【幕間:神域】神様の課題2
主様に与えられた女将を誘拐した主犯を探すというこの課題。
考えれば考える程こんがらがっていきます。
そもそも理熾様が答えに至れるかも分からないというのに…。
もし分からなければ迷宮入りということですかね?
人の世界の話なので特に管理者側に痛手はありませんが。
答えの出ない悶々とした私の思いとは裏腹に、理熾様は一応の解決を見たことではつらつとしています。
当日こそ泣き崩れて倒れてしまいましたが、翌日には起きてあちこちに顔を出していました。
ついでに公爵子息護衛と腕相撲で瞬殺したりとか。
実はあの腕相撲という競技。
【瞬発】を併用している時点で、刀を持った殲滅者ですら理熾様に一瞬拮抗することしか出来ないんです。
元々知力が他者と比べて段違い。
誰よりも時間を小間切れに認識出来るので、最速のタイミングで力を込められるんですよ。
相手が力を込める数瞬前には既に腕が傾いていて、相手が力を込めた時点で腕が固定されます。
それを理熾様の腕力で押し込めば、相手の力が強いほど身体ごと吹き飛んで行くという寸法です。
元々の高い知力ですら緊急依頼での祝賀会でその場の全員をねじ伏せていました。
腕力だけであれば流石に相手の手を握り潰しているはずですからね。
そうしてあちこちを回り、その日の内に討伐に向かうと言います。
つい最近どころか昨日能力値を削られたばかりですよ?
無茶してステータスを上げるとまた同じことが…。
ですが私に留める力はありません。
念のため主様に報告を上げておきます。
「ん?
あの馬鹿また無茶するのか。
だが暫くは現状で問題ないはずだ」
とのこと。
確かに微減し続けていた魂量は昨日よりも増えています。
このまま微増し続けてくれれば問題は無いんですけれども…それもまた分かりませんね。
それでは理熾様の行動の監視に戻るとしましょう。
…にしても。
転送員が入ってからのフットワークの軽さが異常です。
遠征に2・3日掛かる距離を日帰りですからね…。
魔法士とのペアは上空の散策という、スフィアでは経験出来ないようなこと。
実に楽しそうですね…私とも一緒に歩いてくれるでしょうか。
そんな感想を持っていると、痺れを切らした理熾様が地上に降りて何かを始めました。
【威圧】と【隠密】の反転使用は以前から行っていましたが、まさか性質が正反対のスキルを使うとは。
それも同時に、微妙に効果を捻じ曲げて。
そしてその結果というのが…え、え、、、えっ!?
「あ、主さまぁぁぁぁ!!!」
「煩いぞクーリア。
今度は何を始めたんだあいつは」
「理熾様が蠱毒を誘発させました!」
「はぁ…?
蠱毒ってあの蠱毒か?
まぁ…呪術系のスキルを持てばそういうことも…」
「違います!
そんな管理されたみみっちいのじゃないんです!」
「みみっちいってお前…。
世の呪術士が聞いたら泣くぞ」
「良いからこれを!!」
主様に見せるためにLIVE映像を引っ張ってきます。
周囲数百m内に居る、すべての魔物や動物の個体や群れを引き寄せる一手。
その光景を見て気楽に構えていた主様の表情が硬くなりました。
ですよね!?
私間違ってない!
「クーリア」
「はい、【神託】の準備ですね!」
疲れたような声を絞り出す主様に私はあえて元気に返答します。
私達には心配の種ですが、好意的に受け取ればスフィアの住人であるアルス領主や不在にとっては良い話です。
空白地帯が出来ることには少し不満が残りますが、少なくともこの周囲の魔物を一掃出来るのですから!
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【神託】
平和を取り戻せ!
達成内容:魔物の鎮圧
馬鹿なヤツが狂乱の宴を催した
これにより普段は暴れることが無い魔物までも参加するという困った事態に陥っている
このままでは蠱毒が形成され、周辺に甚大な被害が予想される
特に暴れる肉食種を優先的な制圧の後、草食種の掃討を
手の付けられない魔物が発生する前に迅速な対応を願う
報酬
アクティブスキル:遠視
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出された【神託】は明らかに『お前が悪い』という主張がねじ込まれています。
普段なら抗議の声を上げるのですが、魂量などのことを考えるとちょっと何とも言えません。
それに通常の魔物による蠱毒の鎮圧に対する報酬としては軽すぎる気がしますが…。
いえ、引き起こしたのは理熾様ですしね…。
何故だか最近こういう割り切り多い気がしてきます。
「何でこんなところに天然古亀が居るんだ」
主様の言葉通り、天然古亀が鎮座していました。
確かあれは基本属性を宿す希少種。
甲羅が硬くて物理防御に長け、攻撃魔法も相克する魔力で相殺するという面倒な相手です。
足が遅くて攻撃能力も大して高くはありませんが、重くて硬い巨体の進行を止めるのが難しく、結果的にそれなりの被害が出ます。
余裕を持って回避出来るので、被害の大半は建物や開拓地などの環境的なものになりますけれど。
あ…。
「いくら硬くとも相手が理熾の投剣ではな…」
主様が呟くのも無理はありません。
投剣のギロチンの範囲内にギリギリで入っていたらしく、のそりと歩いていた天然古亀は首が落ちてました。
理熾様なら「甲羅が硬いなら首を落とせば良いじゃない」とか平気で言いそうですが、実は頭と手足を引っ込めるのがかなり速いんです。
しかも引っ込めたその上から蓋をするように甲羅が閉じてしまうので、やはり簡単には傷付けられません。
投剣はあっさりその速度を越えた訳ですけどね。
その後理熾様は電車ごっこをしながら前方を切り開き、最終的に蠱毒に至る前に散らせてしまいました。
ちょくちょく大ポカをしますが、この事態収拾能力は相変わらず高いですよね!
