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昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する  作者: 桃野産毛
終章 愛

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第82話 愛護精神

「マコトを除隊に追い込んだ連中に、

この家ん敷居ば跨がせるわけ、なかろが?」


 お婆様の静かな一喝で、

サワダたち三人は小さくなって裏庭に出た。

俺は頭をかきながらそれについていく。

 裏庭側の縁側にお婆様、叔父さん、従兄弟。

スマホのカメラ通話で兄さんと父さんが顔を出した。

皆、三人を笑顔で見つめている。

営業用の笑顔でだ。

俺すら恐ろしい。

 俺たちは何も言ってないのだが、

サワダたち三人はさも当然のように庭の地面に正座で座る。


「それで、

半年以上前に除隊した人に何の用でしょうか?」


 兄さんが笑顔を崩さずそう言った。

通話はスピーカーモードだ。


「この度はご家族で団らんの中、

邪魔をしてしまい誠に申し訳ございません」


 オオゾノさんがそう言って土下座する。

サワダとシマザキも後を追って土下座する。

三人ともしっかり額は地面についている。


「何卒、何卒我々の話を聞いていただきたく」


 よかれと思って警官たちは先に帰ってもらったのだが、

悪手だったか?

俺は訳がわからず冷や汗だけ流れる。


「聞きましょう?

聞く価値があったか、判断はその後ですね」


 父さんは手をもみ、話を促す。

オオゾノさんが額を地面につけたまま話し出した。


「防衛軍、特捜隊及び山口県の防衛隊が壊滅しました」


 俺は思わず絶句した。

少人数の特捜隊はまだしも、

膨大な人数と最高の装備品が配備された防衛隊が壊滅?

 場所的には、

この前お世話になった山口県の『穴』にある基地にいた防衛隊。

あそこの防衛隊は先日の山陽小野田市の事件で負傷者が出たものの、

まだ数百人は隊員がいたはずなのだが。


「可能な限り簡潔にお伝えします。

 二日前、

異世界人と防衛軍が交戦中にミズノ隊員が裏切りました。

その隙に異世界人に襲われたニカイドウキャップを庇い、

セキグチ隊員が身体を異世界人に奪われました」


 ミズノが裏切り?

セキグチが人質?

ニカイドウっていう人は新キャップだな。

俺はなんとか思考を整理する。


「ミズノ隊員はその場で捕縛して拘束し、独房に収監。

ニカイドウキャップは重傷を負って、

現在病院の集中治療室で手術中。

現場に急行してくれた他の地区の防衛隊と、

熊本県警の機動隊が現場で現在も交戦継続中。

 捕まったセキグチ隊員は異世界人に憑依され、

人質にされています。

そして、異世界人たちは現在、次の要求をしています」


 オオゾノさんが顔を上げて俺を見た。


「異世界人の要求は、

『ゼータ・ディアスタシを出せ。

さもなくば人質を殺害した後に、

無差別破壊兵器を使用する』、とのことです」

「……それとマコトと、

何の関係があるんですか?」


 叔父さんは顎をさすりながら質問する。


「ここからは、

防衛軍本部の非公開の見解です。

 ヒロセ マコトさんは、

ゼータ・ディアスタシのレーダー兼アラートである。

と、言うものがあります」


 俺は叔父さんやお婆様たちと顔を見合わせた。

俺も含めて、全員首をかしげる。


「えぇ、えぇ。

ヒロセさんは、自覚がないものだと思いますが。

 本部は、

ヒロセさんが対応できる事件か否が、

ゼータ・ディアスタシの出現条件だと推測しています」

「つまり、

事件が起きて、マコトが解決できたらそのまま。

マコトでは解決できない場合は、

ゼータ・ディアスタシが現れる、ってことかな?」


 従兄弟がそう補足した。

オオゾノさんは自分の額についていた土が落ちるほど、

何度も頭を縦に振る。


「迅速なご理解、ありがとうございます。

なので、

ヒロセさんを連れて行かなければ異世界人は」

「それ、

防衛軍でもなんでもないマコトを呼ぶ理由になります?」


 父さんの一言で、

オオゾノさんは言いかけた言葉を飲み込んだ。


「そう言う事態も含めて、

対応するのが超法規的、無国籍軍の『防衛軍』の仕事でしょ?

必要があれば、

近隣の政府に協力を求めることはあるでしょうが。

 元特捜隊員だと言えど、

『除隊されて非戦闘員になった一般市民たった一人』に、

『不確定な情報を元にして』協力を要請するのは、

いかがなものか?」


 父さんの言葉は重い。

俺は反射的に彼らに協力しようとしていたが、

父さんの言うことは正しい。

 オオゾノさんは冷や汗を流す。


「おっしゃる、……通りです」


 うめくようにオオゾノさんは言葉を続ける。


「でも、でも……。

もう他に方法がないんです……。

 このままでは、

人質も周囲の住民も危険です。

もしかすると、

異世界人の言う無差別破壊兵器の影響が、日本全土。

地球全体に及ぶ可能性もあります。

 異世界人の決めた期限は残り十二時間を切ってます。

二日前から日本政府には住民の退避や自衛隊の派遣を依頼していますが、

いかんせん時間が足りません。

 それに、我々はゼータ・ディアスタシと連絡を取る手段もなければ、

彼の居場所すらわかりません!

おっしゃる通り不確定な情報ですが、

彼との唯一の繋がりがヒロセさんなんです!

何卒……。何卒っ……!」


 オオゾノさんはそう言ってもう一度額を地面に擦り付ける。

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