領主の決断2
立場の違いは明確です。
「領主として死罪は決定だ」と付き付けられた理熾の返答はいかに?
捕虜は処罰する。
オブラートに包まなければ死刑である。
これは大前提であり、大原則だ。
理由は簡単。
大々的に告知することは無いが見せしめだ。
しかしそれでも情報を扱う者達は気付くものだ。
だから殺さない、害をなさないという噂が広まればすぐさま諜報員がやってくる。
ばれても殺さないのだから当然だ。
そしてスパイでの様子見の後に工作員を派遣され、最後は全てを牛耳られる。
そこに至るまでどれだけの時間が掛かるかは分からない。
が、それだけである。
そもそもそこに辿り着くまでの時間が著しく省略されるのだから、『やる』という選択肢しか他国は持たないだろう。
結果、他国の干渉を受けまくり、代理戦争と言う名の内紛を起こす可能性まである。
だから、理熾の『効率的な案』には乗れないのだ。
「ここで処罰…いや、濁すのは止めよう。
死罪を免れれば、禍根を残す。
『以前はこうだった。何故今回はこうなのだ?』という隙を与える。
わしが立っているのはそういう面倒な処理が必要なところだ。
リオ君に理解しろとは言わない。
が、ただそれだけだ。
その案は『領主』として認められない。
わざわざ伝えるなどわしも甘くなったかもしれんな。
だがリオ君の案はとても合理的で良い案だと思いつつも、受け入れられんのだ」
とギルバートは説明した。
理熾にも分かる。
いじめのようなものだ。
仕返し、やり返しが無いような相手にちょっかいを出すのだ。
暴発するまで手を変え品を変え、延々と、チクチクと。
やる側はやっていることが『普通である』という誤解を積み重ねる。
しかも「ここまで大丈夫だからあそこまで平気だろう」と勝手に解釈する。
そして実行し続ける。
回を重ねる毎に少しずつ過激になっていくのだから手が付けられない。
延々と続けられる嫌がらせに潰れるか。
やり返した際の『報復』で潰されるか。
いずれにせよ余程上手く立ち回らない限りそのどちらかで潰されるだろう。
そして上手く立ち回れるものは一回目を許さない。
だからこそ『舐められる真似』は領主として出来ないのだ。
「……だよねぇ。
でも僕の案は合理的だと認めるんだね?」
「まぁな。
殺すつもりで使い潰せる労働力などそう無いからな。
そもそも領民でも無いし、わしらに害を及ぼそうとしたのだから言い訳も出ないだろうしな」
「うん、その言葉が欲しかったよ。
やっぱり僕の考えだけじゃ間違ってるかもしれないしね」
「どういうことだ?」
「独りよがりなのかぁって。
でもそう言ってくれるなら僕の考えも正解だったってことだね」
と確信を込めて答える。
理熾には組織の事など分からない。
最小化して自分の身に置き換えて考えるしかないのだ。
持ちえる知識や経験は少ない。
だからこそ、この『置き換え』こそが理熾の知恵だとも言える。
「まぁ、そういうことならその捕虜返してよ?」
「は?」
「だって僕の戦利品なんだよ?
僕の『好意』で貸してあげてるだけなんだから、用が済んだのなら返して」
「なるほど」
ギルバートは笑みを深める。
流石だ、と内心で褒め称える。
「捕虜…いや、『盗賊』の所有権を主張するのか」
「うん、『盗賊の身柄』は僕のだよね?
たとえ工作員であったとしても、まだ報酬も何も貰ってないし」
「『たとえ』だけどね?」と続けて、ギルバートの返答を待つ。
だが、ギルバートは既に答えを持っていた。
「言っていることの意味を理解しているか?」
「何かやったら、僕のせいってことでしょ?」
「そこまで分かってるなら構わんがな。
では引渡しはいつにしようか?」
「いやいや、情報を無料って酷くない?
職の斡旋とかして欲しいんだけど!」
「その辺は雇用主が考えるところだろう?
まぁ…かなり重要な情報だったから便宜は図るが…元工作員だからなぁ」
と思案顔である。
領主権限で斡旋したらギルバートの責任だ。
それは問題だし、それが出来ないからこそ死罪だったのだ。
人を飼うことなど手間がかかって仕方ないのだから。
「少なくともしばらくはあけみやに部屋を取らせよう。
そうだな、1ヶ月無料でどうだろう?