そうして主様と共に状況を見守っていると蠱毒の中心地でポルンが大発生していました。
「あれだけエサがあれば発生もするし、増えもする」
「えぇ、ですがこのままだと回収に歩く理熾様と鉢合わせしませんか?」
「だとしても退くだろう。
あの数をわざわざ相手にするなど馬鹿だからな。
一度戻って神功を呼ぶか、少し待って指揮官と相談するだろう」
「確かに理熾様ならわざわざそんな馬鹿なことしませんよね」
そうして迎えたポルンとの顔合わせのタイミング。
魔法士との思考会話を盗み聞きしていると何となく嫌な予感がよぎります。
それは主様も同じらしく「おい、ちょっと待て、嘘だよな?」と呟いています。
そして悪い予感というものは当るようで、見ている前で戦闘が始まり、主様共々がくりと崩れ落ちました。
「普段はあんなにも石橋を叩くくせに何故…」
「今回は思い付きの行動がかなり多いですね…」
「にしてもあの数相手に良くやるものだ。
少しずつではあるものの減らしているじゃないか」
「えぇ、この分ならば負けることは…」
言い掛けて口を噤みました。
そもそも負けることは最初からありません。
逃げに徹せれば。
殴り合っている現状が問題なだけなので、逃げさえすれば理熾様に追いつけるポルンは居ません。
けれどまたも事態は変わりました。
吸収合体を始めて大ポルンへ…これを放置すれば何処かに多大な被害…歪が発生します。
これがスフィアで勝手に起こることであれば私達も気になりませんし、どうとでもなれば良いのです。
それにオーク緊急依頼の時のような魔物の大規模討伐だけであれば、スフィア正常化の一つの手なので問題はありません。
ですが現在使徒である理熾様が、著しい環境破壊を行うのは流石に困ります。
先程の蠱毒にしても、今回の大ポルンにしても。
スフィアの問題解決を担う使徒として派遣されているのですから、これ以上の状況悪化は主様としても看過出来ません。
「クーリア…」
「すぐに」
皆まで言わないで下さい主様。
クーリアはすぐに行動いたしますので。
提示された【神託】は以下のもの。
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【神託】
大ポルンの討伐
達成内容:大ポルンの討伐
放置しておけばいいものを、馬鹿なヤツが事態を更にややこしくした
追い詰められたポルンが吸収合体を行い巨大なポルンを発生させたのだ
このポルンによる被害の拡大を防げ!
報酬
変装セット(笑)
追伸
お前ちょっといい加減にしろよ?
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追伸には流石の私も頷くしかありません。
本当に、大人しくしてください。
せめて魂量が一杯になるまでは。
「倒せると思うか?」
「どうでしょうか…。
ですが理熾様は『やれ』と言われればどうにかする方ですので…」
「確かにな」
そうして眺めている内にあれよあれよという間に核の数を減らし、通常サイズにまで圧縮しました。
妖精との共同戦線とはいえ、ほぼ一人で全ての処理を行うのは圧巻の一言。
《転移門》による移動砲台であれば近付くことも無いのでかなり安全です。
主様も
「あれは理熾の能力値でなければ不可能だな。
それにしても『技術を含めたごり押し』は『ごり押し』と表現して良いのか?」
と呆れるように首を傾げていた。
理熾様がやっているのは、あくまで『上位術者の組み合わせ』でしかありません。
だから極めた者が二人でやればもっと上手くする人も居るでしょう。
しかし一人では絶対に出来ないでしょうね。
むしろ物理と魔法を組み合わせるなんて発想もしませんから。
「形態変化…いや、暴走か」
「核の処理能力が足りなくなったようですね。
暫くすれば落ち着くとは思いますが…あ、転送員から連絡が入りましたね」
「相変わらずタイミングが良いな」
主様はそんなことを言いますが、そんな運ではありませんよ。
それぞれの行動時間を並べていけば合致するだけです。
今回の件も魔法薬の使用も認められてますし、転送員が居る時点で向こうの索敵範囲は広大です。
そこに殲滅者と指揮官まで居るんですから、むしろ討伐に時間を掛け過ぎでしょう。
「もっと早く連絡があれば大きくもならなかったんですけどね」
「だからこそ、【従属】を手に入れたとも言えるが…」
「所詮ポルンですし…」
「確かになぁ」
私と主様は嘆息します。
話の上では便利かもしれませんが、家事的な便利さをあの面子は誰も欲しがりませんしね。
そうこうしている内に大ポルンの核は全て破壊されました。
その行程を見て
「…投剣の結界で挟まれたら災害指定でも死ぬんじゃないのか?」
「…弾数だけが懸念材料ですかね?」
以前主様が指摘したところを掘り返してみます。
が、指揮官の説教後にあっさりと投剣を回収する様を見て
「いや、それも無いらしい」
と主様が改めて嘆息しました。
確かにこれでは壊れない限り何度でも放てそうですね。
ということは発射するのに少し準備時間が掛かるというところですかね?
後は『挟む』という性質上、囲う必要があるので一人では魔力や処理能力が足りないくらいですかね。
何となく知らない間に克服してそうですが。
「さて、私はそろそろ作業に戻る」
そう言って違う作業に取り掛かられました。
仕方なくその場を後にしました。
せっかくなのでヒントを貰えばよかったと今更思いました。
全く…主様は私に厳しすぎますよね。
お読みくださりありがとうございます。




