容疑者候補No.1 『ソル•レター』
まず初めに話を聞くべきはパーティーリーダーだろう。名前は…ソル•レターか。
紙とペンを用意し、最後に深呼吸をしてから、扉を開けて、応接室に声をかける。
「ソル・レターさん。中に入ってください。」
呼びかければ、すぐに扉が開いた。入ってきたのは、先ほど話していた童顔の男だ。こいつがパーティーリーダーか。
身長は、170cmぐらいだろうか。長身というほどでもない。肉体は太っているわけでもなければ痩せているわけでもない。しかし、ある程度鍛えられていることはわかる。
髪はショートで黒髪。日本にもよくいそうである。
顔は、19歳にしては幼さが残っている。目にはうっすらとクマがある。寝れていないのだろう。だからこそ、先ほどの発言があるのかもしれない。
「それでは座ってください。」
素直に従って席に座る。この部屋には、机と椅子だけだ。俺とソル•レターが対面に座り、カナンは少し離れたところに座っている。
カナンを見れば、準備万端といった顔で頷いている。それを見て、俺は話し始める。
「まずは、あなたのことについて聞いていきます。分かってはいますが、あなたのお名前は。」
「………ソル・レターだ。」
「次に年齢と、出身地を教えてください。」
「年齢は19。出身地は、シャナル村だ。」
シャナル村………聞いたことがあるような、ないような。少なくとも大きな村や街ではないのだろう。
「次に、ランクと冒険者歴、パーティー内での役割を教えてください。」
「ランクはD。冒険者歴は、半年ほどだ。役割は、リーダーで、剣士だ。」
「半年ほどとなると、研修を受けて間もないって感じですか?」
「そうなるな。」
「冒険者以外に、なにかやっていることは?」
「特にない。」
「では、次に、いつこの街に来たのか…」
と聞こうとすると、イライラしているのか、机を叩き立ち上がる。
「こんなことを聞いて何になるんだ!事件のことだけ聞けばいいだろう!」
「まずはあなたのことを知らなければ、状況が見えてきません。一度落ち着いてこちらの質問に答えてください。」
「ふざけるな!こっちは仲間が死んでいるんだ!これからどうするかも決まっていないのに……こんなことに時間を使っている暇はないんだよ!」
………分かってるよ。ここは抑えなきゃいけないとこだ。
でもこれは2度目だ。警告の意味も込めて言わなければならない。
「先ほども言いましたよね?あなたたちの話を聞く必要がある、と。それができなければ保険金を渡すことはできないとも伝えたはずです。あなたが質問に答えないのであれば、私共は、調査に非協力的であると判断しなければなりません。それで本当によろしいのですか?」
そういうと、ソル・レターは、ぐっと息を呑み、深く息をついて椅子にどかっと座る。
「分かってる。………続けてくれ。」
「わかりました。では先ほどの質問に戻ります。いつ頃この街に来ましたか?」
「今から10ヶ月ほど前だ。」
「その前はどうしていましたか?」
「村で農作業をしたり、獣を狩ったりしていたさ。」
村で農作業や、狩猟……いわゆる農民だな。農民が冒険者になることは珍しくはないが………
一応聞くか。
「………なぜ冒険者に?」
「俺の家族は、お世辞にも裕福とは言えなかったんだ。村でただ農作業とかしてても貧乏から抜け出せない。だから、冒険者になって一攫千金を狙ったんだ。」
家族のためか。素晴らしい理由だな。
「素晴らしい理由ですね。」
「………ふん。」
………何か言われると思ったな。
褒めたら、皮肉でも言われるのかと。
………本来はもっと素直なやつなんだろうな。
にしても少し分かったことがあるな。
「あなたが保険金をもらいたがっているのはそれが理由ですか?」
そういうと少し苦い顔をして、ソル•レターは答える。
「………それが一番大きいな。まとまった金があれば、家族は楽になる。冒険者をしている理由も金だからな。」
ふむ。
そうなるとこいつは、ダマン•リードルを殺す理由があるってことだ。
だから犯人というわけではないが、警戒しなければな。
さて、ここからは事件について聞いていくか。
「ここから事件のことについて聞いていきます。まずクエストを受ける前から、ギルドに報告するまでの流れを教えてください。」
「あぁ、分かった。………まず、朝起きてから、宿を出たのは8時45分とかだったかな。」
「ギルドでクエストを探して、受けて、そのままベラル平原に向かったんだ。でも、平原に薬草があまりなかったんだ。そのとき、クエストの説明で、ベラル平原以外にも、ベラルの森に行けば行ってことを思い出したらしくてな、そのままベラルの森に向かったんだ。」
「んで、ベラルの森に入って薬草を取っていたんだが、突然アルが叫んだんだ。」
………アル?そんな名前のやつ、いたか?
