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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十章:アルス領お家騒動

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淑女の真実

理熾主催の焼肉パーティ開催に当り、問題のほとんどはノイズが対応してくれた。

いや、してくれていると言うべきだろう。

現在進行形で解決され、テキパキと場を整えていく様は圧巻の一言である。


ノイズに挨拶し、既に用意されていた竈に鉄板を設置してしまうとやることがなくなってしまった。

というのも領主館で働く者の中に土魔法を扱えるものが居り、理熾の持つ鉄板のサイズにあっさりと合わせてしまった。

最初からそれほどきっちりとしたサイズを知らなくともその場で調節する用意があったのだ。

そこまでを考えていたかと思うと何処まで準備が良いのかと感心するしかない。


そして手伝うにしてもノイズ以外の面子をちゃんと知らない。

そうなると連携も出来ないので邪魔にしかならない。

荷物運びくらいは出来るが、それにしたって『何が何処にあるのか』も分からない部外者では役立たずも良いところである。

少なくとも理熾が必要な要素が無いから場違い感が激しくしてしまう。

ノイズに「手が必要ならやります」とも伝えたが、「ゆっくりしていてください」と返答されてしまった。

それに最初の話から、ノイズ本人が「昼なら無茶も必要ない」と明言している。

今更理熾一人の手があったところで逆に邪魔になる可能性の方が高い。


なのであえて参加してノイズに気を使わせるよりは、とその場を後にした。

理熾はその足で執務室を訪ね、ギルバートに挨拶を入れた。

カルロやエリル達の参加を尋ねる為だ。


「ギルバートさん、おはようございます」

「あぁ、おはよう。

 昨日もまた有益な情報をありがとう」


部屋に入った理熾を迎えたのは、そんな機嫌の良いギルバートだった。

本人が「時間を作ってある」と言ったように今日はほとんど非番なのだろう。

手元に仕事と思われる資料はあるものの、かなり数は少ない。

ギルバートは席を立ってソファーへと移動して理熾に席を勧める。


「いえ、こちらこそ。

 思い付きで領主館の人達を引っ掻き回してすみません」

「それこそ気にせんでくれ。

 全員楽しんでやっているようだしな。


 何より『貴族主催じゃない』というのが良い。

 練習にもなるし、夜会などほども堅苦しくも無い。

 むしろ全員位を気にせず同列で飯を食える機会というのは稀だ。

 面倒なことにわしが声を掛けてしまうと『無礼講』など実現せんからな」


とギルバートは笑う。

主催が討伐者(理熾)で、補佐が領主(ギルバート)という取り合わせは明らかにおかしい。

だが参加する者達は理熾の特異性を理解している者達ばかり。

しかもこれは一般人が主催のものなので『非公式』であり、単に川原で集まって馬鹿騒ぎするのと変わらない。

たまたま(・・・・)場所が領主館で、参加者が豪華なだけである。


好意的に見ればギルバートが言うように『失敗が許される練習場』であり、『階級を気にせず皆で楽しめる場』なのだ。

特にギルバートは公的な立場と、私的な立場では全く方向性が違う。

だからこそ領民からは『さん付け』で、部下からは『様付け』という面白い状況なのだ。

理熾主催ということで完全なプライベート扱いである。

つまりギルバートを含めた全員が『アルスの領民』という括りになるのだ。

ただ如何しても上司・部下の括りがあるので最低限の礼儀で接するらしいが、そんなものは当たり前の話でもある。


「こういう『祭事』は楽しまねば損だぞ?」

「ですよね!

 あぁ、お昼が楽しみですね」


「全くだな」

「あ、カルロさんとかエリルさんはどうなるのかな?」


「カルロ殿とロッソは参加すると返事を貰った。

 あぁ、大丈夫だ。

 貴族形式の肩肘張ったものではなく『庶民形式だから』と念押ししてある。

 これで何か言ってきたらわしの顔に泥を塗ることになるから、余程のことが無い限りは文句も言えん。

 だからカルロ殿など気にせず気楽にやろう。


 とはいえ、急な集まりなのに時間を空けたのはリオ君達狙いだろうな。

 昨日はロッソを相手に一騒動起こしたらしいじゃないか」


とにやりと笑う。

領主館での出来事なので当然ギルバートの耳にも入る。

むしろ入っていない方がかなり拙い状況だろう。

理熾は慌てつつも「腕相撲の依頼を受けたからね!」と返すとギルバートは「相変わらず忙しない子だな」と笑って続ける。


「エリルはもうすぐ帰ってくるから、身支度を整えて休憩後に参加予定。

 ルルガも仕事を切り上げてくるそうだ。

 これにガゼルとフィリカが加わることを思うとえらく豪華な面子だな」


ガゼルは理熾が懇意にしている『受付嬢』として。

セリナは理熾が呼んだ『調理師』として。

フィリカは理熾や騎士団員の装備を手掛けた『鍛冶師』としてそれぞれ招待される。

それぞれの肩書きに若干のフェイクが入っているが全て本当の事なので気にする者も居ない。

むしろプライベートだから気にしてはいけない。


更にノルンはフィリカの弟子枠で参加。

心細いノルンはライに声を掛けたが「そんな面子に入れる訳が無い!」と断固拒否した。

実力が伴わなければ紹介されても危険というのは間違いないので一番の英断かもしれない。

ちなみにそんなことがあってノルンも辞退しようとしたのを、フィリカが「せっかく名を売るチャンスを潰す馬鹿なのか?」との一言で撃沈した。

少なくとも【吸魔機構】・【吸命機構】の作成者なのだから胸を張ることは出来る。

ただしそれらの公開の是非は立案者である理熾の判断待ちとなっていたりする。

特に気にしていないが、画期的な考え方とのことだ。


「あぁ、そういえばついさっきセリナが駆け込んで来たんだが…」


その光景を思い出したのだろうか。

ギルバートは目を細めながら理熾に声を掛ける。

理熾もすぐに思い当たり返事をした。


「え、あぁ…ミントのことかな?」

「そう、そのミントだ。

 セリナは余り欲しがることは無いんだが、何だかえらく気に入ったみたいだぞ?」


「それは良かった。

 追い出されたらどうしようかと思ってたんだよね」

「そうなのか?

