過保護
三人と別れてからすぐに取り掛かるのは魔法士対策だ。
魔法が使えないように魔力を乱す、集中力を欠かせる。
要は故意的に虚弱化のような状態を引き起こせば良いという結論である。
しかし『魔力が使えなければ良い』というのならば、もっと簡単に対応する方法がある。
「うん、MPを吸い上げれば良いんだよね」
そう言って選択するのは【精神力吸収(SP50)】である。
相変わらずの手軽さでSPを消費して手に入れる。
最近SPを使い過ぎている気がするが気にしている場合ではない。
「よし、リコ。
【精神力吸収】装填、条件は【魔闘技】と同じ。
お腹空いた時に取る魔力って【精神力吸収】でも良いならスキル使ってね。
基本の対象は僕だけど、四人が居る時は同じ条件でそれぞれこっそり貰っとこう!」
という感じで条件を追加した。
これで理熾のMPが足りなくなっても四人の近くにさえ居ればガンガン吸い上げていくはずだ。
しかもLv差がありすぎる相手への攻撃なので、リコのLvも引き上げられて一石三鳥である。
何と言うパワーレベリングだろうか。
「んじゃま、少し狩りでも行こうか。
流石にお金使いすぎちゃったしねぇ?」
そう言ってさらに森に入る。
初めて森に入ったことを思えば楽すぎる。
今なら木の上ですら駆けられるくらいだ。
そもそも悪い足場を無視できる【空間魔法】の《障壁》を使えばもっと早いのだが。
「あ、リコ。
敵が出てきたら相手のレジスト前提でMP吸い上げてね。
疲れたら休憩して良いけど手加減無用で、全力展開よろしく」
「全部搾り取ってね」と森を駆けながらそんなことを言い含める。
伝わっているだろうことは動きを見れば分かる。
無限の軌道を描いて飛び回るリコからは『頼られてる!』という喜びがにじみ出ているのだ。
「そういえばリコからMPとかって貰えるのかな?
やっぱり一方通行?」
と問えば、あっさりとMPが供給され始める。
やはり【精神力吸収】で理熾から吸い上げられる分は理熾のMPが10に対して、リコは1と10分の1ほどらしい。
それでもリコからのMP供給は今の理熾にはありがたい。
「おー、リコ賢い!」
と大絶賛である。
理熾からリコへのMPのロスは大きいが、リコから理熾へのロスはゼロ。
これはスキル経由か、回路経由かの違いだろう。
「リコのMPが半分くらいで維持できるように僕にMP送ってね」
と言いながら、即座に停止する。
目の前には先日見飽きるほど見た、オークだ。
数は2体…理熾は盛大に音を撒き散らしながら走っているから相手は完全に気付いている。
オークからすると『餌が来た』ということだが、今の理熾なら瞬殺だ。
そしてオークの魔法抵抗力は低いと聞いている。
「リコ、初陣ってヤツだよ。
僕から吸い上げるのは一時お預けね」
相変わらず出来の悪い鉄製の武器を掲げている。
「最初はアレだったなぁ」と感慨深げに眺めつつ、【士魂の強弓】を用意する。
オーク発見から10秒ほどで2体の両膝を弓で破壊。
けたたましい絶叫を上げながらのたうつが気にしない。
続く5秒で両肩を打ち抜いて完全に行動不能だ。
岩石兵を打ち抜けるのだから当然の結果である。
あっさりと倒されたオーク達は力なく荒い息を立てる。
やることは簡単。
膝と肩を潰して身動きの取れないオークの射程外で理熾は休憩。
仕留めずに生かしてリコの経験値に化けさせるのが目的だ。
「リコ、【精神力吸収】の射程を教えて。
スキルが効く、一番遠い距離で吸い上げてくれる?」
と注文をつけるとオークから約1.5mの距離でふよふよと浮いている。
となればその距離がそのまま射程距離ということだ。
なかなか短い。
アレでは近接戦闘をする理熾くらいしか使えない。
射程はLvで変化するかも?
効率も上がるかな?
そんなことを考えながら休憩を入れる。
そこでふと思いついた事がある。
どうせなので実行だ。
「僕に送らなくていいから、リコのMP満タンまで溜めてくれる?」
そう言うと供給は止まり、俄然オークから吸い上げ始めたように見える。
もしかするとこちらへの供給は意識を割くのかもしれない。
気が付けばオークは気絶しているのか、「フゴフゴ」というこもった息遣いしか聞こえない。
恐らく全てのMPを吸い上げられて落ちたのだろう。
何にせよ静かになったのはありがたい。
オークの声で敵を量産するのは良いが、恐怖させて逃げ出されても困るのだ。
「よし、オークの分は吸い上げたかな?
