敵対者カルロ
前話、設定間違って公開しちゃいました。
気付いた時には時間が経ってたので諦めて、これを機に暫く毎日公開したいと思います。
執務室に呼ばれるとそこにはアシュレイが気落ちした様子でソファーに腰掛けていた。
『これはやられたか』という言葉しか出ない。
リオに助力を頼んでいたのは私も知っている。
何だかんだ言いつつも、周りはアシュレイを優先してしまうからな。
だがそれも本人が足りなければ役に立たない。
リオには申し訳ないことをしたな。
「やぁ、カルロ。
呼び出してすまないね…3ヶ月ぶりかな?」
「はい、お久しぶりですお父様」
「アシュレイはやはり迷惑を掛けたか?」
「気が向けばふらりと消えますからね。
付いていた護衛が毎回泣きをみます。
今ではもう『アシュレイの護衛にするぞ』と脅すだけで規律正しくなるほどです」
「いや、それは冗談だとしても笑えないからな?」
「まったくですよ」
そんな風に私とガートルード公爵は表面上和やかなやり取りを行う。
これらの内容は周知の事実だし、本人も理解している。
味方であるはずの護衛対象が逃げるんだから面倒で仕方ない。
何を信じて護衛すれば良いか分からないんだからな。
「それで風の噂で面白いことを聞いたんだが」
「噂、ですか?」
「ラッフェルから勝手に出たとか」
「事実です」
「ふむ…それは非常に困るなぁ。
主要都市とその他の町や村では防衛設備も治安も格段に違う。
カルロについていくことを許可した時の約束は何だったかね、アシュレイ」
お父様はアシュレイに視線を送り、答えさせる。
優しい声、優しい視線だが…私にはその態度が恐ろしい。
『正しい答えを言わせるための言葉』は、その実とても鋭利なものだからだ。
びくりと肩を震わせるのは珍しく凹んでいるのか?
だが凹んでいる場合でもないぞ。
「………『カルロ兄様の指示には従う』です」
「よろしい。
ではカルロ、君はそんな指示をしたのか?」
「いえ、『見合う護衛を探すから、それまで大人しくしていろ』と」
「ははっ!
カルロ、それではダメだろう。
この子は『アシュレイ』だぞ?」
「…どういう意味ですか?」
「指示するなら『私が戻るまでラッフェルから出るな』だ。
代名詞や区切りの無い期間、行動内容をぼかすから逃げられる。
アシュレイにとっての『大人しく』というのがお前と同じだとは言い切れないだろう?」
「確かに…」
そこまで知っているならお父様が直々に伝えてくだされば良いのに。
私は思わずそんなことを思い浮かべる。
しかしこれはある意味で私への『しつけ』なのだろう。
指示する者、命令する者としての。
「それでアシュレイ。
お前はカルロの指示を無視して出掛けたそうだな?
しかもカルロが離れた次の日には宿から居なくなったと聞いているが」
「ボクも街の声を聞こうと思って…。
ヴァルトルではボクは知られ過ぎてるし、丁度良いかなって」
「ほう、仕事したんだな?
その年でえらいじゃないか」
お父様はアシュレイを持ち上げる。
引っ掛かるなよ、という思いも空しくアシュレイは「はい!」と元気良く答えてしまった。
これだからダメだというんだ…。
「それでその報告書は何処にあるんだ?」
「ぅ…まだ作成していません…」
言い訳ではなく、市勢を知りたいというのは本音だろう。
アシュレイは興味のあることには貪欲だからな。
だがそれに対して資料をまとめるというのは話が違う。
聞いて満足しているだけで、別に何か目的を持って聞いている訳ではないからな。
「それはおかしな話だな。
アシュレイは一体『何のために回った』んだ?」
「それは…」
「であれば言い訳にしか聞こえない。
それにその後アルスへと勝手に移動したそうじゃないか」
「一般の馬車の旅を経験したくて…」
「感想は?」
「かなり揺れておしりが痛いです」
アシュレイが腰付近を撫でながらそんなことを言った。
いや、本当に大丈夫かお前は。
それでお父様と交渉だと…?
「くく…カルロ、お前の妹はなかなか庶民的だぞ」
「そうなんですが…父親は貴方ですよ?」
「違いない!」
わははとお父様は笑っているが、アシュレイ…お前はもう口を開くなよ…?
あの質問は本当にただ感想を聞かれている訳じゃない。
御者の態度、値段、時間は適正か。
街道の状態は、乗り合った者達はどんな相手か。
到着した場所での暮らし、御者や旅人の町や村での態度とその逆も。
盗賊や魔物の被害は無いか、細かなところまでは必要ないが税率や貯蓄率など。
暮らしの状況が分かるのならばあると良い。
そしてそれらの者達の今の不安や不満は?
