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『…………っセシルうううううううううう!!!!!!』
くたり。
うごかなくなったセシルに、わたしはさけんだ。
でも、
——わああああああっ!!
それよりも、もっとおおきなかんせいにかきけされる。
「——ありがとうございます、ありがとうございます! 今宵の“ショー”も楽しんでいただけたでしょうか?」
かんせい。はくしゅ。
それにこたえるように、“ぐれごーる”が“ぶたい”のまえにあらわれ、ふかく“おじぎ”をした。
まるで、なにもなかったみたいに。
“おり”のなかで、いきたえるセシルが、見えていないかのように。
(……なんで)
あたまが、ぐらぐらする。
どくん、と。
むねのなかで、なにかがはじけた。
『……ぐれごおおおおおおおおおる!!!!』
「!? な、なんだ!?」
わたしはおおきくほえ、こころのまま、“ぐれごーる”にとびかかった。
くろい服のすそをわたり、そのうでにつよくかみつく。
「ぐわあっ!? な、なんだこいつは!?」
“ぐれごーる”がさけぶ。
ぶんっ!
つよくふりほどかれた。
「ぎゃんっ!」
からだがとばされて、“おり”へとうちつけられる。
いたい。
だけど、そんなことどうでもよかった。
わたしはまた、“ぐれごーる”にむかってたちあがる。
「お、なんだ?」「“ショー”の続きか?」「いいぞ、やれやれ!」
“きゃく”の人たちが、そう言ってはやしたてる。
“ち”なんてながれてないのに、目のまえがまっかにそまった。
『——なにが。なにがそんなに、おもしろいの!? いったいどこに、わらえることがあったの!?』
ほえる。
はをむきだして、つよくつよく。
だけど、“ぐれごーる”はぽかんとしたかおをして、“きゃく”の人たちはさらにわらうだけだった。
『これが、“ショー”? これのどこが、たのしい“ショー”なの。『てんごく』なの。セシルを、いためつけることの。セシルを、わらうことの。どこが、どこが——!』
声がふるえる。
目のまえがあつくて、あつくて。なみだがながれていると、やっと気づいた。
それでもわらいごえはやまない。
セシルは、セシルは——
いたかった。
くるしかった。
ないていた。
それなのに、それなのに。
どうしておまえたちは、それをわらえるのか。
セシルだけじゃない。
“おり”のなかでおびえていたみんな。
“おり”からだされるのを、いやがっていたみんな。
あのひとたちのことも、わらっていたのか。
わたしが、いつも聞いていたあのわらいごえは。
こうやって、セシルみたいに。
きずつけられて、ボロボロにされて。
『まもの』に、くわれるのを見て——
『——おまえたちが!!』
とびかかる。
がぶっ!
目のまえにいた“きゃく”に、つよくかみついた。
「痛っ!? や、やめろ!」
ふりはらわれるまえにとびのいて、こんどはとなりに。
「いやっ、わたくしのドレスが!」
「はなせ! 穢らわしい!」
がぶっ!
がぶっ!
がぶっ!
となりからとなりへ。とびはねて、うしろへ。
かみついてはつめでひっかいて、うしろあしでける。
とまらない。
とめられない。
あたまのなかは、まっかだった。
こいつらが、こいつらが、こいつらが。
セシルを、みてわらったのだ。
きずつくのを、みて。
さけぶのを、みて。
ひとり、ふたり、またひとり。
かみついて、はなして、またかみつく。
『——おまえたちは!!』
つよく、ほえる。
『セシルがしぬのを、よろこぶのか!!』
声がひびいて、“きゃく”の人たちはざわめいた。
「なんだこれは」「“ショー”じゃないのか?」「おい、誰かそいつを摘み出せ!」
かまわない。またかみつく。
「な、なんだ、こいつは……! まさか、檻から逃げ出したのか!?」
「いえ、鍵はきちんと確認して——」
「ちっ、もういい! 警備兵、さっさとこいつを捕まえろ!」
しばらくぽかんとしていた“ぐれごーる”が、やっとハッとしてそうさけぶ。
そのしゅんかん。
くびのうしろをがしりとつかまれ、かみついていたあごをはずされた。
「フーッ! フーッ!」
「こら! 大人しくしろ!」
もがく。
でも、つかまれたちからはつよくて、びくともしない。
「クソ、会場は大騒ぎだ。どうしてくれようか……!」
そこに、“ぐれごーる”がちかづいて、いらだったように言った。
わたしをつかまえた“けいびへい”が、それにこたえる。
「……あの。もしかしてこいつ、“魔女の犬”じゃないですか?」
「魔女?」
「はい。神殿から追放され、王都に住み着いていると聞きました。見た目もそっくりです」
「ほう……」
それをきいて、“ぐれごーる”は、にやりとわらった。
「なるほど、とんだ邪魔者だと思ったが……」
ゆっくりと、わたしを見る。
「むしろ、舞台に華を添えるにふさわしい“役者”だったわけか」
そう言うと、“ぐれごーる”は“きゃく”のほうをふりかえり、おおきく手をひろげた。
「——レディースアンドジェントルメン! お騒がせしました。今宵の“ショー”は、これでは終わりません!」
“ぐれごーる”が言うと、“きゃく”はあんしんしたようにわらい、また声をあげた。
「なんだ、これも“ショー”の一部か」
「今日は凝ってるねえ」
「はやく、悲鳴を聞かせて頂戴!」
それにこたえるようにまた“おじぎ”をすると、わたしをゆびさす。
「こちらに捕えられているのは、なんと——あの悪名高き“魔女の犬“! 魔女亡き後も王都に潜み、虎視眈々と復讐のチャンスを伺っていたのです!」
(……?)
わたしは、“けいびへい”におさえられたまんまのくびを、ちいさくかしげた。
なにを、いってるの?
ひそむ?
ふくしゅう?
そんなもの、かんがえたこともない。
わたしはただ、石をなげられたくないから。
なぐられたり、けられたり、したくないから。
だから、かくれて、いきてきただけ。
なのに——
「先ほどの“ショー”は前座に他ならない。今夜皆様にお届けするのは——」
“ぐれごーる”は、とまらない。
「魔女に忠誠を誓った者の、断罪劇だ——!」
——わああああああああっ!!
かんせいが、さくれつする。
ぐいっ!
からだをひっぱられて、おもわず声がでた。
「きゃんっ!」
そのまま、“おり”のなかに、なげこまれた。
「……グゥッ!」
“おり”のなか、なげこまれたわたしのまえに、おもい、音がひびいた。
——ずしん。
かおをあげる。
『まもの』が、わたしを見おろしてたっていた。
みっつのあたま。むっつの目が、みんな、みんなわたしのほうをむいている。
おおきな、しろい“きば”は、すでにまっかにそまっていた。
ああ、それは、セシルの——
「——それでは、ショータイムと参りましょう」
そうしてわたしは、『まもの』にくわれた。




