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神様のおねがい  作者: もやしいため
第九章:口煩い貴族様

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イルマ迷宮5

迷宮(ダンジョン)は核を守るべく、守護者(ボス)を立てる。

それらは総じて迷宮のランクよりも一段階上の魔物になることが多い。

これは自身の心臓部を守るために無理をして、強力な魔物を用意しているからだ。

この『強力な魔物』というのは単体・群体でそれぞれ強力なものの差はあるが、単純に迷宮のランクよりも上位の難易度になる。


本来であればこの核の守護者を倒されたら、核を奪われることはほぼ確定的だ。

稀に相打ちという結末もあるので一概には言い切れないが。

しかし管理迷宮は核を奪われない…となるとどうなるか。

一時的に『守護者不在』という期間が発生する。


守護者が強力な分、迷宮が新たに用意する状況になると時間が掛かるのだ。

その期間はまちまちではあるものの、早くて半日程度と言われている。

たまたま討伐後に通りかかれば、棚ボタでクリアできるという事案も稀にあるらしい。

ちなみにそれでも昇格試験(ランクアップ)は合格する。

運も実力の内、という訳だ。


現在目の前の広場は恐らく迷宮最後の戦闘区域になるだろう空間には何も無い。

ただの平地で、ごつごつした岩がいくつか転がっているくらいだろうか。

理熾の【直感】(シックスセンス)は嫌な感覚を示しているが、『何が』とまでは分からない。

単に守護者が発生するこの空間の特殊性についての警告なのかもしれず、判断に困る。

その原因は迷宮に対して理熾が初心者(無知)だからである。


「ダンさん、何か嫌な感じがする」

「リオ君のカンは当るからなぁ…。

 だが、これではこの場で様子見するにしても何も分からんな」


全くその通りだ。

そしてだからこそ踏み込まなければいけないというのも理解できる。


「前のパーティが倒しちゃったんじゃないの?」


そう楽観的に告げるのは槍のルーチェだ。

攻撃役に相応しい猪突猛進な意見ではあるが、この場合はその言葉も真実に聞こえる。

いないのだからむしろ有力な意見とも言える。


「どこかに隠れている、とかか?」


マドックが告げるのは理熾が最も警戒している内容だ。

奇襲を行うが故に不意打ちの怖さを知る理熾からすると、その一撃がどれだけ致命的かを理解している。

しかし。


「とはいえ、俺もリオ君も見つけられんとなればどうしようもないな」


というダンの意見にしかならない。

隠れているにせよ、倒されているにせよ、その問題を見つけられないのだから様子を見ることすら出来ない。

こうなれば理熾としても判断するのが難しい。

なので理熾は一歩前に出る。


「リオ君!?」

「いきます」


弓を構えて矢を番え、《紫陽花》を発動する。

隠れているにせよ、この矢の雨を気にせず過ごせる者は居ない。

そしてさらに《影矢》を繋げて放つ。

《影矢》の特徴は、先に放たれた矢の軌跡を追いかけるように放つ武技である。

つまり《紫陽花》によって100本ほどに分かたれた矢を追随するため、《紫陽花》を2連射することに他ならない。

理熾が放った矢はたった2本にも関わらず、目の前の開けた空間を200程の矢が駆け抜けた。


「「「「なっ!?」」」」


その光景にパーティ全員が驚愕する。

《紫陽花》の武技としてのランクは4。

全ての武技にはタメと、発動と、反動が存在する。

これら全てが『行動遅延(ディレイタイム)』として必要な工程なのだ。

《紫陽花》は《乱れ撃ち》とはまさに格の違う武技であり、それを2連射するなどありえない。

だから全員が驚いたのだが…


「ガァァァァァアア!!」


それらの驚きは大音量の雄叫びによってかき消された。

やはりこの場には『何か』が居たのだ。


目の前に存在した岩石から、揺らぐように現れたのはごつごつした土塊。

大蛇と言うべきか、ミミズと言うべきか迷う、幅50cm、長さ4mにもなる巨体。

岩石兵(ロックゴーレム)のような表面なのだが、形は全く違う。

どう見てもそれ以上で、理熾の矢を受けても表面の岩のような肌が受け止めたようで刺さりすらしていない。

だが理熾としても探査目的のための武技なのでダメージが無くとも気にしない。

明らかにEランクとしての威力は逸脱しているのだが。


「アレはやばい!

