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神様のおねがい  作者: もやしいため
第十章:アルス領お家騒動

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【幕間:神域】神様の課題

私がクーリアに対して話した内容はありえない話だった(・・・)。

過去形なのは理熾自身が体現してしまっている以上、ありえないとも言えなくなってしまったからだ。

そもそも魂の力を過激に消費し続けるという状態は普通無い。

そんなに消費してしまうと出力が強すぎて通常は先に身体にガタが来てしまうからな。

それほどまでに『魂の力』というものは高いエネルギーを持っている。

だというのに馬鹿みたいな消費を続けるんだからまさに『馬鹿』としか言いようが無い。

ちなみに問題なく稼動しているのはガタが来たところで【体術】が問題を押し流すのと、【修復】を手に入れたのが大きい。


そんな話を滔々と落ち着いた声色で諭すように語ったのだが、クーリアは百面相だったな。

最初はかっか(・・・)していたのに、すぐに意気消沈。

自身の不甲斐なさと盲目的な状況に後悔を滲ませながら解決策を見出せず。

結果、私が出した【神託】に縋るのだから、本当に人らしくなったものだ。

今後はクーリアから私への報告が上がることを切に願おう。

でなければあの危なっかしい子供は気が付けば玉砕していそうだからな。


しかし今回のは本当に危なかった。

気付くのがもう少し遅ければどうなっていたことだろうか。

違和感を覚えたのはつい最近…馬鹿貴族(ガウス)と対峙した際だ。

【隷属の首輪】を掛けられ、騙すために指示に従い、《障壁》を生成した。

それを人攫い達が数人掛りで壊そうと躍起になっていた時、秘かに理熾の生命力(HP)が微減していた。

確かに処理能力と魔力を惜しみなく使って強固に編んだのだろう。

だがそれでも『生命力が減るのはおかしい』のだ。


魔力を使ったり、行動するだけで生命力が削られる生物が居るか?