情報料としてはかなり安いだろうが、便利だろう?」
「残りの報酬額は応相談で」と話を続ける。
理熾としても宿泊拒否こそ困ることで、追い出されなければとりあえず良い。
雇用主という立ち位置に疑問は残るものの、実際その通りではある。
少なくともあの四人を使えなければ理熾の命が危うい。
「うん、それで。
報酬額に関してはフィリカさんに一任するね!」
だからそんな責任を背負わせた領主には最大限の嫌がらせを突っ込んでおいた。
同時に理熾は捕虜について「フィリカさんにどう説明しよう」と嘆いていた。
この辺の打ち合わせなど全くしていない。
単に報酬の話をしに来ただけなのだから。
「フィリカか…。
あいつは勘弁してくれんか?」
「いやー僕には『適正価格』が分からないからね!」
全くその通りなのでギルバートは引き下がらざるを得ない。
交渉に来たのだが、報酬の対象が変わったのだ。
しかも処罰対象を『引き取る』ことと、報酬の一部として1ヶ月の滞在を許されている。
状況が入り組んでしまった為に理熾では余計に判断が付かない。
「あ、ギルバートさん。
奴隷契約ってどうするの?」
思いついたように理熾が聞く。
対するギルバートは苦い顔で返答する。
「……奴隷が欲しいのか?」
「いや、今は要らない。
けども四人には最低限のルールが必要だと思ってさ」
「隷属させて強制的に従わせるのか。
まぁ、その方法もあるにはあるが…」
「何か問題でもあるのかな?」
「隷属の内容によっては契約者に不利益が発生する可能性がある」
「例えば?」
「契約中は能力の一部を封印される、など。
まぁ、極端に強い強制力を持つ場合だがな。
リオ君の場合は大丈夫だと思うが、差し迫っていない場合は止めた方が良い」
なるほど、と理熾は感じる。
確かに奴隷といえども、結局は意思を持つ。
それをねじ伏せるだけの強制力であれば魔法を使ったところで『代償』が必要だろう。
契約中は持続するのも分かる気がする。
地球でも奴隷の心は折り続けなければ暴動に発展するのだから。
だが
「それってさ、『奴隷の価値』あるの?」
という質問が生まれる。
自分よりも能力の高い者を隷属させる場合、代償として全能力を失う可能性もある。
だがそれは本当に『意味があるのだろうか?』という疑問だ。
「うん?
どう言う意味だ?」
「代価を求められるのは『同一の価値観を持っている場合』だけだよね?
例えばお金に価値を認めるから、皆お金で支払える。
けど動物相手だと食べ物の方がよかったりする。
『奴隷相手の価値』って何なの?
別に主人の能力を抑えたところで奴隷側は別に嬉しくも何とも無いと思うけど」
「ぁー…契約はお互いに結ぶものだろう?
だからお互いが納得すればそれで契約できる。
が、余りにも偏ると契約が出来ないから、釣り合わせるのに『能力を縛る』という場合があるだけだ」
「なるほど?」
「基本は売買契約だからな。
普通に市場で買えば金で解決する」
「今回が特殊?」
「そうなるな」
ギルバートの話を聞いて考える。
一番の対価は何だろう?
一番の優先は何だろう?
必要な項目は?
軽くする為の理由は?
納得させる為の言葉は?
領主を目の前に、思考にふける。
それを怒りもせずににこやかに見守るギルバート。
ずっと話したので喉が渇いていた。
カップを手に取り口を湿らせ、「子供だよなぁ?」とか考える。
発想も、気付きも良い。
それに結果に繋げる手腕も含めて。
しかし相手に対する配慮は無い。
特に立場的にはギルバートの方が上である。
考え込むなら一言を断るべきだが、それも無かった。
そこまで求めるのは酷かもしれないが、今後必要にもなるだろう。
そろそろ声を掛けるべきか迷っていると理熾が
「じゃぁさ、こういうのはどう?」
聞かされたギルバートはある意味で守銭奴だと理熾を評した。
お読み下さりありがとうございます。
理熾の返答いかがだったでしょうか。
実際問題、領主側の解決策としては死罪以外は強制労働施設を作る他ありません。
しかしそんな簡単に施設を作れる訳も無く、何より無給で働かせられる労働力を使った生産は市場を壊します。
領主側の備蓄用に働かせるのなら別なんですけどもね。




