ガートルード公爵
執務室に連れられてソファーに座った。
色んなことに対するお説教なんだろうな。
この流れからボクのお願いを切り出せって?
いくらボクでも無理だよ…うぅ…。
そうこうしている内にカルロ兄様が呼ばれ、ボクを貶める。
思わず恨めしい目を向けるが兄様は何処吹く風で流してしまう。
ボクには味方が一人もいないみたい。
ダレカタスケテ。
何とか切り出したものの、バタバタと売り言葉に買い言葉を続け、気付けば監禁される話にまでなってしまった。
そこでようやく頭が冷えた。
随分遅いと自分でも思うけれど、決闘を申し込んだ時、リオ君は『対等な条件などありえない』と言ったのを思い出してた。
そう、これはボクがお願いしているんだ。
ボクの条件がそのまま通るはずが無い。
だから『お父様の言葉を使う』ことにした。
ボクの言葉は届かない…でもお父様の言葉はボクに突き刺さる。
なら、その突き刺さった言葉を返せばお父様も聞かざるをえない。
だってその言葉でボクを抑えつけているんだから!
そうして何とか最初の難関を突破した。
それでもようやく『条件交渉』に辿り着けただけ。
こんなことを「毎回皆してるの!?」と発狂しそうになる。
交渉するも一つ目の問題である期間でいきなりごっそりと削られた。
ダメだ…25日はリオ君が決めた日数だ。
それを最初から無くすなんてッ!
けれどそれを跳ね除けるだけの言葉はどうしても出なかった。
つまり認めたのと同じ…呆然とするボクに追い討ちを掛けたのはまさかの兄様。
カルロ兄様が決めた護衛を入れると言われた瞬間頭が真っ白になった。
確かに打ち合わせもしてないけれど…それは酷い!
『勝手に護衛を付けられる』っていうのもリオ君は予想してくれていた。
でもそれを止める手立てが…ッ!!
これだけは拒否せねばと必死に告げるも意味が無かった。
そう、これはボクが不甲斐ないせいだ。
全部ボクのせいで、全てが狂う。
リオ君が用意してくれた筋道が、全てボクのせいで…。
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カルロが招き入れた人物を見て「なっ…!」とアシュレイが絶句する。
驚くのも無理は無い。
現に私も結構な衝撃を受けている。
カルロが呼び込んだ『とっておき』はまさに予想外の人選なのだから。
いくらカルロの『人を見る目』がそれほど無くとも、理由も無くわざわざこれを推すことは無いだろう。
つまり何かしらの理由があることだけは確かだ。
しかしそれ以外の情報が一切無い。
だから私の前に立った相手に質問を投げかける。
「名前は?」
「理熾と言います」
「年は?」
「13歳です」
かなり幼く見えるが13…アシュレイの一つ下か。
なるほど、そういうことか。
カルロも面白いことを考えたな。
この子供を『護衛すること』でアシュレイの無謀さを削ろうという腹か。
しかもこのタイミングだ。
流れ的にアシュレイはこの申し出を断れない。
実際の交渉であれば『無理だ』という話で終わりだが、アシュレイに盛り返す力は無いからな。
そのことを理解しているのか、俯いて何かを考えている様子だ。
顔色を見せたくないのは分かるが、俯いていては意味が無いぞ?
こういった場では状況が勝手に進むばかりだからな。
「護衛が出来るのか?」
「はい、問題ないです。
過去にもパーティの護衛をしたことがありますし、これでも僕はEランクの討伐者ですので」
「ほぅ、Eランク!
確かに素晴らしい!」
のびしろは、な?
思わず私は嬉しくなり、手を叩いて賞賛する。
これは良い掘り出し物だ。
アシュレイに付けた後、配置換えを希望するなら私が貰ってしまうというのも良いな。
だがな?
Dランクの迷宮にEランクが入ること自体が間違っている。
格上のランクというものは、どうしても埋められない戦力差がある。
『使う者』としての知識を引っ張り出せば、魔物のランク付けは『同ランクのパーティが安全に狩れる強さ』だ。
言うなればランクが上がれば倍くらい強いということだ。
そしてDランクの迷宮は、同ランクの討伐者3~5人が狩れる魔物が居る迷宮という訳だ。
そこにEランクが入り込めば…考えるまでも無い。
本当に足手纏いにしかならないだろう。
辺境ならばアシュレイを納得させられる者が居るだろうと送り出したが、まさかこれほどまでの適材が居るとは思わなかった。
「しかしその年でEランクとは信じられん話だな」
「カードはあります」
そう言って差し出されたカードを見ると確かにEランクだ。
カードの偽造も無くはないが、この年でわざわざギルドに追われるようなことをする訳が無い。
ギルドを敵に回して生き残れるほどの能力を持つのなら、わざわざ敵になど回らないからな。
止むに止まれずというのもありえるが…やはりその年でというのは考えにくい。
とりあえず。
いくら信じられなくともこのランクは確かだろう。
まぁ、ランクを上げる方法などいくらでもあるからな。
「疑問にお思いでしたらアルスに問い合わせして頂いても構いませんよ?」
「リオはアルスを拠点にしているのか?」
「はい。
アルスでは少しだけ有名だと思います」
「ではそうさせてもらおう。
急ぎで人を取り立てる。
これでもアシュレイは女の子なので心配でな」
その年でEランクならばそれは有名だろうとも!
