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神様のおねがい  作者: もやしいため
第七章:楔の解放

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前夜祭

結局理熾とリコは約4時間くらいでゴブリンの集落(コロニー)(色々含めて100体くらい)1つ。

ウッドウルフの群れ23体、オーク9体、巨大な蜘蛛である森蜘蛛(スパイダーフォレスト)7匹、を攻略した。

遠出しすぎてオーガ3体はご愛嬌だろうか。


理熾にとって初めてのパーティー戦闘(?)だったのでかなり張り切ってしまった。

気が付けば日が翳り、「こりゃまずい」と進路をアルスに転進。

リコに【精神力吸収】(メンタルドレイン)をやめさせて障害物の無い空中に《障壁》を置いて全速力で帰宅した。

MPを持っていかれると途中で《障壁》が張れずに落ちるかもしれないからだ。


帰路で猛禽類の魔獣を見かけたが、進路上以外は全て【隠密】でやり過ごした。

やむなく相対した魔獣も空中を走ってくる敵なんて見たことが無いから、驚いている間に《亜空間》からの矢で辻斬り感覚で突っ切った。

絶命して空中を漂う敵を《亜空間》で拾うのも忘れなかったのだが、倒した魔獣の名前は実は全く知らない。


余りにもリコとハッスルしてしまったために理熾が血塗れで帰ってセリナに説教をされてしまった。

「また無茶して怪我は無いの!?」と言う風に、実際は心配されていたのだが、理熾は気付かなかった。

それを2階からにまにましながら奴隷四人が眺めているのは屈辱的であったものの、確かに血塗れはダメだと反省。

次からは拭う物を持ち歩こうと決心し、フィリカに「最適付きのタオルを頼もうかな」とか考えていた。

しかしセリナが言いたかったのは『心配させるな』ということなので根本的なところではやっぱりすれ違っていたりする。


「とにかくお風呂に入って来なさい」


というセリナの言葉に従い、まったりゆったりとお風呂タイムだ。

ついでなので四人も連れて入る。

湯に浸かる前に返り血を流さないといけないので先に洗い場だ。

本日の収穫その他をちょこちょこ話す。


「リコちゃんがLv13になりました」

「いくつからだよ?」


「Lv4だっけ?」


レモンの質問に理熾が答え、リコが上下にふよる(・・・)。

しゃこしゃこと頭を洗うのも、これだけ汚れていれば楽しくなる。

とても平和な日常である。


「は?

 今日で9つも上げたのか?」

「リコ優秀だよねぇ。

 僕追いつかれるわぁ」


「確かに最初は上がりやすいが…。

 あそこからだろ?

 たった数時間で9つ上げるって一体どんな無茶したんだ」

「ふふ…レモン君。

 君のご主人様は毎日進化(・・)しているんだよ!」


「ビシッ!」と横で一緒に身体を洗うレモンを指差ししてキメる。

この行動に特に意味は無い。

だが実際たかだか一日二日でスキルを習得していくのだから、進化と言っても差し支えないだろう。

他人は一ヶ月や一年掛けて手に入れるのだから。


「ま、ライムに教えてもらった【重力魔法】使ったんだけどね」


と種明かしすると先に奥で「はぁ!?」という叫び声が上がる。

声の主はライムで、その絶叫は当然ともいえる。


「そんな簡単に使えてたまるか!

 魔法に限らずだが習得にどれだけ苦労すると思ってる!?」

「えーそんなこと言われても出来たしー」


「ほらほらー」とライムを対象に【重力魔法】を展開する。

あっさり展開された魔法はライムの体重を即座に2倍へと引き上げて圧し潰す。

今は服という発動媒体が無いから理熾としては2倍が限界なのだ。

そう考えるとやはりライムは凄いらしい。

「ぐはっ!」としょぼい悪役みたいなうめき声を上げながら倒れるライムを横目に魔法を解除する。


「ね?」

「『ね?』じゃねぇよ!

