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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十一章:人生の迷子

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学長室にて

《転移門》を抜けた先。

そこはスミレとアシュレイが安全を確認した場所。

この場への撤退までを見越して二人を先行させたのだ。


オルトロスを引き止められるのは理熾だけ。

距離のある《転移門》を正確に開けるのはスミレだけ。

となればそれなりの戦力を持つアシュレイをスミレに付けるのは当然の判断だろう。


「ありがとうスミレ、助かったよ」

「いえ、ご主人様(マスター)もご無事で何よりです」

「え、あれ?

 何でここに?」


「ついさっきスミレに《転移門》開いてもらって。

 一瞬しか開いてないから気付かなかったのかも?」


一人状況が分からないアシュレイ。

理熾は気にせずにそのまま歩を進める。

何せこのまま突っ切れば…。


「最速突破おめでとう。

 これでアシュレイさんのラボリ行きが決定したよ」


理熾は迎えるようにアシュレイを促すと、反応はまさに『きょとんとする』という言葉通りだった。

そう、ここは迷宮の最奥…30層の転移スペースとなる空間。

まさに最後の空間だ。


「え…ボク達逃げたんじゃないの?」


身の回りの警戒をしていたアシュレイは、少し先の転移スペースに気付かなかったらしい。

これまでの行程は全て理熾が案内し、地図もほとんど見ていないのだから仕方ないかもしれない。

それでも視野を広く持って欲しいものだと理熾は嘆息する。

やはりアシュレイに斥候は向いていないらしい。


「んー間違いじゃないけど正解でもないかな」

「え?」


答えはとてもシンプルではあったものの、アシュレイはまだ分からないらしい。

理熾とスミレが行ったこれまでの行動の意図が。


「ほら、オルトロスを前にさっきスミレが必死だったでしょ?」

「うん」


「アレ、スミレが転移スペース(この辺り)を《転移門(のぞき穴)》で偵察してたんだよ。

 地図上でしか知らない場所だから、空間の広さや高さ距離も多分正確じゃない。

 『守護者(ボス)の向こう側は安全』って言われてるけど、それも確実じゃない。

 だから何度も角度や場所を変えてね。


 わざわざオルトロスの近くでやったのは『距離を短くするため』。

 魔法って対象距離が伸びれば伸びるほど難易度と消費が上がる。

 いくらスミレが超遠距離対応でも短い方が楽に決まってるから、出来るだけ転移スペース(ここ)と近い場所に陣取ったって訳」


アシュレイはすぐ後ろに立つスミレを振り返り驚きの表情を浮かべる。

残り魔力にまだ不安は無いものの、脂汗を滴らせるほど一気に魔力を消費していた。

そしてそれをアシュレイに悟らせないままこの場を確保したのは時間が無かったから。

理熾が殿を務めていて、オルトロスからの逃走経路の用意はスミレの仕事。

いつどのタイミングで理熾が撤退してくるのか分からないのだから、それはもう余裕が無いのも当たり前である。


「それで移動先の目処は立った。

 でもちゃんと安全かどうかは分からない。

 これ以上念入りに確認してるとオルトロスに轢き殺されちゃう。

 だから僕が残ったってこと。

 こっち側の安全確保が出来たら僕も行くし、逆に危ないなら僕の血魔石(ブラッディコア)辿って一時撤退って訳」

「それならそうと言ってくれれば…」


「説明の時間は無かったし、状況に応じてって部分が大きかったからね。

 むしろ変に説明して動きを縛られるのも拙いし…あ、ちなみに倒してないよ?」

「そ、そうだよね…災害指定(Bランク)だし。

 無傷で帰ってきただけ十分凄いよね…」


「え、うん…そうだね?」

「何で疑問系!?」


「いや、オルトロスは倒すつもりだからね」

「どうやって!?」


「それは秘密ってことで。

 でも後1ヶ月は放置かなー」

「え…?」


そんなことを言い出す理熾は最初からオルトロスの討伐は諦めていた。

いや、その逆。

倒す気など最初から無かったのだ。


「だってほら。

 僕達以外はオルトロス倒さなきゃ迷宮を突破出来ないでしょ?