答えは否。

理熾は『いつものこと』として取り合わなかったが、それらは本来ありえないことなのだ。

そもそも気付かなかった可能性もあるが…もしそんなことが起きれば危険すぎて魔法が廃れてしまう。

使うだけで命の危険があるような技術をわざわざ利用するなど馬鹿だからな。


そこで気になり、調べてみた。

まぁ、他の天使に指示しても良かったのだが…気晴らしというのも兼ねて。

ちなみにクーリアに調べさせなかったのは、感情値が高まり暴走しそうだったからだ。

この案件は『より最悪を想定して考える』というのが必要だったため、クーリアには任せられなかったのもある。


その結果が、『常時魂の微減』という症状。

ハイオークと対峙した時には既に微減が始まっていたことを知った。

最後に取った【魔闘技】、【剛力】、【肉体強化】がいけなかった。

いくらスキルが占める魂量の容量が少ないとはいえ、同じ方向性のものをいくつも取れば相乗効果も生まれる。

結果的に魂を食い潰す程に出力が高まってしまい今回のことだ。

いや、ハイオークを倒してLvが上がり、能力値を大きく増やしたことも理由なんだがな。


その中でも消耗が加速したのは武技を覚えてからだ。

武技は身体能力や魔力を一瞬だけだが酷使するので『生命を燃やす行為』に値する。

それでも『日常生活よりは消費する程度』なんだが、理熾の場合出力が違うので仕方がない。

今思えば『微減している』というのも事態の発覚が遅れた一因だろうな。


対策として慌てて末っ子(アシュレイ)の【神託】を用意した。

ラボリ迷宮に用があるのも本当だが、まずは理熾を何とかせねばならない。

報酬である拡張パックの本来の目的は、長期的な休息を強いられた者に対する救済措置のもので擬似的な成長を促す。

そこには魂の容量を大きくすること含まれるからな。


そして相対する公爵子息(カルロ)に対して護衛を引き受けた時点で報酬が支払われる手筈だった。

そう、私はこの事態を報酬である『拡張パック』で対応するつもりだったのだ。

その時は時間も無かったためにクーリアに発令指示だけ出して次の作業に入った。

それをあの子供は、相変わらず私の配慮をかいくぐって行動するから困る。


翌日気になって見てみれば変わらない…どころか、悪化していた。

まぁ、拡張パックを使っていないのだから当然だな。

『護衛は受けるが後回し』であることを知ってかなり焦ったものだ。

理熾のLvはまだ30台なので停滞期まではまだ少しある。

魂量は火の車ではあるものの、もう少しだけは大丈夫…だと思いたい。


しかしそれも気休めで、Lvが上げられなければ多大な消費だけして枯渇する。

その事実を理解し、頭を悩ませていた時に女将(セリナ)の誘拐事件が発生した。

【神託】による強制的な能力調整を施す最良の案件だと思い、画策した。

結果は…思った通り、即座に行動を開始し、能力値を献上した。

その時にクーリアが暴走しかかったのは愛嬌か。

本当に感情豊かに…まぁ、表面的な模倣にすぎないだろうが。


「クーリア、落ち着いたか?」

「はい、主様。

 お見苦しいところを…」


「名持ちになってから日が浅いから仕方ない」


私はそうクーリアに告げる。

慰めでもなく、これはただの事実だからな。


ともかく。

そこからの理熾の行動は余りにも早かった。

ギルド、領主館を経由し、神功(フィリカ)の店に到着した時には状況を整理しきっていた。

余りにも早い移動は全て<空間使い(ディメンショナー)>の恩恵だろう。

能力を20%(一人分以上)も取り上げた状態でよくやる、としか言いようが無い。

しかも披露した推論は異論を挟めないほどの完成度で、一体何処でこんな話に纏め上げたのかと疑問に思うしかない。


「流石理熾様です!」

「復活早いなお前…」


「何のことですか?」

「いや、良い。

 それよりもこの後が気になるな…」


「確かに…付き合いがある貴族の領主(ギルバート)には断られてます。

 当然部下である騎士副団長(ルルガ)も情報を公開することは出来ませんよね」

「そうなるとまさかのアルス領全捜索か?」


私達がそんな馬鹿なことを言っていると他に知っていそうな貴族に当たりをつけた。

なるほど、馬鹿貴族共(ガウスとカルロ)か。

爵位だけは高いから役に立つかもしれんが…いや、無理か。

あいつがそんなことで尻尾を掴ませるとは思えんな。


「何だか候補者がどんどん増えていきますね」


貴族達を訪問の最中にクーリアがそんなことを言ったのが気に掛かる。

おかしな話だがまさか…


「…お前、もしかして犯人が分かってないのか?」

「えっ!?」


そうか、知らないのか。

まったく困ったものだ。

いくらなんでも守護対象(りお)に集中しすぎだ。

せっかく『管理者(かみ)の視点』で状況を見れるというのに主観でしか理解していないとは…。

いくらなんでも無駄遣い過ぎるだろう。


「………そうか。

 やはりお前には周りが見えていないようだな」

「えええ!?

 今すぐ情報をかき集めてきます!」


「いや、やめておけ。

 過去の情報を取り上げるよりは現在の情報で推測して犯人を特定してみろ」


慌てるクーリアを押し留める。

今更過去の情報を拾い上げても仕方が無い。

答えが分かったところで伝える方法が無いので意味がない。

ならば現在進行形で状態に不安が残る理熾に注意を向ける方が良い。


「…何故ですか」


さっきも領主や馬鹿貴族(ガウス)を威圧したし、公爵子息の護衛(ロッソ)に関しては力ずくで制圧したばかりだ。

普段の理熾を思えば絶対にやらないであろう所業をあっさりと行っているんだぞ?