 何だってワームが居るんだ!」


ダンは即座に撤退を指示。

余程拙い相手なのだろうが、理熾は分からない。


「ワーム?」

「迷宮亜竜(ダンジョンワーム)って種類の魔物だ!

 ヤツは土属性っぽいからDランクのアースワームだ!

 こいつらは種類は多いんだが、共通して群れで狩をする!」


そんなことを説明しながら一気に背後へと走る。

一段階上のランクが複数居るというのだから、他の面子も必死だ。

【直感】が嫌な感じがするに決まっている。

理熾は少しだけワームを観察すると、最後にその場を後にする。

その為に一番最後…殿をすることになってしまった。


しかし逃げることは出来なかった。

残念ながら逃げた先にも1体だけではあるものの、待ち構えていたのだ。


「ギィィィ!」

「やばい、マドック!!」

「あいよ!」


後衛を守るようにマドックが盾を突き出し突貫する。

質量差なのだろう。

あっさりとマドックが押し負け、盾の背後で膝を付いて堪える。

だが盾で衝撃を逃がしたお陰でワームの勢いは止まる。

そこへレーンの矢と、アイリが詠唱を終えた攻撃魔法を叩き込む。

魔法の正統派(オーソドックス)である、属性魔法だが残念ながら彼女の火属性は土には相性が悪い。

表皮を軽く抉る程度にしかならないし、レーンの矢は弾かれるしかない。


「私の魔法じゃダメ!」

「矢も刺さらない!」

「諦めるな!

 口から中を狙え!」


アイリとレーンの悲鳴にも似た声にダンが指摘する。

やはり瞬間的な攻撃センスは良いらしいが、それでも前もって伝えるべきだ。

そうすればアイリもレーンも無駄撃ちせずに済んだのだから。


「はぁぁぁあ!!」


と声を張り上げて気合を入れつつ、アイリが削った表皮にルーチェが槍を抉りこむ。

頑強な表皮を魔法で抉られた分、防御力がかなり下がったらしい。

「ピギィィ!」と悲鳴を上げるが、それでもまだまだ元気に暴れる。

それを示すかのようにルーチェが槍を引き抜こうとした時にワームが身体を捻ったために引き抜けず、身体ごと振り回される。

しかも槍が刺さったまま暴れるワームはしがみつくルーチェに身体を叩き付け、弾き飛ばす。


「きゃぁ!!」

「ルーチェ!!」


弾き飛ばされたルーチェを横目にダンが声をあげる。

だがそんなことをする暇があるなら行動すべきだ。

このままだと地面へ叩き付けられての二次被害と、背後のワームに襲われる可能性がある。

それらを排除するために理熾は弾き飛ばされたルーチェの服を手を伸ばして掴み、引き下ろす。

ダメージがどの程度あるかは分からないので、《亜空間》から回復薬を2つほど取り出して割って浴びせる。

発射準備前の投剣を地面に突き立て、踏み込んで《結界》を起動する。

これで《結界》がある分ルーチェは大丈夫なはずだ。


「リオ君!?」

「前見て!」


理熾が何をしているかさっぱり分からないダンは声を上げるが、理熾は叩き付けるように返答する。

目の前のワームすら倒せていない…危機を切り抜けてなど居ないのだ。


 まずい…数は多分5。

 しかも後ろからも迫ってきてる…。

 せめて一方向だけなら…リコ! 


