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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十一章:人生の迷子

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人違い

理熾は肩に担いでいたスコップを下ろし、ネーブルとライムに目配せをする。

どうやら目の前の人物はたった一人でこの辺りをうろついていたらしい。

この状況下ではどう考えても目的の人物…つまりアシュレイである可能性しかない。

礼を言うアシュレイ(仮)に対して、返答するのはネーブル。

子供である理熾が声を掛けたらややこしいことになりかねないからだ。


「主人(マスター)の気紛れだから気にするな」


そんなことをあっさりと言う。

事実なので仕方ないが、もっと言い方があるだろう。

そんなことを思いながら理熾は自身が倒した獅子猿をささっと《亜空間》へと放り込む。

その他に転がる獅子猿は目の前のアシュレイ(仮)が倒したもののはずだから、間違わないように。

そしてネーブルはそのまま「確認だが」と話を続けた。


「アシュレイで間違いないか?」

「……貴方達は?」


不信感、と言えば良いのだろうか。

先程までの『救世主を見る目』から一変してしまっている。

この時点で当たりとしか良いようが無い。

隠すならもっと上手くやって欲しいものである。


「カルロから護衛の依頼を受けてな」

「そんな名前じゃない」


ネーブルの言葉に被せ気味に答えるアシュレイ(仮)。

もしかすると『公爵家』として警戒しているのかもしれないが、相手がアシュレイだとするとそれは無い。

危険に首を突っ込むのが趣味なのだから、警戒よりは好奇心の方が強いはずだ。

その様子から察するに、ラッフェルを出たのは『護衛を待てなかった』のではなく、『護衛が付くのが嫌だから逃げた』のだろう。

宿泊していた宿から翌日には行方を眩ませ、何より危機を救われての態度だと思えば逃げたというのが自然な考えだ。

その辺りを察してネーブルは


「そうか、人違いか。

 なら俺達は引き続き捜索するから勝手にしてくれ」

「え?」


きょとんとするアシュレイ(仮)を見限り、ネーブルは理熾へと向き直る。

状態を見ていたライムもただの疲れだと判断したため、当然のように立ち上がって理熾の下へと移動する。

相変わらずネーブル達にとって、この依頼はどうでも良いのだ。

理熾としても【神託】の報酬が支払われている以上、やらなくて良いことに分類されてしまっている。

そもそも依頼主に気に入られないなら依頼自体が破談なのだから、気にする必要も無い。


「主人、人違いらしい」

「んー?

 どう見ても本人だと思うけど…良いの?」


最後の「良いの?」はネーブルではなく、アシュレイ(仮)に対してだ。

状況が分かっていないのか、相変わらず不思議そうにしている。

そしてネーブルはあっさりと言い放つ。


「本人が違うって言ってるんだから仕方ない」

「そか、なら仕方ない(・・・・)ね」


ネーブルと理熾はそれだけで会話を終える。

が、当然アシュレイ(仮)は理解していない。

嘆息しながらネーブルが続ける。

状況を知らせるために。


「『違う』のならば野垂れ死んだところで責任は無いしな。

 俺達は明日までもう少しその辺を探してアルスへ戻るとしよう」


理熾が倒した獅子猿は既に全て《亜空間》の中で、この場に留まる理由も無い。

厚意で助けただけで、別に義務ではない。

既に十分恩義を感じさせられるくらいの働きをしたのだから、今更何を言われることも無いはずだ。


「それじゃ誰かさん。

 まだ周りに居るかもしれないけど頑張ってね」


ネーブルが屠った斥候、そして本隊である群は倒した。

危機的状況を救っただけでも報酬ものなのに、名乗りも請求もせずに立ち去るなど、本来であれば英雄(ヒーロー)過ぎる。

こんな場所じゃなければ。


何せ斥候役があの3体だけとは限らない。

むしろ獅子猿以外の魔物がいないと断言するだけの材料も無い。

だからこそどう見ても当人だと言うのに『アシュレイか?』と聞いたのだ。

ある意味で助ける価値があるかどうかの問いでもある。

置かれている状況から、判断するだけの能力があるかどうかを問うための。


結論としては『関わると面倒そう』という一言に尽きた。

だから念のために危険性を告げるだけ告げ、そのまま立ち去ろうとすると


「ちょっ!