 怪我したらどうすんだ!」


「【生体魔法】で治しなよ、っあぁ!!」


身体の調子を見ているライムや湯に浸かってぼんやりしてたネーブル、ハッサク、理熾と並んで身体を洗っていたレモンが「ビクッ!」と反応する。

「何だよ?」という無言の圧力を与えて次を待つが、理熾は四人に言葉を掛けない。

一つやることを忘れていたのだ。


「忘れてたよ。

 リコ、四人から【精神力吸収】(メンタルドレイン)して良いからね」

「「「「良くねぇよ!!」」」」


ぼんやりしていたネーブルとハッサクまで混じって奴隷四人がハモる。

なんと言う連帯感だろう。

流石に工作員としてあちこち駆け回った仲だ。


「えー大丈夫だよ、ちゃんと手加減されるから!」

「明日もあるってのに何言ってやがる!」

「ライムとかネーブルはともかく、俺に魔力は無いからやめろ!」

「自分が助かるためだけに二人を差し出すのはやめような、レモン」

「そんな問題じゃねぇよ!

 何勝手に人の精神力奪おうとしてんだよ!」


という感じで急にばたばたやかましくなる。

かしましいというのは女が3人集まった時だけではないらしい。


「一緒に喋られてもー。

 まぁほら、所有者だから?」

「「「「こんな時だけ主人特権?!」」」」


相変わらずのハモリに仲の良さが滲み出る。

あの中に僕も入れる日が…来そうには無いな、と理熾は思い直す。


「ふふ~まぁ、大丈夫だよ。

 MP半分切ったら終了、次は9割以上回復してからだから。

 あ、皆これやれば最大MPと魔力(抵抗力)上がるから皆のためでもあるよ?」

「そんな方法しらねぇよ…」


全員の言葉を代弁してネーブルが話すが声に力は無かった。

対する理熾はリコと全員を強化する企てが出来て大満足である。

MPや魔力といったものはスタミナの関係から、あればあるだけ良いのだ。


「そういえば魔法抵抗(レジスト)ってカットできるの?」

「出来なくはないが…という感じだな」


とライムが解説に回る。

そもそも魔法抵抗は免疫能力、自然治癒、基礎代謝や呼吸のように生面の根幹に直感する能力であり行動だ。

無意識下で行われているそれらを、意識的にカットするというのは大変難しい。

例えば呼吸のように止める、早める、長くするというようなことも出来る。

代謝や免疫、治癒に関しても良く食べ、良く寝て、良く動けば上がる。

だから魔力抵抗も同じような感じである。

出来ると言えば出来るし、出来ないと言えば出来ない。

何とも曖昧なものである。


結論から言うと死に掛ければ下がり、健康だと抵抗値は高い。

また、無意識下の行動を『意識出来る』ならば、呼吸のようにある程度の操作が可能らしい。

出来るものはそれほどいないらしいが。


「あ、リコ。

 五人の内、誰もMP残量が最大にならないように吸い上げて。

 最大まで回復しちゃうと自然回復が止まっちゃうからね。

 僕への供給は必要ないけど、【魔闘技】も一緒に使ってね。

 今なら常に【精神力吸収】あるから無尽蔵に出来るでしょ」


と外部術式容量(ストック)が増えたリコは二重処理を指示される。

単なるアクティブスキルなのでそこまで負担ではないだろうという判断だ。

増えたばかりだというのにいきなり使い出すのは理熾らしい。

全力を出させる努力はするものの、結局理熾はリコには甘い。


「って、あれ?

