理熾の逆鱗4
文字数的に区切るのが難しかったので少し長いです。
そして今回がアレン編の答え合わせです。
理熾のそんな宣言にアレンは酷く慌てた。
まさか勝手に話を進めて(とはいえ誰も負けるとも思っていなかったのだが)パーティを危機に落とすとは思っていなかったのだ。
そしてアシュレイを制御している時点で、目の前の人物は本気で有言実行しそうなのだ。
《非殺結界》は致命傷を回避し、気力・体力が極限まで削られるだけで大抵の死は免れる。
部位欠損も程度の差で変わるが、ある程度まで修復可能なのがこの結界の強みだ。
だがそれでも心神喪失とも言える状態にまで追い込まれ、最速でも一日は寝て過ごす。
これらは全て『事故』に類する不意の死傷を回避するためのもの。
というのも魔物側にはわざわざ人をいたぶる趣味は無く、喰らうため、そして殺すための攻撃を行う。
また、対人ならば通常は審判・監督役が付くので延々と転がされるという事態にはならない。
なったとしても『指導』の範疇なので、問題にはならないように調整されている。
つまり《非殺結界》が利用される場面とは、死傷の状態が極めて『綺麗な場合』なのだ。
そして巻き戻りは『死にさえしなければ良い』という分かり易い回避方法がある。
これはそういう結界で、迷宮においても機能する。
であれば回復薬や回復魔法はこの上なく有効で、だからこそパーティ戦に回復職が必要になる。
しかし今回は話が違う。
結界に引っ掛からない程度にアレン達の心と身体を削り尽くす、と理熾は宣言したのだ。
そして『死なない限りは戦闘続行』という風に、事故死しないための結界を逆手にとって、延々となぶり続けると。
まかり間違って死んだところで問題なく『死なない』のだから、誰も悪くないし、むしろこれはそういう決闘だ。
万全の状態でも一日を寝て過ごす巻き戻り。
それをそんな瀕死の状態に追い込まれて発動されてしまえば、後遺症として動けない時間が増すばかり。
それに良く考えれば既に魔法士の武器とも言える杖はそれぞれ真っ二つに砕けている。
その他いくつか…いや、いくつもの装備にもかなりの損傷を受けている。
万全の状態からたった数分程度の戦闘でこの状況。
だというのにここから勝利など目指したところでまず不可能。
しかも現状で『負けられて』も、万全の状態にするだけで時間と金が膨大に掛かるのだ。
こんなもの『やってられない』としか言いようが無い、とアレンは焦る頭でこの醜態の打開策を考える。
「…条件変更を申し入れる!
『降参』の申し出を受けてもらえれば『お願い』を5回受け付ける!」
その申し出には理熾も驚いた。
こんな『詰んだ』状態で、まさか交渉をねじ込むとは思わなかったのだ。
そして少し方針を切り替えた。
「僕なら大丈夫だよ?
アレクセイ迷宮の攻略っていう大仕事は終わってる。
これからの予定は無いから、今日一日くらいこの決闘に付き合っても何ら問題ありませんよ?」
にこやかに返すのは私刑宣告。
実際、理熾の予定は理熾が決められる。
例え誰に雇われていようとも、それなりの理由を用意して理熾は勝手に動く。
その答えを聞いてアレンは一瞬で条件を「なら10回だッ!!」と吊り上げた。
なりふり構っていられないという様で告げる言葉は鬼気迫るものがある。
「審判、聞いた?」
ふっ、と表情を戻した理熾は、アシュレイへと視線を向けて聞いた。
アレンが言い出した条件に乗ろうということだ。
だが返ってきた答えは
「リオ君はそれで良いの?」
という、裏を返せば「もっと毟り取れるよ?」としか聞こえない、ある意味この場で一番えぐい発言をするアシュレイ。
その言葉にアレンの表情が引き攣るのを雰囲気で察した理熾は、優しい顔で告げる。
元々、刃向かうことすら出来ない状態を作れれば良い。
メインイベントちっくな戦闘まで含めて全て前座なのだから。
「あっち全員がそれで良いなら。
前提条件の変更だから話し合いの時間は必要ですよね?
