領主の決断
領主様は大変です。
いい事と分かっていても出来ないことがあるんですから。
体長6mと5mにもなるリザードの解体はそう簡単には終わらないらしい。
身体の大きさもさることながら、強靭な肉体を持つ竜種を解体するにはとにかく時間が掛かる。
理熾が手伝うこと自体は問題ないのだが、何をどうすればいいのかが分からない以上は邪魔にしかならない。
なのでジンに全てを任せることにする。
解体期間は最速で1週間掛かるとの事だ。
ほとんどの部位が欲しいことを告げると、ジンは「またこちらには無しか」と肩を落としていた。
ジンには申し訳ないが手に入り辛いものなので涙を呑んでもらうと決めている。
何せ片方はユニーク持ちの身体だし。
ともかく。
優先順位は魔石である。
これだけは真っ先に取り出してフィリカの店に届けて欲しいと伝えてある。
実際のところ「宅配も出来ないとかサービス良くないぞ?」のフィリカの一言で決定した。
確かに直径30cm程の大きさの魔石程度なら届けるくらい訳無いだろうが、客はフィリカだけではないのだ。
そんなことを出来るはずも無いのにびっくりするほどのクレーマーである。
結局ジンが泣く泣く人を寄越すと膝を着いていた。
本当に申し訳ない。
それよりも今はギルバートだ。
昨日の夜、寝る前にセリナから「お父さん呼んでるから明日行ってくれるな?」と言われたのだ。
他に用もないし、何より捕虜四人の口添えをしにいかないといけない。
工作員なのだから口添え云々でどうしようも無いような気もするが。
そういえば報酬の妖精って何だろう?
相変わらずヘルプが無いからなぁ。
と途方にくれる。
受け取ったことで大惨事になったら目も当てられない。
報酬元は馬鹿なのだから。
今は午前中で、領主館へ向かっている最中だ。
ギルバートとの話が終わってから報酬を受け取ることを決めて先を急ぐ。
特に時間指定も無かったのだが、用事はさっさと終わらせるに限る。
そうして着いた領主館。
相変わらずノイズが相手をしてくれる。
当然口調は固いまま、執務室に通される。
「呼びつけてすまんな。
あと15分ほど待ってもらえるか」
そうしてソファーを指差される。
暫くするとお茶が出てきた。
相変わらずノイズは良い仕事をする。
香りの良い紅茶っぽい飲み物だ。
そういえばこの世界のモノの名前は理熾が知っている名前に順ずる。
脳内変換というか、なんと言うか。
ソースやしょうゆ、味噌なんかも恐らく同じ名前だ。
馬という言葉が共通だった(馬らしくない巨体だったが)事を思えば当然なのだが。
だから出てきたお茶は恐らく『紅茶』が正しいのだろう。
そして全く未知のモノに関しては地元名がつく。
代用の名前が無いから仕方ない。
そんなことを思っているとギルバートが正面に座った。
どうやら一区切りついたらしい。
「すまんな、待たせて」
「良いですよ。
それよりどうしたんですか?」
「いやはや。
リオ君が捕まえた四人の話がなぁ」
「あぁ…嘘っぽいですか?」
「端的に言うとそうだ。
おとなしい魔物ならともかく、竜種の養殖は現実的か?
何より維持するコストが高すぎる気がするんだが」
「んー…簡単だと思います」
「ほう…その根拠は?」
「まず、竜種…今回はリザードの特性ですね。
1:生命力が強い
2:能力が高い
3:繁殖力が強い
以上3つを考えると、要は餌さえ与えればどうにでもなるってことでしょ?」
指折り答えていく。
この辺りはフィリカも納得していた。
養殖で一番の問題は『生かす事』なのだが、環境を整えなければ死ぬような種ではない。
「リザードは大食漢の魔物だろう?
その辺りはどうなのだ」
確かに一定の餌がネックにはなるのだが、その辺もそれ程難しくは無いと理熾は考えている。
何よりその理由の一端を捕虜からも聞いている。
「問題無し。
魔物の主食は魔力らしいです。
つまり魔力の詰まったものを食べさせればどうにでもなる。
それが魔物でも、動物でも、草でも良いみたい。
そもそもあのリザードは共食いの卵から生まれてるしね」
「ホント悪食だよね」と理熾は語る。
その口調には何ら気負いも無くて、とても淡々と話す。
「それに特に人なんてのは意識的に魔力を使うような特殊種族だから問題なさそうだよ?」
「いや…いくら人口が多かろうとそれはどうなのだ?」
そもそもその発想が出来る13歳が居るとは考えにくい。
フィリカの入れ知恵かとギルバートは思うが、それは違う。
むしろ最初から餌扱いしていたのが理熾だ。
そんなことは露知らず、ギルバートは耳を傾ける。
「もう一つの話も聞きましたか?」
「『ギフト』の話か」
「です。
『ギフト』でスキルを抜き取られた人はある意味で空っぽです。
特にそういう方法を取るような国にとっては、邪魔以外の何者でもない。
だったらきっと有効活用しますよ?
