第83話 愛の十字架
「それは卑怯だ。
お前らはマコトが断らない前提で話してる。
マコトなら快く力を貸してくれる。
確かに、そうだろう。
俺もそれで助かったんだ」
兄さんはオオゾノにそう言い放った。
オオゾノさんたちは、土下座のまま動かない。
「マコトは本当に心底、
困っている誰かのために命を懸けて戦える。
ヒーローみたいなヤツだよ。
俺はマコトを尊敬してる。
だからこそ、許せない。
その善意を悪用するような。
助けを求める人たちを助けるために、
マコト自身が血反吐を吐いても鍛え上げた力を悪用するような。
さも、それが当然と言わんばかりの、
お前らのその態度が!
俺は許せない!」
兄さんだけじゃなく、
他の皆もうなずいてオオゾノさんたちを睨む。
「……そんなつもりは一切ございませんっ」
震える声でオオゾノさんは話す。
「助けてください……。
助けて……ください……。
何卒……」
俺はふと、視界に入ったゼータを見る。
ゼータは腕を組んで唸っている。
俺は小声でたずねた。
「相棒、どうした?」
「防衛軍は一旦置いておいて、
その異世界人の目的はなんだろう?
私と相棒が行って何が得られる?
もしくは、何がなくなる?」
なるほど、
ゼータとしてはそっちの方が気になるのか。
「異世界人はほっとけない。
それは共通認識だよ、相棒。
でも、このままだとヒロセ君が防衛軍に、
『釣りのルアー』みたいに使われちゃう。
それは、なんとか防がないと」
確かに、
このままイエスと答えてついていくのはリスクが高い。
だからと言えど、
今近くに協力してくれる人はいない。
一番近いムラマツさんすら山口県の病院で、
今も入院中だ。
突然、オオゾノさんからけたたましい音が聞こえてきた。
俺はそれを知っている。
防衛軍の緊急連絡の音だ。
オオゾノさんは失礼、と叫んで、
懐から連絡用端末を出して耳をつけた。
その顔はどんどん青ざめていく。
「あ……、あぁ……」
「どうしました?」
俺は耐えきれず問いかける。
「……異世界人の隠れ家とおぼしき、
保口岳の山の中で防衛隊が交戦中。
敵勢力とみられる巨大な空飛ぶ戦艦が次元の穴を開けて現れ、
交戦していた防衛隊が壊滅状態に……。
しかも、その敵戦艦から小型の戦闘用ドローンのような兵器が無数に飛び立ち、
近隣の町に甚大な被害が出ています」
不味い。
それは不味い。
保口岳はここからそんなに遠くない。
直線距離で百キロ弱だ。
俺はすぐさま叫んだ。
「皆、逃げて!
叔父さん!
でも、車はダメだ!
今の連絡はあと数分で日本の全メディアに流れる!
道路はパニックになるから!」
「分かってる!
ヘリを呼ぶ!」
叔父さんは自社のヘリを手配し始める。
この家の庭は緊急時にヘリを下ろせるほど広く、
木々も調整して植えられている。
お爺様のこともあり、
このお屋敷は近隣の緊急避難所としても使われる。
ヘリを数台呼べれば周囲の住民もヘリで避難可能だ。
「マコト!
お前の名前借りるぞ!
ウチムラさんのところのパイロットにヘリを提供して、
近隣の人の避難を手伝ってもらう!」
「兄さん!
クロダに、
コード・レッドのレベル・ファイブだって言って!
お婆様! ヤマシタさん!
叔父さんとヘリで逃げて!」
俺はゼータと顔を見合わせて、小さくうなずく。
もう四の五の言ってられない。
急いで現場に向かわないと!
突然、お婆様が俺の腕を驚くほど強い力で掴む。
「マコト!
おはんも逃げんか!」
まっすぐ俺を見てお婆様は言う。
「おはんは、もう兵隊じゃなかど!
戦わんでよかとよ!
いっしょに逃げやい!
お願いじゃっで、……逃げやい!」
お婆様は、
俺の目をまっすぐ見つめて涙ぐみながら言う。
「……もう二度と、あげな思いはしたくなか……!」
お爺様は、戦争で亡くなった。
防衛軍の隊員でも、自衛隊員でもない。
ただの会社の社長だったお爺様は、
異世界人に捕まった従業員を助けて亡くなった。
今もお爺様のことは英雄、傑物と呼ばれるが。
妻であるお婆様からすれば、
そんな名誉よりお爺様に生きていてもらいたかったはずだ。
多分、今の俺はそのお爺様に重なってしまっている。
俺はお婆様の手を優しくはがして、
両手で包むように握る。
「お婆様、
俺は俺のできることはやりたいんです。
大丈夫。
絶対帰ってきますから。
クリスマスケーキとおせち。
後、栗きんとんは手配しててくださいね」
お婆様は泣き出してしまった。
そして、震える声で。
「絶対に帰ってきやい……。
絶対に、絶対にじゃっで……。
生きて、帰ってきてくいやい……!」
俺は強くうなずいて、
優しくお婆様の手を離した。
「オオゾノさん。
指定されている場所は保口岳のどこですか?」
「……本当にごめんなさい……。
本当に……、本当にごめんなさい……」
オオゾノさんも大粒の涙を流してそう言う。
「相棒!
何か来るよ!」
ゼータが叫んだ。
俺はとっさに身構えたが、
次の瞬間には周囲が見えないほどの光に包まれる。
ゆっくり光が収まると、
屋敷の上空に複数のエゼキエルが浮かんでいた。
「なんで……!
なんでここに!?」
ゼータが驚き叫ぶ。
上空から淡く光る小さな何かが、
俺たちの方へ飛んできた。
エゼキエルから降りてきたそれらは、
どう見てもぬいぐるみ。
しかも、三頭身のゲームセンターにあるプライズで見たことがあるものばかりだ。
どれもこれも可愛らしい見た目で、
魔法少女か何かのマスコットのように淡く光って、
ふわふわ飛んで降りてくる。
「火急にて、御免!
我ら、『次元の守護者』なり!」
ぬいぐるみの群れの真ん中辺りに浮かぶウサギのぬいぐるみが、
俺の近くに降りてきてそう名乗った。
ファンシーな見た目に反して、
良く通る凛々しい声だ。
「ゼータ!
そこにいるな?!
すまない!
緊急事態だ!」
俺はゼータを見た。
ゼータは驚き震える声で言う。
「し……、司令官殿!」
俺はウサギのぬいぐるみをもう一度見た。




