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血濡れの魔女は夜と踊る  作者: ウミノリリオ
第X章 血濡れのXXはXと踊る

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5.ルナ・ルクス⑤

「……なるほど、事情はわかりました」


 ——大神殿、中央塔、大神官執務室にて。

 オーギュストの執務室に先ぶれもなく駆け込んだルナは、そのまま執務机の前に立ち、自らが調べ上げたことを一気に捲し立てた。

 聖女らしからぬその行動に、最初は眉を顰めていたオーギュストだったが、ルナの話を聞くに連れ次第に神妙な面持ちになっていった。

 そして、


「それはひどい話ですね。すぐに対応させましょう」

「本当!? よかった……!」


 いつものように紳士然とした態度でそう言われ、ルナはほっと胸を撫で下ろした。

 後先考えずここに来てしまい、「聖務はどうしたのです」と叱責を受ける可能性も考えていたからだ。 


「ええ。そもそも疫病など、神殿が最優先で当たるべき課題。民の不満も高まっていますし、我々としても何か手は打たねばと思っていたところです」


 オーギュストはそう言うと、室内にいた下級神官に何某か指示を出し、彼を外に出した。

 本当に『すぐに』対応する気なのだ。ルナの心が僅かに持ち上がった。


「すまなかったね。神殿も一枚岩ではない、どこかにその貴族と癒着して、そちらを優先している者がいたのだろう。気づくのが遅れてしまった……私の責任だ」

「お、オーギュストのせいではないわよ! 私がもっと気をつけていたら……」

「いえ、君を聖女に推したのは私です。その聖務に関わることなら、その責は私にある。どうか謝罪させてください」

「オーギュスト……」


 そしてルナを向き直り、申し訳なさそうに眉を下げた。

 オーギュストの責など、本来なら一つもないのに。

 鎮痛な表情、自ら責を負おうとする誠意あるその姿勢に、ルナは感動して呟いた。


「顔を上げて、オーギュスト。あなたが気に病むことではないわ」

「しかし……」

「それより、今後のことを考えましょう。身分や寄進の額で願いを叶える相手を選ぶなんて、やっぱり間違ってるもの」

「……その通りですね、ルナ」


 両手を胸の前で組みそう語るルナに、オーギュストはいつも通り穏やかな笑顔で答えた。

 理想を肯定されたことが嬉しく、ルナは続ける。


「今一番『奇跡』を欲している人に、どうにか届かせる方法はないかしら……そうだ、私が国中の治療院を回るのはどう?」

「それだと、君のほうが倒れてしまいますよ。……そうですね」


 勇んで言うルナに、オーギュストは呆れたように片眉を下げた。

 そして、顎に手をやり、しばらく考え込む。

 ルナは大人しくその答えを待った。


「では、こういうのはどうでしょう? 重症者の多い地域や治療院を私がリストアップさせます。もちろん、身分も寄進の額も関係なく。ルナ、君はその通りに動きなさい」


 代わりに提示された案は、ルナの理想に充分適うものだった。その方法なら、症状の重い者から優先して治せる。


「それはいいわね! あなたがそのリストを作ってくれるというなら、それ以上に信じられるものはないわ」

「そう言ってもらえて嬉しいよ。では、聖務官にもそのように伝えておきます。近日中に報せが行くでしょう」

「わかったわ。ありがとう、オーギュスト!」


 ルナは喜んで返事をし、入ってきた時と同様、やかましく執務室を後にした。

 悩んでいた問題があっという間に道筋を得た。ああ、やはりオーギュストに相談してよかった——ルナは心からそう思った。

 ルナにとってオーギュストは、この神殿で誰より頼れる存在だった。

 自分を見出し、聖女として導いてくれた恩人。今もこうして、悩む自分に行くべき道を示してくれる。


 人の悪意に触れたことは、たしかに悲しかった。

 けれど——ディーンやオーギュストのおかげで、事態はすぐに好転した。そのことが、ルナにはとても幸福なことに感じられた。


(彼らのように、正しい人はいる。それなら私は、人を信じましょう、愛しましょう……)


 そう思いながら、知らず、ルナは両手を胸の前で組んだ。

 祈るように目を閉じる。

 誰の血も介さず、誰にも届かぬ祈り。

 それでもルナは、胸の内で何度もその願いを繰り返した。




 翌日、ルナの私室にそのリストが届き、彼女はその通りに聖務を行うようになる。そのおかげか、疫病は沈静化の兆しを見せ始めた。

 終わりの見えない災禍に混乱していた民衆も、少しずつ落ち着きを取り戻す。このまま事態は収束するのではないかと、誰もが希望を抱いた。


 そんな折であった。

 ——ルナの故郷で、疫病患者が確認された。

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