閑話 続きはない
約三十五時間前。
***
ビーコンの追跡の結果、
特捜隊が飛ばされた建物は熊本県保口岳の奥にあった。
防衛軍は近隣の『穴』の監視基地から防衛隊を召集。
山口県の防衛隊とあわせて、
保口岳のあの建物異世界人の隠れ家と断定し、
攻め混む決定をした。
ニカイドウは病院へ運ばれて、
現在も意識不明。
傷の状態が良くなく、
とにかく内蔵の止血だけ優先して一旦手術を中断。
何度かに分けて弾丸の取り出し手術をする予定になった。
彼女は軍人なだけあって体力はあるが、
傷があまりにも酷い。
セキグチは行方不明。
三ツ島海水浴場の周辺は今も厳戒態勢がしかれているが、
海岸にはもう誰もいない。
先に人質だった防衛隊数名は特捜隊が保口岳に転送された時点で解放されており、
既に保護されている。
サワダとシマザキは、
病院で軽い手当てをしてもらった。
今は仮眠をとっている。
そして、オオゾノは。
「話をしてもらいます。
ミズノ」
熊本東警察署にある留置所に、
ミズノは拘束衣を付け足枷をされて捕らえられていた。
オオゾノはボイスレコーダーを構えて、
檻越しに話を続ける。
「何故、貴方はあの時ニカイドウさんを見捨てて。
いや、積極的に隙を作って異世界人を誘導したのですか?」
そう、見捨てたのではない。
たった半歩とはいえニカイドウと自分の間に距離を作って、
異世界人に付け入る隙を与え。
なおかつ、目の前で襲われるセキグチを見て何もせず。
憑依されて身体を乗っ取られたセキグチが、
ニカイドウを撃つ瞬間も見ているだけだった。
あまりにも、酷すぎる。
怠慢ではすまされない。
「……都合が良かった」
「は?」
ミズノは当たり前のことのように話した。
「ニカイドウが異世界人に憑依されれば、
射殺しても問題ない。
だから、都合が良かった」
オオゾノはミズノの意図が全く理解できず、
困惑する。
しかし、困惑がバレるわけに行かない。
オオゾノは常駐監査で培った演技力で、
顔色を変えずに質問をつづけた。
「都合とは、
何の都合ですか?
貴方にとって、ですか?」
「いや、正義のために都合が良かった」
ミズノは真剣な顔で言いきった。
オオゾノは察した。
この人、『壊れた』んだ。
戦場の極度の緊張感、命の危機。
轟音、閃光。
そして、血しぶきと、目の前で散る命。
そう言った極限状態を、
長時間、長期間体感してしまったら。
過酷な訓練をこなした人間でもどこかに『歪み』が生まれる。
PTSDなどの精神疾患なら分かりやすいが、
認識や認知に『歪み』があると周囲の人が気付くが遅れる。
溜まった『歪み』はいつか、限界を迎えてしまい。
人は『壊れてしまう』。
壊れた人の大きな特徴は、
極端な思考と極端な行動に出ること。
第二次次元大戦後の比較的平穏な防衛軍でも、
そう言った状態におちいる人がかなりいる。
「ニカイドウはあまりにも、
大局を見れていない!
山口県のことも!
ヒロセのことも!
正義のために必要な犠牲だ!
それがわからないなんて、
キャプテンには相応しくない!
ニカイドウを穏便に排除するなら、
あの状況が一番都合が良かった!」
ミズノは声を張り上げる。
「正義のために!
ヒロセのような古い捜査や時間がかかる聞き込みより!
もっと的確に対応する必要がある!
そう!
あのゼータ・ディアスタシのように!
事態が表沙汰になったときに全戦力を持って叩き潰す!
ハエやゴキブリのような!
害虫を潰すように!
それがもっとも効率的で、
もっとも大量に異世界人を滅ぼせる!」
己に酔うように、ミズノは語る。
「ただでさえ後手後手なんだ!
『穴』以外、
いつでも、どこからでもヤツらは現れる!
次元の歪みの検知だって、
精度は低い上にヤツらが来てからしか検知できない!
そんな中で!
今まで通り民間人の被害を抑えて、
土地の政府を顔色をうかがってなんて!
あまりにも、遅すぎる!」
オオゾノは顔色一つ変えずに、それを聞く。
「防衛隊と同様に、
特捜隊員も全員がディメンション・エックスを装着して!
異世界人の騒動が起き次第現地に駆けつけて、
掃討作戦を行う!
近くの基地から防衛隊も合流して、
特捜隊の指揮下に入りその地域を封鎖して!
住民の被害なんて言っている場合じゃない!
これは戦争だ!
そうだとも!
第三次次元大戦だ!」
ミズノはそう言いきって笑う。
三分後にミズノは防衛軍の軍法会議にかけられることが決定した。
防衛軍は超法規的活動を行うため、
罰則はどの国の刑法より厳しい。
今回は『背信』どころか、
『異世界人にねがえった裏切り者』として扱われる。
五時間後には軍法会議が開かれて、
二十分で判決がくだされた。
ミズノは極刑の一つを言い渡された。
ミズノが表舞台に出ることはもうない。
その命すら、もう自由にできない。
『最前線無期懲役』。
別名『肉壁の刑』。
ミズノはどこかの『穴』の目の前に拘束され、
『炭鉱のカナリヤ』のように死ぬまで見張りを行う。
裸同然で、『穴』しか見えない場所に一生繋がれる。
刑務所のような外出も運動も労働もない。
食事は一日一度だけ。
ひたすら、『穴』を見つめる。
そして、有事には真っ先に命の危機にさらされる。
ミズノは判決が言い渡された瞬間から連行される時までも、
自分の正しさを主張し続けていた。