今から15分で手早く話をまとめてもらえると助かります」
さらに「あぁ、でもオーエンは後でちょっと話がある」と含めておいた。
その言葉に理熾の背後を取っていたオーエンは、物陰で思わず背筋を伸ばした。
だが5mという中距離まで気付けないのだからやはり相当の腕なのだろう。
戦闘中では流石に気付け無かったのだが、落ち着いた今の状況ならしっかりと気配を感じ取れる。
斥候職として不意打ちを狙っていたのだろうが、それすらも理熾は把握していた。
場所は分からなくとも『居ない』ということを。
理熾はパーティに対して背を向けて歩き、距離を取る。
近くに居ては邪魔だろうという配慮だ。
瓦礫に埋もれた味方を連れ出したりして何とか集まり15分間の小休止と作戦会議。
だが、全力で放った攻撃全てを、ただの力押しで真正面から突破されては攻略法など思い付くはずが無い。
最早技術云々でひっくり返せる差では無いように見えるが、そういう意味では相手パーティは勘違いしていた。
理熾が行う戦闘は能力値を省けば『手札を使いこなす』という技術の結晶だ。
一芸を持たない理熾は、その多彩さで相手を翻弄して戦う。
戦闘カンをスキルで代用し、技術を装備でやりくりし、手札を使い方で多様化し、特化型の弱点だけを突き通す。
逆に言えば一つ一つの技術や方法はC・Dランクの特化型と大差ない。
ただその技術を運用する能力値が破格なだけだ。
確かに理熾の能力値は強靭ではあるものの、器用貧乏でしかない理熾は、それだけで十分な弱点となる。
理熾の能力で扱う《障壁》や《結界》はいくら硬くとも、貫けないほどではない。
後に控える【竜鱗】もただの特性なので許容量を越えれば砕け、一定の修復時間を必要とする。
更に体捌きによる回避や防御も含めれば表面的には鉄壁かもしれないが、それにしたって許容限界は存在する。
つまり一つずつ丁寧に攻撃・防御手段を削っていけば残るのはただの能力値だけ。
だからこそレモンのような究極の特化型には勝てないのだ。
そして今の相手はそこら辺の統率の取れない魔物ではなく、人が運営・管理するパーティという戦闘集団だ。
『打ち勝つ』と腹を据えさえすれば理熾の技術の温さを見抜き、対応することも可能だったはずだ。
が、それは出来なかった。
偏に全く見ないタイプの戦い方、そして余りの無茶苦茶さ加減に、『何をするか分からない』と腰が引けたというのが本音だろう。
決定された内容はアレンが言ったように『降伏して10回のお願いを受ける』というものだった。
その内容で理熾も受け入れたが、ハッサクをけしかけるぞというところは否定してあげなかった。
最初からそんなことをするつもりは無かったし、今後どれだけ引き摺るかは分からないが、少しくらい脅しても罰はあたらないだろう。
もし報復に訪れても、<空間使い>を擁する所在不明に近い理熾達を捕まえること自体が難しいだろう。
そんなアレンとの戦いを終えて理熾達は闘技場を後にし、初めて理熾が呟いたのは「…疲れた」という一言。
審判という名の観客だったアシュレイは、その態度を不思議そうに
「え、余裕そうだったのに?」
「戦いって意味じゃなくて、あの人達の相手をするのがね。
はぁ…しかもガルヴァーニ公爵家に実力バレたのは痛いなぁ」
と理熾は嘆く。
あの場にはアシュレイも居たのだから、もっと穏便に済ませられる方法もあったかもしれない。
けれどやはり許せないものを許すつもりは無い。
暴れたことで多少すっきりもしたし、と理熾は適当に納得する。
しかし
「学園側も分かってると思うけど…」
「…もしかして他に観客居たの?」
「うん、少しだけね。
まぁ…もうほとんど終わりの方だったから大丈夫かもしれないけどさ」
「うっわぁ…面倒な話にならなきゃ良いけど…」
そんな話をしながらアシュレイを私邸へと送る。
メルカノ家からの呼び出しに備え、理熾達も翌日はガーランドに留まる。
今回迷宮で手に入れた魔物の素材はアシュレイが欲しがらなかったことで、クロスビーの蜜を除いた全てを理熾が受け取る。
しかし今回の対価としては余りにも安く、アシュレイは心苦しかった。
対する理熾は、Dランクというそこそこ高いランクの迷宮の素材なのでありがたく思っていた。
フィリカやノルンへのお土産として最適だし、何より解体は全てジンがやってくれるのだから。
「それじゃアシュレイさん、何かあれば名水亭に」
「うん、送ってくれてありがとう」
こうして様々な面倒事に巻き込まれた一日は終わりを告げた。
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家に帰って、食事やお風呂を終えて、今はベッドの中から天井を見上げてる。
多分もう入ることは無いはずだけど、目を瞑ればまだアレクセイの中に居るみたい。
何も分からず、何も知らずに入った迷宮は、とても過酷な場所だった。