公的に対応出来る問題は無いか、対策するならどれほどの意味があるかなど。
市場調査、治安・経済状況、街道整備などなど。
この話の流れでの『感想』とはそういうことだ。
『視察への同行』なのだから、報告書という形に残るものでなくても、ざっと上げたいずれか一つは出さないといけない。
アシュレイが言ったことは『私達が集めるべき感想』であり、そこから考察を加えて初めて『貴族の感想』となるのだ。
相変わらず頓珍漢な対応をしてくれるものだ…分かっているくせに。
「お父様、お願いがあります」
お父様が笑っているところにそんな場違いな言葉が流れ込んだ。
アシュレイ…空気が和んだとでも思ったのか?
違うぞ、それは絶対に違う。
和んでなどいない、お前が完全にぶった切っているからな?
「ふむ…好きなやつでも出来たか?
見極めは早い方が良いな。
どれ、私に紹介してみなさい。
ヴァルトルに戻る前が一番良いな…いつの日を空けようか?」
「え…」
お父様はいつもの軽いノリなのだろうな。
しかし対するアシュレイの態度が悪かった。
今まで『対等』となる者が居なかった中にリオが来た。
空っぽだったところに何かが入れば当然一瞬くらい戸惑う。
好意とかそんなモノは関係なく、な。
「なッ!?
いつもなら『そんなことじゃない!!』って言うだろう?!
カルロ、一体どうなっているんだ!
まさか本当に…14で嫁になど出さないぞッ!?」
「ち、違いますよ!!」
はぁ…相変わらず『末っ子のこと』になると激甘だな。
私もそれほど言えないと思うがそれでも思わず溜息が出る。
「私は知りませんよ。
アシュレイの交友関係にまで口を出す気はありませんから」
「アシュレイ!
お前の兄は物凄く冷たいヤツだぞ!」
「だから違いますって!!
それよりお願いを聞いてください!」
ぎゃぁぎゃぁとしたやり取りを行うのは今は家族の会話だからだろうなぁ。
あぁ、私ももう少し子供であれば参加できるのだが…。
いや待て、お父様は何故あの会話に平気で…あぁ、子供なんだな皆。
こんなやり取りを見せられては内心で溜息をするくらい仕方ないと思う。
ひとしきりアシュレイを煽ったお父様が切り出す。
「それでお願いと言うのは?」
この先程までの落差が恐ろしい。
本当に同じ相手かどうかも分からないくらいの切り替えの早さだ。
むしろはしゃいでいるのは演じているようにしか思えない。
本心は知らないけれどな。
「はい、ラッフェルからアルスへ向かう途中に未開拓の迷宮を見付けました」
「…報告は?」
「しています」
「ま、当然か」
怠りそうになったけどな。
思わず私が口にしかけたのは仕方ないことだと思う。
だが言わない。
これは私の胸に仕舞うことで話をつけているのだから。
「それでその見つけt「ダメだ」ky」
「未開拓迷宮に近付くことを禁じる」
「どうして!!」
「ランク付けすらされていない迷宮に入る価値は無い」
「逆です!
だからこそ攻略したいんです!」
「ならば価値観の違いだな。
そもそも迷宮探索などは貴族の仕事ではない」
「えぇ、仕事ではありません。
だからこそわざわざ行きたいと言っているのです」
「ふむ…『遊びに行ってくる』という訳か?」
「う…」
アシュレイ、そんな目で見られてもなぁ…私も本来は反対派なんだぞ?
しかしこれでは埒が明かない。
いや、恐らく許可は降りないだろう。
その辺りはお父様は厳格だからな。
「カルロ、領主は誰だ?」
「クライン辺境伯です」
「なるほど、ギルバートか。
あいつは何と言っていた?」
「『メルカノ公爵家から探索許可の依頼を出して欲しい』と」
「ヤツらしい。
アシュレイ、この意味が分かるか?」
「え?」
リオ…そこは教えていないのか。
いや、違うな…リオにそんなことをさせてはいけない。
あいつは護衛であって教育係ではないしな。
そもそも私が説明すれば良いだけの話だったのだから。
「カルロは?」
「探索者は欲しいが、貴族は面倒。
それでも入りたいなら『家に死んでくる』と宣言して来い、でしょうか」
「言葉は悪いが正解だ。
未開拓迷宮など何が出てくるかも分からない。
だからこそその探索は命懸けだ。
富や名声を求めるからこそ討伐者などは入るが、私達には不要だ。
私達が死ぬことの方が損害が大きいのだからな」
「見聞を広めるためにも!」
残念だがその言葉は意味が無い。
アシュレイのように『貴族として足りていない状態』で、その言葉は貴族には届かない。
貴族として『足りた状態』でも普通は否定されるのだから。
「『未開拓迷宮は危険である』という認識さえあれば良い。
後は迷宮の対応方法だけ学べば十分だろう。
そういう意味ではアルスへ向かったことは良い経験になったかもしれないな」
「…分かりました。
『死んできます』ので許可を」
「出さないと言ったが?」
「ではもう戻りません」
「…ふむ」
熱くなり過ぎだアシュレイ。
お父様を睨み付けても意味はないし、その言葉は縁を切るための最後の一線だ。
たった14でその言葉を使うのは早すぎると思うんだがな…?