「すみません。アルとは、誰でしょうか?」
「アルは、仲間のアルハのことだ。」
なるほど。いわゆるあだ名か。
………あだ名で呼ぶなよ、わかんないんだから。
そう思いながら続きを促す。
「そしたら、アルのところに、ソードゴブリンたちがいたんだ。俺たちはびっくりして訳わかんなくなって、どうしようって。そしたら、ダマンが、”お前らは早く逃げろ!”って。」
そういうとその時を思い出したのだろう。悔しさを滲ませながら話し始める。
「俺は間違えたんだ。俺は戦うべきだった。でも怖くなって、足がすくんだんだ。俺は、リーダーなのに、仲間を………見捨てて………。」
話しながら、目に涙を滲ませる。
責任感が強いのだろう。仲間の死にここまで悲しみ、自分を責めるソル•レターの姿は、少し眩しく見えた。少なくとも演技には見えない。
涙を目に浮かべながら、ソル・レターは話し始める。
「………そうしたら他の仲間が手を引っ張って連れてってくれたんだ。そして、森から抜け出すことができた。後ろにゴブリンはいなかったよ。俺たちは森の外でダマンが来るのを待ってたんだ。」
「でも来なかった。いくら待ってもダマンは、来なかったんだ。」
「それでも俺は、ダマンを助けにいくべきだと思った。本来だったら森に入るべきじゃなかった。ギルドに助けを求めるべきだった。」
ソル・レターは、でも、と続ける。
「それでも助けに行かなきゃって思ったんだ。そうしないと、人として、何かがなくなるような気がして………」
「仲間にそう言ったら、アルとナラは行かない方がいいって言ってたけど、ハルが確認だけならいけるはずだって言ってくれたから、ダマンを探しに行ったんだ。」
「そしたら、死体があって、でも、ゴブリンはいなくて………。あのとき、俺は安心したんだ。やばいやつはいなくなったって。仲間が死んでるのに安心して、よくわかんなくなって、とりあえず死体を持ち帰ろうって思って持ち帰ったんだ。」
「そして、あとはハルが、ギルドに説明してくれた。」
そう言って、椅子に深く座り直す。
………感情がこもっていたな。
こいつは、本来は素直で熱い男なのだろう。仲間を思い、責任感がある。
良いリーダーなのだろう。
ただ、
「気になることがあります。」
「………なんだよ?」
「森から逃げる時、誰が手を引っ張ってくれたんですか?」
「………アルだった気がする。あの時のことは、あまり覚えていなくて……。」
「………わかりました。ありがとうございます。辛いことを思い出させてしまって申し訳ありません。」
「いや…いいんだ。あんたらも好きでこんなことしてる訳じゃないんだろ…あんたらに当たるのも間違ってるって分かってるんだけどな。」
………大人だな。俺なんかよりも、ずっと大人だ。まだ、19歳なのに、日本じゃお酒も飲めない年齢なのに。
これ以上は聞かないほうがいいだろう。最後に聞くべきは………
「最後に聞きたいのですが、ダマン•リードルと最も仲が良かった人物は誰ですか?」
「それは、ナラかもな。」
「ナラ?………ナラマ•レターさんのことですか?」
「そうだ。あいつは、ダマンと一番仲が良かったはずだ。なんせ、ダマンはあいつが連れてきたんだからな。」
なるほど。ダマン•リードルのことは、ナラマ•レターに聞けばいいか。
他にも聞きたいことはあるが、これ以上は酷だろう。
カナンを見れば、頷いている。
それならば、聞きたいことは他のやつにでも聞けばいい。
「とりあえず今のところ聞きたいことは聞き終わりました。他の方が終わるまで、応接室で待っていてください。」
「…あぁ、分かった。」
ソル・レターは椅子から立ち上がり、扉へ向かう。
その時に、少しだけ見る。
………。
そうして、ソル•レターは疲れた顔をしながら出ていく。
なんだかどっと疲れたな。まだ1人目だ。あと3人に話を聞かなければ。時計を見て、ため息をつく。
今日は長くなりそうだ。




