お父様の嘆き
2015/3/16に間違って公開してしまいました。
校正・修正前だったので、気付いた時点で削除して本日改めて公開いたします。
説明や表現等の変更が掛かっていますが、大筋は同じですのでご容赦ください。
多くの場合、親というのは子供の心配をするものだろう。
だからこそ言い聞かせ、抑制し、行動を促す。
そこには親としての思惑や期待、理解や心配が介在する。
となれば当然過保護になるし、干渉も増えてしまう。
それはそれだけ『なってない』って意味でな。
反面、子供というのは時折親の予想を超える。
良い意味でも、悪い意味でも。
いや…アシュレイの場合は『時折』という頻度ではなく、『毎度の事ながら』と付けた方が正確か。
まぁ、今回は珍しく良い意味ではあったものの、私からすると激しく嫌な知らせではあった。
「お父様、約束通りアレクセイ迷宮を攻略してきました。
だから未開拓迷宮ラボリの探索許可をお願いします」
そう切り出したアシュレイの得意満面の顔。
相変わらず我が娘は可愛い…じゃなく、驚くべきことに約束の25日どころか、勝負を申し出てからたったの10日間で攻略したという。
いや、学園の基準で言えば8日間か。
純粋な探索時間だけであれば38時間48分という、何ともふざけた記録。
それが走り書きとはいえ、学園の印と学長直々のサインが入った保証書によって証明されている。
それもご丁寧なことに『正式な書類、記念碑等は後日』と定形句以外まで追記されていた。
これでは最早疑う余地も無い。
しかしアシュレイが先のことを見越して書類の用意など出来るはずが無い。
我が娘は残念ながら目の前に来てからしか動かない馬鹿な子だからな。
つまりこの書類は誰かの差し金なのだろう。
今一番に思い浮かぶのはカルロだ…が、どうにもやりそうにはない。
私に対してアシュレイのお守は嫌だと明言までしていたしな。
そんな状況ではあるものの、今一番感じる『違和感』の元をまずは取り除こうと質問を投げかけた。
「アシュレイ、頭に乗っているのは何だ?」
「ボクの従魔のハピリアで、名前はまだ考え中」
「どっから拾ってきたんだ…」
「迷宮の中で見付けました」
「キューイ!」
先程までアシュレイの頭で丸くなっていたハピリアはきちんと四足で立って頭を上げて鳴いた。
空気が読めるのかは定かではないが、恐らくは私に対する挨拶だろう。
ただ何故だか「どうだ!」と言われているような気がしてならない。
今までの流れで一切威張るようなこと等無いのだが。
少なくとも頭に乗る幸運の獣は、アシュレイに捕獲されたんだから、どっちかと言うと落ち度だろう?
そんなことを考えながら心の中で項垂れる。
方法や経緯などといった知りたいことは聞いたところで分からなかった。
この問題は残念ながら先送りとしよう。
とりあえずハピリアという希少種がアシュレイのペットとなったことだけは確からしいということだけは分かった。
革張りの椅子に座って机越しに報告を聞く私は、改めて気を引き締めなおす。
今居るのはメルカノ家私邸の私の書斎。
目の前に佇むアシュレイ、リオ、そしてもう一人の見知らぬ少女を見渡し確認する。
学園が嘘を吐くなどとは思わないが、それだけだ。
何処にどんな含みが混じっているか分からないのだから。
気を取り直して口を開く。
「…どうやってこの短期間で突破した?」
「一日5層の攻略を6日間。
間に2日の休養を挟んで合計8日間です」
「日程を聞いている訳では無い。
いや、その日程もかなり無茶な話だな…?」
「そうでもありません。
ボクが前衛、リオ君が道案内で斥候役。
こっちのスミレが後衛で全体補助役の魔法士。
この三人パーティで余裕を持って、攻略してきましたから」
得意気に話すのはいつものことか。
前衛は…まぁ、物事を深く考えないタイプのアシュレイはそこだろう。