 今まで気付かなかったけどリコって人のMP残量とか見えるの?」


本当に今更である。

理熾は【解析】を使っても能力値を把握できない。

それなのにリコはあっさりと理熾のMP残量を把握している。

気兼ねなく言ったものの、それが出来るのはおかしいと言えばおかしいのだ。

もし【解析】を使っていても理熾と同じようにしか見えないはずなのだから。


しかしリコはすぐさま上下に揺れた。

肯定である。

理由は分からないが、出来るらしい。

なので理熾は妖精は「そういうステータスまで覗けるんだなぁ」くらいで受け止めることにした。

分からないことは気にしても仕方が無いのである。

ここから先はリコの餌である。

何とも可哀想な四人だが、理熾自身も常に魔力を持っていかれているので同じ立場だ。

結局四人の不満顔は回復の兆しも無く風呂を上がり、夕食である。


夕食は待望のリザードの肉を、余すことなく味わうために『ドラゴンステーキ』を作ってもらった。

明日は気合を入れないといけない一大事でもあるし、せっかくだからというわけだ。

ちなみにこれ、普通に食堂で食べるとえらいことになるのでVIP用の応接室(食事可)を提供してもらっている。

理熾の持ち込んだ特別食材なので、他の客には提供出来ないのだ。

理熾からすれば「あけみやとして提供」してくれて良いのだが、オークとは違って希少食材のためセリナが譲らなかった。


彼女曰く「量があっても買い取ったわけじゃないからダメ」とのこと。

「じゃぁ買い取るか」という話にもなりそうなものだが、それも断られた。

リザードのような竜種をこの鮮度で提供できる者など居ないらしく、値段が付けられないそうだ。

流石に辺境の宿屋の値段が世界に適用されることは無いだろうが、これでもギルバートの持ち物だ。

貴族が買い叩いたと言われても困るし、『その値段で譲れ』と言われてもさらに困る。

変に嫉妬やらやっかみ、羨望やら物欲などの目で見られるくらいなら「身内だけで食べようぜ」ということになったのだ。

今後このリザードの肉は理熾の知人のみに振舞われ、消費される予定である。


リザードの肉は新鮮な状態から、熟成させた状態まで全ての段階で美味しいらしい。

新鮮な時はサクサクとした歯応えと肉の旨味が舌を直撃して撃沈させられる。

肉自体が濃厚な味わいのためほとんどのソースが負けるらしく、味付けではなく引き立てる感じで仕上げるらしい。

熟成した時はしっとりどっしりとした歯触りに熟成肉らしい甘みと深みに加えて、芳ばしさ(・・・・)まで追加される。

燻製にせずとも付く芳醇な香りには触覚と味覚に加えて嗅覚まで味わえる絶品らしい。

こちらは煮込み料理や、隠し味(・・・)に使ったりするそうで、今後が楽しみだ。


ちなみにオークの肉に関しては新鮮なものでも良いが、やはり熟成させた物の方が美味しいらしい。

今もあけみやの熟成用の倉庫にて準備を着々と整えているらしい。

今後が楽しみで仕方ない。


さて、今回の食事はリザードの新鮮なお肉を豪快に素焼きしただけというシンプルイズベストな食事だ。

塩、胡椒などの香辛料は勿論、邪魔をするからと油すらひかない(・・・・・・・)らしい。

熱せられた鉄板の上でパチパチジュージューと音を立て、目と耳を楽しませる。

分厚く切られた一枚が人数分に、一口大のサイコロ状にされたものが山盛り。

本当に切って焼いただけなのだが、この存在感。

「ごくり」と喉を鳴らす音が全員分聞こえる。


付け合せに葉物のサラダとスープが各自に用意され、こっそりと生肉(・・)までが置かれている。

見た目まさにユッケなのだが味付けはなし。

生肉で食べるという習慣は余り無いらしいが、今回は鮮度が良かったので出せたとのことだ。

理熾は生食は食べるし割りと好きな方だが、実は奴隷四人が尻込みした。

何とも意気地の無いことである。

その光景を見ていたセリナが「常識を取り払ってとりあえず黙って食え」と強く言っていた。

なかなか珍しい光景だと理熾は思ったが、セリナにそう言わせるだけの食材と言うことなのだろう。


「ま、主人(マスター)。

 これマジで食っていいの?」

