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血赤のディナ  作者: 紫藤てる
第二章「成長」

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17.魔法

「ディナ!?」「ちび!?」

 ジールとヴァスの切迫した呼び声、聴覚も問題ない。


「だいじょーぶ!?」

 どたどたと、二人が駆け寄り、ツヴァイに抱えられているディナの顔を覗き込んでくる。


「うん!大丈夫だよ!」

 ツヴァイが元気よく答えるが、大丈夫なわけあるか。


「でもうごいてないよ!?」

「うん!ねかせてあげようね!」

 答えになっていない、なんなんだこいつは。


 ツヴァイに抱えられ、端に寝かされる。

 ひょっこりとジールの心配気に揺れる黄色い瞳が現れる。――黄色、そう、そうだ。


 その色にディナが倒れる直前の光景が思い浮かぶ。

 

 黄色い蒸気のようなもの、魔法、魔力?なんだっていいが、それを出した直後から返事がない。関係性は明らかだろう。


「うっ、ふぅ、バカも言ってるけど、大丈夫だ」

「トー(ねー)……」

「うん!大丈夫だよ!」

「ツヴァイ(にい)……ちょっとだまろうぜ」


 先程感じた内なる流れに意識を向ける。


「前にはなしたろ?最初はジールも白目でぶっ倒れて次の朝までぐっすりだったって」

「でも……」


 隣り合うディナの魂は、先程まで魔力が全身に漲るように満ちていたが、今は流れが細く、弱々しい。


 更に深く、観察する。


「うーん、そうだな……多分ジールより早く起きるんじゃないか?」

「ほんと?」

 トーナのその言葉にジールの顔色が少し戻る。


 少しずつだが、魔力は戻って来ている……。

 流れを辿ると、体の外側から少量ずつ入って来ているようだ。それに、頭――とりわけ顔の中央あたりからの入りが多い……これは呼吸によるもの、か?

 どのくらいかかるかわからないが、このまま待てば魔力は戻りそうだ。


「ジールの時はさ、最初からイェラ姉さんの真似して、攻撃魔法(ストゥルカ)出したい!ってやってたろ?」

「あー、そうだ、それですっげえ出してたな」

 ヴァスが思い出すように同意する。


 ――しかし、何とかならないだろうか。

 この先、魔法の適切な使用を学んでいけばいいとは思うが……常にそれができるかは不透明、また倒れないとも限らない。


 そしてやはりと言うべきか、ディナのみが眠っているという特異な状況だが、体は動かせそうにない。




 ……そう、特異なのだ。


 普通はここで意識を喪失して、回復を待つほかないと思われるが、ディナは違う。もう一つの意識――俺が居る。

 そして、俺には思考を回し続ける以外に、もう一つ特異なことがあった。

 先程判明した、俺にも流れていた魔力の存在だ。

 

 ディナが眠っている原因が、その魔力量の低下であるのであれば――

 

「そうそう、ぶわーってな!いや焦ってよ、それとあん時に珍しく、()()()も慌てててさ」

 そう言ってトーナは目線だけで飲んだくれてる痩せぎすの男を示す。


 ――()()()()()()()()()


「んで、帰った時もリヴ姉の方がぶっ倒れるんじゃないかってくらい――」

「あぅ……」


 重なり合う魂を通じて、ディナの領域に俺の魔力を流し込もうと試みる。

 すぐに魔力は俺の意志を汲んだかのように、流れを変える。……よし、なんかできそう、だ。


 器を満たすようにディナに魔力が満ちていく。


(――、……)

 寝起き前の言葉にならないようなディナのあやふやな思考が浮上してくる。よし、そろそろだろう。

 困らせたのだから少し驚かせてやろう、とそんな気持ちを魔力に込めて、最後の一押しをする。


 さあ――

 

「あー……っと、まー、とにかく!そん時よりは出てないからディナは大丈夫だ!」

「うー、わかっ――」


( 起 き ろ !)

「 "お き ろ" !」

 がばり、とディナが叫びながら上体を起こす。


「「「うわっ!」」」

 ディナを至近で囲んでいたツヴァイ以外の三人が驚き、声を上げる。


「ディナ!起きたの!?だいじょーぶ?」

 すぐにジールが駆け寄り、ディナの瞳を覗き込む。


「"おれ、は?……"」

「なに?なにを言ってるの?」

 ディナは周囲を忙しなく見まわし、"日本語"で呟く。

 ジールの顔色が不安に曇る。


 どうも混乱しているらしい、俺の思考を自分のものと誤認したか?


(おい、ディナ、ディナ!)

「えっ?あっ、マサキ……?」

(そうだ、落ち着け、お前は誰だ?)

「ディナ、だけど……?」

(よし、もう大丈夫だな?)

「?うん……」

 ひとまずは落ち着いたか。次は――

 

「わー!トー(ねー)!ディナが変!」

「ディナ!しっかりしろ!」

「なあ、そんなにゆらさない方がいいんじゃないか?」

 慌てるジールとそれに触発されてガタガタとディナの肩を揺らすトーナにそれを諌めるヴァス。

 そして何故か口を押さえて黙っているツヴァイに、慄きながらこちらを指差し何事かを喚く男。


(ディナ)

(大丈夫、わかってる)

 ディナは揺らし続けるトーナの両手を肩から外す。


「平気なのか?」

「うん、もう大丈夫、ねぼけてたみたい」

 心配するヴァスに返事をして、立ち上がる。


「ほんとー!?」

「うん、ほら」

 疑うジールに軽く跳ねて健在を主張する。


「それなら……いーけど」

 しぶしぶといった様子でジールは納得する。


(どこか変なところとかはなさそうか?)