何でもこなす万能タイプの癖して直情型。
戦闘は得意でも、戦況を見るのは微妙だろうからな…。
つまり残り二人のどちらかがパーティの舵取り役という意味で余程優秀だったということ。
その中でも斥候は戦況の把握に聡い…だからリオが本命だろう。
「リオ、お前が斥候という話だが?」
「間違いありません」
「早かった理由は?」
「攻略を最優先に考えましたから」
「それはそうだろうが…」
「話を聞いた時点で突破だけなら簡単だと思っていました。
ただ、やはり一番の問題は期間なので、時間短縮だけを考えました」
確かに話を持ち掛けた時、リオは『突破だけなら簡単』だと言ったが、そんなはずは無い。
毎年100人程の生徒が突破を目指して迷宮に潜り、突破出来るのは2組ほどのパーティしかないのだ。
いくら迷宮探索を試験に組み込んだ最初期よりは各々の装備が良くなり、学園が課す条件等が緩くなったと言ってもその程度。
突破するだけで『優秀者』として名が上るほどの難易度。
小隊・中隊規模の人員を統率・管理・運営する能力をはじめとする、総合力が問われるのがこの過酷な迷宮探索だ。
未だに守護者によって突破者が現れない場合もあることを思えば、運すらも味方につけなくてはならない。
そんな場所の『突破は簡単』というおかしな前提で進められると困るのだが、突破の事実がある以上最早突っ込みも入れられない。
だからこそ方法を知りたかった。
「その『短縮』とは?」
「…ある意味で攻略法ですので、広めないで下さいね」
「当然だ」
理熾の勿体ぶった言葉に、私は即座に首肯する。
難攻不落とは言わないまでも、学生・護衛を合わせて相当苦労させられる迷宮の攻略法。
地図と経験を持つ騎士達も探索には苦労する中、未熟な学生を連れた未開の地の探索。
それをたった8日間という日程でどうやって突破したのか、是非とも教えてもらいたい。
「特に難しいことはしていません。
10層までは戦闘するような敵も出て来ない平和な場所です。
つまり各自がバラバラに探し回っても何も問題無い、という前提がありました。
また、迷宮の直線距離で約5kmという条件を含めて考えた時、一つの方法を思いつきました。
全員が下層への入り口を個別に探し回りました。
そして見付けた時点で二人には空中に魔法、ボクは笛を上空に投げました。
距離がそれほど離れませんので、その音が鳴ったところに全員集合、という訳です。
だからこの浅層部…最初の10層は単純に『体力勝負』という訳です。
アシュレイ様の体力を考えて立てた案でしたが、思っていたよりも随分と余裕でした」
な…何とも非効率な方法だな…?
い、いや…ある意味で合理的か。
戦力の分散は危険ではあるものの、行えれば探索範囲は単純に三倍。
パーティでの行軍速度を思えば遅い者に合わせる性質上、探索範囲は三倍よりも格段に広くなる。
だから『安全地帯』と割り切り、各自の探索に切り替える。
そして『護衛対象を使う』というのはなかなか面白い発想だ。
アシュレイ自身が突破を願っているのだから、むしろ志願するような内容。
何よりあの子の得意分野だからな。
「10層からは襲ってくる魔物が現れます。
これでは浅層までの方法は使えません。
戦力の分散はそれだけ危険度が増しますので」
やはりその結論に行き着くか。
であれば別の方法を取ったという訳だな。
「しかしその反面、同時に別パーティがちらほら見付けられました。
いえ、足の遅いパーティを発見したというべきでしょうか。
なので別パーティが背後にする方角は、探索範囲から外しました」
「…どういうことだ?」
別パーティが来た方向を無視する?
つまり目指す先にわざわざ先行して移動したということか?
それは単に別パーティのための露払いを担っているだけでは…?