危なっかしくて目を離せないというのに、こいつは一体何を見ているのだ。


「何故もなにもあるか。

 あの状態の理熾を放っておく気か?」

「う゛…」


「お前が今知る情報と、これから得る情報だけで特定しろ。

 盲目的なお前が包括的に物事を見る良い練習になるだろ?」


私が言い放った言葉にクーリアは一瞬驚き、二度ほど頷き「必ず見付け出しますっ!!」と宣言していた。

いや、多分もう手遅れだと思うんだがな。

…ヒントくらい出してやろうか。


「主犯は全く知らない第三者ではない。

 だから名前は既に理熾も知っている。

 であれば必然的にお前も知っているということだ。

 それだけ注視しているなら必ずな。

 今回のことで候補が増えたと言っても理熾が知る名前は少ない。

 特定するのは容易いことだと思うぞ?」

「は、はい…」


「では後は頼んだ」

「…あ、でももうすぐ解決しますよ?」


「は?」


思わず出た言葉と共に視線を戻すと理熾が大暴れしている最中だった。

ついさっき指揮官(ネーブル)に窘められたばかりだというのに手が早い。

しかも女将(セリナ)を人質に取られて完全に潰す方向に切り替えていた。

それでもあれだけブチ切れしていてきちんと手加減しているというのは、殺人を忌避する日本人の常識かもしれんな。


人攫いを駆逐した理熾は女将を解放して安堵のためか泣き出した。

その辺りはやはり子供なのだな、という感想を持っていると横でクーリアが舌打ちしていた。

あの顔は恐らく「私が側に居れば…」とか意味不明なことを思っているのだろう。

天使が顕現するだけでもそこそこ大事なのに、『人に並ぶ』ようなことをして良いはずが無いだろうが。

先ほど感情にあてられたのが尾を引いているようだ。

管理者側である私達はあくまで彼等の『上』でなくてはいけないからな。


「あれ?

 何で最初から【重力魔法】で押さえつけて制圧しなかったんでしょうか?」

「そうするとほぼ無傷で捕らえることが出来てしまう(・・・・・・)からだ。

 要は理熾からすると最初から『優しく制圧する気』が皆無な訳だ。

 わざわざ『力ずくで捻じ伏せる(痛い目を見させる)』という工程を入れたいんだろう。

 心情的にも対外的(女将のため)にも、省くことなどありえない…だからこそ打撃による制圧を行っている」


「なるほど…。

 ですがそれでも押さえつけてた方が楽に終わりませんか?」

「その辺りは制圧の際に怪我を負わせると出血が止まらないからだな。

 痛めつけるような攻撃を受けたら1Gの状況下でも自然には血が止まらない。

 となれば3Gや4Gの環境だと血を絞り出されるようなものだ。

 武器は扱っていないが、矢で手を射抜いているだろう?

 女将を人質に取った連中は搾り出されて怪我の割りに血溜りを作ってるのはそのためだ」


私の説明にクーリアはしきりに頷いている。

基本的な能力は高いくせに相変わらずあちこちが抜けている。

状況と結果を理解しているくせに過程を結べないからこんなことになるのだ。

『知識しか持たず使えない』というのはこういうことを言うのだろうな。


「それにしても普通は感情値が高まるとその処理に能力を使い切ってしまう。

 それが理熾は処理能力が高く『理性』の入る余地がある。

 結果、今の理熾は感情的だが理性的という相反する状態を抱えたまま行動している。

 最初の人攫い達の制圧方法を考えれば『まさに』の対応だし、今ですら手加減している。

 余裕が無くなった訳ではなく、単純に更に感情値を上げたというのが【重力魔法】を使用した理由だ。

 そう思えば滅多に見れないような面白い状況だぞ?」

「理熾様が激怒してるのに何が『面白い』ですか!」


状況をよく理解していないお前に言われても何ら響かないんだがな?

とりあえず女将の救出も完了したようだし、後はクーリアで問題なかろう。

問題があれば報告してくるだろうしな。


「激怒くらい人…いや、感情を持つ生物ならばする。

 感情の起伏があるのは通常の範囲内だ。

 むしろ今までの扱いで『特に気にしない』という方が驚きだ。

 まぁ、理熾の場合は『何事にも自信がない』からこそ何を言われたところで響かないみたいだがな」

「自信がない…?

 あれで、ですか?」


「お前も見ている癖に見えていないんだな。

 最初の選択からそうだろう。

 わざわざ『器用貧乏になる決意』をする者など居ないぞ?