「そうか、なら仕方ない。
メルカノ家としてアシュレイの監禁で対処しよう」
「お父様?!」
「大概の我侭は許してきた。
その中には死ぬほどの危機もあったはずだ。
だがそれらのことに対してお前には自覚が無さ過ぎる」
「…それについては最近痛いほど理解しました」
リオに手酷くやられたか?
その辺りは私も同じだが、慰めも共感もしないぞ?
それが次に反映されていないのならな。
「ほう、それは僥倖だ。
だがそれでも迷宮を求めるのは何だ?」
「好奇心です」
「はははっ!!
面白いが、それでは話にならんぞ?」
きっぱりと言い切ったアシュレイにお父様は楽しそうに笑った後、目を細めて言った。
確かにそれでは全く話にならないだろう。
そんな今まで通りで押し通れる問題ではない。
「それでも、です。
ボクはボクの知らない世界が知りたい。
それが出来ないならそれはもう『アシュレイ』じゃない!」
なるほど『誰も理解出来ないことをする』という理由はそれか。
そう思えば過去の行動も納得がいく。
行動だけでなく考えもぶっ飛んでいると思っていたが、すべてはただの好奇心か。
面白そうだ…いや、面白い生き方だ。
しかしそんな説明されたことなど無いぞ?
「お前の考えが分からないと思っていたが…逆にそれほど単純なものだったのか」
「そうだよ。
ボクは単純なんだよ」
胸を張って言うことか?
あぁ…無意味なハッタリはリオの影響、だろうな。
私の妹を返して…くれなくても良いか面倒だし。
というか興奮のせいか敬語を忘れてるな。
「そしてボクは優秀だ」
「おぉ…確かにお前は十分優秀だが自分で言うのか?」
「うん、それくらいなら宣言する。
でもボクは単に『覚えが良いだけ』で馬鹿なんだよ」
自分のこと馬鹿だと言ったぞ…この交渉の場で。
突いてくれと弱点を見せてるような状況じゃないか。
それにしてもその両極端をいきなり宣言するとか一体何があったんだ?
「…それを知ってボクも少しだけ賢くなったと思う」
「その賢くなったのはどの辺りだ?
まだ全然見せてもらってないと思うんだが」
「さっきお父様は『危険だからダメだ』と言いました」
いや、言ってないぞ。
『迷宮探索の成果と危険度が釣り合わない』と言ったんだ。
成果の方が大きければ命の危険があっても放り込むぞ?
お父様は呆れつつも続きを聞く気なのだろう「…まぁいい」と話を促した。
「では危険でなければ良いのでしょう?」
なるほど…。
釣り合いが取れないのは『危険度が高すぎるから』ということか。
これならばお父様も納得せざるを得ない。
成果を過大に評価している訳ではないからな。
「言い分は分かるが『その証明に探索してくる』では話にならないぞ?」
「はい、探索を止められてますから」
「分かっているなら良い。
ではどうやって証明する?」
「学園では丁度試験をしています」
「『首席だから』というのは聞けない」
「………残念です。
その試験の中に迷宮探索が含まれてます」
「アレクセイ、か?
懐かしい…カルロも挑戦して失敗したやつだな」
「いや、Dランク迷宮を突破するのはかなり難しいですよ?」
お父様、そんなちょっとお使い行ってくる程度で解決するような迷宮じゃありませんよ。
だから私の言葉も援護射撃という訳ではない。
Dランクの魔物は一般人にとって抗えない脅威。
戦闘を生業にする討伐者でもかなりの戦力を必要とする。
多少腕が立つ程度で突破など絶対に無理だ。
「そういえばカルロは17で挑戦だったか?
…そう考えるとアシュレイ、14で挑戦するのは早くないか?」
「ふふ…それは『優秀』ですから」
「なるほど。
その試験で腕試しと言いたい訳だな?」
「はい。
カルロ兄様でも無理だった迷宮の突破でどうですか」
「条件としては面白い。
確かに今までのアシュレイとは違うようだ。
だが突破出来る者も居るのだろう?