そんな私の疑問を余所に、リオはすまし顔で説明を続ける。
「当たり前の話ですが、別パーティも下層を目指しています。
時間の余裕はそれほどありませんから、他の迷宮のように『魔物を狩る』という考えはありえません。
つまり、移動しているという状態は『見付けられていない』もしくは『向っている』のどちらかです。
前者であれば彼らが来た方向には下層への入口はありません。
後者なら先行すれば問題なく下層へ降りられます。
つまり他のパーティの向きにさえ注意しておけば何とかなるんです。
少なくとも別のパーティに比べて圧倒的に探索距離や範囲、時間は短くて済みます」
「ほぅ…」
「また、僕達はとてもついていました。
迷宮公開後1ヶ月が探索受付期限となるそうですが、他のパーティは初日から参加。
僕達は3週目を越えた辺りからでしたので、広い階層を満遍なく別パーティが先行していました。
つまりどの階層でも一定数のパーティを参考に出来ましたので、特に迷うことも無く進めました」
まさしく感心の言葉しかない。
自分達の方向指針に別パーティを利用するなど考える者が居るとも思えん。
いや、考え付いてもこの方法を取る者、取れる者は相当に限られるだろう。
別パーティに気付かれずに行動することが前提条件になるため、難易度が高すぎるからだ。
群を抜いた斥候能力が無ければ無理な話。
そして『別パーティの探索箇所を除外する』というこの方法は、参考にするパーティに『悟られること無く行える』というのが最大の利点だ。
勝手に解釈するので交渉時のように『嘘を教えられる』ということが無いからな。
迷宮内での交渉で嘘や未確認情報を売るのは頭がおかしいが…まぁ、ゼロではないからな。
むしろ『信じきれるか』というのもなかなか難しい。
相手はライバルだし、状況は常に変わるものだから。
だがこの方法には難易度以外にも弱点がある。
『広まると使えない方法』なのだ。
広まってしまえば、それぞれが自由に『参考にする』ので、定めた方角が正しいとは限らない。
誰かを参考にしたのを参考にした場合、向かっている先が正しいとは言い切れなくなるからな。
結果、その階層の全パーティが良く分からない方向へと右往左往する羽目になる。
これでは『攻略法』として人に教える訳にはいかない。
だから過去にこの方法で突破した学生が居たとしても誰も知らないのだ。
それに
「確かにそれは攻略法とも言える内容だ。
しかしそれも最下層まで突破していればの話だろう?」
「えぇ、僕達が降りている時の最奥は27層でしたね」
私は「ほぉ」とまたも感心する。
どうやらアシュレイに限らず、今年は随分と優秀らしい。
開始1ヶ月の段階でアレクセイの9割もの行程を突破しているのだからな。
もしかするとそのパーティが過去の記録を塗り替えていたかもしれない。
まぁ、残念ながらうちの子が二十日以上縮めてしまったがな。
内心で『くくく』と笑みが浮かぶ。
「確かです。
学長から直接聞いてます」
私とリオとの会話にアシュレイが補足した。
なるほど、攻略中に学長とまで話をしている訳か。
あぁ、うちの子が優秀なのはさておき、この速度で探索されては学園側もたまったものではないな。
『優遇した』とか、『今年の難易度設定がおかしい』とか、そんな茶々が入るかもしれない。
だからこそ内容の精査を行わなければならないのだが…まぁ、説明する謂れは無いからリオの性格からしてだんまりだろう。
そんなことがあれば、この書類が今ここにあるのも納得出来るというものだな。
まったく、変なところで答え合わせが行われているな。
「であれば、他の方法があるということだろう?」
「いえ、万策尽きました」
おい、それだと最後まで行けないだろう。
どうやって突破したのだ…カンか?
「なので最後はアシュレイ様の加護に頼りました」
「は?」
「要は『カン』です。
ただ、アシュレイ様は『幸運を引き寄せる』という加護だと聞きました。
だから単純に『何となく行きたく無い方角』と『何となく行きたい方向』を教えてもらって行動しました。
最短ではなくとも、少なくとも見当違いの方向だけは外せますので、結果的には早かったと思います」
「な…何とも…。
途中まではリオの機転、最後の最後でアシュレイか…」
「それと役立ったのは27層で捕まえたハピリアです。
パーティに加わってから、魔物との遭遇をゼロに抑えられました。
どうやら危機感知能力が尋常じゃなく高いようです」
む…なるほど、ハピリアの危機回避能力か…。
確かにそうでなくてはもっと討伐件数が増えていてもおかしくないからな。
それを思うとこやつらどうやって捕まえたんだ?
「ところでガートルード様。
迷宮での一番の問題は何だと思いますか?」
私の疑問を打ち消すようにリオが急に話を変えた。
ふむ…一番の敵、か。
私は自分の疑問を棚上げし、リオの質問に思考を向ける。
この少年が投げかける問いを見透かすために。
お読みくださりありがとうございます。
ということで、理熾は地図が無くとも25日以内に突破する算段は付けていました。
あわよくばで放った地図回収の策が当たったことで随分と楽に攻略しましたけれどね。
アシュレイが感じていた『誰にも気付かれない布石』というのはこういうことですかね。




