16.魂の形
「うっ……じゃ、あ、っぷ、ディナ、さっきの……ぅ、石みっ、たいなの、もっ……てくれ」
ジールとヴァスに両脇から背中をさすられ、トーナは這々の体でなんとか指示を出す。
「わ、わかった」
先程トーナに駆け寄る時に放り投げた物体を拾いに行く。
少し離れた位置で黄色く反射するそれを見つけると、手に持って駆け戻る。
「持ってきたよ」
「よし……おい、ツヴァイ、あとは、おっ、前が」
「うん!わかったよ、トーナ!」
その言葉を聞いて安心したのか、どしゃりと地面に崩れ落ちるトーナ。
「わー!トー姉!!」
ジールが倒れ込むトーナを慌てて抱き起こす。
「ごめん……ジール、少し、ぅ、眠らせてくれ……」
「トー姉!しっかりしてー!」
「お、おい、そんなに揺らしたら……」
「ジー……ル、っぷ、や、やめ――」
「「わー!」」
「それでね!まずは、魔法をかんじてみよう!その石を持って目をつむってみて!」
「え……わかった……」
ツヴァイはトーナ達三人を微笑ましそうな顔で見ると、ぐりんと無邪気な笑顔をこちらに向けて、指導を始める。
あまりの無法さにディナは若干の恐怖を覚え、心理的に一歩後退る。いわゆるドン引きだ。
ディナの目が閉ざされ、視界が暗転する。
「うん!手に持った石はどんなかんじ?」
「手にひっついてるけど……」
「うんうん!体の方はどう?」
「……体?」
この金属が手にくっつくことと、何の関係があるのだろうか、ディナと二人疑問符を浮かべる。
「そう!石じゃなくて、手とか腕とか!集中してみて!」
体の内側の何かを感じろということだろうか。
金属がくっつく何かが出ている?いや、もしくは金属は結果的にくっついている?
「う、ん……んん?」
(どうした?)
(マサキの言う通りかも)
ディナは思考に続けて口を開く。
「石がくっついてるんじゃなくて、手からなにかが石に吸われてる……?」
「そう!それが、魔法!その流れをかんじてみて!」
「なんか……うで?じゃない、もっと体の中から石に向かって出てる?」
魔法の流れ……?創作なんかでいうところの魔力というやつだろうか。
「それ!それをもっと出してみて!」
「もっと出すって……」
「大丈夫!うーん!って!思いっきり力を入れたら出るよ!」
なんだ、魔力ってのはその……あれみたいな、いきんだら出るようなものなのか?
(マサキやめて)
(そうだな、すまん、邪魔をした)
気を取り直してディナは内なる流れに集中する。
徐々に外の喧騒が薄れて遠ざかっていく。
――静かだ。
上も下もない無限の宇宙に一人投げ出されたような、そんな錯覚に陥る。
思えばディナが眠りに落ちる刹那の間でしか、この暗闇を体験することはなかった。
身体感覚がないと目を瞑るといった何でもないことが、こうも心許なく感じるのか、と思う。
闇の只中、ぽっかりと浮かんでいるようなそんな不確かさに、半ば無意識に何かに縋りたくなって、暗闇に目を凝らすように感覚を研ぎ澄ます。
――なんだ?
俺の隣から何かが流れ、高速に駆け巡っている?
その何かは無数の網目のように巡り、少女を形作っている。
視覚や他の感覚ではない、もっと根源的な何かをもって、それを知覚する。
そして同時に、それは俺自身にも流れており、ディナの中での俺の身幅、魂というべき自意識の領域を自覚する。
――全く持って奇妙な感覚だ。
俺は不定形の網の塊、到底人の形をしていないそれだが、分かる。
乗り物を運転している時のような、五感に依らない不確かさで、しかし自分は今そう形作られているという、確かな感覚。
……全く持って訳の分からない存在と判明したが、意外にも衝撃は少ない。
むしろ、安堵感と言うべきだろうか、保留となって思考の片隅で常に渦巻いていた疑問が、落ち着いていく。
有り余る時間の中で自分の存在について幾度も考えた。
幽霊に始まり、夢の中、意識ごと取り込まれるゲームの中、見ている物語を自分事としている精神状態、果ては蛸型寄生宇宙人という荒唐無稽なもの――
色々と考えたものだが、身体感覚のなさというのはこうも現実感を失わせるのか。
……しかし、"事実は小説より奇なり"とはよく言ったものだ。
訳は分からないが、少なくともこれは現実で、俺はここに存在している。今はそれで十分だ。
そして、俺と触れ合うように隣りにある領域、これが……ディナの魂か。
(うん、わかる……これがマサキで、これがディナ)
(そうらしいな、それでお前から体中に流れてるこれが、恐らく魔法の流れ、魔力、か?)
(マサキにもあるね!ディナとちがってなんかちっちゃくぐるぐるしてるけど)
そう、俺に魔力らしきファンタジー成分が流れているのも驚きだが……まあそれはもはや俺の状況がとんでもないので今更な感じではある。
さておき、俺から流れてるこの魔力らしきものは、くっついているところでは隣の領域――ディナの魂に繋がるように重なっているが、全身を巡ってはいない。
位置関係を見るに頭、特に後頭部のあたりだけで纏まっている。俺に身体感覚がないことと関係がありそうだ。
(それで、この魔力は手から出せそうか?)
(うーん、なんか……できそう、かも?)
むむむっとディナは更に集中を高めていく。
すると、魔力は身体を巡るような循環の流れから、右腕に向かって流れを変える。
少しずつ握ってる金属を伝って抜け出てはいるが、集めるだけ集めた魔力は右腕のあたりに留まっている。これを放出すれば魔法になるのだろうか。
というか、体を巡る大部分の魔力を集めてしまっているが、これを出してしまってよいものなのだろうか、と嫌な予感がする。
「んんー……えいっ!」
俺の予感をよそにディナは気合いとともに目を見開く。
すると同時に奇妙な金属を握る右手から、ぼんっ、と爆発するようにきらきらと煌めく薄黄色い蒸気のようなものが吹き出す。
「あっ……?」
同時にくらり、と視界が傾く。
「おっと!」
すぐにツヴァイの逞しい腕に支えられる。
(おい、大丈夫か?)
(……)
声をかけるもディナからの反応がない。立ち眩み?気絶したのか?
しかし、睡眠の時は俺もまた意識を失っている。ディナだけ意識を失うということはなかった。
そして、不可解なのは瞼が少し降りて上半分は暗いが視界自体は確保されていることだ。
(ディナ!)
(……)
強めに呼びかけてみるがやはり反応がない。
どうなってる?一体何が――
次回 17話『魔法』
ストックが尽きてしまった為、次回より不定期更新となります。