 そして生徒と護衛合わせても、そう簡単に倒せる人とか居ないでしょ?」


理熾が倒せるなら是非とも今すぐ倒して来てもらいたいのがアシュレイの本音だ。

いや、だが実際アレを倒すのは危険すぎるかも…という葛藤もあった。

一応理熾は無傷ではあるものの、次に対決した時に大怪我を負わない理由は無いのだから。


「それはそうだけど…。

 え、まさかそのためにわざわざ倒さずに来たの?」

「僕達が守護者役する訳にいかないしね」


事も無げに告げられる内容にアシュレイは脱力する。

いくらなんでも『迷宮の守護者まで使う』というのはどうだろうか、という風に。

それに別に自分達が最速なのははっきりしているし、それだけで十分ではないだろうか。

以前理熾が『他の学生の成績が良いと最速記録に影を落とす』とか何とか言っていたことを思い出す。

別に成績なんか後回しでも良いはずなのに…とアシュレイの中でぐるぐるする。

しかしそれより気にすべきことがある。


「でもそうなるとどうやってボク達が突破したんだって話に…」

「それは無いよ。

 僕達はオルトロスが呼ばれる前に通過したことにすれば良い。

 それに25層以降でDランクの魔物山ほど狩ってる。

 『僕達の時はDランクが30体くらい居ました』で通用するでしょ」


理熾はそんなことを説明して、改めて「ほら、行って」とアシュレイを促す。

転移スペースはもう目の前だ。

こんな話は戻ってからでも出来るのだから。


「そうだね…」


アシュレイはそう言って歩を進め、転移スペースへと足を踏み入れる。

理熾達も後ろに続き、転送用の魔方陣を稼動。

こうしてアレクセイ迷宮の攻略は終了した。


・

・

・


攻略を終えた理熾達は転移魔方陣がある部屋を出て帰ろうとした矢先。

駆けつけた職員に「学長室へ向かうように」と呼び止められた。

たったの8日間の攻略。

しかも迷宮攻略だけの時間で言えば40時間ほど。

野営もせずに毎回日帰りし、もぐる度に階層を更新して帰る。

学園からすると前代未聞である。

そう思えば呼ばれるのも当然だと理熾とアシュレイは考えてそのまま学長室へと向かった。


「迷宮攻略ご苦労様でした」

「ありがとうございます」


あくまで理熾達は護衛。

なので代表して答えるのはアシュレイだ。


「しかしどうにも解せないのです。

 改めてアシュレイさんの記録を見てみると、入ってから出るまで平均7時間ほどの滞在しかしていません」

「その通りですが」


「たったそれだけの時間で迷宮を攻略出来るものなのでしょうか?」

「出来た、としか言いようがありません。

 それに既にリオ君が『鬼ごっこ』で追求は禁止していますので、その質問には答えられません」


「…ですね。

 やはり気になるもので。

 深く聞くことは止しましょう。

 それに本題はそちらではありませんし」

「というと?」


アシュレイは『だったら何の用だ?』と首を傾げる。

それ以外に用件を思い浮かべられないのだろう。

対して平然と佇む二人の護衛。

そんな三人を見て『やはりこの場で一番の要注意人物はあの護衛だ』とシルヴィアは見定めた。


「いえ、単に記録更新についてのお祝いみたいなものです」

「え…?

