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神様のおねがい  作者: もやしいため
第七章:楔の解放

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奴隷契約

領主館の敷地にある、騎士団の寄宿舎。

その横に併設されている機密度の高い相手を収容する牢がある。

魔法の使用を著しく制限される部屋であり、硬度の高い壁に囲われている。

唯一外界と接触できる格子も頑丈な紅蓮鉄鋼製である。

重さを考えなければこの合金の性能は高いのだ。


「リオ君、わしが仲介で良いのか?」

「この上ない人選だと思うけども」


「鬼じゃな…」

「えーこれから命を救う救世主(メシア)様なのに。

 相手は暑苦しいおっさんばっかなのがいただけないけど」


『領主を仲介役にする奴隷契約』をするなど無茶苦茶である。

何より『奴隷にされる側』からすれば余りにも強固な後ろ盾だ。

まさに恐怖以外のなにものでもないだろう。

そういう言い合いをしながら牢の前に立ち、


「やぁ、捕虜の諸君。

 ご主人様(マスター)が来たよ?」

「まだ契約結んでないだろ…」


と二人の掛け合いは続く。

取調べと言う名の尋問をされた四人は憔悴…していなかった。

端的にいうと超元気で、普通に会話してた。

一日二日でぼろぼろになるようなことは無いだろうが、これはまた話が違うのではないかと思ってしまう。


「ねぇ、何でこんなに元気なの?」

「さっき言ったろう。

 素直に話すんだから、痛めつける意味も無い」


「そりゃそうかぁ…。

 血の汚れとか落とすの大変だしね」

「そう受け取るのか…?

 まぁ、食事も出しているから、むしろ元気でないと困る」


「そりゃまた豪勢な…」と理熾は納得する。

領主館製の食事を思い出すと、全くもって破格の厚遇を受けている。

牢屋に入れられていることを除けば単なるニートである。


「「「「竜殺し!?」」」」


四人が理熾を見て声を揃えて叫ぶ。

気が付けば何かカッコイイ二つ名が付いていた。

広まってないから身内だけの話だが。

「何故奴がここに…」「これで最後か…」「一思いに…!」「マジで領主を従えてる!」などなど。

四人ががやがや騒ぎ出す。

色々と不穏な言葉が流れるが、少なくとも理熾はギルバートと来ただけで『従えた』覚えは無い。


「とりあえず黙ろうか?」


そんな理熾の一言で全員がぴたりと口を閉じる。

それを見てギルバートは


「…リオ君、隷属が必要か?