 ちょっと待って!」


と慌てたように呼び止められる…が、『赤の他人』の言うことなど知ったことではない。

呼び止める声に一瞥も無く歩みを進めると、アシュレイ(仮)が前に回りこんで声を掛ける。


「だから待ってって!」


その行動にネーブルは少し眉を顰めたが、理熾が逆に「何で?」と聞いた。

今理熾達が探しているのはアシュレイで、しかもほぼ100%目の前の人物がアシュレイだ。

髪は青みがかった白で肩口くらいまで。

日の光をよく反射するので銀とも言えるかもしれない。

顔立ちは威圧的な美形で、カルロとも似ている。

少し濃い目の青い目は、少し不安げに揺れてはいるが、強い意志が窺える。

年齢は理熾の一つ上の14歳で背は150cmほどだが、髪の色と相まって浮世離れしている。


といった風にカルロから聞いた外見の特徴も一致する。

更に状況や言動を加味すると疑う方がどうかしている。

それでも『違う』と言うのだから、理熾達は護衛失格という訳なのだろう。

であればさっさと現場を後にしてカルロに『嫌われちゃいました』と報告して終わりである。


「何でって…」


口ごもるアシュレイ(仮)。

しかし理熾に容赦など無い。


「探してるのはアシュレイって人なんだよ。

 で、貴方は違うんでしょう?」

「う、うん…」


「だから僕達は、貴方に用はない」


と誰もが分かるであろう説明をする。

その言葉に即座に反論してきた。


「ボクにはある!」

「だからそれを聞いてるんだけど」


「近場の村までの護衛を頼みたい」


言うに事欠いてこれか、というのは理熾達の共通認識である。

そもそも『他人設定』で助けてもらった分際で、この上に更に『守って欲しい』らしい。

だったら何故アシュレイと名乗らないのかと問いたい。

大方、名乗ったら最後付き纏われるとでも思っているのだろう。

そして理熾の答えは決まっている。

世の中はそんなに甘くない。


「嫌です」

「…何で?」


「気分」


絶対に翻らないような答えを渡してやる。

その言葉にアシュレイ(仮)は絶句し、固まる。

その横を悠々と理熾達は抜けていく。


「助けて!」

「もう助けたよ」


「報酬は十分に支払うよ?」

「さっき助けたことに対してなら貰うけど」


「護衛してくれることに対して」

「だったら今忙しいからいらない」


「人探しのついでで良いから!」

「足手纏いなんて連れ歩けない」


追い縋るアシュレイ(仮)を悉く理熾は否定して歩く。

それにしても『人探しのついで』とはよく言ったものだ。

探しているのは十中八九、要求しているヤツなのだから。

挙句に


「お前にはもう頼まない!」


と叫び、アシュレイ(仮)がキレた。

理熾達は『こいつ導火線短かいな』と思考会話を巡らせる。

ちなみに理熾がアシュレイ(仮)をあしらう前の思考会話の内容はこんな感じ。


(ねぇ、この人めっちゃめんどくさそうなんだけど)

(貴族なんてこんなもんだろ)

(同感)


(でもここに放置は拙いよね?)

(いや、良いだろ。

 人違いって本人が言ってるんだし)

(向こうが下手に出てる間にネーブルが決着させないからこうなんだよ)


(だねぇ…ネーブル厳しいから)

(全くだ。

 子供相手に酷いやつめ)

(俺のせいかよ…。

 とりあえず折っとかないと言うこと聞かないだろこれ)


(じゃぁとりあえず無視で?)

(それだと付き纏われないか?)

(主人、ちょっと返事してやれよ。

 俺に良い考えがあるから)


(はーい)


といった感じだった。

その結果、あっさりと煽られたアシュレイ(仮)が理熾に当たるが、一切取り合わずに


「そっか、なら頑張って」


と追い討ちを掛ける。

この辺りはネーブルの【人身掌握】が稼働中で誘導は完璧だ。

そう考えると現在のアシュレイ(仮)は絶賛敵扱いらしい。


「何で子供がこんなところに居るんだ!」

「啖呵を切るのは勝手だが、お前が言うなよ。

 それと俺達の主人はその子供だからな」


ここぞというタイミングでネーブルが言葉を挟む。

まさに『お前煩いぞ』という釘を刺すようなタイミングで、しかも暗に理熾の許可が無いと誰も動かないこと告げる。

これでもうアシュレイ(仮)が交渉する相手は居なくなったことになる。

だというのに更に食い付くのは子供だからだろうか、それとも未熟だからだろうか。


「護衛に守ってもらってる分際で!」

「そう思うなら最初から護衛を雇え。

 何よりお前が言う『子供』に助けてもらっただろうが」


「はっ!

