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血濡れの魔女は夜と踊る  作者: ウミノリリオ
第七章 虚飾の聖女は虚に溺る

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1.プロローグ

 遠い過去を映していた夢が、静かに途切れた。


 頭上にも足元にも星屑が浮かぶ、境界のない夜の世界。

 胸元で眠っていた黒猫が身じろぎをする気配がして、ルナは紅い瞳を開いた。

 二度、三度。気だるげな仕草で瞬きを繰り返したのち、ふっと息を吐く。


「——ああ、つまらない夢を見ていたわ」


 どこか掠れて聞こえるその声に、黒猫もまた目を覚ます。

 月光のような金の瞳をぱちりと開くと、にゃあんと喉を鳴らし寝ぼけたようにルナに擦り寄った。

 ルナはそれに一度だけ笑みを向けると、ゆったりとその上体を起こす。長い黒髪がさらりと落ちた。夢の余韻が残る脳裏に、震える声で告げられた言葉が蘇った。


——その高潔な魂は、どんなお姿になられても、決して変わることはないのですね。


「……高潔、ね。それだけは違うと、言っておいた方が良かったかしら」


 どこか自嘲げに浮かべた微笑みを月光が照らす。

 どこまでも純粋に、自分を慕い続けた侍女。

 けれど彼女の姿は、もうどこにもない。

 ルナと、一匹の小さな獣の影だけが、夜の水鏡のようなその場所で静かに隣り合っていた。


 と、月明かりの照らす暗闇に、憎悪に溢れた声が響いた。

 血を塗り固めたような紅い瞳に、白花に溺れる女の姿が映る。

 全身を地へ縫い付けられても尚、憎悪に血走った瞳でただ一人を射抜き続ける、その女。


「……まさか、あなたにまた会えるだなんてね」


 ルナはそう言葉を落とすと、心底嬉しそうな笑みをその顔に浮かべた。


「だけどね、私、今ならあなたと仲良くなれる気がするの。だって——あなたと私は今、同じ舞台に立つ『踊り手』なのだから」


 クスクス。クスクス。

 くすぐるような笑い声が、夜の世界を揺らす。

 胸元に擦り寄る黒猫を当然のように抱きしめ、ルナは静かな囁きを落とす。


「さあ、幕を上げましょう——」


 夜の世界に一人と一匹の影が滲んでいく。

 それは、長い夜を終幕へと導く合図。

 最後の舞台が、静かに幕を開けた。

次話も更新しています。

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