断ち切る首輪
午前中はいつも通りギルドを経由してフィリカの店に到着した。
理熾が店に入ると既にレモンの武器が新調されており、刀身を眺めて惚けていた。
どう見ても危険人物だった。
アレが身内とか考えると恐ろしいな、とか失礼な感想を理熾は抱いていたりした。
「ネーブル。
レモン蕩けてるんだけど…?」
「あぁ…まぁ、あの刀身じゃなぁ…」
「確かに綺麗だけど、そんなに?」
「魅入られる程度には凄いんじゃないか?
俺等の装備って基本設計は量産品だからな。
そこから個人が使い易いように魔改造するんだ。
まぁ、本職じゃない俺らの発想じゃぁ程度は知れてるだろ」
「技術的にもな」という言葉通り、レモンが持つ刀と呼ばれる武器(どう見ても日本刀)は凄まじい性能らしい。
レモンが刀を鞘に落としてもう1本を抜き放つ。
ただそれだけなのに空気がりんと鳴ったような感じがした。
作られた刀との相性が良いのだろうか。
「レモン、店内で刀を抜くな。
庭貸してやるからそこで振れ。
特性は聞いておくか?」
「いや、良い。
こいつに聞く」
そう言ってにやけ面で庭へと出て行った。
理熾はいろんな意味で「うわぁ」だったが口にしない。
自制が効くというのは時としてすばらしい効力を発揮する。
ちなみに『凄いな』という意味なので誤解のなきよう。
「あ、僕が知りたいから教えてよ」
「ん?
あぁ…黒鎖鋼の特性と同じ腐食耐性と切断が付与されている」
「僕と同じだね…って付与?」
「あぁ、付与だ。
見た通り刀身は白い。
黒鎖鋼で作ったなら黒くなるだろう?
アレは黒鎖鋼の特性をリザードの牙に移した結果だ」
「え、そんなこと出来るんだ?」
「普通の材質と腕じゃ無理じゃないか?
やることは簡単なんだがな。
黒鎖鋼を粉末状にしてから固めるだろ?
それで牙を削るんだよ。
実際リザードの牙を削るほど黒鎖鋼は硬くも強くも無いんだがな。
やるのは特性付与だし、削ると言うのは要は『研ぐ』事…いや、違うか。
『綺麗に傷付ける』というのが『研ぐ』という行為になる。
まぁ、牙に黒鎖鋼で『綺麗な傷を付けて特性を移す』んだが、金属塊では無理でもこの方法なら出来るんだ」
言ってる意味が分からなかった。
粉末なのに固まるとかどういうことだろうか。
理由は分からないが、とりあえず黒鎖鋼の『ざらつきを残す』ってことかな、と勝手に解釈する。
「あぁ、そうそう。
刀だからな。
単純に牙を削りだして研いだだけじゃない。
普通の鉱物と同じように、熱も入れるし叩きもする。
まぁ、溶けたりはしないから形は先に作ってしまうんだけどな。
刀と言う形に凝縮するのにその行程が必要になると考えればわかりやすいか?
そして一番最後の工程で黒鎖鋼の特性を付け足すんだ」
「手間掛かりすぎでしょ…?」
「おいおい、手を抜いてどうするんだよ。
バジリスク手前のリザードの牙だぞ?
恐らく二度と手に入らんから、相応の品に仕上げねば材料に悪い」
とキラッキラの目と表情で楽しそうに答える顔は相変わらず美人だ。
しかし気になる点もある。
「…ねぇ、フィリカさん。
牙を使って刀2本ってことは、もう牙残ってないよね?」
「………」
目を輝かせて説明していたフィリカは急にそっぽを向いてしまう。
目が泳いだり冷や汗を流したりというようなことは無いが目の輝きが違いすぎる。
そのせいでどう見ても「まずい所を突かれた」という顔にしか見えない。
「何でそんな最上級な場所を僕に作ってくれないの?!」
「いやぁ…すまんな?
何と言うかあの形状なら刀が最適だろうと思ってな」
「牙ってアレだよね?