 あの数をこの子供が?

 あぁ、なるほど…。

 囮役がこの子で、貴方達二人が倒したんだろう!」

「違うぞ。

 俺達が着いた時には終わっていた」


「それこそおかしい!

 ボクですら無理だったのに!

 あの数を、しかもものの数分足らずで!」

「馬鹿かお前。

 この中で一番強いのは主人だぞ?

 相手の力量も分からずに喧嘩吹っかけるから死に掛けるんだよ」


辛辣な言葉はやはり煽るため。

そしてどう見ても自分より年下の理熾の方が強いという『大人の意見』をぶつける。

その間の理熾は『我関せず』という雰囲気を保つが、(ネーブル煽るの上手いなぁ)と思考でゆるい会話していた。


「ふざけるな!」

「煩いよ、誰かさん。

 こんな森の中で、叫ばないでくれる?

 魔物が来たら誰が倒すと思ってるのさ」


「勿論ボクが倒すよ!」

「それこそ『ふざけるな』だ。

 主人が居なけりゃ押し潰されていただろうが。

 対処出来もしないのにデカイ口を叩くな」


叩き潰すようなネーブルの言葉。

事実を事実のまま伝えたところで、通じるとは限らない。

そしてこの議題については確実に通じない(・・・・・・・)。

だからこそ、ネーブルはこの話題を話すのだ。


「~~~ッ!!

 だったら勝負だ!!」


という言葉が出るまでに時間は掛からなかった。

ただの会話ではあるものの、これだけ煽られているのだ。

最初からこの方向へ持っていったと気付かれても不思議ではないくらいだ。

ネーブルが思考誘導を施しているからアシュレイ(仮)は気付かない。

そしてそんな仕込みをしているくせに理熾はあっさりと


「ヤダ」


と即答する。


「方法は…嫌だって!?」

「僕に何の得があるの?」


純粋な疑問。

怪我を負う危険性を押してでもやらなければならない理由。

相手にとってはあるかもしれないが、理熾側には一切無い。

理熾の実力を信じる信じないは個人の勝手。

しかも見せ付けなければいけない理由も無い。


「お前の実力を認める!」

「別に認めなくて良いよ?

 事実は変わらないし、めんどいし」


流れを作っておきながらぶった切るのは利益を得るため。

ここから先は理熾に任せる気なのか、ネーブルは口出しせずに傍観者の立ち位置に戻った。


「分かった…。

 ボクが負けたら『護衛役』として認めよう」

「何で上からなのさ。

 意味が分かんない。

 それに『誰かさん』を護衛するなんて一言も言ってないんだけど?」


「察しろ!

 いや…良い。

 勝った方が負けた方に命令を一つ言えることにしよう」

「却下」


「何で!」

「僕はやりたくない、誰かさんはやりたい。

 なのに何で『同じ条件』なの?

 そんな条件で自分勝手な押し付けを受け入れてもらえると本気で思ってるの?」


その程度で理熾に舌戦で勝とうというのがそもそもの間違いなのだろう。

ネーブルとライムが嘆息している間に理熾は「そんなことも分からない馬鹿なの?」と更に煽っていた。

鬼である。


「…分かった。

 ボクが負けたら3つ言うことを聞こう。

 ボクが勝ったら村までの護衛を頼む…そっちの二人にだ」

「ふーむ…不満は残るけど手を打とうか。

 このままだと付き纏われて迷惑だしね」


余計な言葉を挟んでアシュレイ(仮)を煽り、落ち着きを取り戻す可能性を塗り潰す。

ネーブルとライムは二人して『フィリカの傍はやっぱり子供の教育に悪いな』と密かに頷き合っていた。

お読み下さりありがとうございます。


実を言うとこういう噛ませ犬的な会話大好きです。

だというのに初めての描写だったりします。

これでタガが外れて乱発しないようにしないと…(。。

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