理熾の意図を読み取り、リコがフードから飛び立つ。

【重力魔法】による加重で足止めし、理熾が矢を放つ。

全員の間隔が狭く、何より後衛と敵との距離が近すぎる。

しかも前に味方が居るので投剣と《結界》で弾き飛ばして距離を取るということが出来ないのだ。

何より彼等に理熾の奥の手(投剣)を見せる気は無い。


その点、【士魂の強弓】の矢はピンポイントで放てるし、威力も高い。

暴れまわっているワームも撃ち抜く自信もある。


『ガ!』という音と共にワームの表皮に矢が突き立つ。

しかもその衝撃でのけぞるおまけつき。

理熾はそこへ《二の矢》、《影矢》での4連射を同じ場所に魔力を付与して穿つ。

岩石兵(ロックゴーレム)の時のように貫通し、胴に直径5cm程の穴を開けるが、それでも死なない。


頭をこちらに向けて改めて「ギュアァァァ!」と威嚇しながら近付いてくる。

それをマドックが必死に弾き、後退する。

余りにもタフな相手に理熾も困る。

背後からは先ほどのワームも追ってきている。

これ以上時間は掛けられない。


仕方が無いので理熾は黒鎖鋼の槍を取り出す。

ダン達はギョッとしていたが気にしている場合ではない。

正面のワームが危険度の高い理熾に向けて自身を発射しようと身体をくねらせ、口を開いた瞬間に思い切り振りかぶって本気で投げた。


理熾に投擲系のスキルは無い。

だが20mも離れていない距離と的の大きさに【武神】の補正。

更に槍の刺突に属する投射系の武技、《破葬(はそう)》を乗せて放つ。

凄まじい威力の乗った槍は、味方パーティの間隙を抜けてワームに到達し刺し貫く。

開いた口から胴へと貫通し、蛇の串焼きのようになったワームは身動きも取れずに沈黙する。

こうなってしまえば死んだかどうかなど最早関係ない。


理熾は投げ込んだ槍の行く末すら見ずに背後へと向き直り、《障壁》を展開する。

『キン!』と高い音を立てて強固に編まれた《障壁》に2体のワームが殺到し、『カシャン!』と高い音を立てて砕け散った。

その音にダン達が『ビクッ!』と身を竦ませて向き直るが、反応が遅すぎる。

特にダンは周囲にある気配を把握しているはずなのだ。

指示してくれなければ困る。


「ダンさん、指示!

 とりあえずそっちの1体お願い!!」


理熾はダンに仕事を振る。

全部を同時に対処することなど出来ないのだ。

一瞬だけでも時間をずらさねば理熾以外はミンチになりかねない。

理熾の声にダンが反応して「マドック、潰せ!!」と指示を伝え、気配を読み取り牽制を入れる。


「おう!

 レーンとアイリは気にせず撃て!!」


とマドックは身を固めて再度突貫する。

あの頑強さはやはり素晴らしいが、体力はゴリゴリ減っているはず。

理熾は回復薬を《拡張空間》から取り出して投げて矢で射抜き、マドックの体力を回復させる。

共に《亜空間》は使わない。

《亜空間》が使える【空間魔法】は今、リコがさっきの2体のワームに対して投剣を放つのに使っているからだ。


リコは放った投剣の《結界》を起動して纏わせ、空間打撃を行う。

『ガシャン!』という大音響と共に2体のワームが堪え切れずに吹き飛ぶ。

数mも浮いて宙を舞って地面に叩き付けられ、ワーム達の表面を覆っていた堅牢な皮膚が衝撃で剥がれ落ちている。

そこへ更にリコが投剣と極薄の《結界》を放ち、三枚おろしのように上下に両断する。

誰がどう見ても息など無い。


リコの所業を理熾は見ることも無く、ダン達の反対側にいる1体を相手取る。

《乱れ撃ち》に《穿矢(せんや)》を乗せて硬い表皮を剥がしてのけぞらせる。

他の面子が見てないことを良いことに、そこに紅蓮鉄鋼の斧で《両断》の武技を横薙ぎにフルスイングして真っ二つにする。

表皮を剥がさなくても余裕で二つに出来そうな手応えを感じながら《亜空間》へと仕舞う。

リコと違って胴を横からなので輪切りにしてしまっている。


ほぼ同時に合計3体を片付け、リコは理熾のフードに潜る。

掛けた時間は20秒ほどとは言え、このパーティには相性が悪すぎるワームを欠ける事無く凌ぐのは流石だ。

やはりマドックの技量が群を抜いている。


細剣士のダンや弓のレーンでは表皮を破ることは出来ず、アイリもタメが要るのに削れるのは表皮だけ。

削った表皮に攻撃を合わせれば何とかなるのだが、ダンもレーンもそこまでピンポイントに攻撃できないのだ。

結果、決定打が存在せずにマドックが抑え続ける。

このままではマドックの体力を削り取られて負けが確定する。


理熾は加勢してダン達の背後から矢を放つ。

まさに後衛という立ち位置だが、攻撃として成り立っているのは理熾しかいない。

『ズガン!ズガン!』と突き立つ矢はワームの表皮を削ってのけぞらせる。

だが、やはり弓のみでは倒しきるのは難しいらしい。

理熾は更に何発か矢を放ってのけぞらせながら一番前に走り出る。

《乱れ撃ち》に《穿矢》を重ねて放つと最後のワームは全身に矢を受けて更に数m後退する。


「アイリさん魔法!

 レーンさん撃って!!

