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血濡れの魔女は夜と踊る  作者: ウミノリリオ
第六章 祈りし信徒は呪いに沈む

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13.アネリア⑫

 














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             ——————————————てる










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                  ————————愛してる



      ——————————愛してる


             ————————愛してる



 ——————愛してる

     ——————愛してる

                 —————愛してる

             —————愛してる


 ——愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる



    「    愛してるわ    」






 ——慈愛に満ちた声が耳をくすぐり、アネリアはゆっくりと目を開けた。

 冷たい石床の感触も、喉を焼く毒の苦しみも、いつしか遠のいていた。

 ひたすらに重かった胸の痛みまでも、静かな囁きによってじわりじわりと溶けていく。

 胸を満たすのはどこまでも深い愛、愛、愛、愛愛愛愛愛愛。


 その深い深い慈愛を、アネリアは知っていた。

 聖母のように優しく囁くその声を、自分は、自分は。


 泣き出しそうな気持ちで顔を上げる。

 いつの間にかアネリアは、夜の中に立っていた。

 果てのない闇と、頭上には満月。足元には水鏡のような黒い地面が広がり、その上を淡い月光が揺れている。

 風も音も感じられない、静寂に包まれた『夜』。

 夢と現の狭間、その空間に、柔らかな声が落ちた。


「——それであなたはここに囚われたのね。祈りも矜持も、全て奪われて」


 月光の下、長い黒髪が揺れる。

 黒猫を傍らに侍らせた女が、静かにアネリアを見つめていた。

 薄い唇が見慣れた微笑みを浮かべる。


「こんにちは、私は『魔女』。あなたの願いを叶えに来たの。

 ——なんて、今更自己紹介なんてするまでもないかしら」


 クスクス。

 喉を鳴らしながら、血のように紅い瞳が悪戯に細められる。

 瞬間、アネリアの中の何かが決壊した。


 ——ああ、ああ、ああ。

 私はきっと、ずっとこの日を望んでいた。


「願い、など……! そんなもの、もう、ありません。許されるならば……あなた様に、あなた様の手で、どうか、私を、罰してください……!」


 枯れた声を振り絞る。

 アネリアはそのまま、その場へと崩れ落ちた。

 溢れた涙が夜の水鏡に波紋を落とす。

 心を震わすのは悔恨と、そして紛れもない歓喜だった。

 星の海の中、胸の前で両手を組む。

 願いなど、愚かな自分にはそんなものを抱く資格すらない。

 心からそう思った。そう思ったのに。


「……ふうん?」


 魔女は訝しげに片眉を上げると、ゆっくりとアネリアの元へ近づいた。

 ふわりとその身体を夜に浮かべ、音もなくアネリアの前に降り立つ。


「それはおかしいわね。

 この場所に招かれるのは、死してなお強い恨みに囚われた者だけ。

 ……ねえ、アネリア。この私に、隠し事をするつもり?」

「——っ!」


 魔女は言いながら、アネリアの胸元へそっと指を伸ばした。

 その言葉に、仕草に、アネリアは息を呑む。


 「わ、私は……」どくり、心臓が脈打った。重く沈んだ感情が揺れる。

 「私は……!」願いなど、抱く権利はない。そう思ったのは本当。だけれども同時に、こう思ったのも本当だ。

 『もしも自分に力があったなら』、と——。


「ああ、愛してるわ、アネリア。あなたの無垢な愚かさも、優しい脆さも。だから——」


 魔女はそう言うと、しなやかな指先でアネリアの頬を撫でた。

 よりいっそう優しい声で囁く。


「もう一度聞くわ、私の愛しい踊り手よ。あなたの願いはなぁに?」


 紅い唇が静かに弧を描く。

 同時に、あらゆる感情がアネリアの胸に流れ込んできた。

 カトリナの高らかな笑い声。ディーンの動かない表情。牢獄の冷たさ。突きつけられた絶望の色。


 ——ああ、もしも自分に、力があるとしたならば。

 一体何を守れるだろう。何に反抗できるだろう。

 繰り返される悲しみを、断ち切ることはできるのだろうか——?


 どくり、心臓がまた脈を打つ。

 顔を上げたアネリアに、魔女は満足そうに頷いた。


「自分の無力さを嘆くのなら、私が力を貸しましょう。

 ——あなたがその血を、捧げるのならば」


 涙はもう止まっていた。

 長い年月をかけて育てた献身は、もはや根から腐り落ちた。

 その骸を踏み台にするように、胸の奥で新たな芽が顔を出す。


 細く弱々しかったそれは、瞬く間に蔦となり、アネリアの全てを覆い尽くす。

 代わりに咲いた花、その花弁に色をつけるのは、もはや純粋な祈りではない。


「さあ、幕を上げましょう——」


 アネリアの眼前に、白い手のひらが差し出される。

 その細い指先だけが、いつだってアネリアの(しるべ)だった。

 月光が揺れる。夜が大きく脈打つ。


 夢は、そこで深く沈んでいった。

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