であればその条件は余りにも緩すぎる…管理迷宮では死なないそうだしな?
それならいくらでも無茶が出来るのだから、懸念すべき『危険の排除の証明』にはならない」
やはり。
お父様は急に出てきたアレクセイの話も知っている。
いや、覚えているというべきか。
あの情報は恐らくアシュレイ用に取り寄せたものではない。
だというのにすらすらと利用するのだから…。
「分かりました。
過去最速で突破します。
つまり『在校生の1位』ではなく『学園始まっての1位』を取ります」
「ぶはは!!
大きく出たな!
なるほど、お前にはそれが出来ると?」
「いえ、やります」
「今の最速記録は?」
お父様を交渉のテーブルに乗せたか。
なかなかやるもんだ…それが例えリオの差し金だとしてもな。
「31日です」
「では20日以内で突破しろ」
「20日!?」
「なんだ出来ないのか」
「………」
まさか1/3を一気に削ってくるとは思わないだろうな。
だが交渉事というのは相手の弱みに付け込み、こちらの強みを押し付けるものだ。
むしろ半分と言われなかっただけマシだと思うべきだ。
「そういえばパーティはどうなっている?
お父様、日数のみに注目してはいけませんよ」
さて、ここらで真打登場と行こうか。
しかしとんだ損な役回りだ。
お父様は「なるほど」と納得し、私の言葉を促す。
未だ葛藤の中で戸惑うアシュレイがおずおずと条件を告げる。
「生徒一人に三人まで護衛が付きます」
「なら10人の生徒を集めれば40人で攻略か?
そこまで集めれば緊急依頼の数じゃないか…話にならんな」
相変わらず理解が早い。
まぁ、人数を集めれば迷宮突破出来るという訳でも無いが。
「えぇ、それともう一つ。
過去に護衛役として付いた者は参加出来ません」
「ほう?」
「えっ?」
お父様に加えてアシュレイまで驚くとはな。
困ったものだ…きちんと条件を精査していないなど。
「なんだアシュレイ、知らなかったのか?
迷宮の地図を学園側が握っているのは知っているだろう?」
「う、うん…」
「そして護衛が持つ地図は学園に没収される。
そこでもし提出しなければギルドを経由しての制裁を課される。
ちなみに内容は除名に加えて違約金という、ギルドとしては最上級の制裁だ」
「そ…そんなに?」
「あぁ、それくらい学園は力がある。
では護衛の記憶は?
地図が無くとも、一度でも入って地図を作れば記憶に残るだろう。
何度も入れるならば、その都度記憶は上書きされていき、地図を持つのと変わらなくなる。
そうならないために、護衛役は一生に一度しか入れない」
私の説明に二人は沈黙する。
確かにやりすぎな印象を持つのも無理も無い。
私自身そこまでするのかという思いが強いのだから。
しかしある意味そこまで徹底しているからこそ、攻略者が優遇されるのだ。
でなければただの遊び場でしかないからな。
「ともかく。
生徒はアシュレイ一人というのを条件に加えましょう。
これで最大でも4人…つまり通常パーティと変わりません」
「う…」
「それと私が選んだ護衛を入れましょう」
「それはボクが決めるよ!」
そうだな、そう言うべきだ。
だがその言葉はこの場では通らない。
アシュレイ、これら今までの条件は『突きつけられると決まっている』のだからな。
だからこそ交渉では弱みを見せてはいけないんだ。
「おぉ、見付かったのか?」
「えぇ、良い者が居ました」
「話を聞いて!
生徒がボク一人なのも、期間が削られるのも良いよ。
でも、一緒に行動を共にする相手をボクが決められないのはダメだよ!」
「と言っているが?」
「アシュレイの言い分は分かります。
ですがこれは『過酷であるほど強さを証明出来る』ということでしょう?」
「カルロ…お前大変だったんだな…?」
そう言われて思わず笑みが出る。
ストレス?
あぁ、いくらでも抱えていたが?
アシュレイのお守りがこんなにも大変だとは最初思わなかったけどな。
「想像にお任せします。
が、次は嫌です。
その時が来た場合は『公爵家の家長として命令』してください」
「おぉ…そうか分かった、すまなかったな」
力強く笑う私と、ぐったりとするアシュレイを見比べてそんな労いの言葉を告げる。
本当に苦労したのだから少しくらい背中を刺してやっても良いだろう?
「それで、その護衛とは?」
「入ってくれ」
「ほう…それが?」
「えぇ、私が見付けた『とっておき』です」
そう言って私は隣の部屋で待たせていた護衛者を呼び込んだ。
お読み下さりありがとうございます。