 確かにどんなことにも対応するのは難しいからこその選択だ。

 しかし結局求めたのが戦力であることを思えば常識に従って特化した方が遥かに簡単だ」


そうなのだ。

何を言っても、理熾が手にした力は戦力でしかない。

だというのにスフィアでの常識である専門家(スペシャリスト)ではなく、誰もが眉を顰める器用貧乏(ゼネラリスト)を選んだ。

その理由も簡単だ。

単に『特化したところで負かされる』と確信しているからだ。

比肩するのも馬鹿らしくなるようなのが近くに二人も居ればそうなるのも仕方ない。

むしろその環境でも腐らずに『普通に過ごせる』というのは関係性のせいかもしれんが、なかなか無いことだろうな。


「だが実際に選んだものはクーリアも知る通り。

 特化しないことに特化する理熾の強さは選択肢の幅だ。

 なのに『選ばない』という選択肢により行動速度を上げるなんてこともする。

 そもそも特化型の相手が普通なのに理熾は正反対…相対する者は本当にやりにくいだろうな?」


特化は比類無き強みではあるが、分野が特定されてしまう。

つまり弱点を突かれれば一瞬で瓦解することを理熾は良く知っているのだ。

それは二人との日常を思い返せば分かる。


そうだな…悪口を『意見』として聞き入れるのは心が広いと言うべきだろう。

むしろ四六時中負け続けているのだから、別に心に響かないのかもしれない。

防犯ブザーは危機に陥った非日常に効果があるものであって、学校という日常で使用するものではない。

教科書の件でも、勝ち組の二人は『貸す方法』を考えたが、単純に理熾は『文句が出ない方法』を考案した。

必要なのは教科書の『中身(情報)』なのだから、便利に読めればそれが最善だ。


まぁ、優秀な二人はそんな迂遠な行動を取らずとも真正面から薙ぎ倒すのだろうが、結果的に好転しているのは理熾の方法だろう。

悪口を庇ったから周囲からも悪意の矛を向けられることが無くなった。

ブザーを鳴らして暴力事件を事前に防いだから上級生と仲良くなった。

教科書に至っては荷物が減ったし、悪戯されたところで『交換可能』だから無意味になった。

そんな風に根本的な解決に至っている。


特化した力を持つことを理熾は否定しないが、だからと言って肯定もしない。

理熾にとって努力とは無駄でしかなく、いかに効率よく結果を手にするかが大問題なのだ。

だからと言って切羽詰った状況下でこれほど簡単に特化することを選択肢から外すというのは面白い。

多くの方法を考えられるというだけで『特化しない』のを選択するのは潔すぎる。

あえて少数派に踏み込み、多数派の対策をこれでもかと練り上げる。

その結果が今の器用貧乏の一歩先だ。

実際に大半の問題は『解決すれば良い』のだから間違いではないがな。


「流石理熾様ですね!」

「いや、それはもう聞き飽きた。

 他のバリエーションなら聞いてやらんこともないが…」


「素晴らしい!

 拍手求む!

 悔い改めよ!」

「煩い。

 悔い改めるのはお前だよ」


何だか良く分からんが張り合ってきたクーリアをばっさり言葉で切って続ける。

私もそろそろ他に手を付けねばならないからな。


「とりあえず女将も救出されたことだし暫くは平穏だろう。

 ただし回路を繋ぐのは後日にしておけ。

 今日はどんな余波を受けるか分からんし、何よりお前が不安定だ」

「そうですか?

 私は凄く元気ですよ?」


「そうだな、そうかもしれん。

 だが言うことは聞いておけ」


私の言葉に不服そうなクーリアを置いて次の作業へと向かう。

まったく…人らしくなったものだ。

お読み下さりありがとうございます。


前回のポルンのお話で、皮むきする野菜をたまねぎ→トマトに変更しました。

玉葱剥くのは手間が掛かったとしても難しくなく、恩恵が分かりづらいので(。。

湯剥きしなくていいって凄いと思いませんか?w

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