足りない分は僕から持って行ってね」
というとほとんど吸われることなくあっさりとMPを上限値まで達したらしい。
意外とオークのMPは多かったのかもしれないと思い直す。
そして実験開始だ。
まずは《障壁》で足場を形成して、オークの真上10m程の高さに立つ。
「リコ、【重力魔法】をセット。
魔法展開準備して聞いてね。
これから僕が武器を《亜空間》から空中に落とす。
そこに【重力魔法】を使って思いっきりオークに落としてみて。
いや…確実性を考えて槍で、頭に落とそうか。
倍率はどれくらいまでいけるのかなぁ…ま、魔力とかが足りなければ回路経由で補給して」
「んじゃ行くよ」と掛け声とともに《亜空間》を展開する。
展開場所は言った通り、オーク達の頭上。
そこから一気に【重力魔法】で加速される。
「ドン!」という音と共に上に乗っいるオークの頭に着弾したが、貫通までは至らない。
しかし攻撃を受けたオークの命は刈り取れているようだ。
「経験値手に入ったかな?
僕的にはパーティプレイなんだけど」
と一度地面に降りてリコが倒したオークと槍を《亜空間》に仕舞い入れながら言う。
誰がどう見てもパーティプレイではないが、リコにはしっかりと経験値が入っているようだ。
Lvが4から6に上がっているのだから間違いない。
流石に【重力魔法】一発でLvが2つも上がらない。
倒した経験値も含めて上がったと思うべきだ。
「んじゃこれを基本にして狩りしようか」
「次行くよ」と声をリコに声を掛けて同じことを行う。
理熾の時でも6体倒せば次に上がったから、残り5体である。
すぐに【精神力吸収】に戻させて、先程の条件で使わせつつ移動する。
時は金なり。
準備時間は短く、やるべきことは多い。
そして一番の問題は、やりたいことはさらに多いのだ。
リコのLvUPにはやっぱり攻撃力が足りない。
魔力やMPも少ないから、攻撃回数も少ない。
とりあえず強いのを一撃確殺すれば上げ易いけど、この辺だとやっぱりオークかな?
とそんなことを考えながら走る。
日が暮れるまで約3時間。
【直感】と【索敵】を全開にしながら敵を探す。
しばらく走ると約200m先にゴブリンを見つけた。
初めてのメイジタイプらしい。
…いや、1体ではなく集落のようだ。
気まぐれなのか、1体だけ突出して集落から出ているだけで、質素ながら柵とテントのようなものがある。
村だとすると取りまとめ役が居るかな…?
まずはメイジを潰しておこう。
音も無く近付いて喉を握り潰して魔法を阻害。
追加で手足を砕いて『荷物』として背負う。
「嫌な感覚だ」と思いながら、リコに「こいつの吸って」と指示を出す。
リコからMP供給を受けているため、理熾のMPは敵が居なければ吸い上げられて減り、居れば供給によって回復する。
その為に今は魔力タンクを背負っているわけである。
合理的ではあるものの、理熾と同じ行動を取れるものは一体どれほど居るだろうか。
魔力タンクを背負ったまま集落に近付く。
ゴブリンやオークは見つけ次第殲滅ということになっている。
理由は繁殖力と食欲だ。
こいつらはその辺のモノを根こそぎ食べてしまう。
雑食性なのも手伝って、本当に何も残らないのだ。
森から食料が消えれば魔物は森から出て来るし、そもそも魔物の数が増えすぎる。
そうならないためにも『種族を滅ぼすつもりでやれ』とお達しが出ている。
メイジを背中から下ろし、《亜空間》から改めて弓を取り出して矢を番える。
理熾の連射速度は《亜空間》経由で番えるために他者の約2倍。
「メイジのMP無くなったら教えてね」と追加で伝えて弓で片っ端から目の前の集落に住むゴブリン達の足を潰していく。
テントからもわらわらと出てきて、仲間に近付いたり理熾に攻撃をしようと駆け込んだりするがお構いなしに放つ。
ミニゴブリンやメイジ、ホブ、ソルジャーなども居たが、目に映った全てのゴブリンを機械的に射抜いて地に這わせた。
その中には集落を取りまとめているだろう、キングとかジェネラルといった個体は居なかった。
いや、正確には仲間や理熾に向かって行った個体には、だ。
理熾の【直感】と【索敵】を抜けるのは至難の業ではあるが、これだけ居るのだ。
逃げられる可能性も大いにある。
理熾としてもこれだけ損害を与えたのだから、討伐者としての働きは十分だと思っている。
総勢100体ほどが地面にうずくまって「ぐぎゃぁ」とそれぞれが鳴いているのは圧巻だ。
いや、「この場は地獄と変わらない」と理熾は息を呑む。
この光景を作ったのが理熾自身なのだが。
適当に【重力魔法】を起動して空中に重力場を作成する。
ぼんやりと暗い球形のそれは、中心に落ちるように作られている。
その重力場を移動させるとゴブリン達は磁石と砂鉄のようにわらわら集まってくる。
出力不足なので全てを集めきることは出来ないがその分は適当に手で拾ってくる。
まだ息もあるため、暴れる個体もいるが全て無視。
同情の心は今必要ない。
弱肉強食が罷り通る戦場なのだから仕方が無い。
「そういえばリコ。
【精神力吸収】って対象は1体なのかな?