 というかリオ君はミントを手放しても良いのか?」


「うん、それは良いですよ。

 たまたま仲間になってくれただけですし。

 僕もいつも構ってあげられる訳じゃないから、あけみやで居る方が幸せじゃないかな」


と素直な気持ちを告白する。

便利な面はかなりあるだろうが、ミントを連れ歩くには強度が足りない。

セージも同じ理由でギルドに預けてある。

唯一オレガノだけが理熾達と共に居られる可能性があるのだ。

ダメなら何処かで掃除屋家業を始めることになる。


「あぁ、そうか。

 リオ君には他にもセージとオレガノというポルンも居たか。

 そこにいるのはオレガノの方だったか?」

「凄いですね。

 そんなにすぐに覚えられるなんて」


「貴族をやってるとな、一度しか会ったことの無い相手でも覚えておかないと酷い目に遭うんだよ」


と遠い目をしながら答える。

どうやらギルバートの柔らかいところを突いてしまったらしい。

そんな様子を見て理熾は慌てて話を戻す。


「そういえば魔物の主従契約って人に渡せるの?」

「ん?

 あー…リオ君らしい質問だな」


「どういう意味?」

「いやいや、深い意味は無いよ。

 素直に質問出来るのは美徳だ、ということだ」


『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』とは日本の言葉だが、その意味合いはスフィアにもあるのだろう。

無知や価値観・認識の違いを問うのはプライドが邪魔することが多い。

正確には『自分の価値観が崩れるのが怖い』と言うべきかもしれない。

間違った価値観で生きていたことを理解するのはどうしようもなく恐ろしいのだ。

その点スフィア歴の浅すぎる理熾にはそういった拒否反応は無く、それが周囲の感心に繋がるだけだ。


「昨日のガゼルの話を聞いているなら分かると思うんだが…結論から言えば『主』は変えられる。

 そうだな『<調教師(テイマー)>は貸し出し・販売を行う』と聞いただろう?

 その言葉そのままだ。


 主を変えられなければ少なくとも『販売』は出来ない。

 まぁ、主側に『好かれる資質』が無ければ定期的に再調教(メンテナンス)が必要になるがな」

「んー…?

 じゃぁその『好かれる資質』ってどうやって見分けるの?」


「その辺りは難しいな。

 当人との相性もあるし、種族などでも傾向が違う。

 まさに『強さ』を見せ付ける上下関係の場合はほぼ全てに共通するが絶対ではないかららな。

 ポルンの場合は『餌を用意出来るか』くらいだと思うんだが…その辺は様子を見ないと分からんな」

「おぉ…ならセリナさん主の素質ありってことだね!」


「違ったら殺処分か再調教依頼になるんだがな。

 だからセリナは殺処分になら無いように『飼っても良いか』を上司(・・)のわしに聞きに来たんだよ」

「『お父さん』じゃ無い辺りがセリナさんらしいね」


とはいえ『お父さん!』と言いながら飛び出していったが。

余程ミントが他の誰かの元へ行くのが嫌だったのだろう。

そう思うと理熾は改めて嬉しくなる。


「セリナももう17だからな。

 自立心が強いというのは貴族としても人としても求められる。

 とはいえ親としては余りに手を離れられると寂しく感じるんだがな」

「………え?」


「ん?」

「17歳?」


「セリナか?

 そうだぞ。

 しっかりしてるだろう?」

「え、うん。

 凄く…ってえぇ!?

 セリナさん17歳なの!?

 最低でも20歳(ハタチ)は超えてるもんだと思ってたよ!?」


「ぁー…確かに大人びた落ち着いた子だが、それは余り言わんでくれよ?

 見た目的には20代中頃辺りに見られることが多くて気にしているからな」


まさに衝撃の事実である。

いくら領主の宿とはいえ、若干17歳にして総支配人である。

趣味でやっているとはいえ、宿泊客からすれば『高級宿』でしかない。

経営力や頻発する問題への解決能力が無くては勤まらない。


しかもセリナは女将の役割を担いながらも領主(ギルバート)の補佐までこなしているのだ。

そもそもあけみや自体が何年もやっているらしいことを思えば、一体いつから働いていたのかさっぱり分からない。

たかだか17歳の肩に乗せるには余りにも荷が重いはずである。


「そう、なんだ…。

 でもそういう人って30でも40でもその歳に見えるよね」

「そうだな。

 だが本人にとっては『今』の方が大事だろう?

 それに実感するには後10~20年掛かるからな」


全くその通りである。

理熾は逆に幼く見られるために色々と苦労することが多いことを思うと、似たようなものなのだろう。

結局『年相応』に見られるのが一番平和なのだと理熾は新たに学んだ。

お読み下さりありがとうございます。

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