 記念碑(トロフィー)でも貰えるんですか?」


「それはもう。

 最優秀成績者と過去最速攻略者という二つの名目でね。

 それと護衛を合わせた三人での攻略というのは過去最小のパーティ人数です。

 一気にいくつもの記録更新という訳ですね」

「………」


そんな話を聞いてアシュレイは理熾をじっと見つめた。

しかしこの条件自体はガートルードに決められたことなので、理熾のせいではない。

元々最大でも四人パーティなのだから。


「ただこれは記念碑の用意が出来ていませんので、後数日お待ちください。

 それに迷宮公開一ヶ月以内の開始、という期限で参加したパーティの中でまだ記録更新の可能性はあるので」

「…すみません、そこもう少し詳しく」


シルヴィアの言葉に、理熾は思わず声を上げた。

何だか聞いていない内容が飛び出してきたのだから当然だ。

今となってはまさに『今更な話』ではあるが。


「どの辺りでしょうか?」

「迷宮攻略に開始期限ってあるんですか?」


「………?

 えぇ、参加自体を断念するパーティや個人も居ます。

 自己申告してもらえればそれで良いのですが、無い場合が多いんです。

 ですので『公開一ヶ月』を目途に、開始していないパーティは記録から除外となります」

「そんな話聞いてないけど」

「あれー?

 言ってなかったっけ?

 だから早く入ろうって言ったと思うんだけど…」


アシュレイは視線を彷徨わせながら思い出す。

が、確かにそんな話をした覚えは無かった。

しかもそれについて理熾は疑うこともしなかった。

一度『生涯に一度しかアレクセイ迷宮探索を行えない』という話が抜けていたこともあったというのに。


「そんな話聞いてない!

 分かってたけど、アシュレイさんを情報源にしてたのが間違いだった。

 これからはちゃんと裏付けまでして話を進めないとえらいことに…」

「え、え…そんなに拙いことだった?」


「当たり前でしょ。

 危うく攻略レースに参加出来ないところだったんだよ?