生々しい魔物、感情的な人、学園の思惑、迷宮の心理的な罠…迷宮の外に出てすら、鬼ごっこや決闘騒ぎが巻き起こった。
そんな諸々をリオ君は特に慌てる事無く平然と解決していった…。
うん、出会ってから今まで助けられたことしか無いくらい。
この二週間程で分かったことは、リオ君は楽観主義に見えて実は悲観主義だということ。
『最悪』を起こさないために必死に立ち回って排除し続ければ、結果は『良いもの』しか残らない。
そうなってからリオ君はようやく最良を目指して動き出す…。
次善策なんてカッコつけて言ってるけど、悪い目は全部潰してるんだよ。
何を選んでも良い結果しか残ってないに決まってる。
でも『良い結果』を手にするってことは、それまでやったほとんどの準備や布石はどうしても無駄になる。
『使わなくて良かった』という意味ではその通りなんだけど、頑張ったほとんどが評価されない。
気付かれもせずに埋もれていく。
今回でなら『地図を探し回った挙句失敗したパーティ』としてしか学園は見ていない。
ボクからすれば酷く回りくどくて、面倒で、何よりそれだけの準備が出来ない。
今日のアレンとの決闘騒ぎでも、実は抜け道があったと全てが終わってからリオ君はアレンパーティを含む全員に打ち明けた。
全員がきょとんとした状態で聞き入る中、「『戦場から出ること』がその答えだよ」ってね。
その条件で戦っているんだから、聞いた全員が『それは知ってる』と内心思ったはず。
けれど
「単純に、入った時と逆。
戦場から待合・休憩室を抜けて《非殺結界》を出れば良い。
言葉通り、敗北条件は『戦場から出ること』の一点しかないからさ」
たったそれだけで負けられたって後から教えるんだよ?
意地が悪いよね。
確かに『死に戻り』なのか、『退出』なのかの条件を入れて無いんだからその通りとしか言いようがない。
こんなにも明確で簡単な解決法を、お互いに取り決めているというのに、誰も気付けない。
「何時間殴られたい?」という言葉に縛られ、アレン達はお願いの回数を増やしてまで負けを請うたっていうのに。
そんなリオ君の答えを聞いてアレンは膝を付いて呆然としていた。
挑発し、圧倒し、焦燥を植え付け、選択肢を奪って、行動させたリオ君。
その全てが読み通りと言わんばかりの結果を突きつけられたアレンに、『別の答えまで教える』っていうね…。
敗北っていう損切りを実行したアレンからすればまさに完全敗北。
身体や精神に大した不調はなく、ただただリオ君へ向かうための牙だけを抜かれた状態。
これ以上無いくらい完膚なきまでに叩き潰されたはず。
しかもその後にわざわざ
「アレンさん達なら突破くらい出来るのに、わざわざ寄り道するなんて勿体無いよ?」
とまで言っちゃう。
勝者の高みから告げられる言葉には確かに説得力はある。
でも、それは流石に可哀想すぎないかなぁ?
そんなことを思って布団の中で身体を抱いてぶるりと震える。
多分ボクなら泣いてただろうなぁ…。
そういう意味ではアレンは強いし、だからこそ条件変更を申し出れた。
じゃなきゃ鬼ごっこで諦めてるしね。
そのせいでリオ君も単に殴って負傷させることでの解決じゃなくて、きっちりととどめを刺したんだろう。
心を折るための方法を変えさせたんだと思うけど…多分これ、アレンには分かんない。
アレンよりも少しだけ長くリオ君と居たから分かることだと思うから。
あの時改めてアレンのパーティ全員がリオ君には勝てないと痛感したはず。
だって与えられた15分の話し合いを経て出した答えが『降参を認めてもらう』なんだから。
むしろあの時間を与えたのはリオ君が優しいからじゃないんだよ、きっと。
ボクがあの森で決闘まがいの戦いを挑んだ時と同じ。
与えた条件はハンデや猶予なんて甘いものじゃなく、『負かすための工程』だっただけ。
話し合いの中ではきっと『自殺』っていう方法も考えられたんだろうと思う。
けれど、全員が上手く行くとは限らない。
リオ君は『殺さない』と言っているんだから、『助けられた時が地獄でしかない』っていう状況。
そして『死に遅れた人』が出た時点でアレンパーティは崩壊する。
それが出来るであろう能力を持ってる…だからボクもアレンも単に相手が悪かったんだよ。
でも、ボクは思うんだよ。
リオ君は特殊ではあるけれど、特別じゃない。
ただただ用心深いだけで、出来ることしかしない。
それ自体が凄いことだと思うんだけど、リオ君は『出来ないことはやってないから』って認めない。
確かに馬鹿なボクみたいに、大事な場面で『出来ないこと』を一つも始めていない。
それって『出来る』って事がリオ君の中で完璧に線引きがされてるってことだよね。
普通はそんな見極めなんて無理だし、予想外の展開もあるはずなのに、凄いことだと認めない。
リオ君は変にガンコ者なんだよ。
それにリオ君がやってることは『無理難題を出来る問題に加工している』って言うべきなのかな?