「そりゃもう。

 というか、いただきまーす!」

「ずるいぞ!」

「待て!」

「俺も!!」


といった感じで見掛けだけで精神年齢を崩壊させるレベルで美味しそう。

先程の風呂の一件は流れたらしい。

言葉にするととても軽々しくなってしまうのだが、一口食べただけで分かる美味。

味はシンプルでいて強く、それでいてすぐさま消えてしまうために思わず次を要求する。

肉の塊だけあってお腹にはガツンと来るため、『若者向け』ではあるのだろう。


一枚のステーキはレアで焼き上げられ、サイコロはウェルダン。

ミディアムが無いなと思ったが、一枚ステーキを鉄板に置いておけばミディアムになる。

取り皿も用意されているのだから、とても考えられている。

一枚ステーキのレアはサクサクと変わった食感で、サイコロはカリカリのベーコンのようだ。

ミディアムにすれば筋繊維がほぐれるのか少し柔らかくなってしっとりと舌に絡む。

切り方と焼き方が違うだけなのだがそれぞれ微妙な差があって面白くて美味しい。


対する生肉は強烈だった。

まずはそのまま食べてみると、痛み(・・)が伴う。

軽く毒性も持っていて、そのまま食べるのは難しいらしいが、これが美味い(・・・・・・)のだ。

下処理をせずに出すので、竜種の強さがそのまま発揮されるそうだ。

しかしその分味わいは桁違いで歯に、舌に、鼻に、耳に肉の感覚が直撃する。

その辺はセリナも承知の上らしく、今回の食事の飲み物全てに解毒剤が入っている。

しかも出される飲み物全てが料理に合うという手の込みよう。

それにしても噛み切るのに苦労するほどの食感が心地良く感じるのも変だが、こんなものをどうやって処理するのかさっぱり分からない。


生肉が半分無くなった辺りで赤い液体が出てきたのだが、それがリザードの溶き卵だったらしい。

生卵を食べるという習慣も全く無いのだが、リザードの卵は味が強い。

変に熱するよりも生のままさっと回し掛けて食べる方がソースになって美味しいと考えたらしい。

その読みは正解で、危うく理熾と愉快な奴隷達で弱肉強食の奪い合いに発展しかけるレベルだった。

その危機を止めたのはセリナで、「大人しく食べないなら次は無い」の一言に睨み合いは収束した。


大人しくはなったが五人でガツガツと肉を牽制し合いつつ奪い合っていくのだが、添えてあるスープがさらにシンプル。

白湯かと思えるくらいのほんのりした味と香りが口の中に残る肉の脂を流し、引き立てる。

しかもこのスープは先ほどのリザードの卵が使われている。

ほとんど味付けもしないのに卵1個をお湯に溶かすだけで20人分くらいのスープが出来上がるらしい。

ちなみに単品で食べるとしっかり味が付いているのだから、リザードの肉の味の強さが良く分かる。


付け合せのサラダは『肉の味に飽きた時にソースと一緒に食べて』と言われていたので試してみると驚いた。

大葉のような爽やかさが相まって、口の中が洗われるようだった。

スープもサラダも頭抜ける肉のブレーキであり、ハンドルらしい。

方向性が違うだけでこんなにも味が変わるのだからただただ凄いの一言しかない。


「美味い…」


という感想は誰が言ったのだろう。

それに核を持つような魔物はその含有魔力から、ステータスを上げることで有名だ。

当然食べただけで劇的に上げることは無いのだが、食事で能力が上がるというのは誰にとってもありがたいことだ。

食事を終えるまでに要した時間は1時間。

普段よりも遥かに多い量を食べた自負があった。

むしろ今食べずにいつ食べる、くらいの気負いで貪っていた。


そこからさらに30分間全員がほとんど口を開かず静かに余韻に浸り、プラス30分で美味さを語り合ってようやく席を立った。

『中毒性がある美味さ』と全員が認める味だった。

夢見心地のままノンストップで就寝したのは言うまでも無い。

明日は理熾恒例の命懸けの危険度の高いミッションだ。

お読み下さりありがとうございます。

胃袋を掴めたら幸いです。

普段料理しないんですけどね…。

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