 二人の後にダンさん攻撃、マドックさんはそのフォローよろしく!」


ダンが呆然と理熾の攻撃を見ていて役に立たないので理熾は声を上げて指示する。

理熾の言葉に我に返った全員は気を取り直して攻撃準備に入る。

この時にはワームの身体から頑強な表皮がほとんど剥がれ落ちていた。


「舞い踊れ炎!

 集え赤熱、砕け《炎弾(フレアバレット)》!」

「《流し撃ち》!!」


後衛二人の準備が整い、まずはアイリの真っ赤に燃える10cm炎の弾丸が3つ形成されて放たれる。

《炎弾》は凝縮した火炎を敵にぶつける魔法だ。

出が早くて数も増やせ、速度や凝縮度によっては着弾時に大きく弾けるので低級ながら多用される魔法だ。

だが弾丸のようなものはただの火(熱)なので、物理的に散らすことは可能だったりする。


それを追うようにレーンが速射系武技を射掛ける。

回数が決まっている連射とは違って『早く放つ』という武技であり、体力やMPの続く限り使い続けられる。

ランクや使用者によって威力や速射性が変わるという武技で、今回レーンは6連射していた。


剥がれた表皮にそれらの後衛火力が殺到して悲鳴を上げてのたうつワーム。

矢が雨が降り終わり、熱波が緩んだ瞬間にダンが切り込む。


「《三斬霞(さざんか)》!!」


という声と共に刻まれる軌跡は三角。

細くて軽い剣だからこそ使えるこの武技は一息に3回の斬撃を行う武技。

隙が少ないので使い勝手は良いものの、切り返しを行って攻撃回数が増えるが、その分一撃の威力が足りない。

逆に言えば一撃の重みを捨てて負傷狙いとも言える。

…だからこの時の選択としては間違っている。

本来ならば止めとなる重い一撃が必要だったのだから。


ワームは身体に少し深めに傷を負っただけで、止まる事無く攻撃手で技後硬直(ディレイ)の為に身動きの取れないダンに迫る。

そこへすかさず割り込んだマドックは「おぉぉぉ!!!」と声を上げながら盾を突き出し《ずらし》を発動する。

力の向きを変える【盾術】の基本武技だが、発動が早く、隙も少なく使い勝手の良い武技である。

ただし攻撃の威力が高すぎると押し込まれるため、技量とタイミングが不可欠になる。


「ぐぅ!」

「ぐあぁ!」


マドックの《ずらし》は綺麗に発動してワームの向きを逸らしたものの、それでもダンと二人揃って強かに打たれて吹き飛ばされる。

理熾はマドックは良くやったと本当に思う。

しかし、フォローに回りすぎたことでダメージを受けすぎているし、何より相手は格上だ。

それを受けきることなどそもそも不可能なのだ。


理熾の手が届く範囲ではなかったため、残念ながら拾えなかった。

しかしこれで前衛が一時的ではあるものの、全滅したことになる。

後衛火力だけがまともにダメージを与えているが、それでも魔法はタメが必要だし矢程度では足は止まらない。

前衛が居ない今、抵抗すら出来ずに轢き殺されるのは目に見えている。

アイリとレーンはそんな近い未来を想像して顔を引き攣らせた。

辛うじて声を出さなかったのは『音を立てると狙われる』と感じたかもしれない。

その時理熾の張った《結界》が揺れた。


「何これ!?

 ここから出して!!」


どうやら最初に離脱したルーチェが復帰したらしい。

五体満足で、骨にも異常が無いようで元気に立って《結界》をドンドンと殴っている。

理熾はルーチェが『捕まった』と思って暴れているのだと思い、《結界》を解除する。

『これで安心してもらえれば…』と思った矢先、理熾達の横合いを抜けてルーチェがワームに駆け寄る。


「「ルーチェ!」」


二人が叫ぶ横で理熾は呆然とルーチェを見送ってしまった。

次の瞬間【直感】が警鐘を鳴らしたことで理熾は失策を理解した。

ルーチェは『前衛としてワームの前に立つという選択をした』ということにようやく思い至ったのだ。


「あぁ、もう!!」


見ていることなど出来なかった。

このままではダンとマドックの二の舞だ。

いや…マドックが居ない以上、それよりももっと酷い。

確実に一撃で潰される。

そんな光景を絶対に見たくは無かった。



だから、理熾は本気でワームを殴り飛ばした。

お読み下さりありがとうございます。


忙しくて続きが先が書けない…やばいです。

ストックはあるけどこのままだと整合性が取れなくなる可能性がぁぁぁ…(つω;`

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