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血濡れの魔女は夜と踊る  作者: ウミノリリオ
第四章 魔女の犬は檻に踊る

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 はいりこんだ穴のなかは、くらい、『ものおき』みたいなところだった。

 木のはこがあちこちにたくさんつまれて、そこからいろんなものがとびだしている。


 赤いぬの。木のぼう。かみのたば。

 ほこりをかぶったそのあいだを、わたしはゆっくりとあるく。


(ここ……どこなんだろう。すごく、ひろい)


 あたりをぐるりと見まわしてみる。

 ぬれた土と木のにおいと、それから、なんだか、いやなにおい。

 ずっととおくに、おおきなとびらが見えた。

 そこから『ゆうしゃ』が出てくるんじゃないかって、すこしこわくなった。

 そのとき。


 ——こつ、こつ。


 足音がした。

 わたしはビクッとして、すぐにちかくのはこのうらにもぐりこんだ。

 からだをちぢめて、みみをすませる。


「——お客様はすべてご入場されました、グレゴール卿」


 おとこの人の、声だった。

 でも、『ゆうしゃ』じゃない。

 はこと、はこのすきまから、そっとのぞいてみる。


「今宵の“ショー”も盛況になりそうですね」

「ああ。今日は◯◯伯爵も来られるからな。粗相のないように」

「御意に」


 くろい服をきたおとこの人が、ふたり、こっちにむかってあるいてくる。

 なんのはなしをしているのかは、むずかしくてよくわからない。

 でも、ひとつだけちゃんときこえた言葉。


 “ショー”。

 ここは、それをやる場所らしい。

 なんだかたのしそうなひびきだ。

 そういえばむかし、ママが言ってた気がする。

 うたったり、おどったり、『てんごく』みたいにたのしいことがあるって。

 もしかして、それのことかなあ。


 わたしはなんだかワクワクしてきて、おとこの人たちのあとをこっそりとついていってみた。

 ふたりはおはなしにむちゅうで、わたしにはちっとも気づかない。

 だけどそのうち、おおきなとびらのむこうに行ってしまって、わたしはこまってしまった。

 ちいさなわたしでは、そのとびらはあけられない。


(どうしよう……)


 きょろきょろ。

 あたりを見まわしてみる。

 くらい、みちのさきにひとつ、あかるいひかりが見えた。


 穴だ。

 足元に、しかくくて、ひらたい穴があいている。


 でも、その穴には、かたい“さく”がはまって、わたしでもとおりぬけられそうにない。

 むこうから、人の声がした。

 おそるおそる、そこからのぞいてみる。


(——わあ)


 たくさんの人たちが、そこにいた。


 あか、あお、きんいろ。

 いろんな色の、きれいな服をきて、たのしそうにわらっている。

 なにかをまるくかこって見おろして、さけんだり、手をたたいたり。

 まるで、おいしいごはんをたべた時みたいな。とても、とてもたのしそうなかおだった。


 もしかして、これが、“ショー”?

 それじゃあ、あの人たちが見ているさきに、『てんごく』があるのかなあ。


 『てんごく』は、人にかくれてよくみえない。

 ただ、たのしそうにわらう人たちのかおだけが、よく見えた。


(いいなあ。“ショー”って、そんなにたのしいのかなあ)


 わたしも、それが、見てみたい。

 そうおもって、“さく”のあいだから、くびをのばしてみた。

 そのとき。


『そこで何してるの!』


 びくっ!

 とつぜん、うしろから声がして、わたしはびっくりしてふりむいた。


 『ご、ごめんなさい!』おもわずさけぶ。

 どうしよう、見つかった。

 また石をなげられる。ここから、おいだされる。そうおもって。


『わたし、なにもわるいことしてないです! ほんとうです……!』

 わたしはあわてて、くびをふった。

 もう、いたいのはいやだ。さむいのはいやだったから。


『……落ち着きなさい。別に、怒っているわけじゃないわ』

『え……?』


 あたふたするわたしに、その声はやさしくそう言った。

 かおをあげる。


 そこにいたのは、きれいなおんなのひとだった。


 まっしろい、すらっとしたからだのおねえさん。

 まっしろいかおに、まっくろな目が、やさしくわたしを見おろしていた。


『やっぱり、見ない顔ね、お嬢ちゃん。一体どこから来たの?』


 おねえさんは、目をすこしだけほそめて、わたしにそうきいてきた。

 わたしはなんどかまばたきをして、そのあと、正直にこたえた。


『えーと……あっちのほう。かべに、穴があいてて……』

『壁? 穴? ……まさかあなた、外から来たの!?』

『え? うん。にげてたら、まよいこんじゃって』


 びっくりしたかおをするそのひとに、わたしもびっくりしてうなずく。

 やっぱり、はいっちゃだめだったのかな?

 こわくなって、わたしはまた、『ごめんなさい』とつぶやいた。


『いえ、謝ることはないわ』

 おねえさんはあわててくびをふる。

『むしろ、こんなところに迷い込んだだなんて——』

 そう、言いかけたときだった。


「————、——、」

「——。——……」


 おおきなとびらのむこうから、だれかがはなす声がした。

 ちかづいてくる。


『……っ! いけない、見つかるわ』

『え?』

『ついてきなさい。ここは危ない』


 そう言って、おねえさんはくるりとうしろをむいた。

『ま、まって!』

 そう言うわたしをいちどだけふりかえって、またすぐに走りだす。

 わたしはあわてておいかけた。


『ね、ねえ、おねえさん。あなた、なまえはなんていうの?』


 ひっしについていきながら、きいてみる。

 おねえさんは、わたしのことを見もせずにこたえた。


『私? 私は——セシル』


 それが、わたしとセシルの出会いだった。

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