アシュレイの好奇心を笑えないな。
私も私でなかなか知識欲というのは強いのだから。
「ところで僕は何からアシュレイ様を守れば良いのでしょうか?」
「あぁ、そうか。
そういえば依頼内容を伝えていなかったな」
カルロはそう言って説明を始める。
その辺を知らずに公爵家の執務室に立っているのか?
やはり年齢ゆえの蛮勇なのかもしれんな。
だがそれでもEだとするのならば、戦力としては十分なのか?
「目指すはDランク迷宮の最速突破ですか。
とても面白そうなお話です。
ではアシュレイ様、現在の31日から1週間程度の短縮を目指して25日以内に突破しましょう!」
「え…?」
む…?
カルロは確かに『最速突破が目標』だと言ったが、既に日数は決まっている。
現にアシュレイもリオの言葉にぽかんとしている。
だがそんなことなどお構い無しに堂々と続けた。
「それにアルスの往復時間が掛かって20日、向こうで休憩と調査を挟んで合計25日くらい。
アルスで僕の情報を集めて帰ってくるまでに、公爵に僕の価値を知ってもらうにも丁度良い期間です!」
そんな言葉を聞いて私は思わず笑みを深めてしまう。
ほう、この子供。
Dランクの迷宮と聞いてもまだ最速突破を『可能』と言うのか。
それは無知から…?
いや、魔物のランク基準を討伐者が知らぬはずが無い。
それだけ自信があるということか。
だがアレクセイは一般公開されていないから、情報を手に入れる価値も無いからな。
内容をそれほど知らないのだろう。
シンと静まる空気を感じてか
「あ、もっと掛かりそうですか?
僕は大丈夫だと思うんですが…」
「リオ、そうじゃない。
先程20日以内と決まっt「いや、構わん」…はい?」
カルロの言葉を遮って私は許可を出した。
やれるものならやってもらおうではないかEランクの子供。
私は今、実に楽しそうな顔をしているだろうな。
「25日以内の突破と言ったな?」
「えぇ、ですが20日以内と決まっているなら善処しますが…」
ほう…20日でも『善処出来る』のか。
つまり25日は確実に出来ると宣言している訳だ。
その無謀さ、大変面白いじゃないか。
「それで残りのメンバーはどうする?」
「後はボクが探すよ!」
「…そうか、分かった。
ならば他はアシュレイが集めなさい」
確かに残りまで足手纏いを入れてしまえば余りにも大人気ない。
これは対等な相手とするものではなく、まさに大人が子供に行うしつけだ。
やりすぎは良くない。
既にやりすぎている気もするが、相手はアシュレイだし普段を思えばまぁ良いだろう。
それにしても面白くて仕方が無いな!
「くく…まったく、カルロは面白い護衛を連れてきたものだ。
アシュレイ、条件が決定した。
1:アレクセイ迷宮の25日以内の突破
2:リオはメンバーに必ず入れる
3:パーティの最大はアシュレイを含めて4人
4:護衛役は討伐者のEランク相当以下に限る
以上4点だ。
最後のは『お前の力』を見るための条件だ。
全て飲んでもらおう。
あぁ、それと私はまだ暫くガーランドに留まっている。
25日以内というのならば私がガーランドを出るまでに決着が出る」
私はそう宣言する。
勝手に追加した4つ目の条件はAやBランクを引っ張って来させないため。
『相当』と付けたのは、騎士団や近衛、魔法士団などから隊長格を引っ張らないため。
そんなモノは試験ではなくただのお守りだ。
公爵家の名前を使えば参加する者も出てくるだろうからな。
そう宣言するとおずおずといった風にリオが
「…雇ってもらえるということですか?」
「勿論だとも!」
「それはガートルード公爵にですか?」
「そうだ。
だが護衛対象はこのアシュレイだ。
それと給金に関してはカルロに一任する」
「ありがとうございます。
よろしくお願いします」
とアシュレイに手を差し出す。
それにしても年齢の割りにしっかりしている。
やはりあの年齢でEランクというのはかなりの無茶をするのだろうな。
混乱しながらもその手を握り返すアシュレイを見て、私は少し可哀想に思えてくるほどだ。
が、今まで散々甘やかしてしまったからな。
気を引き締めねば。
「では勝負だアシュレイ」
「わ、分かりました…勝負ですお父様」
私達はそう言って『初めての交渉』を終える。
アシュレイもようやく成長が見られるようになって嬉しい限りだ。
それにこういう無茶な若者は見ていて面白い。
貴族でなければアシュレイも『あちら側』だったのだろうな。
そう思うとやはり少し可哀想に思ってしまう。
あぁ、私達家族はアシュレイにはどうしても甘いなぁ。
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絶望しつつも開かれた扉を見て愕然とした。
いや、「あの人何やってんの!?」と叫びそうになったのを何とか抑えたのは自分のことながら褒めたい。
顔が上げられなかったのは、見ると無言で殴り掛かりそうだったから。
混乱している内に話がとんとん拍子にまとまっていく。
アレ…おかしい。
20日以内が25日以内に?
反射的に答えた「残りのメンバーはボクが集める」というのも聞き入れられた。
混乱している内に、リオ君が想定していた通りの条件で落ち着いた。
明確に決めては無かったけれど、多分これが最善なんだろう。
そうなんだろうけど…多分そうなんだろうけど、全く納得がいかないよ!!
ちゃんと説明してくれるよね!?
いや、何を言われても二人に問い詰めるけどさ。
覚悟してろよぉ…。
お読み下さりありがとうございます。
という訳で、カルロは公爵に対しての『敵対者』でした。
この辺りは当然の流れかもしれませんね(。。