問題を問題のまま見てなくて、違う要素や見方を混ぜて出来そうな物へと変化させていく。
アレンとの決闘なんてすごく分かりやすい。
公爵家相手に喧嘩吹っ掛けるとかありえないのに、ボクを審判にすることで決闘って形で実現させたしね。
向こうも荒事も辞さない思いはあったんだろうけど、まんまと乗せられた感じ。
アレ…でもアレンってそんなに好戦的だったっけ?
まぁいいか。
逆に特別で馬鹿なボクは、出来ないことでも結果的にやってしまう。
だからリオ君はボクのことを『天才はズルイ』って言う。
けどそんな『天才』相手に、散々ツッコミを入れるリオ君は何なんだろうね?
むしろそっちの方がボクには気になるよ。
そんなリオ君が見る景色と、ボクが見る景色は違いすぎる。
アレクセイを30層歩いて分かったことは、自分の狭い価値観だけじゃ全然足りないってこと。
リオ君はボクよりもとても広く、薄く世界を見ていて、気になったところを掘り下げている。
それでも契約の穴を突いたアレンみたいな『落とし穴』にはまるんだから、一人の力じゃきっと足りないんだよ。
なのにボクは全部なんでも一人で出来ると思っていた。
うん、過去形。
ボクははっきり言って何でも出来る。
出来ないことでも結果的に出来る事になっている。
周りが言ってきた『無謀』って言葉も、『不可能』って評価も関係なく。
だから勘違いしていた。
何でもどうにかなる、って。
『結果として出来ている』ってだけで、実際にボクが『出来るようになった訳ではない』んだよ。
危ない時は『危険が避ける』し、『運良く成功』なんてものは本当に良くある。
でもそれって別にボクが『出来た』訳じゃない。
同じ状況になった時に『もう一度出来るか』って聞かれたら首を傾げるしか無いんだよ。
『運が良ければ成功します』では、普通は誰も納得しないんだからね。
それを『実力だ』と言えないことを思い知ったんだ。
リオ君なら『運悪く失敗する』かもしれないだけで、同じ状況なら99%以上成功させる。
失敗する要素を全部削ってしまうから。
もしリオ君とボクが何かで争ったら、森での戦いと同じでボクは勝負には負けないけれど、本当にそれだけだと思う。
まぁ、リオ君相手に力比べとか決闘なんて今更ありえないし、だからって頭で勝とうなんて思えない。
学力試験みたいなのなら勝つ自信はあるけど…いや、何か良く分からないけど不安しかないや…。
たった一人の年下相手に世界の広さを思い知らされるとは思わなかったなぁ。
とボクは枕に頭を沈ませて思わず苦笑い。
あ、そうだ。
7月13日の物資運搬の時にラボリについて行くことになってるから、明日中にお父様に伝えないとダメなのか…。
うーん…学園側が証明書すぐ作ってくれれば良いんだけどなぁ…。
いや、作ってもらおう。
無茶を言ってる訳じゃないし、単に一筆貰うだけでも良い。
学長に相談すればきっともらえるはず。
少なくともボクは最速攻略者なんだから、少しくらい優遇してくれるよね。
ダメなら…お父様に報告して、証明が欲しいって言われたら連れて行くってことで良いかなぁ。
…って…そっか、これが『準備』ってことなんだね。
リオ君達はこんなことをいつもやってるとか凄いなぁ…。
ボクも少しは見習わないとなぁ。
そんなことを考えながら眠りに落ちた。
今まで無意識に頼っていた加護。
そんな加護に『頼らない生き方』をするのは難しい、と思いながら。
お読みくださりありがとうございます。
ストックが少なくなってきました…これから忙しくなるというのに…。
一話の文字数が増えているのも原因かもしれませんが、定期更新続けられるように努力中(。。;




