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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十一章:人生の迷子

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(仮)の姿

アシュレイ(仮)が挑んだ勝負は模擬戦。

今後のこともあるため、流石に決闘方式(誓約アリ)では受けなかった。

だがこんな場所で刃引きの剣がある訳も無いので、完全な実戦形式である。

場所は獅子猿をオレガノが食べた場所。

半径50mほどの周囲が開けているので丁度良かったのだ。


20分ほどの休憩を入れる際に


「せっかくだから体調も万全にしておけ」


との言葉でネーブルがアシュレイ(仮)に回復薬と魔法薬を渡すという大盤振る舞い。

何日間かの遠征をしている以上、そんな道具まで余裕があるようには思えない。

遠征の疲労は自業自得だが、消耗した分くらいは回復させてやる方が言い訳も少ない。


「ありがとう」


施しを受け取ることには抵抗があるのか、少し不満気ではあったが、素直な言葉も一応出るらしい。

少なくとも理熾とネーブルとで対応が明らかに違う。

苦笑しか出ないが仕方ない。

誰に対しても『同じ対応』など難しいのだから。


そして理熾達からすると対等な勝負などありえない。

必ず戦う前に優劣が決まっている。

今回で言えば理熾が負けることなどありえない。

そもそも勝負にもならないのだから。

だから


「ハンデをあげよう。

 僕は素手で良いよ。

 でないと戦いにもならない」

「…片腕が落ちても知らないからな!」


「そっちこそ骨が折れても知らないよ。

 ライムが居るから後遺症は残らないと思うけど」


そんなことを言い合いながら準備をする。

理熾は身軽な服装から更に手甲を外し、靴を履き替える。

靴に関しては元々重さが無かったので少し重くなったくらいだろうか。

そうして理熾とアシュレイ(仮)は10mの距離を置いて対峙する。


行う模擬戦は主審がネーブル、副審ライムでお送りする。

この状況下は完全に敵地(アウェー)。

既に『公平』という言葉が成り立たないということにアシュレイ(仮)はまだ気付いていない。

そのことにも理熾達は『こいつ大丈夫か』と嘆息する。


「準備は良いか?」

「うん、いつでも」

「…早くして」


理熾と初めて対峙する者は大概怒っている。

煽るから、というのもあるが大半が『侮っているから』だ。

そしてその侮りは致命的な毒であることに負けてから気付く。


「では…はじめ!」


ネーブルの声と共に理熾は突っ込んだ。

スタートダッシュ時に良く使う《障壁》のスタート台に加え、各種パッシブ・アクティブ総動員で。

1秒に満たない時間で近接し、驚きに固まっているアシュレイ(仮)の額を小さな右手で掴む。

そうして視界を遮ると共に膝裏を右の踵で刈り取りバランスを崩し、掴んだ頭を地面へ向けて押し込む。

あっさりと体勢が背後へ傾き、頭が地面に叩き付けられる直前で理熾は左手を差込みゆっくりと仰向けに寝かせ、さっと立ち上がった。

まさに『膝から崩れ落ちた状態』なのだが、ここまでが丁度1秒程だった。


「それまで」


静かに響くネーブルの声。

余りに一方的な展開に呆然としていたアシュレイ(仮)はその声で我に返り声を上げた。


「ゆ、油断していただけだ!」


理熾達の感想はただ『予想通り』という一言に尽きた。

それ以上でも以下でもなく、余りにも呆気ない終わりに納得出来ないのだろう。

現実味が無いとも言う。

狙ってやっているので、ここで引き下がられても困る。


「そう?

 なら掛け金(レート)を上げようか」


そんなことを言うのは理熾だ。

最初からこの勝負で『終わる』とは誰も思っていない。

そもそもこれほどまでに一瞬でカタをつけたのは『圧倒的(・・・)を見せ付けろ』とのお言葉を貰っているからだ。

なまじ優秀なばかりに、理熾の実力を認められない。

だからこそ理熾に負けるというのに。


「掛け金だって?」

「僕はこの枠から出ない」


理熾は半径50cm程の円を描き、宣言する。

逆に言えば『この円から出せば勝ちだよ』と。


「舐めてるのか!」

「あんなにあっさりと負けた相手に言われてもねぇ?

 あぁ、もしこの条件で再戦するなら僕が貰える命令権は合計5回に増やそうか」


実に楽しそうに、理熾は条件交渉を行う。

勿論これは演技である。

アシュレイ(仮)側に有利な条件を提示し、それでも尚届かない。

どれだけの差があるかというのを理解させねばならないのだから。


「僕はどっちでも良いけど」

「分かった…後悔するなよ!」

「話は纏まったようだが、その条件でも主人に勝てるとは思えないが良いのか?」


「その条件で良い!」

「そうか、なら止めん。

 勝手に玉砕してくれ」


とネーブルも結論を投げっ放す。

これはアシュレイ(仮)が選んだ未来なのだから、口を挟む必要も無い。

理熾は円から出ない約束なので、アシュレイ(仮)が10m程の距離を取り仕切り直す。


「では改めて…準備は良いか?」

「………」


歯軋りしそうなくらいに悔しそうな顔をして無言で理熾を睨みつけるアシュレイ(仮)。

どうやら相当頭にきているらしい。

が、それでは理熾には届かない。

対する理熾は「どーぞー」と緩い返事をし、ネーブルの合図を待つ。


「はじめ」


ネーブルの声が掛かった瞬間、今度はアシュレイ(仮)が駆け出した。

理熾からは動けないのだから仕方ないが、思っていたよりも随分速い。

獅子猿の群から逃げ延びたのは伊達ではないらしい。

アシュレイ(仮)が到達する僅かな時間に


「なかなか速いね」


理熾がそう感想を告げると一瞬だけアシュレイ(仮)の口元が綻んだ。

が、それはそれ。

次の瞬間、「ズン」と重苦しい音を立てて理熾の周囲2mの地面が少しだけ窪んだ。


「がっ!