それとも範囲?
対象数が決まってる?」
と質問をしてみるも、自由回答は答えられない。
【精神力吸収】を返してもらって理熾自身で実験する。
んー…対象は今のところ1体かな。
距離は2m…ちょっと伸びてるね。
オークより抵抗が低いからかな?
って、Lv上がってる…リコすげぇ…。
と各種確認を終える。
【重力魔法】やリコへのMP供給でかなりのMPを消費していたので、ついでとばかりにゴブリンからMPを吸い上げる。
Lvや魔力差なのか、ゴブリンの最大MPの関係なのか。
対象にしたゴブリンのMPを一瞬で吸い上げられてしまった。
理熾はすぐに対象を変えて片っ端からMPを回収していきつつ
「ねぇ、リコって僕の血魔石使えるのかな?
回路が通ってるから出来るような気がするんだけど…」
と投剣を取り出しながら話しかける。
リコは上下に揺れながら投剣の《結界》を一瞬展開させた。
「おぉ、凄いぞリコ!
だったらタイミングよく《結界》起動させてね。
範囲は直径5mとか出来るかな?
設定は簡単。
硬さ全振りで衝撃の吸収とか拡散は無し。
僕が撃ったらすぐに展開してくれれば完璧だから!」
理熾のMPを最大値まで回復させたことを確認してから考えを実行に移す。
オークの時と同じく、ゴブリンの山の10m程上空に立ち、「じゃいくよ?」と理熾が標準を合わせて投剣を放つ。
リコによって即座に展開された《結界》はゴブリンの山を叩き潰す。
結果は見ての通り。
リコが独自に使う【重力魔法】よりも遥かに高い殲滅力を示した。
そしてこの『結果』は結界に潰されたからであり、展開したのはリコだ。
つまりリコの経験値として考えられる。
ゴブリンの集落を蹂躙したリコのLvは一気に9にまで跳ね上がっていた。
これだけの数をまさに『殲滅』したのだから当然だろう。
というか通常のゴブリン以外も居るから余計だ。
「【重力魔法】よりよっぽど早い!
威力も範囲も申し分ないから、今度からこれだね!」
と理熾は決める。
血魔石に刻まれている《結界》を起動し、ゴブリン達に埋もれている投剣を取り出して《亜空間》に戻す。
発射待ちは残り2本だが、残り時間を考えると十分だろう。
ゴブリンの討伐部位を全て拾うのも手間なので、目に見える上位種をささっと選んで《亜空間》に放り込む。
理熾には燃やしたりするような魔法は無いので放置するしかない。
放置したところで動物や魔物の餌だし、植物の養分に変わるだけ。
燃やした方が魔物が増えないから良いのだろうが方法もない。
だったら増えたら狩ってやるくらいの勢いだ。
ただ討ちもらしが無いように理熾の全力の【重力魔法(3倍)】で改めてゴブリン達を押し潰して次を探す。
その後は単体なら槍と【重力魔法】で、複数なら投剣と《結界》で、と使い分けてリコを育てた。
範囲攻撃になった投剣はかなり使い勝手が良かったが、攻撃力がかなり落ちていた。
場合によっては確殺出来るとは限らないので使いどころが難しい。
制圧力を求めた結果なので仕方ないのだが。
それとは別に【連携(SP20)】を取得した。
リコとのやり取りをスムーズに行うために、理熾が「そういえばいけるんじゃね?」的な軽いノリで取ってみたのだ。
『同種族でないといけない』みたいな制約が無くて良かったと思う反面、そんな注釈があったらそもそも取得出来ないな、と苦笑いした。
スキルの内容を理解しないと習得出来ないので、逆に言えばスキルの内容把握にも使えると言うわけだ。
実際件の【連携】は理熾とリコの回路を介して行われるようで、今まであったスキル譲渡のタイムラグがほぼ無くなった。
指示とほぼ同時にスキル装填がされているのはありがたい。
少なくともこれで余裕の無い戦場でも対応できるため、選択肢がかなり広がった。
そのせいでSPはカッツカツなのだが仕方ない。
そういえば…リコのLvが上がるごとにSPが5増えてるなぁ…?
これも妖精憑きの補正なのかな?
というかリコ分のSP貰ってるのかもしれないね。
ま、リコは僕のスキル使い倒してるし別に良いよね。
というおまけの発見も出来た。
今回の狩りでリコのLvは13にまで上がり、しかも外部術式容量が1つ増えた。
このことで改めて『範囲攻撃は良いモノだ』という感想を持つのだった。
お読み下さりありがとうございます。
リコ覚醒です。
今後リコが無双することも出てくるかもしれません。