 そんな中で最速突破したところで『認められない記録』にどんな説得力があるんだよ」

「…ま、まぁ結果的には間に合ったし?」


「そうだね。

 だから二度と同じこと起こさないでね。

 それぞれの期限、それぞれのルールを情報として出して。

 『結果的に』なんて言葉は終わってから『確認のために使う言葉』なんだよ。

 『言い訳のために使う言葉じゃない』ってことをしっかり理解しておいてよ」


溜息混じりに言い募る理熾を見て、シルヴィアは『これではどっちが主従か分からないな』と苦笑していた。

だがやはり見た目通りの子供らしい、というのも同じく思った。

何せここは学長室…シルヴィアの領域だというのに、そんな無防備な会話を繰り広げるのだから。


「話はつきましたか?」

「一応は…。

 騒ぎ立ててすみません」


素直に理熾は謝罪した。

確かにここで話す内容でも無い。

後でカルロとネーブルを交えてお説教タイムを設けようと決める。


「いえいえ、可愛いものですよ。

 アシュレイさんは闘技場で20人抜きとかしてたようですし」

「え、あー…あはは…すみません」


「いえ、正式な使い方ですので問題ありません。

 それで、今後どうされますか?」

「今後と言うのは?」


やはり思い当たらないアシュレイは質問する。

理熾も学生のルールなど知らないので、首を突っ込むことすらしない。


「アレクセイは内外共に『最終試験』の意味合いの強い試験です。

 つまり卒業を視野に入れられる立場になったということです


 ただアシュレイさんはまだ14歳ですので、学園に残るのも一つの選択。

 逆に学ぶことはもう無い、として旅立たれるのも構いません。

 決めるのはまだ先で結構ですが、ご家族の方としっかり相談しておいてください」

「何で今…?」


「アレクセイの挑戦権を持つ生徒を集めた時にアシュレイさんが居なかったからですよ」

「あー…」


「元々は参加する予定も無かったようですが、今回攻略まで果たしたのですからね。

 改めてお伝えしなくてはと思って呼び出させていただきました。

 まさか攻略後すぐの今、来られるとは思いませんでしたが…そういえば攻略した直後とは思えないくらい元気ですね?」


今更の疑問をぶつけるシルヴィア。

しかし全員が苦笑いしか浮かべられない。

実際に攻略に苦労はしたが、その程度でしかない。

戦闘能力が高いことに加えて、相対する敵を選別したのが大きな要素だろう。


「余裕を持って戦いましたからね」

「それは素晴らしい」


シルヴィアは心からの言葉を告げる。

『余裕を持って戦う』というのがどれほど難しいことかは魔物と相対した時点で理解する。

戦場では悪い報告が入る方が圧倒的に多いのだから。


「時に…アシュレイさんの頭に乗っているのはハピリアですか?」

「あ…はい。

 途中で拾ったんです」


そんなアシュレイの物言いにシルヴィアは思わず絶句する。

ハピリアを見付けること自体が難しいにも関わらず、討伐や捕獲どころか頭に乗せているのだ。

しかもそのハピリアも何だか得意気に「キューイ」と鳴いているのだから、たまったものではない。

とはいえ現実として目の前にあるのは仕方ない。


「……従魔課に連絡しておきますから、このまま向かってください。

 ハピリアとの主従関係の有無を確認後、諸注意と生態報告による報酬を提案します」

「難しい話は後が良いかなぁ…」


アシュレイは乗り気ではない。

迷宮を出たばかりなのだから当然ではあるものの、このままハピリアを放置するのは拙い。

せっかくシルヴィアが機会をくれているのだから乗っておくべきだ。

理熾はそう思いって『行く理由』を用意した。


「ダメだよ。

 ハピリアが逃げちゃったら誰かに狩られるんだから。

 せめてちゃんと逃がすか、主従契約結んでおかないと」

「むぅ…付いてきてくれる?」


「すぐ済むでしょ。

 で、報酬関連は後に回せば良いよ」

「分かった」


理由が理由なので仕方ないとはいえ、問題児と名高いアシュレイをあっさりと御してしまう理熾。

そんな光景をシルヴィアは楽しそうに目を細めて見ていた。


「では僕達はこの辺で…」

「えぇ、お手数お掛けしました」


そう言ってアシュレイ達が退室した扉を見てシルヴィアは溜息を吐く。

アシュレイ達以外の面々は開始から一週間以内で攻略を始めている。

その他は全て不参加組みばかりだ。

だから期限ギリギリで参加したのはアシュレイ組のみ。

一番最後で滑り込み、そのくせ一番最初に出て来たあの三人。

怪我らしい怪我も無く、しかも間に『鬼ごっこ』などという馬鹿げたイベントまで開催して切り抜け、飄々としているのだ。

気になるところしかない、変わった主人と二人の護衛。

特に護衛の二人が異常だ。


Dランクの諜報特化のオーエンに感付いて捕縛し、背後関係までも洗い出す。

そこに掛けた時間がたった数時間足らず。

感付いてからの対応だと考えればもっと短いかもしれないが、そんな強力な配下をも持つ『斥候職』だ。

何処の暗殺者だと笑いも出ないが、それらが全てEとGランクの討伐者だというのはどんな冗談だろうか。


少なくとも来年以降は護衛の基準を洗い直しをせざるをえない。

ただただランクだけで仕分けてしまうとああいった『化物』が混じり込む。

今後は学園側が用意した護衛を早い者勝ちで奪い合うといった方式も考えるべきかもしれない。

だがそうすると今までの内容と変わりすぎて問題になる可能性もある。


いっそのこと今回の件を『例外扱い』にしてこのままでも良いかもしれない。

ランクを外れた実力者は一定数居るが、そんな者を探し出して引っ張りこめるというのもある意味で実力かもしれない。

言い訳とも取れるが、この認識であれば色々と諦めもつく。

それに過去に同じ結果が無いからこそ、今回記録を大きく塗り替えたのだ。

確率の低い例外に目を向けすぎるのも問題だ。


「全く、学生は自由な発想が出来るというのに、私達はそれを縛り付けることを考えねばならないとは…」


苦笑いしながら、今後の対策を練る。

何にせよシルヴィア一人では話にならないので緊急会議でも開いてやろうかと投げやりに思いながら。

お読みくださりありがとうございます。

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