 何にもしなくても従ってないか…?」

「何でだろう…?」


理熾にはさっぱり理由が分からない。

だがそれだけで話は終わらない。

これらの面子が問題を起こせば理熾のせいなのだ。

だからその部分に対してだけは抉り込むように楔を打たねばならない。

「うん、抉り込むようにだ」と理熾は決意する。


「さて、ではこの面子で奴隷契約を結びたいと思います。

 はい、はくしゅー」


ぱちぱちぱちと適当に手を叩き、「では用意は良いですか?」とにこやかに問いかける理熾には容赦が無い。

説明すらしていないのに用意などできるはずも無いのに。


「ではまずリーダー!」

「はい!?」


呼ばれたリーダーは「ビク!」と背筋を伸ばして返事をする。

リーダーこそがもっとも心を折られているのは言うまでもない。


「良い返事ですね。

 まずは僕と奴隷契約を結びましょう。


 内容は簡単、『僕に迷惑を掛けないこと』とします。

 直接、間接を問わず縛るので気をつけて下さい。

 結果的に掛かるのは仕方ないかな。

 でも、それ以外は許しません。


 契約の『掛け金』は、リーダーの命(・・・・・・)です。

 貴方は『生きるために隷属する』という奴隷契約を僕と結ぶことになります」

「は!?」


状況を説明せずに話を進めていく。

が、契約内容は変わらない。

個人が出せる最大の掛け金(生命)が天秤に乗せられているのだ。

相手の意思を確認するまでも無い。

何もしなければ100%死罪が確定しているのだから。

リーダーの目の前で魔法で精製された契約書が広げられる。


理熾が告げた内容と同じ。

そこに理熾の血で書かれたサインが入り、契約が成立する。

これであっさりと契約は終了した。

本来であれば対の契約者であるリーダーの血のサインが必要だった。

が、今回は一方的に理熾が『救済する』という内容の為に、無視できた。


そして契約書にはリーダーの血が染み込まされている。

『対象者が誰か』が分からなければこんな契約など無意味なのだから。

それなら牢まで来る必要が無いのだが、『相手の了承を得る』という建前が要る以上、目の前で口上を告げる必要があったのだ。


そんな状況についていけない四人を全て置き去りに、理熾は続ける。


「ではリーダー。

 主人(マスター)として初めての命令です。

 貴方の部下三人と、貴方が奴隷契約(・・・・・・・)をして下さい」

「「「「は?」」」」


今度は全員が疑問符を上げた。

たった今、何の了承も得ずに自分が奴隷化していることに呆然とするリーダー。

加えていきなり話を振られた部下達も巻き込まれるということになった。

奴隷契約を強要された上に、部下に奴隷契約を強制(・・)することになるという。

だが、対象となる全員がそんな了承を取っていない。


「僕が四人それぞれと契約するより、一人と契約する方がデメリットが無いからね」

「「「「え?」」」」


「ギルバートさんお願いします」

「分かった。

 リーダー、君は部下三名と奴隷契約を結ぶ。

 内容は先ほどと同じ。

 『君に(・・)迷惑を掛けないこと』だ。

 契約の『掛け金』は、それぞれの命(・・・・・・)。

 部下達は『生きるために隷属する』という奴隷契約を君と結ぶ」


「悪用はせぬようにな」と最後に付け加えて、契約書を開く。

内容はやっぱり口上と同じ。

既にそれぞれの血を垂らされていて、契約は成立している。


「さて、行こうか。

 四人とも、新しい名前を考えないとねー?」


今までの名前はシミルに知られている。

使い回しても良いが、下手をすると理熾が間違って仕出かしたグリフォンの時のように『名取り』される可能性がある。

それをなくすために名前を変える必要があるのだ。

どちらにせよ過去の名前と決別しないと『死罪』になるので変えないといけないのだが。


「自己申告あればそれでいいよ」と理熾は気負いも無く告げて牢を開ける。

領主側への情報提供の時間は終わっている。

これから更に必要なら別途請求書が回る。


四人は未だに馬鹿みたいに口を開けたまま呆然としている。

それはそうだろう。

この作業(四人の奴隷契約)を理熾とギルバートは到着してから5分ほどで終えてしまったのだ。

状況を把握するような時間はないし、そもそも情報も無い。

ただ分かるのは自分たちは一番敵に回してはいけないと思っている者の奴隷だということだけ。


ギルバートも状況を分からない四人の大人を見て哀れみの目を向けるが、仕方ない。

最早あの四人は理熾の『所有物』なのだから、他人が口を挟むべきではない。

今後はフィリカが交渉役と言うことで話し合いは終わっている。

とりあえずギルバートが騎士を呼んで外へ連れ出した。


ギルバートに礼を言って門を出る。

ついでに「何かあったら呼んでね」とも付け加えて。

後はフィリカのところへ寄って状況を説明してから帰る。

それまでにセリナにはギルバートから連絡を入れてくれる手はずになっている。


それにしてもこの四人。

身形が捕らえられた時のままなので薄汚い。

余りにも従順だったのでギルバートも騎士達も気を使ってくれたらしく、食事や洗濯をしてくれていたらしい。

マシな格好ではあるものの、どう見ても近寄りたいと思える風貌でもない。

なので理熾は


「あぁ、契約に反しない限りは自由にしていいよ。

 とりあえずお金渡すから、全員綺麗な服買って来てね。

 服ってどれくらいの値段かなぁ…まぁ、一人頭1000カラドあれば足りるかな?

 そうそう、工作員なら『あけみや』くらい知ってるよね?

 夕方までに1週間分の服と日用品を買ってあけみや集合ね…時間は5時くらいがいいかな」


そう言って一人ずつ1000カラドを配布していく。

最初「1万カラド渡せば文句言わないかな」とか思っていたのだが、日本円で100万円も急に渡されたら逆に使えない。

だから桁を減らしたのだが、1000カラドでも結構な大金だったりする。


「分かってると思うけど、特に日用品とかはモノが被らないように話し合ってね。

 無駄に一杯あっても邪魔だから。

 そろそろお昼だから1000カラド(お小遣い)から適当に食べといてね。

 後、残った分は勝手に使って良いから取っといて。

 でも最低限の着替えと清潔さを欠いたら、暴力に訴えるので気をつけて。

 セリナさん怒らせたら覚悟してね?」


「では解散!」そう言って理熾はフィリカの店に向う。

元工作員なのだから、放置していても生きていけるだろうと踏んでいる。

それを初期投資までして、宿まであるのだから出来ないはずが無い。

理熾に比べれば余程恵まれている…理熾は奴隷スタートではないが。

ともあれ「ややこしいことになったなぁ」と理熾は嘆息するのだった。

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