 かはっ!?」


理熾まで後2mというところで起動したのは【重力魔法】。

駆け込んできたところに急ブレーキが掛かったアシュレイ(仮)の身体は、体重を支え切れずバランスを崩す。

かろうじて転ばなかったが、例え2倍でも急激に変わる重さに即座に対応するのは厳しいだろう。


また、【重力魔法】は極端に使用者が少ない。

つまり敵対者からすると対策が分からないか、少ないという訳だ。

その例に漏れずアシュレイ(仮)はそもそも今何が起きているかすらも分かってないだろう。

大量の疑問符を浮かべながら立ち上がろうと必死にもがいている。


「まだ頑張る?」


理熾はそう問い掛けると、「当たり前だ!」と即答された。

嘆息しながら倍率を3倍へと引き上げる。

重量が更に増し、地面に手を付いて耐えるだけで精一杯になったアシュレイ(仮)。

声も「ぐぐぐ…」という力む音しか出せない。

これでは『参った』とも言えない。


「もしかして『潰されない』とか甘いこと(・・・・)考えてるの?

 刃引きもされてない剣を振り回してるのに、自分だけが安全だと本気で思ってる?」


そう言いながら倍率を4倍へと引き上げる。

3倍ですら耐えるだけで精一杯だったアシュレイ(仮)は当然のように耐え切れず、地面に潰れる。

辛うじて顔を理熾へと向けるが、相対する理熾は無言で見下ろす。

アシュレイ(仮)から見る表情は『その程度?』という声が聞こえてきそうだった。


理熾達が考えるに、アシュレイ(仮)は危機感が無さ過ぎる。

そして危機感を持たないのは当たり前の話だが、危険すぎる。

護衛を受けるにしても、当人の意識が低ければそれだけ難しくなる。

通常であればそれでも良いが、『アシュレイ』はわざわざ危険へと出向くのだ。

ならば多少なりとも危機感を持って貰わなければ守りきれない。

『今までは大丈夫だったから、これからも大丈夫』なはずが無いのだから。


「まぁ、冗談だけどね」


そう言って魔法を解く。

4倍だった時間は30秒も無い。

理熾もライムとは違い、7倍や8倍といった重力を扱えるわけではない。

むしろ微動だにしない現状で4倍が精一杯なのだから、言葉というのは恐ろしい。

誰が聞いても『手加減してますよ』と聞こえるのだから。


しかし加重を受け初めて合計たった1分ちょっとでも急激に変わる重力に即時対応するのは難しすぎる。

特に『知らない攻撃』ともなれば心的疲労も相当だ。

荒い息をしながらアシュレイ(仮)がぐったりと項垂れる。

ネーブルが勝敗を告げるまでも無い。


「今のは僕の魔法。

 更に掛け金を上げよう。

 僕はこの円から出ないし、魔法も使わない。

 勿論武器も持たないよ。

 それでも僕に負けたら命令は合計10回にしようか…どうする?」


優しく微笑むのは既にどちらでも良いからだ。

このまま負けを認めるなら、名前を聞き出してアルスへ連れて行くだけである。

十分に伸びた鼻をへし折ったし、『油断の危険性』も理解しただろう。

何より更に挑まれても理熾には負ける気など毛頭無い。

荒い息を吐きがらも目に意思を宿して理熾を見つめ、「君の名前は?」と聞いてきた。

全員が『自分から名乗れよ』と思ったが、飲み込むのは大人だからだろうか。


「理熾だよ」

「…ボクはアシュレイ・メルカノです。

 リオ様、その条件でもう一戦よろしくお願いします」


アシュレイから先程までの侮りは姿を消した。

その代わりに『挑戦者』として理熾に戦いを申し込んできた。

その変化に理熾達は『意外と切り替え早いな』と評価をし、理熾は「いいよ」と請負った。


しかしネーブルは首を傾げる。

武器無し、魔法無しで遠距離から攻められたら理熾に手はない。

アシュレイは魔法も使うと聞いているのだからなおさらだ。

今までの戦闘ではアシュレイに全く何もさせていない。

全て先手を取っているからこそ、アシュレイに傷すら負わさずに勝てているとも言える。

それが無くなれば…


「次は怪我するぞ」


とアシュレイに忠告する。

理熾が一体何を考えているかは分からないが、それくらいは覚悟した方が良い。

この一言で心変わりしてくれればとも考えたが、遅かったようだ。


「覚悟の上です」

「そうか、なら頑張れ」


ネーブルは嘆息するしかなかった。

三度目もやはり10mの距離から。

【重力魔法】でねじ伏せたがダメージはない。

ただ少し体力を消費しただけだ。

だから回復薬なども使わず、息を整えながら移動する。

距離を取って2度ほど深呼吸を入れるとアシュレイは「お願いします」とネーブルに声を掛けた。


「主人は良いか?」

「うん、よろしく」


お互いの確認を取り、対峙する。

ネーブルは三度(みたび)、開始の合図をした。

お読み下さりありがとうございます。


噛ませ犬っぷりが堪能できれば幸いです。

いや、割と賢い子なんですけどね(。。

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