(うん、ない……あ、でも――)


「騒ぐな!起きたなら続けろ!」

 遠くからの男の指示のような喚きに遮られる。……あいつ、なんか少し遠くなってないか?


 男のその言葉にジールが震えながらもディナの前に立つ。


「っ、ディ、ディナはさっきたおれて――」

「黙れ!」

「ひぅ!……で、でも」

 怒鳴られ首を竦めるも、なおいい縋ろうとするジール。

 ディナはその震える肩に手をかけ、引き留める。

 

「ジール、ありがとう、本当に大丈夫」

「う、うん」

 どこかほっとした様子でジールは引き下がる。


「……ふん」

 男の侮蔑を込めた鼻息に、黙って成り行きを見守っていたトーナが剣呑な目つきを向ける。


「な、なんだ!?」

 男は目線に押されるようにたじろぐ。


「いーや?」

 惚けたように肩をすくめるトーナ。


「ちっ……!」

 男は忌々しげに舌打ちを一つ、どっかりと座り込む。


「はっ」

 意趣返しか、鼻で笑うトーナをツヴァイが肩に手を置いて止める。


「わーってるよ、こんくらいいいだろ――うわっ……むしろお前じゃねーか!」

 振り向いたトーナは筋肉を膨れ上がらせて一回り大きくなっていたツヴァイを軽くはたく。

 にこりと無言で微笑むと、ツヴァイは膨れ上がらせた筋肉を解除する。


 トーナはそんなツヴァイに気味悪げな表情を浮かべると、一つ頭をふり、気まずそうな表情をしているジールの頭にぽん、と手を乗せる。


「トー(ねー)……」

「ジールよくやった、おねーさんだったぞ」

「うん……、わわっ!」

 そのまま乗せた手でわしゃわしゃとジールのふわふわの髪をかき混ぜる。


「もー……」

 不満そうな表情で髪を直しながらも、満更でもない様子のジールにトーナは、にやりと笑いかける。


「ディナ、なんか変だったら言うんだぞ?」

「わかった」

 ディナの返事にトーナは、よし、と続けると空気を切り替えるように明るい表情を浮かべる。


「いやー、しっかしすごいな、こんなに早く起きるなんて!イェラ姉だって最初は寝ちまったらしいのにさ」

「えっ!?」

 衝撃の事実にジールが驚きの声を上げる。


「……もう、喋っていい?」

「えっ、あ、ああ」

 ツヴァイがヴァスに発言の許可を求める。

 先程から無言だとは思っていたが、ヴァスに黙れと言われたのを守っていたようだ。……つくづくわからんやつだ。

 

「うん!すごいね!寝ちゃってすぐに起きたのは見たことがないよ!」

 沈黙の封印が解かれたツヴァイは、二割り増しになった声量で話しだす。


「そうなの?」

 ディナは頭上の獣耳を押さえつつ尋ねる。


「うん!!」

「うそ!イー(ねー)よりすごいわけない!」

「イェラ姉よりすごいとは言ってないさ、姉さんがすごいのはそこじゃないしな」

 トーナがすかさず補足を入れる。


 どうもこれはかなり特異なことらしい。……やはり俺の存在の所為だろうか、だろうな。

 俺の存在がディナに特異性を与えたようだ。


 ――これはきっと、武器になる。


「それで、どうしようか!」

 混沌としかけた状況にツヴァイが三割り増しの声量で割り込んでくる。


「んじゃ、ツヴァイはディナをよろしく……無理させんなよ?」

「うん!」

「ジール、ヴァス、あたし達はあっちでやるよ」

「はーい」「わかった」

「トー(ねー)、もー大丈夫なの?」

「ああ――」

 トーナ達は話しながら距離を空ける為、離れていく。

 

 ツヴァイはぶんぶんと近い距離を離れていくトーナを大きく手を振って見送ると、急な動きでこちらに向き直る。


「じゃあ、つづきからだね!みてて!」

 ツヴァイはそう言って右掌を胸の前で上に向ける。

 すると、掌の上に黄色く煌めく煙が現れ、緩く渦巻くように滞留する。


「おー」

 ディナが思わず感嘆の声を上げる。


「ここまではやったね!次は、こう!」

 緩やかな滞留から、意思を持ったかのように掌の上で凝縮しながら高速で渦を巻く。耳を刺すような高周音。そして、緑の輝き放つ小さな光球へと変貌する。


「おおー」

「それで、これを――」

 ツヴァイはくるりと背を向けると、土塁に向かって光球を持つ手を振りかぶり――


「こう!」

 ――投げつける!

 光線のように突き進み、パァン、と尾を引く破裂音。

 土塁が小さく爆ぜる。土煙があがり、その中をきらきらと緑光が散るとやがて立ち消える。


「すごい!」

 ディナが興奮に体を跳ねさせる。


 魔法、か……。子どもにとっては、ただただ格好良くて面白いものなのだろう。

 しかし、改めて近くで目の当たりにしたが、これは、()()的だ。


 土塁がどれほど硬いかわからないが、決して柔らかくはないだろう。それを抉るほどの暴力を、道具もなく個人が、ましてや子どもが成し得るというのだから、驚く前に恐ろしささえ感じる。


(むー……)

 興奮に水をさされたディナから不満を露わにする。


(すまん、だが、これを扱えるようになるということをよくよく考えておいた方がいい)

(……わかった)


 ――これからそれを使う、その意味を。

次回 18話『力』

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