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血濡れの魔女は夜と踊る  作者: ウミノリリオ
第四章 魔女の犬は檻に踊る

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6

『…………っセシルうううううううううう!!!!!!』


 くたり。

 うごかなくなったセシルに、わたしはさけんだ。

 でも、


 ——わああああああっ!!

 それよりも、もっとおおきなかんせいにかきけされる。


「——ありがとうございます、ありがとうございます! 今宵の“ショー”も楽しんでいただけたでしょうか?」


 かんせい。はくしゅ。

 それにこたえるように、“ぐれごーる”が“ぶたい”のまえにあらわれ、ふかく“おじぎ”をした。

 まるで、なにもなかったみたいに。

 “おり”のなかで、いきたえるセシルが、見えていないかのように。


(……なんで)


 あたまが、ぐらぐらする。

 どくん、と。

 むねのなかで、なにかがはじけた。


『……ぐれごおおおおおおおおおる!!!!』

「!? な、なんだ!?」


 わたしはおおきくほえ、こころのまま、“ぐれごーる”にとびかかった。

 くろい服のすそをわたり、そのうでにつよくかみつく。


「ぐわあっ!? な、なんだこいつは!?」


 “ぐれごーる”がさけぶ。

 ぶんっ!

 つよくふりほどかれた。

「ぎゃんっ!」

 からだがとばされて、“おり”へとうちつけられる。


 いたい。

 だけど、そんなことどうでもよかった。

 わたしはまた、“ぐれごーる”にむかってたちあがる。

「お、なんだ?」「“ショー”の続きか?」「いいぞ、やれやれ!」

 “きゃく”の人たちが、そう言ってはやしたてる。

 “ち”なんてながれてないのに、目のまえがまっかにそまった。


『——なにが。なにがそんなに、おもしろいの!? いったいどこに、わらえることがあったの!?』


 ほえる。

 はをむきだして、つよくつよく。

 だけど、“ぐれごーる”はぽかんとしたかおをして、“きゃく”の人たちはさらにわらうだけだった。


『これが、“ショー”? これのどこが、たのしい“ショー”なの。『てんごく』なの。セシルを、いためつけることの。セシルを、わらうことの。どこが、どこが——!』


 声がふるえる。

 目のまえがあつくて、あつくて。なみだがながれていると、やっと気づいた。

 それでもわらいごえはやまない。

 セシルは、セシルは——


 いたかった。

 くるしかった。

 ないていた。

 それなのに、それなのに。

 どうしておまえたちは、それをわらえるのか。


 セシルだけじゃない。

 “おり”のなかでおびえていたみんな。

 “おり”からだされるのを、いやがっていたみんな。

 あのひとたちのことも、わらっていたのか。

 わたしが、いつも聞いていたあのわらいごえは。

 こうやって、セシルみたいに。

 きずつけられて、ボロボロにされて。

 『まもの』に、くわれるのを見て——


『——おまえたちが!!』


 とびかかる。

 がぶっ!

 目のまえにいた“きゃく”に、つよくかみついた。


「痛っ!? や、やめろ!」


 ふりはらわれるまえにとびのいて、こんどはとなりに。


「いやっ、わたくしのドレスが!」

「はなせ! 穢らわしい!」


 がぶっ!

 がぶっ!

 がぶっ!

 となりからとなりへ。とびはねて、うしろへ。

 かみついてはつめでひっかいて、うしろあしでける。

 とまらない。

 とめられない。

 あたまのなかは、まっかだった。


 こいつらが、こいつらが、こいつらが。

 セシルを、みてわらったのだ。

 きずつくのを、みて。

 さけぶのを、みて。


 ひとり、ふたり、またひとり。

 かみついて、はなして、またかみつく。


『——おまえたちは!!』


 つよく、ほえる。


『セシルがしぬのを、よろこぶのか!!』


 声がひびいて、“きゃく”の人たちはざわめいた。

「なんだこれは」「“ショー”じゃないのか?」「おい、誰かそいつを摘み出せ!」

 かまわない。またかみつく。


「な、なんだ、こいつは……! まさか、檻から逃げ出したのか!?」

「いえ、鍵はきちんと確認して——」

「ちっ、もういい! 警備兵、さっさとこいつを捕まえろ!」


 しばらくぽかんとしていた“ぐれごーる”が、やっとハッとしてそうさけぶ。

 そのしゅんかん。

 くびのうしろをがしりとつかまれ、かみついていたあごをはずされた。


「フーッ! フーッ!」

「こら! 大人しくしろ!」


 もがく。

 でも、つかまれたちからはつよくて、びくともしない。


「クソ、会場は大騒ぎだ。どうしてくれようか……!」


 そこに、“ぐれごーる”がちかづいて、いらだったように言った。

 わたしをつかまえた“けいびへい”が、それにこたえる。


「……あの。もしかしてこいつ、“魔女の犬”じゃないですか?」

「魔女?」

「はい。神殿から追放され、王都に住み着いていると聞きました。見た目もそっくりです」

「ほう……」


 それをきいて、“ぐれごーる”は、にやりとわらった。


「なるほど、とんだ邪魔者だと思ったが……」


 ゆっくりと、わたしを見る。


「むしろ、舞台に華を添えるにふさわしい“役者”だったわけか」


 そう言うと、“ぐれごーる”は“きゃく”のほうをふりかえり、おおきく手をひろげた。


「——レディースアンドジェントルメン! お騒がせしました。今宵の“ショー”は、これでは終わりません!」


 “ぐれごーる”が言うと、“きゃく”はあんしんしたようにわらい、また声をあげた。

「なんだ、これも“ショー”の一部か」

「今日は凝ってるねえ」

「はやく、悲鳴を聞かせて頂戴!」

 それにこたえるようにまた“おじぎ”をすると、わたしをゆびさす。


「こちらに捕えられているのは、なんと——あの悪名高き“魔女の犬“! 魔女亡き後も王都に潜み、虎視眈々と復讐のチャンスを伺っていたのです!」


(……?)


 わたしは、“けいびへい”におさえられたまんまのくびを、ちいさくかしげた。


 なにを、いってるの?

 ひそむ?

 ふくしゅう?

 そんなもの、かんがえたこともない。

 わたしはただ、石をなげられたくないから。

 なぐられたり、けられたり、したくないから。

 だから、かくれて、いきてきただけ。

 なのに——


「先ほどの“ショー”は前座に他ならない。今夜皆様にお届けするのは——」


 “ぐれごーる”は、とまらない。


「魔女に忠誠を誓った者の、断罪劇だ——!」


 ——わああああああああっ!!

 かんせいが、さくれつする。

 ぐいっ!

 からだをひっぱられて、おもわず声がでた。

「きゃんっ!」

 そのまま、“おり”のなかに、なげこまれた。


「……グゥッ!」


 “おり”のなか、なげこまれたわたしのまえに、おもい、音がひびいた。

 ——ずしん。

 かおをあげる。


 『まもの』が、わたしを見おろしてたっていた。

 みっつのあたま。むっつの目が、みんな、みんなわたしのほうをむいている。

 おおきな、しろい“きば”は、すでにまっかにそまっていた。

 ああ、それは、セシルの——


「——それでは、ショータイムと参りましょう」


 そうしてわたしは、『まもの』にくわれた。

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