社会的にも『イラナイモノ』に対して施す処置だと思うし、大国だから捨てるほど居るよ」
と理熾は冷たく言い放つ。
【神託】はこのことを伝えたかったのだと、理熾は解釈している。
人類至上主義を唱えるつもりは無いが、同属を餌扱いするのは流石にどうかと思う。
しかしある意味ではとても『効率的だ』と【直感】が告げる。
処刑するにも手間暇が掛かるのだから、それならリザードの飼育場に放逐してしまえという訳だ。
スキルも武器も持たない人風情が竜種を倒せるはずも無い。
確実に死ぬサバイバルを強いられる側からするとたまったものではないが。
「だから信憑性はある、と?」
「いや、そこまでは言わないかな。
むしろそれが嘘であって欲しいくらいだし。
そんなしょっちゅうリザードなんて倒してられないよ」
「確かにな。
しかしリザードとして連れて行くのは難しいのだろう?」
「いやー…?
その辺も金に物言わせて出来そうじゃない?
研究材料はポコポコ生まれて来るんだし。
卵のまま放り込むのは、多分その国での反応と対処能力が見たいからじゃないかな」
「あくまでも今回は実験、というわけか」
「うん、本来であれば討伐されるまで監視だけして帰る。
情報は持ち帰らないと意味が無いからね。
だから今回は本当に運が良かった。
あの四人…元は五人だけど、ある意味ではエリートなのかもね」
「エリート?」
「だって監視だけじゃなく、卵の回収までさせられてたんだよ。
捨て駒扱いするには情報を持ってるし、『ギフト』でスキルを貰った人までいたしね」
「その割には口がえらく軽いんだが…」
「その辺は僕には分かんないかなぁ」
理熾には本当に分からない。
四人が従順なのは勝手に理熾を誤解して恐怖を抱えているからで、『捕虜の厚遇』によって感謝も感じているからだ。
しかし理熾は工作員なんて言われてもイメージしか分からない。
だから単に人として接しただけである。
それがどのように作用するなど、理熾にはさっぱりだ。(脅しも失敗したし)
少し思案してからギルバートは「まぁいいか」と頭を切り替える。
従順に越したことは無いのだから、単に良い傾向だと受け止めることにする。
「リオ君から見たところリザードはどうだった?」
「うーん…よく分かんないかなぁ。
初めて戦ったし、片方はユニーク持ちだし。
比較対象が無いから何とも言えないけど、ノーマルを倒すだけなら難しくは無いかな」
とあっさりと言い放つ。
単純に投剣が効く事が原因だ。
小さい方のように、あそこまで一方的な展開が望めるとは思えない。
が、的が大きくて一撃必殺を思えばそれほど難しくは無い。
わざと口の中に突入してから噛み砕かれるまでに放てば試合終了だ。
出来るかどうかはともかくとして、リザードには回避方法すら無い。
「何とも。
まさか竜種相手にその答えとは…知らん間に育ったもんだなぁ」
「ふふ…男の子は三日で進化するからね!」
「なら有事の際はまた頼むとしよう」
「報酬は弾んでね!
あけみやに落とすから!」
とやりあう。
これを人はマッチポンプという。
ともあれ、話の内容は捕虜の話の事情説明だった。
このことは織り込み済みなので理熾としても問題ない。
だから問題があるとすればこの先だ。
「ではあの四人の扱いだ。
エリルとルルガから聞いたが、強制労働を提案しているらしいな」
「うん、そのつもり」
「理由は?」
「全部?」
「出来れば」
「んじゃ理由は6つ。
1:口添えを頼まれたから
2:話した以上はガーランド、シミル共に価値が無い
3:2の理由から後顧の憂いを絶つ必要なし
4:そもそも口封じにシミルが動くなら餌にするべき
5:以上4点も理由があるのに四人に感謝される
6:何より僕が潤う
あ、もし二重スパイとして起用する気なら更に3つ。
7:新たな情報を引き出せる
8:妨害工作が出来る
9:危険手当が僕の手に!
どう!?
この完璧な僕の理由は!」
とギルバートを指差す。
何と言うか「ずばーん!」という効果音が入りそうである。
「そ、そうか。
稼いでいると思っていたんだがな…?」
「あぁ、お金には余裕あるよ。
あって困るものじゃないってだけかな」
「しっかりしてるのぉ…。
にしても二重スパイは却下だな。
無駄にこちらの情報が流れる可能性がある。
むしろバレれば死ぬという環境に無給で行く訳も無い」
「ま、そうだよね。
現実的にはシミルの暗殺者釣るのに良いんじゃないかな?
そもそも処罰要員なんだから護衛もいらない。
情報も全部吸い出した後だから、キチンと使った方が効率的だよ」
と理熾はギルバートを落としに掛かる。
今出来ることはどれだけ利があるかを伝えることだと思っている。
そしてそのことで強制労働へと仕向けるわけだ。
だが
「言いたいことは分かる。
だが、それらは無理だな」
領主は冷たく断言した。
お読み下さりありがとうございます。
各々が自らの秤にかけるものは様々です。
が、領主ともなれば『最大幸福』を目指さねばなりません。
一部の誰かを犠牲にしてでも、というのがとても難しいのですが。




