、狂気の笑みを浮かべて対峙する。



「敵は『亡者の繰手』だ」


レモンはボクにそう笑って言った。

続けて


「俺とはちと相性が悪い。

 多分お前のお守りまではしてやれない。

 たった二人で防御に回ればジリ貧どころか押し潰されるから俺は前に出る」


いやいや、亡者の繰手(Bランク)とか相手に『相性が悪い』って笑えるのはおかしいからね?

『実験だ』って言って双頭犬(オルトロス)に突っ込んで行った人も知ってるけどさ。


「守ってやるって言った手前、心苦しいけどな。

 自分の身は自分で守ってくれ。

 そっちに手が割けない以上、物陰に隠れてるだけでも良い。

 いや、もし逃げられるなら俺を置いて先に行ってくれた方がありがたい」


多分守りに入ると数で負けるんだろうね。

レモンがいくら強くても、どんなに頑張っても倒せる速度には限界がある。

その限界を越えないように、ギリギリのバランスで戦う可能性もあるから、ボクは邪魔になるんだろう。


だって…この気配の空白地帯は『死体置き場』なんだから。

100に届きそうな数の敵の攻撃手段(どうぐ)を前に、ボクが何をしたところでやっぱり邪魔しか出来ない。

ここまで近付けば『異様な空気』って分かるけど、さっきみたいに周りの気配が濃ければ勘違いしちゃう。

ハピリア(この子)の感覚にも限界があるんだろうね。

そんなことを考えながら右肩に移動したハピリアの頭を撫でる。


「…援護は要るかな?」


そう、問い掛ける。

手伝いたいと思いつつ、ボク程度の力じゃ邪魔になるかもしれない。

特化型のレモンの判断を優先した方が良い。

ボクの言葉を聞いたレモンはにやりと笑って続けた。


「はっ!

 この絶望的な時になかなか良い台詞だ。

 俺は『斬ること』に特化してる。

 だから不定形や不死者、多数を相手取るには相性が悪い。

 その点、火魔法を使えるお前の方が今回の場合は得意分野のはずだ」


確かに。

斬られるだけでは死なない敵だと相性が悪いんだろうね…まぁ、それでも今まで瞬殺してたけどさ。

しかも今回は数も多い…最悪と言っても良いんじゃないかな。


「だから手伝う気なら、さっき囲まれた時みたいに気にせずぶっ放してくれ。

 無茶はいらない。

 俺の手の届く範囲の外から順に、自分を守りながら戦えれば完璧だ」


レモンの言葉をまとめると『安全は自分で確保して逃げ撃ちしろ』ってことかな。

うん、分かり易い。

そう思って頷いていると 


「作戦会議は終わりだ。

 亡者の繰手(向こう)死体(どうぐ)に手を伸ばしたらしい」

「何で笑ってるのさ!」


「覚悟は済んだかな、と思ってな。

 さぁって、準備は良いかアシュレイ。

 戦闘開始(本番)と洒落込もう。

 『まだだ』って言っても勝手に始まるのが戦場だけどな!」

「うん、大丈夫。

 迷宮の中(ここ)に入る時には覚悟してる。

 だから…存分に頑張ろう!」


「その意気だ!」


かくて、戦場は動き始めた。

お読みくださりありがとうございます。


病院で重度の扁桃炎と診断されました。

医者に口内を見てもらった時に「あー…酷いな…」とぼやかれたのが印象的です。

好きで培養したんじゃないんだよっ!


それでも今は小康状態に入っていますが、忙しい時期なのでどうなることやら…。

お盆中に再発しなければ良いのですが…(。。;

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