長さ1m、直径20cmくらいの丸太みたいなやつ。
あれ2本から2本だけしか作らないとかありえない…」
「削り出しだから材料は残してあるぞ?!(研磨用だが)
それにせっかくなんだからちゃんと芯を使わないと勿体無いだろ?」
慌てだすフィリカを見ながら理熾はため息をつく。
特にその判断に異論は無い。
技術も選定眼も信頼に値すると思っているから、特に突っ込んで聞くことも無い。
ただそんなに貴重ならちょっとくらい前もって言ってくれても良いんじゃないかな、と思うだけだ。
「いや、良いんだけどね。
レモンが惚けるくらい良い物なんだしね。
それで他の特性はどんなものが入ってるの?」
「そうか、安心したよ。
リザードからの継承特性が【硬質化】、【部位強化】の二つ。
これは共に刀自体に強化を施す。
それとは別に【瞬発】が装備者に付与される。
思考と反射速度が上がるからレモンの場合は今まで以上に近接戦闘が得意になるな」
思っていたよりも遥かに狂った性能だった。
レモンには【超感覚】と【狂戦士】の【限界突破】、そして【戦闘思考】がある。
この時点で既に地上に敵が居なさそうなのにさらに【瞬発】まで付いたら死角が無い。
倒す気なら能力値で圧倒するか、範囲殲滅の魔法か何かか、後は物量で押し切る総力戦くらいしか方法が無い。
スナイパーライフルなどがあれば別かもしれないが。
「それが2本?」
「そうだ。
それと短刀が2本。
それぞれ効果が継戦能力を目的としている。
【精神力吸収】、【生命力吸収】をそれぞれ持ってる」
「なるほど…。
その2本と敵があればいくらでも戦えるねぇ」
「あいつ馬鹿だよな」
とフィリカが笑う。
実際にレモンが戦っているところを見たことは無いのだが、やってることは想像が付く。
ダメージを受けたところでユニークスキルの【肉体修復】で傷が塞がる。
二刀の片割れ、【生命力吸収】で使った体力を回復。
アクティブスキルを乱用しても【精神力吸収】で奪い取るので使い切らない。
攻撃性能が高いからこそ意味のある組み合わせなのだが、使うのがレモンなので申し分ない。
レモンを攻略する手が一つ減った訳である。
「今後は状況に合わせて合計4本を取り替えれば良い」
「今までより単純に攻撃力アップだね」
「良い判断だろう?」
「うん、完璧」
と理熾は親指を立てるとフィリカは首を傾げた。
どうやらこの仕種は理解されないらしい。
「そうそう、今日は全員で出掛けるから武器はまた明日ね」
「そうなのか?
構わんがある程度仕上げてはおくよ」
とさらりと言う辺りやっぱり楽しいのだろう。
恐ろしいくらい気合が入っている。
相変わらず昼まで装備その他の微調整をしつつ過ごして昼食を取る。
昨日出てきた『ドラゴンステーキ』の話と、また今度招待する旨を伝える。
感想は全員揃って「奪い合うくらい美味い」だった。
食事を経てもまだレモンが惚けていたのだが、ハッサクが無言で急所というかツボを押し込んで正気にさせた。
どうやら死ぬほど痛かったらしい。
そんなやり取りを経てレモンを回収して、全員揃ってフィリカの店を出、平原へ、そして森へと入る。
平原から約10km程離れた鬱蒼とした森の中に、ちょっとした水辺と開けた場所がある。
「んじゃま、昨日の手筈通りに。
失敗しても良いけどシミルに戻ったらまず死ねるから気をつけてね」
「あいよ…あぁ、主人。
俺の【指揮官】の【以心伝心】で繋げてるから変更なら連絡くれ」
「それって一方通行じゃないの?」
「簡単なのなら伝えられる」
「ふーん…?
僕も【連携】あるから、お互い話せそうだね」
「うへぇ…主人ほんとに何者だよ?
魔法に近接、弓に加えて伝達能力って…相変わらず化物だな」
と茶化すネーブル。
実際【連携】の有効範囲とかはまだ知らない。
とりあえず味方の設定さえしていれば何とかなるようなのだ。
『何でもあり』を目指す理熾からすると褒め言葉ではあるものの、やっぱり『化物』は無い。
「うわぁ…泣かされるー。
子供相手にそんなこと言うとか大人気ないわぁ」
「主人が泣くかよ」
「まぁ今のところね。
そうそう、連絡(?)してからどれくらいで来るの?」
「そうだなぁ…向こう側の状況にも因るがこっち優先だ。
いくらなんでも敵地で安全な場所をずっと維持できる訳もない。
30分で来なかったら諦めた方が良いと思うぞ」
「それって使い切りだよね?」
「だな。
…よく考えると俺等ほんとに良く工作員やってたな」
「命綱がその血魔石だけだもんねぇ」
「視野狭窄ってこういうこと言うんだろうな。
今までそういうことを仕掛けていたが、されるとホントに周りが見えんな」
とネーブルは嘆く。
他の三人も同じような感じだ。
今更ながら「これだけの能力を持ちながら何してたんだ?」という思いが生まれる。
『生き方を限定されていたこと』に気付かされるのだから、教育や洗脳というのは恐ろしい。
それらを解くには環境を変えるしかないのだろう。
ところで。
「レモン、切っちゃダメだよ?」
腰の左右に長刀、短刀をそれぞれ1本ずつ計4本吊り下げているレモンに理熾が声を掛ける。
先程から長刀の柄頭を撫でながらニヤニヤしてるのだから心配で仕方ない。
試し切りくらいさせてやるべきだったかもしれないとレモン以外が後悔する。
「何度も言うな!
分かってるよ!」
「なら良いんだけどね。
じゃ、ハッサク。
いつも通りに周囲に人避けの術を張ってね。
僕は最初から【索敵】使っとくから対象に入らないと思うけど大丈夫だよね?」
「あぁ、問題無い。
何かあればネーブルに」
「ライムもネーブルも『普段の帰宅』でよろしく。
レモンが不審に思われるだろうから、「良い刀を奪ってね」とか適当にごまかして」
「まぁ良い刀なのは事実だしなぁ」
「だから切らないと言っている!」
そんなレモンの抗議を全員が無視して話を続ける。
「僕はここから50mくらい後ろに下がるよ。
後はよろしく。
では作戦開始!
気合入れて、楽しんでいこうぜ!」
と理熾が適当な掛け声を上げて背後の森に消えていった。
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